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燃えよ剣

製作=松竹(大船撮影所) 
1966.11.12 
7巻 2,466m 白黒 ワイド
製作 小角恒雄 燃えよ剣 栗塚旭と内田良平 
監督 市村泰一
脚本 加藤泰  森崎東
長谷部利朗 
原作 司馬遼太郎
撮影 酒井忠
音楽 渡辺岳夫
美術 芳野尹孝
録音 高橋太朗
照明 寺田重雄
出演 栗塚旭  和崎俊也
小林哲子 内田良平
石倉英彦


    『燃えよ剣』   略筋     池田博明記

 青年・土方歳三が道場破りで宿敵・七里研之助に出会ってから、池田屋事件で七里と勝負を決するまでの『燃えよ剣』前編の物語。後編も考慮されていたが、製作されなかった。
燃えよ剣 上杉高也と栗塚旭 土方歳三の義兄(北村英三)は日野宿で町道場を開いているが、そこには天然理心流の近藤勇(和崎俊也)が出稽古に来る。農民たちにいわば実戦の田舎剣法を教える道場に、甲源一刀流の者たちが道場破りに訪れた。初めから縄張り争いなどしたくない近藤勇(和崎哲也)に比べて、血気盛んな土方歳三(栗塚旭)は相手になろうと六車宗伯(上杉高也)という使い手と試合をする。六車の小手が入る一瞬前に尻を切った形になったのは土方の剣先だった。剣の勝負は六車の勝ちだが、真剣なら斬られていた。百姓たちの祭りの一夜に土方に体を許した女は猿渡佐渡守の妹・佐絵(小林哲子)だった。燃えよ剣 小林哲子と栗塚旭 スチル用写真
 佐渡守の屋敷に忍んで行った土方は身分を捨てたいという佐絵と情熱的な一夜を過ごすのだった。屋敷を出たところで、警護する六車に見咎められて対決。土方は、相手のスネを斬り、倒して斬りつけて勝った。佐絵は自分と一緒に逃げてくれと頼むが、歳三は拒む。六車斬りの下手人探しが行われた。居合も使う七里研之助(内田良平)は犯人は土方と見当をつけて果し合いを申し込んでくる。相手は二人で待つというが、信じていない土方は探りを入れる。案の定、決闘場所に向う道筋のあちらこちらに伏兵が隠れていた。応援に駆けつけた沖田総司(石倉英彦)と急襲をかけ、なんとか勝ったが、七里との勝負はつかなかった。
 新撰組は次第に頭角を現していった。清川八郎(天津敏)との抗争、京都守護職を得た後の芹沢鴨(戸上城太郎)一派の粛清。五年ぶりに再会した佐絵は敵方の尊王攘夷派になっていた。それでも土方と会うときはひとりの女として会うと言う。
 新選組は勤皇派の謀議の場所と時刻をつきとめようと、捕えた男を拷問にかけ情報を得ようとしていた。ある日、沖田総司が佐絵の手紙を持参してくる。ひとりで出向いた歳三は佐絵と再会したが、手紙は偽物。七里研之助の謀略だったのだ。再三相対した二人、途中で新撰組の加勢が入って、またもや結着のつかぬまま別れた。
 新撰組は、佐絵を捕えた。拷問の結果、佐絵の望みで、歳三は二人だけで会った。佐絵の情報は、「今夜五ツ、池田屋」というものだった。別の情報では、場所が丹虎。迷った新選組は二手に分かれた。丹虎で歳三は七里と相対した。浪士たちは池田屋に移動し、歳三たちも合流した。池田屋で凄惨な最後の勝負がくり広げられる。七里は歳三の前に敗れた。歳三は拷問後に手当てされているはずの佐絵の許に駆けつけたが、既に佐絵は自害していた。
 明治が始まるまであと三年。
  
