工藤太郎さんインタビュー その2


◎ゲーム作家の資質   ゲーム機のハードにまつわるいろんな苦労話をうかがった後で、 竹内「そういう意味で、ゲーム制作って博打の要素がすごく強いじゃないですか。そ   のへんって、会社の代表としてはどういう感覚で接してます?」 工藤「僕は漠然とした自信っていうか、わりと運がいい方だと思ってるんで、僕の選   択することにそう大きな間違いはないだろうっていう(笑)」 竹内「なんとかなるっていう(笑)」 工藤「ていうか、それくらいのことを言ってないと。『不安だよこれ大丈夫かなー』   って全員が言ってたら、もうなんかしんみりしちゃうんで。『大丈夫大丈夫、絶   対これ面白い!』って」 竹内「トップの責任感というか、役割として」 工藤「そうですね、盛り上げ役って感じですかね」 竹内「そういう意味で、ゲーム作家として成り上がるための資質とか条件とかってど   んなのがありますかね? 今ので言えば楽天家じゃないと辛いとか」 工藤「ゲームのタイトルに関わらず、ゲーム業界でやってくにあたって必要な条件み   たいなことですよね」 竹内「ええ、そういうことですね」 工藤「すごいつまんないことになっちゃうかもしれないけど──まず、ゲームが好き   なことはあるでしょうね、絶対的に。あとは、僕が思うことになっちゃうけど、   僕はゲームはサービス業だと思ってるんですよ。だからお客さんをどれだけ楽し   ませるかっていうこと、例えば操作性の悪いゲームとかを語る時に、僕はそうい   うのに気づかなかった人は気遣いが足りないんだと思うんですよ。才能とかそう   いうことではなくて。知らない人がやった時にどんな気持ちを受けるかなってい   うことを常に考える……でもそれは、成り上がるための条件とは違いますよね。   いいゲームを作るための条件になっちゃうな」 竹内「そうですねえ……」 工藤「……パターンとしては、僕は嫌いなんだけど、いろんな会社の社長とか偉い人   と付き合って仲良くなって食い込んでくってやり方もあるんですよね」 竹内「売れた人の仲間だったら企画も通りやすいみたいな話も聞きますけど、そうい   う人脈の力ってやっぱりでかい業界なんですか?」 工藤「えーっとねえ……ありますよ。事実としてあります。ただパンプールはそれを   否定したくて」 竹内「実力で」 工藤「っていうのはあって。あとは、売れる……じゃ、こっちからの質問みたいにな   っちゃうんですけど、ゲーム業界で成功するってことの、その人の成功の基準を   どこにもってくかっていうのは」 竹内「うーん、僕が小説の中でやろうとしてる基準っていうのは、ゲームが売れるっ   ていうことなんですよ」 工藤「はいはいはいはい」 竹内「いいゲームかどうかっていうのは僕の文章の書き方一つなんで……要するに小   説として書いて、こういう奴だったらゲーム業界で売れても不思議はないよなあ   って読者に思わせる、それこそ小説としての操作性を良くするための条件という   か」 工藤「多分ね、凄く売れてるソフトを作ることができる人達、例えばミリオンセラー   級のゲームを作ってる人達っていうのは……予想だけど多分、こうしたら売れる   だろうと思ってるところをあえて入れてると思うんですよ。だから例えば、こん   だけムービーがあったら凄いだろうということが、自分がこういうゲームがあっ   たらいいなっていうこととは違う目標として持てる人は、ビジネスとして売れる   ものが作れるんじゃないかと思いますね。──僕らはそういうのは全くしないか   ら(笑)」 竹内「こういうゲームは凄いなっていうのと、こういうゲームは売れるなっていうの   は別要素なんですね」 工藤「と思いますね」 竹内「それを両方併せ持つかどっちかに特化するか──RPGとかで思うのは、さっ   きの楽しませるっていうのとも繋がると思うんですけど、その物語を作る君達が   楽しいだけだろうっていうのがすごく多いじゃないですか。それを垂れ流すとい   うか。要するに親和力の非常に強いメディアだから、自分達が経験してきた物語   を再生産するだけでも商品になってしまうようなところがあって、僕自身もそう   いうのに対するアンチテーゼを示したいと思ってるんですけども」 工藤「なるほどね。──今はでも、ほんとにでかい、ミリオンセラー級のものを作る   となると開発人数が比例しちゃうっていうか……」 竹内「何百人体制で」 工藤「ですよね。すごく売れるソフトっていうのは。