日本映画データベースより増補 森崎東アーカイブズ
製作 | 八木ケ谷昭次 石川富康 | |
企画 | 鍋島嘉夫 | |
プロデューサー | 田沢連二 中島芳人 | |
監督 | 森崎東 | |
助監督 | 石川和彦 | |
脚本 | 中島丈博 森崎東 | |
原作 | 浅田次郎 「ラブ・レター」 「見知らぬ妻へ」 |
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撮影 | 浜田毅 | |
音楽 | 松村禎三 | |
音楽プロデューサー | 小野寺重之 | |
選曲 | 合田豊 | |
美術 | 重田重盛 | |
録音 | 原田真一 | |
照明 | 長田達也 | |
編集 | 後藤彦治 | |
衣裳 | 本間邦人 酒井ゆかり | |
スクリプター | 桜木光子 | |
スチール | 川澄雅一 | |
製作協力 | MIT | |
企画協力 | ソフィオ・クリエイツ | |
配役 | ||
高野吾郎 | 中井貴一 | |
中山サトシ | 山本太郎 | |
康白蘭 | 耿 忠 | |
ニセダイヤモンドをセールスをする女 | 洞口依子 | |
光岡優 | ||
内田春菊 | ||
李媛 | ||
佐竹義則 | 根津甚八 | |
警官 | 大杉漣 | |
火葬場職員 | 笹野高史 | |
六平直政 | ||
スナックのマスター | 浦田賢一 | |
でんでん | ||
警察官 | 佐藤B作 | |
吾郎の兄 | 平田満 | |
質屋の亭主 | 名古屋章 | |
伊藤常夫(入管管理局職員) | 柄本明 | |
醍醐ミサオ(スナックのママ) | 倍賞美津子 | |
穴吹樟雄 | 大地康雄 | |
諏訪太郎 | ||
真実一路 |
ラブ・レター 略筋 (池田博明記) 長崎県五島列島の沖で発見されたというベトナム難民が乗り込んだ船の映像がニュースで流れている。そのニュースをヒゲをそりながら聞いている吾郎(中井貴一)は、プレハブ集合住宅の隣りに住むイスラム人男性にラジオの音がうるさいよと消させる。TVやラジオでは日本が多民族国家への変貌を遂げるのもそう先のことではないと解説しているが、吾郎にとってはそんなことはどうでもいいのだ。吾郎は隣人の洗濯物の干し過ぎで出入り口付近が混雑しているのが気にかかる。 ![]() 社長は吾郎に「かみさんをもらいな。玉の輿に乗るんだ」と提案する。「?」といぶかしむ吾郎に、その場へ話を持ち込んで来た当の男・穴吹(大地康雄)が説明する。不法滞在になってしまう中国人女性と偽装結婚することで女性の就労期限を延長させることができるというのだ。法律的に書類上の結婚をするだけで即金で80万円の収入になると言う。穴吹は3年前までは刑事、捕えた女性に同情して見逃したことで解雇されてしまったのを機に、この商売のプロモーターを始めるようになったという。 ![]() とりあえず返事を保留してキイを借りていく吾郎。社長は「(あいつは)俺の言うことを断ったことないから。読み書きはまあまあだ。ソロバンはダメだけど」と評価。 歩道橋の上から人の群れをながめている吾郎。携帯電話で別れた妻のところに電話して、約束の場所にきていない娘を出してもらうと、なんと娘は「お父さんにはもう会わない。(今の母親の)パパに悪いから」と言う。せっかく外車を借りたのに、箱根へスケートに連れてってくれと言っていたのにと、吾郎はショックを受ける。 自分の店は裏ビデオ販売店、その駐車場に車を横づけする。店番をする予定のサトシ(山本太郎)が「あれ?娘さんとデートじゃなかったの?」と聞いてくるのが腹立たしい。おかまが性転換手術を受けて吾郎と所帯をもつのを楽しみにしている。吾郎は気乗りしない。 穴吹がさらに仕事の手順を説明に来る。強制送還から逃れるための偽装結婚だが、入管審査局で夫婦への質問があるのであらかじめ予習しておくように想定問答集を渡される。