ジュブナイル方面の作品紹介


『僕らが世界を救った夜』(NTTメディアスコープ刊)

 記念すべきデビュー作、といってもいいのかなあ。とりあえず、最初に活字になった作品。“言葉を喋る犬のオリオンと日比谷線直通の東横線に乗って世界を救いにいく”という我ながら無茶苦茶な話。
 最初にこの話のアイデアを思いついたのも、確か東横線に乗ってる時だった。大学三年の時、てえことは1993年だ。考えてみると結構昔のことだなあ。
 学校帰りに思いつき、そのまま当時住んでいた自由が丘の「TOP DOG」という店に寄り、ピザをつまみにビールを飲みつつ構想メモを作った。特に発表の予定もなく書いたのだが、自主映画で世話になった友人が創作同人誌を作るというので寄稿した。
 とにかく前に前に進んでいく話が書きたくて、あんまり細かいことは考えずに気楽に書いた。そしてその結果として、無意識の領域からいろんなものを掘り起こすことができたと思う。書いている時よりも、書いた後からいろいろ教えられた作品。
 その後、中学生向けにちょこっと書き直して投稿して賞をもらい、某大新聞社の出してる中学生新聞で連載することに。その時の挿絵も描かせてもらったのはとてもありがたかったけれど……
 はっきりいって、校正がムチャクチャだった。とういうか、ろくなタイピングもできない上に人の文章を扱うってことの責任を毛ほども考えてないような編集部(もしくは担当者)だったのだ。誤字脱字は山ほど、段落分けは勝手に変更され、文章のリズムもニュアンスも滅茶苦茶にされた。
 早い話、素人の作品の著作権なんて考えてなくて、一定のスペースを埋めるための文章でさえあればよかったのだろう。掲載紙も送ってこなかったし、後のフォローなんて何もなかった。賞をもらっといて文句言うのもどうかと思うが、自分の作品を不当に歪められたことだけはしっかり言っておきたいと思う。明るい顔したオリオンも、ああ見えて結構辛い思いをしてるのだ。
 ま、その時の悔しさが、絶対にきちんとした形で出版したろうという意識に繋がったわけだから、結果的には良かったといえないこともないかもしれないけどね。
 単行本化にあたって加筆した。イラストは連載時のものを使用(トーンのモアレが出ちゃってるけど)。表紙用のイラストは新たに描いて、友人のCGアーティストに加工してもらった。
 本文にやたらとルビが多いのは、出版事業本部長のおっさんが張り切って入れまくったせいらしい。なんだか無闇に多かった上に明らかな誤読も多くて直すのに苦労した。カギ括弧も何故か半角ずれてるし、編集者のいない会社から出すといろいろ苦労する。──おまけにあとがきの中に自分達への謝辞を入れろなんて言ってくるんだもんなあ。(結局2パターン書いて好きな方を使ってくれと言ったら、社長さんへの謝辞の方が使われていた)
 しかしこの作品、元々は中学生向けを意識したわけじゃなかったのに、これがきっかけで僕は何冊も何冊も中学生向けの小説を書いていくことになる。……考えてみると、変なものだ。

『3年5組・ザ・ムービー』(NTTメディアスコープ刊)

 『僕らが世界を救った夜』は、某賞の第二席だった。でも第一席は空席で、要は第一席には及ばずと評価されたわけだ。──この賞の選考委員は立派な児童文学者の方々で尊敬できる先生ばかりだったので(編集部は尊敬できないけどね)、何とか認めていただきたいと思って再チャレンジすることにした。
 明確に賞取りを意識した作品だけに、それなりに意気込んだ作品。そういう意味では『僕ら──』と対象的かもしれない。ありがたくも第一席になり、再び連載が決まった。そして再び誤字脱字、今度は章題まで勝手に短縮された。連載時の挿絵も気に入らなかったし(僕は描かせてもらえなかった)、受賞の取材の際もひどい扱いを受けたので掲載紙も途中までしか貰いに行ってない。連載中に単行本化が決まり、その時点で連載版を見たいという気がなくなったのだ。
 単行本化にあたり、大幅に加筆・訂正し、イラストを描き下ろした。装丁は前述の友人。でもその単行本も、挿絵の位置が間違っている。P154とP174の挿絵は逆である。初版が出た時に文句を言ったが、二版でも直ってなかった。
 中扉のロゴは最初は要求されなかったってのに、イラスト納品後になって担当者から明日もってこいと言われ、貴重な時間を割いて描いて自腹の交通費を使って持ってった(でもそれへのギャラはなし)。おまけに後になって例の本部長は、“イラストは新聞掲載時のものがあったから仕方なく使ってやったんた”などと言ってくる始末。──場当たり仕事のサラリーマンってのは本当に傍迷惑なもんである。
 内容の方は、芦原すなおさんの小説であり大林宣彦監督の映画である作品、『青春デンデケデケデケ』へのオマージュとして書いた。ロックへの憧れと仲間とのバンド活動の喜びが純粋に結晶化したような作品に感銘を受け、肯定することだけを追求するつもりで書いたのだ。
 そのため、後になって中学三年生と受験の関わりがリアルでないという批判をたくさんいただくことになった。それだけに、前述の賞の選考委員の先生のお一人がにっこり笑っておっしゃった一言、「いいんだよね。あれはユートピアなんだから」は本当にありがたかった。
 肯定するっていうことはとても大切だけれど、それにはとても力がいる。そんなことを教えてくれた作品。『青春デンデケデケデケ』の他に影響を受けた作品として、ロビン・ウイリアムズ主演の映画『いまを生きる』と、山中恒さんの児童読み物『となりのゴッペ』も付記しておこう。
 その後、ドラマ化を企画したいというオファーがあったりもするのだが、まだ実現していない。──映像を意識した作品なので、映像化された形も見てみたいもんである。