──それで、まぐれ当たり系、   例えばすごい少人数でやったんだけどすぽーんと30万とか40万売れちゃった   パターンっていうのは、やっぱり現場のパワーでしょうね」 ◎パンプールの次回作について 竹内「ちなみに、バンプールの次回作はどんなゲームになるんですか?」 工藤「次回はねー。……まだ本格的には決まってないですけど。うーん……結構ね、   単純な理由なんですよね。『MOON』がまずあって『UFO』を作った時のは   じめってのは、パート2っていうのは絶対作りたくなかったから、次は世界観て   いうか雰囲気としてチープなB級SFをやろうっていうのでスタートして、今回   終わって、次は何作るっていったら、前はアパートだけで終わったから、今度は   めちゃくちゃ広いマップでやりたいなっていう。──なんか、前がこうだったか   ら次はこう行くみたいなことの繰り返しだから、今決まってるのはその凄い広い   世界っていうのはいいねえっていう、世界観的に広いってことじゃなくて物理的   な面積が広いっていう、広大なマップ。──ただそれも、広大なマップっていう   のも世界観が広いっていうこととイコールではないから。惑星一個を舞台にしよ   うっていう風にした広さでも、一つの国の大きさをこれぐらいに設定するってい   うので世界なんか、例えば第2次世界大戦のシミュレーションとかだったら、世   界観的にはほぼ地球半分くらいの感じになるじゃないですか。でもそういうこと   じゃなくて、物理的にゲーム内でモニター内で動き回る面積が広いゲーム」 竹内「要するに、設定としてじゃなくてプレーヤーの感覚としての広さですね」 工藤「そうですね」 竹内「あれはやんないんですか、『UFO』の初期段階の構想にあったっていう、時   間を飛び越えていくことの広さっていうか」 工藤「あー、それはねえ……あの、何ていうんすかね、きりがないんですよね。どこ   までやるかっていうのにもなっちゃうから。例えば、1日を『UFO』の時の中   身の詰まり方で今度は10日間にしようってことになったら、単純計算で10倍   じゃないですか。10倍は無理なんで、それを1・5倍ぐらいにするには、1日   のボリュームを『UFO』の3分の1くらいにして、それで10日間やるかとか、   そういう作戦を使わないとちょっと無理だから。そこをどこで妥協するかってい   うのをやってみないと。ただ、机上で組み立てないで、やってみてって感じです   ね。そこは本当に」 竹内「そうですね。作り手として非常に手触りを感じるお話だなあとさっきから思っ   てるんですけども。──設計図を描いてちゃきちゃきシステマティックに進める   んじゃなくて、彫刻家が木を抱えながら作ってってるような印象を強く感じるん   ですよ」 工藤「ですよね。例えばだから、バンドとかがあって、そのアルバムを10月に出し   ましょうっつって、レコーディングの予算はこれくらいで制作期間は1年とかで   やりましょうっていった時に、誰もスケジュールで最初の1週間は収録曲1局目   のサビまでを作るっていう設計図なんかありっこないじゃないですか。それと一   緒で、そこに対してスケジュールを切るっていうのはナンセンスだと僕は思って   るんで、思いついた時に思いついた部分だけばーっと作っていけばいいだろうっ   ていう。ただケツの帳尻をきちんと合わせなければならないし、何せ1年とか1   年半の長丁場だったりするから、スポンサーも心配するんですよね、どうしても。   逆に、他のシステマティックにやってるところ、50人とか100人の規模でや   ってるところは設計図がないと動けないじゃないですか。だから結構しっかりと   制作進行っていうのがあって、例えば最初に企画の人間が、このゲームは50マ   ップっていう風にしますと、50マップを何人で割り振ると1週間で何マップで   きるかなみたいなことでどれだけできてるかっていう進行はできるけど。うちら   の場合は、1個こういうマップを次作ろうって決まったらぼんって作ってって、   それが終わったらじゃあ次これ作ろうっつって、最終的にマスターアップの日に   『あ、30できたね』みたいな(笑)」 竹内「なるほどねー。──ゲーム制作の期間とかのこともお聞きしようと思ってたん   だけど、そういうのにはこだわってないって感じなんですね」 工藤「えっとねー、それもねー……例えば、フリーでグラフィックデザイナーやって   る友達とかの話を聞けば、やっぱり雑誌の広告であるとか、そういうデザイン関   係の仕事を一週間でやるとなると、やっぱ一週間フルで動いてやるはずなくて、   最後の3日でばたばたっとやったりとかっていう。