半金の40万円は前金で、残りの40万円は審査が首尾よく終ってから。女はカンパイランという名前だという。 アパートへ帰ると隣りのイスラム人がドアが開き放しで無用心だったからと台所で調理していた。酒を勧めるがムスリムは酒を飲まない。一人で飲んで酔いつぶれる吾郎の胸元からお札がこぼれ落ちる。 新宿百人町食堂で遅い朝食を取っている吾郎のもとへ電話が入る。穴吹である。今日が入国審査の日だ。12時に東京駅でまず女と会う。穴吹が連れて来た女は白蘭=パイラン(耿 忠:コウチュウ)、合成の偽結婚写真も用意されていた。パイランは写真を焼き増しして欲しいと穴吹に頼んでいる。想定問答の打ち合わせをして永住難民審査部門で審査に臨む。 審査官(柄本明)は「ダンナさんが働きます。わたしアパートでだんなさん待ちます・・・」と専業主婦を名乗るパイランに、アパートの間取りを二人別々に書いて欲しいと要求する。吾郎はさきほど会ったばかりの白蘭に間取りが書けるわけがない、(困った)と思う。 しかし、頭の回転が速い白蘭は「わたし“間取り”わかりません。何のことですか。・・・あ、(家のつくりのこと)、玄関入る、トイレあります、四畳半で旦那さん休む・・・」と一挙に語って自分で架空の間取りをこしらえてしまう。係官は(参った)、もういいですと審査は無事終了する。 吾郎は残りの40万円を受け取って、パイランと別れる。シェシェ、サイチェンと去る白蘭、これでもう二人は会わないはずだったが・・・。 数日後、AV女優になりたいという女が吾郎の店に来る。財布代わりにダイヤの入ったケースを持っているこの女(洞口依子)は偽ダイヤ売りだ。おかまは吾郎がだまされると心配するが、サトシは「しのぎのものが他人のしのぎの邪魔をするのは仁義に反する」と吾郎に忠告することなく、店を離れている。それに「あぶく銭は使ってしまったほうがいい」という。 吾郎はニセダイヤの指輪を50%引きの20万円で買わされる。店には教え子がアダルトビデオに出ているという教師が買いに来ている。テープの回収だそうだが、三本あるテープのうち1本しか買わない。おかまは吾郎に玉の輿に乗ったって本当かと問い詰め、ニセモノの指輪は原価5000円の代物よと告げる。 吾郎は質屋の亭主(名古屋章)に指輪を鑑定してもらう。質屋には女房(内田春菊)を質に入れた男まで来ている。吾郎は質屋の亭主に頼んでパイランが出演しているキャバレーに連れてきてもらう。パイランは舞台で股旅姿で踊っていた。キャバレーのママの話では、だんな持ちだと分かると客が減るという。吾郎はママに頼んでパイランに指輪を渡してもらう。ママはもう来ないようにと言う。パイランは指名の客を取るのである。突然、警察の外国人登録証の捜査が入る。 家で風呂に入っている吾郎のもとへサトシが電話をしてくる。キャバレーのホステスたちを千葉の千倉の海岸に連れて来ているという。パイランも海辺で楽しそうに波と戯れている。 サトシが私服の警察官(大杉蓮ら)に連行されている。逃げるサトシ。警官は逃げれば公務執行妨害で逮捕する名目が立つと言う。社長・佐竹はオレも長くねえ気がすると仕事に弱気である。吾郎はサロマ湖のそばでいちばん上の兄貴が漁師をやっていると話す。一家で馬ソリに乗って流氷を見に行ったときの夢を見るという。 ![]() 吾郎の娘の沙織から電話がある。「家出した。いま会いたい」とのこと。自転車を無理やり借りていつもの待ち合わせ場所に駆けつけると、ロータリークラブの交換留学生に合格したものの、費用の150万円をパパが出してくれないのでなんとかして欲しいという。なんとかしようと請合ったものの、張り込み中の警官に拘留されてしまった。未成年者略取の疑いとは表向きで、本当は覚醒剤の捜査だ。しかし、拘置所で吾郎は佐竹興行の裏稼業について、いっさいの口を割らずに過ごす。やがて拘留期限が切れて釈放される。そのとき係官から「あんたのかみさん、亡くなったらしい」と聞く。 