トーナメントで勝ちきるには?


こんなタイトルに対する答えが用意されていたら,既にいろんなトーナメントを総な めにしてい るでしょう.ですから,私はそれに対する明確な答えなど持っていません.でも,何 とか楽をして勝ちたいと 思っている私は,ギャモンの研究をすることなく常日頃いろいろ考えているので,そ の一端を紹介しましょう. ちょっと数字が出てきますが,難しくはない(はずな)ので我慢して下さい.

トーナメントで優勝するためには,連勝しないとならないことは皆さんご承知の通り です. 昨年の世界選手権では271名の参加がありましたが,話を簡単にするために,256名の トーナメント だったとしましょう.1回勝つとベスト128,2回勝つとベスト64,....と優勝す るためには, なんと8連勝が必要です.世界チャンピオンになるためには8連勝が必要なのです. ふー,これは 大変だ.一回の対戦の勝率が50%だとしても,自分が8連勝する確率は,約0.39%くら しかありません. ちょうど1/256です.1%を遙かに下回ります.

これは無理だわ,自分は世界チャンピオンになれない.まずはこの考え方を捨てると いうのが私の考え方です. 確かに8連勝する確率は非常に小さいですが,そのトーナメントでは必ず誰かが(たっ た一人ですが)実際に 8連勝をするわけです.
つまり,その人には,0.39%の事が起こるのです.いや,優勝 する人は すごく強いから連勝できるのさ,そう思うかもしれません.でも例えば,対戦相手す べてに対する勝率が55%である ようなちょっと強い人がいたとします(実際に,すべての対戦者に55%の勝率ってなか なかすごいことです).
その人でさえも8連勝をする確率は,約0.84%しかないのです.逆に,対戦相手すべて に対する勝率が 45%であるようなちょっと劣ったプレイヤーの8連勝の勝率でも,約0.17%です.どち らにしてもそう差は ないような気がしませんか?

もちろん,世界選手権などはマッチが非常に長いので実力差のあるプレイヤー間の勝 率は実際には もっと差があるでしょうが,どちらにしても優勝することって確率的には非常に薄い 話だということ です.

では,確率に基づくのであれば,「誰にとっても均等にチャンスがあるな」,「確率 が1/256なら256回参加 すれば1回は勝てる計算になるな」などと考えます.確かに数学的にはその通りで す.256回参加すれば, 平均1回は優勝できる計算です.でも実際にはこの平均というのがくせ者です.世界 選手権に256回出場 できる人はいないでしょうから実際には無理ですが...

最近,飲み物などについているキャラクターグッズなんてものを集めたことがある方 はいるでしょうか. 「なんとキャラクターは全部で30種類!」なんて売り文句で人のコレクター心をくす ぐります.
で,実際に 買ってみると,始めの10とか15種類くらいまでは簡単に集まるのですが,徐々に, 「あー,またこれかー, これ3つ目だわ」なんて経験をしたことがあると思います.これって,全部集めるの に平均何個購入すれば いいか,って考えたことがありますか.29種類までそろって最後の1種類ってなって も,最後の 1種類が確率1/30ですからなかなか出てこない,となって,改めて考えてみると結構 な数を買わないと ならないことに気がつきます.でも気づくのは25種類とかだいぶ集めた後なのでもう 全部集めずには いられない....

これは,ちょっとしたコンピュータシミュレーションをやれば必要な平均購入個数が わかります.実際 やってみると,平均約118個の購入で全30種類のキャラクターを集めることができ る,という結果が得られます. もちろん,まれには,35個とかしか買わないで全部集められたって人もいるかもしれ ませんが,平均的には 100個以上の購入が必要なのです.これって意外に多くないですか?最近のキャラク ター付録商品は こういったことを逆手にとった販売戦略なのです.ましてや,なかなか出てこないレ アものなんてのが 混ざっていたら,この平均購入個数はどーんと跳ね上がります.こういった商品を購 入するときには 注意が必要ですね.