やっぱりケツに火がつかない   とやらないっていうのあるじゃないですか、締切りがある者って」 竹内「いやー、分かりますよー」 工藤「それで終わった後に、3日でこれを描いたんだったら、5日間かけてたら何だ   あ、どんだけできてたのかーって思うんだけど、残り3日だからこれが出たのか   っていう」 竹内「凝集するっていうのはありますよね」 工藤「そうそうそう。それが、スパンが長いじゃないすか、本当に。だから1年半で   考えると、3日あるうちの2日でやってるっていうのと、1年半あるうちの1年   でやるっつったら、半年無駄になるっていうのは凄くでかいですよね。だからそ   のへんの調整は難しいっちゃ難しいですね。スケジュールが長くて」 ◎作品と商品 竹内「作り手は作品を作ろうと思ってても、パブリッシャー側は商品として見てきて、   切ろう切ろうとするのってあると思うんですけど、そのへんのジレンマって、頭   を預かる身としてありませんか?」 工藤「それはねー、うーん……それはあるんですけど、それがあるから次もやろうっ   てういう気になるっていうところはちょっとありますよね」 竹内「戦い故の意気込み、みたいな?」 工藤「そう、100%満足できなかったから、今回こうだったから次はこうするかみ   たいな──まあ結構繰り返すんですけどね、同じ失敗点は(笑)。だけど次のパ   ワーになったりはしますよ」 竹内「なんか、非常に前向きでクリエイティブな姿勢ですよね」 工藤「あと──もし、ゲーム業界で成り上がるっていうか、成功するパターンってい   うのを描くんだったら、メーカーになっちゃう方がいいと思いますね」 竹内「メーカーというと?」 工藤「自分達で営業して──」 竹内「発売元ってことで?」 工藤「発売元になるっていう。──それが結局、うちらみたいなソフトハウスでやっ   てると、パブリッシャーが宣伝とか営業とかやるじゃないですか。そうすると、   こういう風に売っていきましょうっていうことと、こういうのを作りたいんだっ   ていうことの行き違いみたいなものが絶対的に出ちゃうんですよ」 竹内「じゃあそういう機能を他に預けるんじゃなく自分のとこに持つ方がギャップは   少なく済むと」 工藤「と思いますよ。──ただ、うちらでそういう風にメーカーの機能を持たせて、   販売もやってっていう風には全然思っていないっていうか」 竹内「それはやっぱり作品じゃなくて商品のパートだからですか」 工藤「そうですね。例えば俺がそのへんをやれば、売り方はこうなんだっていうのを   できるかもしれないけど、僕はそうなってクリエイターとしての自分が薄まるの   が凄い嫌なんですよ。──っていうのがあるんで、パブリッシャーはもう売ると   このプロに任せて、お願いした方がいいかなと」 ◎ゲームと物語   話題はテーマパークやネットワークゲームに移り、具体的なタイトルや今後の展   望ついての話(諸般の事情で公表できないのが残念)が盛り上がった後で、 竹内「──どっかで、今のゲーム文化と身体性、体の感覚っていうのが充分に繋がっ   たら、一気に革命が起こるような気がするんですよ」 工藤「どうしてもそこは、仕事として自分ができることっていう風に考えると、そう   いう世界を描いた何かを作ることは可能だと思うんだけど、そういう世界そのも   のを作ることっていうのは、多分僕が生きてる間には起きないだろうなっていう   諦めみたいなものはあるんじゃないですか。だから、ネットワークゲームに対し   ても、こんだけ騒がれてるけど、僕はスタンスとして先見の明があって最初に切   り開いていくっていうことはあんまりしないんで」 竹内「いわゆる、土壌が整ってからの作品作りっていうスタンスですね」 工藤「だからネットワークもまだ、やるのは面白いけど、作りてえっていう風にはま   だなってないのは──今は人を選んでるじゃないですか。ネットワークゲームを   やれる環境にある人っていうのは、家にある程度のパワーのパソコンがあって、   インターネットに繋げる環境があってっていう風になっちゃうよりかは──そう   いうことを知らない人に、『プレイステーションは持ってるんだけど何か面白い   ゲームない?』って言われた時に、『UFOって面白いよ』っていうか」 竹内「そう、僕が最初に『UFO』を見た時に思ったのが、ああこれはゲームと全然   関係ない人が入れるゲームだなって思ったんですよ。通にも受けるだろうけど、   全然ゲームに関心ない人にアピールしても面白いだろうなって。部屋探しの不動   産情報雑誌とかで広告展開したりなんかして」 工藤「僕の周りでも何人かいますよ。