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いい湯だな 全員集合!!

製作=芸映プロ 配給=松竹
1969.07.23 
7巻 2,439m カラー ワイド
製作................ 青木伸樹 小角恒雄
監督................ 渡辺祐介
脚本................ 森崎東 渡辺祐介
撮影................ 荒野諒一
音楽................ 萩原哲晶
美術................ 宇野耕司
録音................ 小林英男
照明................ 飯島博
編集................ 寺田昭光
出演................ いかりや長介 加藤茶 仲本工事 高木ブー
荒井注 生田悦子 早瀬久美 左とん平
犬塚弘 木暮実千代 三木のり平 春川ますみ


  ドリフターズの全員集合シリーズ中の最高傑作
             『いい湯だな 全員集合』   池田博明

ビデオ ドリフターズの全員集合の映画版で脚本・森崎東とクレジットされている作品は3本、『やればやれるぜ 全員集合』『いい湯だな 全員集合』『大事件だよ 全員集合』。この中で森崎さんが中心になって書いたのが『いい湯だな 全員集合』でしょう。メインが森崎さんで、副に監督の渡辺祐介が付いています。『やればやれるぜ』では、物語に森崎さんらしさはほとんど出ていませんでしたが、この第3作『いい湯だな』では全面展開、それだけにシリーズ最高傑作となっています。ウソだと思う人はぜひご覧下さい。
 冒頭、ある銀行が強盗に襲われます。五人組の強盗で銀行の隣のトルコ風呂から壁に穴をあけて侵入。お風呂好きで、「ある特徴」をもつ五人が捕縛されます。タイトルバックで次々に逮捕されるドリフの面々。
 留置所で身の上を心配する五人。ところが実際の犯人の目星が別について、誤認逮捕を公にしたくない警察(犬塚弘ら)は五人をわざと脱獄させます。留置所から下水に逃げ込んだ五人は、一度は元の生活に戻ろうとするものの、強盗の濡れ衣は晴れておらず、しばらくは下水道暮らし。全員みなし子というから、もう森崎世界に入っています。長吉(いかりや長介)は面倒を見てもらった「たたき(恐喝)」の親分(今はオデン屋の)三木のり平から「(俺のように)実の親を平然と殺せるのが、本当のハードボイルド」とか、「戦後の三大事件って知ってるか、帝銀事件、松川事件、八海事件。この真犯人が・・・。平沢にも吉岡にも気の毒なことしたな。他人には言うなよ。笑われるからな」と吹き込まれて、すっかりその気になってしまいます。長吉の指導でガンやアヤのつけかたや、にらみのきかせかたを練習する五人。「それじゃお前さん、なにかい」と始まるこの練習場面は口立てなので、まるでテキヤのタンカ売のような可笑しさがあります。同時期に『吹けば飛ぶよな男だが』や『男はつらいよ』も書かれていたことを思い出します。練習の成果を町の薬屋で披露するヒデ(加藤茶)でしたが、店の女主人に逆にすごまれて失敗。
いい湯だな 一方、北海道は洞爺湖温泉郷のとある高校。女子生徒たち(早瀬久美ら)が「ドリフのいい湯だな」を調子よく歌っています。この当りは無類に可笑しい。いままさに職員会議でもめているのは温泉郷で始まったばかりの高校生芸者をどう処罰するかの問題です。退学処分に反対するタカシとミヨ(生田悦子)。タカシの父親は芸者組合の組合長(上田吉ニ郎)で、ミヨの母親は高校生芸者の温泉旅館の女将(木暮実千代)。小さな温泉町で二大勢力の全面戦争となるか。田舎の巡査役は左ト全。
 高校生芸者にバカにされた芸者(春川ますみ)は千枚通しの鉄(左とん平)に加勢を頼みます。それならこっちもと、女将が東京から呼んだ「殺し屋」がドリフの五人。
