第15回「大岡山の地下通路」(1996.12.1)



 目蒲線と大井町線の重なる大岡山駅の前には、でーんと東京工業大学がそびえている。さすがに国立だけあって敷地が広く、隣の緑ヶ丘駅まで続く線路の両脇はほとんど東工大のキャンパスだ。
 僕は以前ここの近所に住んでいて、よく中に入って散歩したり自転車を乗り回したりしていた。雪の日には広い校庭で雪だるまを作ったり、春にはアルバイトの昼休みに友達とお花見ランチを楽しんだりしていたのである。
 それからさすがに理系の大学だけあって、ここのゴミ捨て場は何だか不思議な物がたくさん転がっている。真空管や大きな試験管から始まって、電圧計やハンダごて、果ては改造した乳母車や謎のエンジンなんてのまであるのだ。−−何だか、終いにゃスターウォーズのR2−D2までいそうな感じである。
 学生時代、僕は趣味で自主映画を作っていたので(今もちょこっとやってるんだけど)、撮影に使う小道具をここから調達したりしていた。僕の友人などはカメラのレンズに紫のフィルターをかけてゴミ捨て場を写し、「月のゴミ捨て場って設定なんだよ」なんて笑っていた。
 もう一つ、ぜひ映画に使ってみたかった場所がある。百メートルはあろうかという半地下の一本道が、広大なキャンパスを突っ切るように伸びているのだ。僕は勝手に「謎の地下通路」なんて呼んでたんだけど、多分近所の人達が広すぎる敷地を迂回する代わりに使っている近道なんだろう。
 地面を掘り下げたような感じで細い道が続いていて、両サイドはコンクリートで固められている。見上げれば空も見えるんだけど、キャンパスを繋ぐ道や配管のところは天井が塞がれていて、薄暗くなった部分には蛍光灯が灯っている。そんな道をのんびり歩いてると、何だか妙な世界に紛れ込んじゃったような気がしてなかなか面白い。道幅もそんなに広くないから、向こうからターミネーターが襲ってきたら逃げ場がなくて恐いだろうなーなんて思ったりしちゃうのである。
 いつかこの地下通路を使ってアクションシーンの撮影を行おうなんて思っていたのだが、ある日散歩していたらお仲間に出くわした。−−多分、東工大の映画サークルの人達なんだろう。三人位が婦人用の自転車を支えて突っ走り、それを追いかけるようにして役者達が疾走シーンを演じている。自転車の荷台に後ろ向きに座ったカメラマン君は、必死に、そして楽しそうに役者達を撮影していた。

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    竹内真 Mail: HI3M-TKUC@asahi-net.or.jp