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白い犬とワルツを

製作=「白い犬とワルツを」製作委員会 配給=東映
2002.04.13 東映邦画系
99分 カラー ワイド  DVDは96分

エクゼクティブ
プロデューサー
吉田尚剛 白い犬とワルツを
企画 鍋島壽夫
プロデューサー 片岡公生  
貝原正行 
水野純一郎
監督 月野木隆
助監督 山下智彦
脚本 森崎東
原作 テリー・ケイ
撮影 小林達比古
音楽監修・
メインテーマ作曲・
編曲
加古隆
音楽・ピアノ演奏 shezoo
美術 原田哲男
録音 河合博幸
照明 中須岳士
編集 石島一秀
「白い犬とワルツを」
製作委員会
創映新社  
シネカノン
アスミック・エース
 エンターテインメント
衛星劇場  
アミューズメント
 メディア総合学院 
東京映像工房
カルチュア・パブリッシャーズ 
ポニーキャニオン
 
配役  
中本英助 仲代達矢
恵美(英助の次女) 若村麻由美
朴秀一 豊原功補
梅本由恵(英助の長女) 南果歩
中本光恵(英助の妻) 藤村志保
白い犬 しろ
秀一の母 横山通乃(道代)


       白い犬とワルツを   略筋   (池田博明記)

 原作はあるものの、森崎さん一人で脚本を担当している注目作品。
 月野木監督は日本で原作が売れ出す前の二〇〇〇年に企画していたと言う。南果歩はデビュー作のとき、月野木氏が助監督だったという。月野木監督は横浜放送映画専門学院第一期生で今村プロに所属、『ええじゃないか』『楢山節考』に助監督として付く。その後フリー、『ジャズ大名』『黒い雨』『その男兇暴につき』でチーフ助監督。