『ミッドナイト・ボーイズ』(NTTメディアスコープ刊)

 初の書き下ろし作品。──っていっても、これまでの作品も書き下ろしっていえば書き下ろしなわけで、初めて出版を前提に書き下ろした作品。
 それまでの作品は一人称ばかりだったので、この作品では三人称に取り組もうと思った。でもそれだけじゃ弱いので、前から書きたかった海賊放送のDJの喋りは一人称にして、二つの文体のツインターボでミステリータッチのストーリーを綴った。
 ベラベラと喋る感じで文章を綴り、ところどころでいろんな曲を使うというのはなかなか楽しい作業であった。実際のDJというのも一度くらいやってみたいもんである。──そういえば、この作品を書いている途中でNHKラジオから出演依頼があり、書き上げた当日にラジオ番組に出演した。
 挿絵には僕の絵は使いたくなかったので知人を出版社に紹介したのだが、結局他の人の絵になった。多くの読者から、「あの絵はないんじゃない?」と言われたが、僕もつくづくそう思う。

『オリオン・ザ・ドッグ』(NTTメディアスコープ刊)

 白くて大きくてビール好きな喋る犬、オリオンにまつわる作品の短編集。一応、『僕らが世界を救った夜』の続編。でも時期設定や執筆時期が先の作品も入ってる。
 ストーリー詩や夏目漱石のパロディや子供の日記、一人称から三人称まで様々なことやってみた。
 まあいろいろあって、別に中学生向けにこだわるこたあないと思い、結構好き勝手なことをやってみた本。だけどその割には中学生読者への受けはいいようだ。不思議なもんである。
 収録作品は、「オリオン・ザ・ドッグ」「ワガハイはネコである」「プールサイド」「きょう、へんな犬を見た。」「神様の降り立つ峰」「おいらが未来を覗いた夜」の六編。
 表紙の絵は白黒で描いて色指定をしたのだが、担当が電話いでヘラヘラ笑いながら「あれじゃタラコ唇だよ」などと言ってきたのには腹が立った。批判するのは構わんが、それを改良していいものにしていこうって意識が全く感じられなかったのだ(結局そのまま出版されたし)。
 それから、「神様の降り立つ峰」の各章の数字は漢数字じゃなくて算用数字のはずだった。「ワガハイはネコである」がパロディのために漢数字になってたためか、担当者が勘違いして著者校正の後で勝手に変えちゃったらしいのだ。

『天真中学物語・俺は英雄になるのだ』(NTTメディアスコープ刊)
『天真中学物語・お前を感動させてやる』(NTTメディアスコープ刊)
『天真中学物語・彼が伝説となるのなら』(NTTメディアスコープ刊)

 学園コメディシリーズ。主人公の神崎〔エキセントリッカー〕流人の、中学入学から卒業までを一学期1冊ペースで描き、全9冊か10冊になる予定。今のところ3冊まで出して中断している。
 シリーズタイトルは、最初は『東天中学物語』にするはずだったが(トウテンっていう響きがコミカルだし、東天には日の出とか夜明けの空って意味もあるのだ)、出版社側から「中華料理の東天紅に似てるから」というわけのわからん理由で「天晴中学」(あっぱれちゅうがく)に変えろなどと言われ、絶対イヤだともめた挙句この名になった。──打ち合わせにい来いと言われて出向いたがさんざん待たされた上にまともな話し合いにもならなかったので、以後は出向かずにファックスと電話と郵便だけで全てのやりとりを済ませた。
 まだ現在進行形(一応ね)だけれど、物語の中でさまざまな試みを行っている。
 その一つが文体。リズムと情報量とユーモアを求めて作った三人称の文体は、なかなか便利で重宝している。
 大きな流れの中でキャラクターを成長させていくってのが大テーマで、あとは一作ごとに「格闘技の描写」とか「女の子の視点で描く」「ロックライライブの描写」、それから「メタフィクションとして演劇を使う」なんてことを自らへのハードルとして設定している。
 どうでもいいけど、このシリーズの各巻のあとがきって、我ながら中学生むけには書かれてないと思う。──ま、彼らもいつかオトナになるであろう。

 ……ということで以下続刊ってことだったのだが、諸事情によって現在休止中。
 何でも出版元のNTTメディアスコープの社長が変わったついでに続刊は出さないことになったとかで、仕事のできない担当者は地方に飛ばされ、下らない口出しばかりしてきてた上役は頬っかむり。シリーズで定期的に出そうっていってたこととかあとがきで予告してたこととかはウヤムヤにされてしまった。
 そのことは97年春には決定してたらしいのだが、責任逃れのためか嫌がらせのためか僕には知らされず、4巻目の『天真中学物語・昨日の影をのりこえて』を書いた後(6月末だったかな)になって知らされた。何て無礼で無責任な話だと頭に来て、NTTメディアスコープから全ての版権を引き上げた。
 きちんと編集者教育を受けた人間がいない、ギャラが期日に払われない、経理の書類や契約書をなくして何度も請求してくる、電話で残した伝言がちっとも伝わらない、思いつきで直しを要求してくる上に意地でも取り下げない、等々多くの問題があった会社であったが、最後までいい加減な対応しかなかったわけである。
 そんなわけで、3巻までが出版され、幻の4巻までが書かれた形でシリーズ休止中。そのうち、まともな出版社のきちんとした編集者と組んで再開したいもんである。


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