日本映画データベースを増補 森崎東アーカイブズ
製作 | 白井昌夫 | ![]() |
製作補 | 杉崎重美 | |
監督 | 野村芳太郎 | |
脚本 | 野村芳太郎 山田洋次 森崎東 | |
原作 | ギ・ド・モーパッサン | |
撮影 | 川又昂 | |
音楽 | 林光 | |
美術 | 梅田千代夫 | |
録音 | 栗田周十郎 | |
照明 | 三浦札 | |
出演 | 岩下志麻 栗塚旭 田村正和 竹脇無我 小川真由美 宇野重吉 左幸子 左時枝 大坂志郎 長岡輝子 江幡高志 |
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−リメイク− |
女の一生 略筋 (池田博明記) 暗い中、序奏の音楽が奏でられる。「昭和42年度芸術祭参加作品」である。 昭和21年、長野県。少年が屋根の上に登っている。今日はこの家の娘・信子(岩下志麻)が病気が治って戻って来る日だ。医者(大阪志郎)も寄っている。昭和18年に信子は突然喀血したのだ。車が着いた途端、迎えで同乗していた母親(長岡輝子)が心臓の発作を訴える、医者の診察では気のせいだというが・・・。母親は信子と女中のお民(左幸子)に自分が死んだら同じ乳を飲んで育った二人、協力して暮らしてくれと言う。お民は妹のように育てられたようだ。 信子のために用意された木製のベッドに寝かされて、信子は父親(宇野重吉)と長い療養生活で田舎のような静かな生活が気に入ったと話す。あとはお婿さんを迎えるだけだなという父の言葉に信子は恥ずかしがる。 父親の妹の戦死した息子・智治(トモハル)の学友・三木(栗塚旭)が立ち寄る。まるで息子の生まれ変わりのようだと一家に歓迎される三木。盆踊りを見学した日の夜、三木は信子に手紙を出してもよいかと聞き、信子の手を取る。三木は明日には東京へ帰るのだ。別れて戻った部屋にはちょうど布団を敷き終えた女中の民がいた。三木は踊りで疲れた足の裏を踏んでくれと民に頼む。溶暗。 数日後、東京に出かけた両親が信子に縁談を持って来る。婿の候補はあの三木だった。喜びをおさえきれない信子は同意し、畑へ出て民にも「あたし宗和さんと結婚するのよ」と知らせるのだったが、なぜか民は沈んでいる。 使用人たちの噂を聞いて信子は民に聞く。民の妊娠は本当だ。民は相手の男の名前を言わない。民のことを相談すると宗和は民を放り出してしまえと答える。そんなことはできないと弁護する信子と言い争いになる。その晩、一階で寝るといった宗和に夜中に謝りにいくと寝床は空っぽだ。不審に思った信子が離れに行くと、ちょうど宗和が民に堕胎を進めているところだった。そして拒む民を押したおす。民の相手は夫だったのだ。部屋へ飛び込んで気を失う信子。 ![]() 熱が下がって気が付くと心配そうにのぞきこむ両親の顔があった。宗和は民に男の名前を聞きただしに行ったところを信子が誤解したのだと言っているという。信子は民を呼べと要求。いやがる民から信子が婚約する前、盆踊りの夜から関係があったと聞いて愕然とする一同。 父親が糾すと、宗和は平然と男なら多少の浮気はあるものだ、だいいちお父さんだって昔は女遊びがあったでしょうと言う始末。日本刀を抜く父親を回りのひとがやってのことで抑える。医者が信子はフツウの体じゃないんだと明かす。 お民は知り合いの百姓のもとに嫁に出すことになった。三本杉の山林を売って作った20万円の持参金をつけて。宗和は5万円でも高いくらいだと計算高い。 やがて信子は臨月になる。陣痛が来ると、信子は「あの人の子供なんか生みたくない」と泣く。 けれども産まれてきた子供は可愛い。五月の初節句を祝うことになる。息子は宣一(ノリカズ)と命名されている。夫婦二人は寝所も別で冷たい風が吹いている。 