ゲームやらないけど、僕らの作ったゲームだけ   やる人っていうのが。ゲームやらない友達とかに進められるんですよね、僕らが。   全然違う業界のすごい仲いい友達とかで、ゲームやらないって人でも、PS買っ   てサンプルあげるから、これは多分面白いからっつったら、『ゲーム全くやった   ことないだけど、ゲームやったわー』つってクリアしちゃったりとか」 竹内「何なんだろ、『UFO』の場合ってアパート住人を観察することによって物語   の楽しみみたいなもんが味わえますよね。ああこいつはこういう奴でこんな風に   生活してんだなっていう風に、自分の中で物語を構築させちゃうっていうアピー   ルの仕方がすごい面白いなと思うんですよ」 工藤「うんうん、だからそのへんは想像力を要求するっていうか、そういう空想遊び   が好きじゃない人は凄く否定的ですよね」 竹内「そう、下手なロープレって──下手なロープレって変な言い方ですけど──作   り手の物語を与えてるだけっていう気がするんですよ」 工藤「ああ、はいはい」 竹内「作り手の物語を提示するってことと、受け手に物語を作らせるってことの間に   は大きな違いがあると思って。──『UFO』の場合、そういう着想ってどこか   ら生まれたんですか?」 工藤「まあただ単に、『UFO』の場合は時間がなかったっていう(笑)」 竹内「(笑)偶然の産物?」 工藤「ただ、与えられた期間の中で最善の方向に行く時に、何かを切り捨てるってい   うことをポジィティブに考えていくと、結構コンセプチュアルなものができてい   きますよね、やっぱり。──あそこで、実は各キャラクターにも話しかけられて、   メッセージが聞けてっていう風に広げていろんなものを薄めるよりかは、そこは   完全に想像にお任せっていう」 竹内「そうか、断片を示したことによって、その間を埋めていくっていう作業を受け   手に委ねられたわけですね」 工藤「そんな感じですね」 竹内「『MOON』の場合とかも、アンチロープレみたいなところがあるじゃないで   すか。そういう発想っていうのも、それに近いのかなって思ってたんですよ。物   語を与えるだけってことに対する一つのアンチテーゼが『MOON』の勇者の価   値転換で、もう一つの価値転換が『UFO』みたいな断片なのかなって」 工藤「それはね、『MOON』の場合は、RPGをやってて僕らが思ってることって   いうか──」 竹内「人んちに土足で入っちゃいかん、とか?」 工藤「とか、お城とか入って衛兵に話しかけると、なんとかだよって言ってくれる。   でも、そいつのドラマみたいなものをちょっと遊ぼうとか思うと、こいつここに   いるってことは仕事でここにいるんだから、夜になったら家に帰るんだろうなと   か。そうすっと家に帰った時に実は奥さんとかいたりすんのかなっていう風に、   普通のRPGで一生ただそこに立ってるだけの奴にも実はそこにドラマあるだろ   うなっていうところがスタートになってるんで、キャラクターに命を与えるって   いうか、そこに生活感を出すっていうのが、わりと今度作るものも多分そうだと   思うんですけど。うちらの結構テーマってのがあるという」 竹内「面白いなと思ったのが、『MOON』と対で考えると思い浮かんでしまうゲー   ムがあるんですけど、鴻上尚史さんの『G・O・D』っていうありますよね?」 工藤「あ、はいはい」 竹内「あれもどっか、ロープレに対するロープレみたいなとこがあるんですけど」 工藤「あ、そうなんすか。僕やったことないんですよね」 竹内「端的な話、土足で人んちに上がっちゃいかんよってのを表現として表に出した   ゲームってのは僕が知る限りはその2つで。──まあ『G・O・D』はシステム   的に従来の枠の中で終わってしまってるんですけど。出てくる文章とか演出とか   は鴻上尚史がやってるだけあって面白いんですけどね」 ◎修羅場のエピソード 竹内「あとお聞きしようと思ってたのが、ゲーム作りにおける締切り間際の修羅場。   その無茶エピソードとかをお聞きしたいなと思ってたんですけど」 工藤「あー……」 竹内「あるじゃないすか、72時間寝てないとか過労でぶっ倒れたとか──」 工藤「僕は、ラスト2ヵ月くらいになると、さっき設計図書かないって話じゃないけ   ど、そこでおそるおそる設計図を出してみるんですよね、一応。『UFO』でい   えば真ん中の11時までの時間枠が埋まったとするじゃないですか。そうすると   自分の作業の速さからして、残り1週間しかないとなると、7日間ですよね。7   かける24って何時間だってものを出して、あと何匹作らなきゃいけないってい   うので割ると、『1匹……あれっ、4時間!』