高校生物  遺伝と変異(1)  遺伝の法則   池田博明
                       BACK TO CONTENTS 
遺伝学電子博物館Web Pageへ (国立遺伝学研究所)

DNA from THE BEGINNING
http://vector.cshl.org/dnaftb/

遺伝の法則  遺伝子と染色体 連鎖と組換え  遺伝子の正体 分子遺伝学


第1節 遺伝の法則   メンデルの法則(1865年)

 メンデルの再発見(1900年)

●第1項 1遺伝子雑種

 第1の例 血液型の遺伝 = ABO式血液型

表現型 A型 B型 AB型 O型
遺伝子型 AA AO BB BO AB OO
優性ホモ ヘテロ 優性ホモ ヘテロ ヘテロ 劣性ホモ


 表現型(phenotype)とは,外見や表面に現れた形質。
 遺伝子型(genotype)とは,遺伝子の構成。
 優性の法則=優性遺伝子と劣性遺伝子が対を作ると,優性形質が表現される。
 分離の法則=親の対になった遺伝子が配偶子形成のとき,必ず分離する。
 homo=同じ,hetero=異なる。ホモは同型接合,ヘテロは異型接合という。

【コメント】メンデルの法則だから,メンデルの実験のデータをもとに遺伝の法則を教えなければならないという先入観は誤り。血液型を最初の例にしても何の問題もないし,むしろ生徒の興味関心は高い。また,理解もよい。後ほど,染色体の上の遺伝子の説明をするときにも,遺伝子の位置まで分かっているので都合がよい。

例1 両親がヘテロのA型同士から生まれる子は?
   A型      A型
   (AO)      (AO)
  精子形成  卵子形成
  A   O    A   O 
必ず表を作成すること。
 -------------------------
      A        O   
  -------------------------
A     AA       AO   
     (A型)     (A型)
O     AO       OO 
     (A型)     (O型)
  -------------------------
 子の遺伝子型の分離比
     AA:AO:OO=1:2:1
 子の表現型の分離比
     A型:O型=3:1

例2 A型(AA)の父とA型(AO)の母の子は? 表形成して答える
例3 A型(AO)の父とO型(OO)の母の子は? 表形成して答える


    Punnetの方形について   池田博明

 次代の遺伝子型を求めるのに雌雄の配偶子の遺伝子型を縦横に書いた表を作成することは重要であり、必ずマスターさせたい解法である。
 このような表をパネットの方形という。ただし、通常普及している形は配偶子のできる割合が入っていない。本来のパネットの方形では1/2Aと1/2Oというふうに配偶子型の前に確率として数値が入るべきであるので、数値が省略されている形の表は「パネットの方形もどき」でしかないという(布山喜章氏の批判)。
 確率として数値を入れることは本質を理解する場合に大変に大切である。
 ヒトの例では必ずしも4名の子供が生まれるとは限らないので、確率的な扱いが容易である。理解もされやすい。エンドウの例で説明するよりも、ヒトの例で遺伝の基礎を教えるべきである。 


 第2の例 Rh式血液型

------------------------------------
        優性形質      劣性形質
表現型    Rh(+)型      Rh(−)型
遺伝子型   DDまたはDd       dd 
-------------------------------------
 Dは優性遺伝子,dは劣性遺伝子。Rh(−)型は日本人の約1%,白人の15%

 赤血球上にアカゲザルと同じ血液型をもつヒトが、Rh(+)型である。ヒトの野生型がRh(+)型のD遺伝子だとすれば、Rh(-)型のdは突然変異で生じたものであろう。ヒトの集団のなかの創始者(founder)の遺伝子が次第に広がっていったのは、Rh(-)型の遺伝子が適応的にさほど不利でなかったからだろう。


 第3例 ヒトの遺伝形質

 ア.舌巻き rolling tongue
  できる(優性) RRまたはRr  できない(劣性) rr

 イ.組み手
  左指が上(優性) LLまたはLl  右指が上(劣性) ll

 ウ.耳垢
  湿型(優性) WWまたはWw  乾型(劣性) ww

 エ.耳たぶ
  福耳(優性) EEまたはEe  貧乏耳(劣性) ee

 オ.髪
  波状毛(優性) HHまたはHh  直毛(劣性) hh

 カ.眼色
  黒眼(優性) BBまたはBb   青眼(劣性) bb

 キ.PTC感受性
  苦みを感じる(優性) TTまたはTt  感じない(劣性) tt

      T おそらく野生型遺伝子  t おそらく進化型遺伝子

 PTC感受性遺伝子は創始者変異として著名なものである。25%がPTC味覚欠損型レセプターをもつ。サハラ以南のアフリカでは7つの異なる遺伝子型が見られたがほかの地域では感じる型と感じない型のふたつだけであ。この結果は人類のアフリカ起源説を裏付ける。創始者変異には鎌状赤血球症や遺伝性ヘモクロマトーシスなどがある。
(「日経サイエンス」2006年1月号「創始者変異でたどる人類の足跡」D.ドレイナ)


【コメント】ヒトの遺伝形質のなかで,1遺伝子雑種であることが確立しているのは耳垢とPTC感受性くらいであろう。他の形質については,1遺伝子雑種かどうか疑問がある。遺伝の導入の部分で,アメリカの教科書に出ている例を挙げた。生徒に家族の形質を調査してもらったところ、組み手は矛盾する結果が出た。使用した遺伝子記号は便宜的なものである。