おっと,話がそれてしまいましたが,これをバックギャモンなどのトーナメントと結 びつけることが できます.仮に30人で行っているトーナメントがあって,全員強さは同じ,つまり, 勝ち負けは,コインの 表裏などで決まるような状況を仮定します.そんな状況でトーナメントを何回も何回 も行うわけです. ある人の優勝確率は1/30です.ですから,30回出場すると平均的に1回は優勝できる ことになるのです. でも,上のキャラクターグッズの話と対応づけると全員が最低一度優勝するまでに何 回のトーナメント開催が 必要かというと,平均約118回かかるわけです.つまり,ある人は,118回目にして初 優勝となるのです. 全員が同じ強さなのにもかかわらずです.同じ実力でも1回目の大会で優勝できる人 もいれば, 118回目で初めて優勝できる人もいるのです.自分が幸運の方であってほしいといつ も思っています.


もうこうなると実力うんぬんだけではなく,運の要素が非常に大きいことがわかるか と思います.もちろん, 実力を上げると優勝の可能性は増えていくことは間違いないわけで,日頃の鍛錬が必 要なことも確かです. これらの例から伺えることは,どんな強い人でもトーナメントで勝ちきることは大変 だし,そこそこの 実力を持っていれば,優勝だって運でどうでもなる,そんな確率的に小さいことが自 分の身に起こるわけない という考えは捨てた方が良い,ということです.

もう一つ,トーナメントで勝ちきることを考えるときに重要なことがあります.それ は,人間誰しも 「苦手な相手」とか「何度やっても勝てない相手」などが存在することです.もちろ ん,その反対に 「あの人には負けた記憶がない」などのカモと呼ぶ人も大抵の人には存在します. 「苦手な相手」との対戦 のときは,どうも勝てない気がして,それを意識しすぎて,どんどん自分のペースで プレイできなくなり, さらにまた負ける,なんてこともしばしば見受けられます.でも,確率の落とし穴を ここでも紹介します.

例えば,ここに自分以外の30名のプレイヤーがいて,よく試合をしているとします. すべてのプレイヤーの 実力は互角,つまり,どの対戦も勝率は双方50%であるとします.自分が他の30名と 10対戦づつしたとき, つまり,Aさんと10対戦,Bさんと10対戦,などと対戦したとします.すると,平均的 には各5勝が期待できる わけです.でも,実際に対戦してみると,Aさんとは8勝2敗,Bさんとは1勝9敗なんて 結果になったりします. この場合,Aさんはカモだけど,Bさんにはカモられているな,となるのです.この場 合,実力が互角なのにです. これもシミュレーションしてみると,30人のうち,数名とは9勝,8勝,そして,逆 に,1勝,2勝なんて 対戦相手が普通に出てきます.

つまり,実力が同じでも確率のいたずらでカモなんて普通に出現するってことです. さらに,実力差が あればカモの出現は当然のことです.むしろ怖いのは,カモられている相手との対戦 を意識しすぎて 自分のペースを乱すことです.同じ相手に負け続けていても,こんなことは確率的に は当たり前に 起こることなんだと,開き直って忘れてしまうのが良いと考えています.でも,カ モっている相手には 十分自分がずっーと勝ち続けていることを意識させましょう.非常に都合の良い考え 方です.

最後にちょっと数学的なことを言うと,連勝するには,平均勝率が同じでも対戦相手 による差がなければ ないほど連勝する確率が大きいことが知られています.例えば,AさんとBさんがそれ ぞれ二人の人と 対戦することを考えます.Aさんは対戦相手二人との勝率が50%づつ,そして,Bさん は対戦相手二人との 勝率がそれぞれ,70%と30%だったとします.AさんもBさんも対戦相手との平均的な勝 率はどちらも50%で 同じです.でも,Aさんが対戦相手二人に連勝する確率は25%,Bさんの場合は21%なの です.

平均的な勝率が同じ場合,対戦相手毎の勝率に差がなければないほど連勝の確率が高 くなる,という わけです.つまり,実際のトーナメントでは苦手な人をいかになくすか,が肝心で す.そして,苦手 というのは,むしろ自分が苦手と思うことが一番の敵である,とも言えるのです.

ですから,トーナメントで勝ちきるには?,という問いに対する私なりの結論は,負 けた記憶は 忘れてしまおう,ということです.