みたいなところが見えた時に、最   後のラストスパートっていうか、持ってる力を全部っていう。──物理的に、今   までじゃあ1匹にどれだけ時間かけてたかなってことを考えると、どう考えても   無理だっていうことが判明した時に、それはもう寝てられんねえっていう感じで   すよね。そうなってくるともう、例えば『UFO』でいえば、僕はもう目覚まし   時計では眠れなかったんで。目覚まし時計だと、5分だけとかいう調整が難しい   じゃないですか。だからストップウォッチで寝てましたね」 竹内「うわー(笑)。それで5分寝ようと思ったら寝られるもんなんですか?」 工藤「5分だけ寝ようっつって5分だけ寝て。──んでまた何時間もぶっ続けでやっ   たりとかっていう感じですね」 竹内「へーっ。──あと、家に帰れないエピソードとかもたまに聞きますけど……」 工藤「あの、うちらスタッフってみんな近所なんですよ。みんなチャリンコで来れる   とことか歩いてこれるとことかに引っ越してて。それはポリシーとして、『MO   ON』の時とかもそうだったし、僕今まで『UFO』までずっと守ってきたこと   があって、必ず家で寝るっていうのはずっと守り続けてきたんですよ。やっぱり   自分のベッドとかって寝ないとリラックスできないし、そういう意味では絶対に   家に帰れるようにっつって家を近くにしてるんだけど、『UFO』は本当に初め   てですね。物理的にそれができなかったっていう。家に帰るための5分がもった   いなかったっていうか、家に帰る5分は睡眠時間に当てたいっていう」 竹内「なるほどねー。すごいなー」 工藤「切羽つまってましたね」 竹内「そういや、宇宙人のキャラクターの設定表とか見て大笑いしたんですけど、切   羽詰まってたからなんですかね。分かる人にしか分からないとか、いっぱいある   じゃないですか」 工藤「ああ、例えば23時(ホワイトボードを指して)、一番ケツのところにちょこ   ちょこ書いてあんのが、各部屋のオチなんですよ。各部屋の23時はもうそこで   最後だから、オチのエピソードを1個作んなくちゃなっていうことになったんで   すけど、それが各部屋20時くらいきてもまだ全然決まってなかったんですよ。   それであの全部の部屋、ほぼ1日くらいで。家族の部屋は家族和解ってことにし   よう。家族和解!」 竹内「(ボードを見て)102号室でおやっさんが死んでるー、とか?」 工藤「ハッカーも逮捕される終わりで、ヨシキは最後何かショックなことがあって、   倒れるんだけど、バラがなくてもう一回倒れる、みたいなんでいいじゃねえかと   か。サラリーマンは、ループネタって書いてあるけど、また同じようにTVつけ   っぱなしで寝ちゃうとか。画家んところで望遠鏡を見るのやめたっていうのは、   望遠鏡を見たことによって捕まっていろいろあったから、もうやめようとか。ん   でOLんとこは何て書いてあんのだろうな……ああ、『彼と仲直り』か」 竹内「あそこは一番、哀愁っていうか味のある終わりでしたね」 工藤「で、マッチョは戻るって書いてあるけど、あれはヤセに戻って(笑)」 竹内「いやー、こういうの書いてくのは楽しいだろうなあ」
 そんなわけで、話はこのあと『UFO』の裏話や竹内の小説や落語の話題などに及 んだんだけど、録音テープが終わてしまった。1時間の取材の予定だったので60分 テープしか用意してなかったのである。──まあしかし、クリエイターインタビュー のタイトルにふさわしく、クリエイティブな刺激をたっぷりと受けられた1時間であ った。作品性より商品性の方が表に出がちなゲーム業界において、クリエイターとし ての姿勢を貫いてる人のお話はやっぱり面白いね。  ところで、落語の話をしている内に、工藤さんも落語に興味を持っておられて、週 刊モーニングの『風とマンダラ』という落語4コマも読まれているなんて話になった。 『風とマンダラ』──言うまでもなく、作者はこのインタビューシリーズ第1回のゲ ストの立川志加吾さんである。あの時、「とりあえず漫画で売れる」なんて言ってた 志加吾さんは、その後天下のモーニングに連載を持つまでになっていたのだ。  工藤さんから志加吾さんに繋がる話題が出たってことで、僕は何だかぐるりと一周 りしたような気がして嬉しかった。──インタビューの数日後に工藤さんと志加吾さ んを紹介する機会を設けさせてもらったりなんかして、こういう巡り合わせみたいの っていいなーと思う僕であった。


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