 蒸気機関車の急行で、田舎町の駅に降り立った五人を出迎えたのは、千枚通しの鉄だった。五人は『木枯し紋次郎』ばりの出で立ちでBGMの音楽はマカロニ・ウェスタン調。実際には双方共にイキがっているだけで、ちっとも強くなどありません。
 勝負は決着しないまま、翌日に持ち越されます。ミヨはこの騒ぎを潮に、タカシと二人で東京に出ようと決心します。バック音楽は「ミヨちゃん(僕のかわいいミヨちゃんは・・)」。ミヨは五人に鉄は「ヘビやトカゲを食べていて」「弾に当っても死なない」人間だから、喧嘩を止めるように忠告します。湯の中でふるえて思案している五人のもとへ、潜水で近づいて来た者がありました。鉄です。鉄も五人についての噂を「生でヘビやトカゲを食べる面々」とミヨから聞かされて、和解交渉にやって来たのでした。鉄から女将は三億円の資産家と聞かされ、五人は標的を女将に変更することにします。
 一方、女将は番頭から五人が東京大空襲のときに生き別れた息子ではないかと聞かされます。それなら空襲の際の火傷の痕がスネにあるはず。風呂場でそっとのぞいてみると、確かに五人にはスネに火傷の痕があります。中村錦之介主演の東映映画『瞼の母』で母親役を演じていた木暮実千代に、ここでまた瞼の母を演じさせるとは・・・。親子の名乗りをすれば、財産狙いに決まっていると女将は五人に心を許しません。まるっきり、『瞼の母』です。いい湯だな 木暮
 朝になって、抜け駆けしようとヒデは「おっかさん、みたいな人」と、女将にお世辞を言います。しかし、他の四人に見つかってしまいます。喧嘩騒動は話がついたらしく、五人は解雇されてしまいます。
 仲間を裏切ったヒデは裏の畑に埋められる運命に。ヒデは「女将を抹殺する完全犯罪のための準備だった」と弁明して、許されます。女将は毎日30分間だけ電気按摩機に坐るのでした。これを利用して感電死させようというのです。
 準備万端整ったところへ、東京へ出発しようとするミヨが五人に別れを告げに来ました。そして五人が女将の息子であることが分かります。実の母親を殺すのか、実の親を殺せなくて何がハードボイルドか、と葛藤が始まります。電線を持ったまま、やっぱりできないと倒れた長吉の手で結線されてしまい、按摩機には6千ボルトの電気が通じます。実はその頃、警察から息子たちが捕えられたという連絡を聞いて、女将は警察に出かけていたのでした。
 女将を殺したと思い込んだ五人は、鉄から「旅館には実は三億円の借金がある」という話を聞き、絶望するとともに、「ハードボイルド」気取りで警察に自首して出ます。ところが実際に捕縛された五人はまったく別の男たちでした。なんとその五人にもそろってスネに火傷の痕がありました。こちらは、「ム所に女でも差し入れてくれや」と、本ものの悪人に成長してしまっていました。
 網走刑務所に保釈金五千万円を持参するという女将に、謝罪するドリフの五人。借金三億円は税務署対策のウソで、実際には資産は十五億円はあるという。娘のミヨは東京で自活して暮らすというので、網走に行くのを止めた女将は金の入ったカバンをドリフの五人に投げる。カバンを開いてみると中に入っているのは旅館のハッピだった。長吉は「これは女将さんのナゾかけだ、俺たちを経営者にしようというつもりだ」と主張して、めでたく五人は旅館のした働きに雇われることになる。
 最後の場面で実際に風呂場洗いをしているのはヒデだけ。後の四人はお湯の中で、調子よく歌を歌っている。いたぶられるヒデは最後に「みなさん、これでこの映画が終わると思っていてはいけません。これから身の毛もよだつようなことが・・・」と風呂に入った電線の先をショートさせてストップ・モーション。
 イキがる人間を笑いのめし、自分勝手な人間を情けようしゃなく点描して、悪意に満ちていますね、この映画は。ちなみに音楽もパロディの連続です。 
                   (2001年12月29日)