別れた妻のところへ電話すると、妻は生きていた。すると、亡くなったのはパイランなのだ。佐竹興行に顔を出すと、ちょうど警察から死体を引き取ってくれと連絡が来ていたところだった。社長はおつとめご苦労さんと謝金50万円、葬儀代50万円を渡す。そして事務取り扱いのためにサトシをつけてくれた。千倉に向う二人。サトシは海岸でパイランは吾郎に「ありがとうと伝えてくれと言ってました」と話す。千倉に着いたのは夜、サトシは「いいとこでしょ」というが、真っ暗で何も見えない。警察署で係官(佐藤B作)に保険証を見ると、簡単な手続きをすますと病院に行ってくれと言われる。急に吾郎には怒りがわいてくる。ひとがひとり死んだってのに手続きがカンタンすぎないか、なぜオレはパクラレないのか、と。サトシはなだめるのに必死。 翌日、病院で医師の説明を聞く。肝硬変の末期症状で食道静脈瘤の破裂、入院して翌日には亡くなってしまったという。遺体安置室でエンバーミング処理を施された遺体はまるで生きているときのように美しかった。胸で組んだ手には吾郎が贈った指輪があった。パイランは突然目を開いてありがとうと言ったが、これは幻想。病院の支払いが30万円以上かかってサトシは葬儀の支払いが足りるかどうかが心配になる。 パイランは小さな火葬場(係員は笹野高史)で骨になってしまった。サトシは吾郎に聞く、「黙ってるからさ、何発やったの」「やってねえよ」。吾郎はなぜ誰も来ねえんだ? 誰か来て、線香の1本もあげてやってもいいじゃないか、ひと一人が死んだんだよと言う。骨を骨壷に納めるとき、指輪が落ちる、石が燃えて輪だけの指輪だ。 タクシーでパロパロへ行くと、ママが遺品を渡してくれた。どこの国の女も手紙だけがたったひとつの楽しみさと、一通の吾郎宛のラブレター。ニセ結婚写真と一緒に同封されていた。 ![]() 骨箱を抱いて手紙を握りしめ、吾郎はママに「なぜ、もちっと早く入院させなかったんだ」と抗議する。ママはこんなふうに反論する。「一度入院したら死ぬまで出れねぇって分かってか。一本一万円もする注射十本も二十本も打つためにか。保険なんか、高い注射には効かねえよ。だいいち本人が、いやがる」と。吾郎「ちょっと聞くが、どうして国に知らせてやらなかったんだ。知らせてやるのがフツウだろうが」。ママ「フツウがどういうことか分かってんのか。17、8の人間がこんなど田舎で体を売るのがフツウじゃねえ。十万が向こうの親の一年分の稼ぎになるってことがフツウじゃねえんだよ。金の値打ちに違いがあるってことがフツウじゃねえんだよ。おめえはフツウの人間か。血を吐いて死ぬまでかせがせるのがフツウの人間かよ、フツウだよ、金が欲しいってのが。紙一枚の戸籍を途方もない値で売ってるおめえたちと同じさ。その金を返すために死んだようなものだ。ニセダイヤでだましといて、よくいうよ!」。用心棒が嵩にかかって責める。「ニセダイヤでもな、このオナゴはこの世で一番大事なものだって肌身離さず持ってたんだよ。偉そうに亭主づらしやがって。この人殺し!」。そんなふうに言われて、反論することはできないが、怒りがわいてくるのを抑えることもできない。吾郎は用心棒につかみかかり、二人は外の階段を転げ落ちてしまう。吾郎はドアを殴って怒りをぶつける。ドアの向こうはホステスたちの部屋。そこを通り抜け、吾郎は道を渡って浜に出る。 ![]() 東京まで戻って来たあと、すぐに札幌行きの列車に乗り込む吾郎。自分の兄への連絡をサトシに頼む、馬ソリで迎えにきてくれと。 下佐呂間駅という小さな駅に降り立った吾郎。小型トラックで兄(平田満)が迎えにくる・サロマ湖は凍りついている。ところどころ凍りついていないところもあり、白鳥がいる。父や母も来ている。めんこい(可愛い)おくさんだなやという声もする。甥と姪が馬ソリをあやつって迎えに来てくれたのが見える。見ると手綱をとっているのはパイランではないか(幻想)、吾郎の心はいとおしい気持でいっぱいになる。完。 |