 大きな樹の根元に治療を続けた樹の回復を喜ぶ英助(仲代達矢)と妻・光恵(藤村志保)の姿があった。古い小型トラックの側面には中本造園の文字。看護婦志望だったという光恵が結婚した英助は造園業を経ていまは樹木医だった。結婚生活40年、光恵の誕生日を祝ってくれるという娘たち。
 次女(若村麻由美)は夫に死なれて5年、そろそろ再婚してもと考え始めている光恵だった。指輪をなくしたとあわてる光恵。翌日、ゴム手袋の中にあった指輪を娘が見つける。
 光恵は仕事に出る夫の上着のほころびに気が付く。仕事から帰って英助は妻の返事が無いので不安になる。物干し場で倒れている光恵を発見。
 病院のベッド上で光恵は「三人・・・」と言い残して逝ってしまった。
 通夜の席、心臓が原因だったと人々が話している。光恵に世話になったという韓国人の朴さん(横山通乃)が来る。光恵をオモニと呼び、英助をアポジと呼ぶ朴さんは
 英助は急に裏の小屋に寝ると言う。いったん言い出したら聞かない頑固者だからと娘たちは英助のいいようにさせておくことにする。英助は白い犬が来たと言って、餌をあげたりするが、誰も犬を見ていない。
 葬式が行われる。骨上げがすむ。肩身分けなど荷物を整理する娘たち。英助は風呂から「光恵」を呼んでいる。妻が死んだということが実感されていないのだ。娘たちは少し不安になる。
 今夜から英助ひとりになる。光恵の死を聞いて久し振りに秀一(豊原功輔)が来た。秀一は光恵の世話になったのだ。朴さんは昔息子を産んで貧乏でお乳も出なかったとき、ちょうど由恵を産んだ光恵に乳をわけてもらった恩がある。
 秀一は20年前、英助の造園を手伝っていたが、英助に「殴られた」ことがあると言う。秀一は英助を批難する。英助の息子の栄一郎と秀一が二人で倒木事故に会い、栄一郎が死んで韓国人の自分が生き残ったことが許せなかったんだと言う。「確かにおまえの顔を見るたびにつらかった」と英助は思い出す。光恵が死ぬとき、三人と言ったのは死んだ息子と自分と夫を同じ墓に入れてくれということだったのかもしれない。急に英助は秀一に恵美と結婚して身内としてうちの墓に入ってくれと頼むが、秀一は「一体、あんたは自分をなにさまだと思ってるんだ」と怒る。英助「わかった」と秀一をとりなすが、秀一は「なにがわかったんや」と収まらない。
 英助は「俺の骨を拾ってくれとお前に頼まんでも娘がおるわい」と独り言を言っている。心配になった恵美は娘と一緒に家に引っ越して父親の世話をしたいという提案をするが、英助は「しばらくひとりでいたいんだ」とその申し出を断る。
 白い犬がいる。英助は自分のときにだけいるんだと言う。娘たちと犬がいるかどうかを賭ける。
 雨の日、通信販売のシャツが届く。光恵が倒れる直前に発注していたシャツである。雨のなか白い犬が来る。英助は犬の足を取ってワルツを踊る。昔、光恵と踊ったことがあるとつぶやく。
 英助は自分だけが犬の存在を知っていて、他の人々が犬を知らない状況が面白くなってくる。由恵が来ると、由恵に薬を取りにやらせている間に犬を逃してやる。ワルツを踊ったと話す英助。
 由恵は夫に父親の幻覚を心配して相談するが、夫は心配ないと取りあわない。犬に話しかけている父親。墓に来た父親の呼びかけに犬が出現するので、尾行してきた娘たちは驚く。
 英助は和子と一緒に犬を目撃する。朴さんは犬を幽霊だと思いこんで床下から追い出す。留めに入った英助は転んで膝を痛める。夢のなかで光恵がオマエ(恵美)を秀一の嫁さんにどうやろと心配していたと話す。恵美は急に母の喪失感を感じて泣いたと話す。朴さんは自宅へ帰る。もうすぐ四十五日だ。
 白い犬が再び現れた。英助は光恵の骨を分けている。そして犬へ話しかけている、犬と一緒に息子の骨が分けてある山の墓地へ行こうというのだ。四十五日の法要が行われた。朴おばちゃんは来なかった。
 英助はこっそり出かける。子どもたちが「なんで歩けないふりしてんの?」「みんなには言うなよ」「口止め料にお土産買うて来て」。トラックで出発した英助は途中で犬と出会い、一緒に連れて行く。
 一方、娘たちは父親が失踪したので心配する。
 英助が朴さんの店に寄ると、秀一はチンピラを包丁で脅かして追い出しているところだった。喧嘩して怪我をさせたらしい。秀一に「ケガをしたらオモニが悲しむ」と注意すると秀一は「あんたはせいせいするやろ」、朴おばちゃんは「なんてことを言うんや」とフライパンで秀一を殴る。英助が山にいくからと店を出て駐車場でさきほどのチンピラにからまれ殴られて金を取られる。英助はそのまま山へ向う。夕方、朴おばちゃんと秀一が話しているとき、娘から電話が入る。
 父親は後生平へ行ったんや、母親の骨を埋めにいったんや。秀一は「おじさんに何かあったら俺のせいや、俺もおばさん(光恵)の骨を埋めに行く、それが生き残った俺のけじめや」。
 山小屋のおばあさんのところに足を怪我した犬を預けて、トラックを途中で乗り捨て山へ入る英助。雷鳴が鳴り響き雨が降ってくる。恵美と秀一が探しに来る。沢を落下する英助。桜の花の幻覚を見る。光恵の「栄一郎、オマエひとりにはしない。母さんと父さんもきっとここへ戻って来る」という声が聞える。白い犬も傍にやって来た。探しに来た恵美と秀一と三人で、樹の下に骨を埋める。英助「おれも骨になったら必ずここに戻って来る」と気を失う。
 風呂に入って英助は秀一に「分骨するときは俺のはのどぼとけにしてくれ」と頼む。秀一「あんたはそう簡単にくたばらん」。白い犬が来ていた。英助「もうええで。おおきに」と礼を言うと、犬は去っていった。
 晴れた日。空が高い。揺り椅子で眠っている英助。ゆっくり玄関にパンして、新聞紙が風で動く。誰かが入って来たのだろうか。カメラがパンして戻ると、眠っている英助を見ている光恵の姿があった。溶暗(フェイド・アウト)。