第12回「 中央林間の森の中」(1996.9.1)



 早いもんで、この連載を始めてそろそろ一周年になる。それを記念してってわけでもないけれど、先日初めての取材旅行を行った。−−と言っても、コラムのネタを探しに田園都市線の中央林間まで行っただけなんだけど。
 友人が相模原に引っ越して彼女と同棲生活を始めたので、僕はお祝いも兼ねて遊びに行った。そこでお昼御飯を御馳走になった後、三人でお散歩がてら中央林間駅の辺りに繰り出したのである。
 僕はそれまで中央林間には行ったことがなかったのだけど、その駅名から林の中にあるログハウスみたいな駅舎を想像していた。時折ファンタジー風の小説なんぞを書いているせいか、中央林間なんて単語を見るとツキノワグマの駅長さんやシマリスの駅員さんが働くのどかな駅をイメージしちゃうのだ。
 だけど実際に行ってみたら、中央林間駅はいかにも東急って感じの上品でシンプルな建物であった。小田急と接続してるせいか結構大きな建物で、エスカレーターを上がっていくと飲食店や本屋さんが並んでいる。ちょっとした空中歩道から見回すと駅の周りも整然とした住宅地になっていて、僕の抱いていたイメージとはかなり違った光景であった。
 僕らは何となく釈然としないまま駅を出て、そのまま駅周辺を散歩してみることにした。何しろ取材なのだから、コラムの話題を見つけなきゃならないのだ。十字路に出るたびにジャンケンをして進行方向を決め、古本屋やパチンコ屋をのぞきながら歩いていく。そういうのんきな散歩ってのも悪くないものである。
 そして極めつけ、僕らは線路のそばで「つるま自然の森」なんて看板を見つけた。中央林間のイメージ通りというか、待望の森である。喜び勇んだ僕は、口笛で「スタンド・バイ・ミー」なんぞを吹きつつ森の中に入っていった。
 雑木林の中に散歩道を作ってベンチや水飲み場を設けたような小さな森だったが、それでも木立ちの中を歩き回るのは楽しい。僕らは蜘蛛の巣にひっかかって騒いだりモグラの穴を発見したり、「まむしに注意」なんて看板にびびったりしながら奥に進んでいった。立ち入り禁止地帯に迷い込んだあげく行き止まりになったりしたけれど、童心に帰って森をさまようのはなかなかいいものであった。
 森を出てから履いていた靴を見ると、小さな草の実が幾つも幾つもくっついている。それを眺めながら、こうでなくっちゃなーなんて思った僕である。

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    竹内真 Mail: HI3M-TKUC@asahi-net.or.jp