水力発電所の所長・彦根夫婦(高原駿雄、小川真由美)が来る。宗和は彦根の妻と土蔵のなかであい引き。村人たちの噂になり、その関係は信子の耳にも入る。とうとうある夜、所長が尋ねてくる。自分が出張で留守の予定だったが、妻が不在だと言う。行き先を知らないと答えたものの、懸念が残る。件の二人は温泉宿で一緒だった。所長は二人を銃で撃ち殺し、自分も自殺してしまった。葬式を出す一家。 昭和二十四年夏以降、年々次第に成長していく息子を喜ぶ信子。 昭和三十九年秋、宣一の東京の大学の文化祭を見学しようと、叔母のお浜と一緒に上京した信子は自分を歓迎していない息子(田村政和)の様子に気がつかない。息子は友人たちと車で遊びに出かける。 その晩、信州の父親のもとに信子から緊急の電話が入る。宣一が無免許運転で事故を起こした、被害者は片足を失う心配の或る重傷だと言う。父親は警察や被害者へ謝罪に回り、やがて不起訴になったものの、示談金は二千万円、信州の家屋敷を手放さないと用立てられない金額である。父親は宣一が不良仲間と遊興三昧、勉強などしていない生活を知って、勘当する。お前の心根は父親と似ているんだ、と。 正月が来るが、馴染みの医者が言うように、今年はさびしい正月だ。使用人たちが信子が宣一に金を送っていることを心配している。ゆっくりとリラックスしていたものの父親が風呂で死亡してしまった。 昭和四十一年秋、久しぶりに民子が尋ねてくる。夫が死んだんだと言う。子供は4人。信子は「亡くなった御主人は?」、民「仕事すけべっていうんだろうね。働くために生まれてきたような人で、でもケチでね。小さな家とリンゴ畑を残してってくれました」。 しばらくぶりで枕を並べて寝る信子と民だった。屋敷も春には人手に渡る予定だ。民は「そうしたら、小さなウチを買って気楽に暮らすんですよ。ネズミのいるウチはつぶれんというずら」と助言する。信子が息子の心配をしていると、民は「東京へ行ってみなんし」と薦める。 宣一の好きな柿を手土産に持って、「お金を送ってくれ」と言って来た住居を尋ねてみると、驚いたことに宣一は女と同棲していた。女は春美(左時枝)と言う。キャバレーのホステスのようだ。信子は春美に息子と別れてくれと頼む。サンマを焼いて食べなと言っていた春美に「(この息子には)サンマなんか食べさせたことが無かった。体が弱いんで白身の魚をよく煮て食べさせたものだ」と言う過保護ぶりである。 ![]() 信州に戻った二人を民の息子、つまりは宗和の子だが、芳吉(竹脇無我)がトラックで迎えに来てくれていた。民の家の子ども達の明るい雰囲気をみるとうらやましい気持ちが信子には起こってくるのだった。 昭和四十二年春、淀橋病院から宣一の手紙が来る。そこには、赤ん坊を産んだばかりの春美が死にかかっていると記されていた。信子は行ったものかどうか迷う。あの女は自分がどんなに頼んでも宣一を返してくれなかった、わたしには宣一がすべてだったのにと嘆く信子に、民はあんただけが苦労したと思ってなさるが、それこそバチあたりなことだよと諭す。 東京に行ってみると、春美は瀕死だった。ベッドで故郷の「子守唄」を歌って赤子をあやしていた。 やがて、信州に孫を抱いた信子の姿があった。信子は民に宣一が、ようやく一緒に暮らしてくれることになったと話す。芳吉が運転するトラックに民と一緒に乗って信子はようやく孫をいとおしく思えるのだった。 【評価】 当時の「特報」には『紀ノ川』『智恵子抄』に続いて大松竹が送る文芸大作という惹句があった。 岩下志麻が十代の女学生から四十代の母親までを演ずる。森崎東さんの貢献はどの辺だろうか。左時枝が演ずる千葉の漁師の家に生まれたというホステスの設定だろうか。(池田博明記2008年12月11日) |