第11回「桜木町の観覧車」(1996.7.1)



 東横線の桜木町駅のそばには「みなとみらい21地区」なんてのがある。のっぽのランドマークタワーやらヨットの帆の形のインターコンチネンタルホテルやら美術館やら日本丸やら、とにかく見てて飽きない様々な建造物が並んでて、散歩するにはなかなか楽しい場所である。
 ここでは以前博覧会が開かれたんだそうで、その名残りなのか遊園地のような施設も整っている。子供向けののどかな乗物から絶叫マシンまで揃っているのだが、中でも観覧車の巨大さは世界一で、ぐるりと一周するのに十五分もかかる代物なんだそうだ。
 この観覧車、デジタル表示やライトアップによってそれ自体が巨大な時計の機能を果たすようになっている。観覧車全体を文字盤のようにして、時計の秒針のようにライトがともっていくのだ。その光景は昔やってた「タイムショック」ってクイズ番組みたいで、見ているとノスタルジックなようなアホらしいような不思議な気分になってくる。
 ところで、観覧車ってのは下から乗ってぐるっと一周したらおしまいってのが普通のパターンである。一周すると係員がゴンドラの扉を開けてくれて、「ありがとうございました」ってことになる。要するに後がつかえてるから降りろってことだ。まあ当然と言えば当然のシステムなんだけど、世の中には一周じゃ物足りないと思う人も少なくないようである。
 僕は以前、そういう女性と一緒にこの観覧車に乗ったことがある。何でも彼女は昔から観覧車で二周することを夢見てたんだそうで、その相手役を仰せつかったのだ。何というか酔狂な話だが、僕はそういうのが嫌いじゃないのである。
 で、僕らはお客の少なそうな平日の時間帯を選び、チケットを四人分購入して観覧車に向かった。何食わぬ顔をして二枚のチケットを係員に手渡し、ゴンドラに乗り込む。窓の外に広がる港の光景なんぞ眺めてるうちに観覧車はゆっくりと一周目の旅を終えかける。
 ゴンドラが地上に近づくと、係員が扉を開けに近寄ってくる。−−僕はその係員を制し、窓からもう二枚のチケットを突き出した。
「もう一周!」
 係員は呆然としながら僕らを見送り、ゴンドラはもう一周の旅に出た。
 外の景色は同じだったけど、二周目の旅はちょっと贅沢な気分であった。

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    竹内真 Mail: HI3M-TKUC@asahi-net.or.jp