第1回「スタンプタリーと前口上」(1995.9.1)



 今年の夏も、東急線のスタンプラリーが盛況だった。
 夏休みに入ると、東急線の車内には似たような格好をした子供たちの姿が目立つようになる。手には小さなノート、背中には小さなリュック、そしてショートパンツか短めのスカート。彼らはドアのそばで電車が駅に着くのを待ち構え、ドアが開くと我先にホームへと飛び出していく。
 初めてそれを見た時、僕は彼らが何をしているのか不思議だった。一体何が彼らをそこまで駆り立てるのか分からなかったのだ。ある一つの駅だけの光景なら子供向けのイベントでもあるのかと思うのだが、東急のどの駅でもそんな子供の姿を見かけるのだ。
 一体彼らは何をしてるんだ? −−その疑問は程無く解けた。改札付近の小さな机に突進してきた子供たちが、嬉しそうに机の上のスタンプを手に取り、ノートに押していったのだ。見ると、その駅の名前とイラストの描かれたスタンプであった。
 その近くに貼られたポスターには「スタンプラリー」と書かれていた。夏休みなどに行われるイベントで、子供たちは東急の全ての駅(実に89もの駅があるのだそうだ)を回り、スタンプ帳に各駅ごとのスタンプを集める。全部の駅を踏破してスタンプを集めると、かっこいい認定証と記念品が貰えるのだ。
 確かにこれなら子供たちが夢中になってるのも頷ける気がする。いろんな駅を回るのはそれだけで楽しそうだし、スタンプも集められて賞品までついてくるのだ。スタンプ帳を握りしめて楽しげに駅を回る子供たちを見ていると、何だか僕までスタンプラリーに参加したくなってくる。
 だけどスタンプラリーを楽しんでるのは子供たちばかりで、そこにでかい図体の僕が混ざるのはちょっと気が引ける。たまに子供を連れたお父さんなどを見かけると羨ましくて、僕も息子ができたら絶対スタンプラリーをするんだと心に決めていた。
 まだ息子はできてないのだが(結婚だってまだである)、この度ありがたくも東急沿線新聞で月に一回のペースでコラムを連載させていただくことになった。そこで、ちょっとだけスタンプラリーの気分を味わいつつ、各駅を回っていろんなことを書きつづっていくことにした。あの子供たちのように、全駅踏破を目指して楽しく仕事をしていきたいと思っている。−−請うご期待!

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    竹内真 Mail: HI3M-TKUC@asahi-net.or.jp