     栗塚旭インタビュー  (2005年発売 DVDに収録) 記録・池田博明

 1965年にNET、東映で『新撰組血風録』で土方歳三を演じて以後、松竹から話が来て、本編(映画)でも撮るということになり、一作目が『おはなはん』(1966)、二作目がこの『燃えよ剣』でした。
 ひと月くらいの撮影期間でかなりの強行スケジュール、徹夜撮影が続きました。松竹の京都撮影所で撮影しました。セリフを覚え、立ち回りを覚えるので精一杯。寝る暇も無かった。市村監督と役つくりについて話し合う・・・なんて時間は無かったですね。話し合ったからってよくなるものでもないですが。池田屋の場面は見事な殺陣ですが、3、4日間で撮ったと思います。渡辺岳夫さんの音楽は洋楽、まるでマカロニウェスタンですね。
 原作を読んでいましたから、一時間半で描けるのだろうかと思っていました。そしたら池田屋事件までの、いわば土方の青春篇みたいな、当時自分は29歳、土方の上洛が28歳で年齢が近いせいもあって役つくりは割と楽でした。当時は実年齢よりも上に見せようとするのが普通で、気を張って演じていました。
 加藤泰さんの脚本は、当時は自分の役柄、土方中心に読んでいて、佐絵は土方の影に見えつ隠れする薄幸の女性としか思っていなかったんですが、最近見返してみて、驚きました。映画全体が大ロマンスだったんですね。
 佐絵を演じた小林哲子さんは、芯はしっかり強くて、ひとりの男に純愛を捧げる役をみごとに演じられていました。七里役の内田良平さんとは共演するだけでもわくわくしていました。あの目がいいです、正も邪もごまかしがきかないという目です。近藤役の和崎俊也さんは東映の先輩です。気負わずにひょうひょうと演じていながら、一本すじの通った男を演じています。
 芹沢鴨役の戸上さんは育ちのよさがあるんです。清川八郎役の天津敏さんは基礎がしっかりしているから、隊士をときふせるセリフが素晴らしいですね。
 作品のテーマは男の道程が描かれていることですね。役者は役をのみこんで演技するものなので、たとえどのような悪役であっても、役に対する反発というのは少ないんです。
 この後テレビでも『燃えよ剣』で土方を演じます。

   時代劇専門チャンネルで2008年12月6日『燃えよ剣』放映に先立って
   栗塚旭インタビュー
 Q)初主演映画の撮影はいかがでしたか?
 この映画は、用心棒シリーズ撮影の1ヶ月で収録しました。過密スケジュールだったため、昼夜なかったですね。とにかく僕は忙しかった。
 Q)新選組副長・土方歳三役 「新選組血風録」と違い、
 「燃えよ剣」は映画であり、制作は松竹だったので、土方を演じる上での戸惑いはありました。
 Q)市村秦一監督からは、綿密なやり取りがあったんでしょうか?
 市村監督は現代劇の監督だったから、初めての時代劇映画だったんですが、細かいことを指示しない監督でしたね。河野監督もそうだけれど、任せられると役者としては、自分でやらなきゃならないものだから責任を感じました。
 Q)共演の方とのおつきあいはあったのでしょうか?
 共演だった和崎俊也さん、石倉英彦さんとは今でも時々お会いします。
 Q)撮影の場所を教えてください
 通常は松竹撮影所です。ロケもありました。冒頭のシーンは淀川で撮影しました。「初めて人を斬った」シーンは下賀茂神社でした。
 Q)殺陣のシーンが多いですね
 殺陣は二階堂武さんでした。殺陣は踊りと違い、その役者・役どころにあわせてその場で殺陣をつけるんです。今観ても、今回の殺陣は豪快ですね。
 Q)今観るとどのように感じられますか?
 公開当時はこれでいいのかな?と思っていたところもあったのですが、今観てみると、案外観られる。つまり、時代劇そのものの作りがしっかりしていたんですね。
 Q)撮影秘話を教えてください
 芹沢鴨をやっていた戸上城太郎さんは、メーキャップが巧かったんです。 楽屋に入って来られると、実は温和そうな方なのですが、するするっとメーキャップすると怖い悪漢顔になるんです。あのメイクは素晴らしいですね。
 Q)最後にチャンネルのファンの方にメッセージをお願いします
 用心棒シリーズと同時期の撮影だったため、用心棒の雰囲気もお楽しみいただけると思います。皆様、どうぞ楽しんでください。