●第2項 優性の法則の例外

 1.中間雑種 マルバアサガオの花色

 親  赤花 RR × 白花rr

        桃花 Rr

        Rとrの関係は「不完全優性」とよぶ。
        ABO式血液型ではAB型が中間雑種に相当すると考慮できるが、
        A型遺伝子とB型遺伝子の関係は「共優性」とよぶ。

  他にキンギョソウの花色  赤、アイボリー(白)、ピンク
 
 2.致死遺伝   Y 野生ネズミの毛色(黄色かつ致死)
            y 黒色

 親  黄色 Yy × 黄色 Yy。 表を作成せよ。
    子の表現型の分離比は,黄色:黒色=2:1

 (この致死遺伝を,優性の法則の例外と呼称するのは適切ではない。
 優性遺伝子が通常とは異なった働きをする例)

●第3項 2遺伝子雑種 

例 ヒトの眼色 B 黒色眼   b 青色眼
   ヒトの髪色 H 波状毛   h 直毛

例1 青色眼・直毛の人の遺伝子型は? 答  bbhh
例2 黒眼・直毛の人の遺伝子型は? 答  BBhh またはBbhh
例3 黒眼・波毛の人の遺伝子型は? 
   BBHH    BBHh
   BbHH    BbHh

例4 父が青眼・直毛,母が黒眼・直毛の場合,子は? 母の黒眼がホモのときと,ヘテロのときで,場合わけをしてから,表を形成して答える。

例5 両親が黒眼・波毛(遺伝子型がBbHh)の場合,子は?表を形成して答える。
     子の表現型の分離比は黒眼波毛:黒眼直毛:青眼波毛:青眼直毛=9:3:3:1

【参考】確率的扱い

●第4項 検定交雑
 遺伝子型不明の個体に劣性形質(劣性ホモ)を交雑することによって,遺伝子型を推定できる。

例 エンドウの種子の形質
         種子の形 A 丸の遺伝子  a しわの遺伝子
         種子の色 B 黄色の遺伝子 b 緑色の遺伝子

表現型 ●丸黄 ○丸緑 ★しわ黄 ☆しわ緑
遺伝子型 A-B- A-bb aaB- aabb

例1 丸黄の父に,検定交雑した(しわ緑の母を交雑した)ところ,子は丸黄:しわ黄=1:1。父親の遺伝子型は?
[解法A]推定できる遺伝子を入れていくと、父親の遺伝子型が分かる。
 【ポイント】劣性形質に注目せよ!遺伝子型は劣性ホモである。

 メンデルが選んだ7つの対立形質は、偶然にもエンドウの7本の染色体上に独立に位置していたと言われることがあるが、これは間違いである。

 1998年のN.F.Weedenらの論文の図では
 第1染色体 子葉の色(i)
 第2染色体 種皮の色/花の色(a)
 第3染色体 茎の丈(le),さやの形(v)
 第4染色体 花のつく位置(fa)
 第5染色体 種子の形(r),さやの色(gp)

 ただし、よく例に出される子葉の色と種子の形は独立であった。


[解法B:簡便法](1)子供の表現型を遺伝子記号で表す。
  (2)その記号を父親に戻す。

例2 丸黄の父に,検定交雑した(しわ緑の母を交雑した)ところ,子は丸黄:丸緑:しわ黄:しわ緑=1:1:1:1になった。父親の遺伝子型は?
 解法Bで考察したとき、父親に遺伝子をそのまま戻すと、
  AaBb AaBb と8個になってしまうが、ここはAaBbで正解。

【参考】鳥の色彩の遺伝
  1)常染色体劣性突然変異=ブルー
  (セキセイインコのReccessive piedや White face オカメインコ,
   ブルーワカケホンセイ)
  飼鳥家はヘテロ接合体のことを「スプリット」という。
  ホモ接合体は「ノーマル」。「ブルー」のセキセイインコは市場価値が高い。


 (3)遺伝子型の略記法を紹介
  
   [AB]   [Ab]   [aB]   [ab] 
   AABB  AAbb   aaBB   aabb
   AABb   Aabb   aaBb
   AaBB
   AaBb
   [丸黄]  [丸緑]  [しわ黄] [しわ緑]


 (4) 遺伝子どうしの相互作用 (エピスタシスの例)

   スイートピーの花色     カイコガのまゆ色   ナズナの果実の形

【メンデルの使った形質の分子的基礎】 エンドウ種子の丸としわ
 
 エンドウの種子が丸い(野生型 Wをもつ)のは、遺伝子がデンプン分枝酵素I(SBEI,starch branching enzyme I)をコードするからである。この酵素はアミロペクチンという分枝するデンプンを合成するのに必要である。アミロペクチンを欠く豆は乾燥すると収縮が不規則になるためにしわができるのである。丸い豆はアミロペクチンを含むために均一に収縮した。
 肉眼ではWWとWwを区別することはできないが、顕微鏡でデンプンの分子を観察するとWwはWWの半分しか活性のあるSBEIをもたないため、ヘテロ接合のデンプン粒の形は大きくて不規則になる。ちなみに、WWは大きくて丸いデンプン粒で、wwは小さくて不規則なデンプン粒である。
            (エッセンシャル遺伝学より抜粋し簡約、33頁、49頁) 

▽第2節 遺伝子と染色体

▽第6項 連鎖と組み換え

▽第3節 遺伝子の正体


 クローの『遺伝学概説』はすばらしい教科書である

 BACK TO CONTENTS