今週のコラム                                 大西赤人/小説と評論

光文社の窪田清さん、「思想運動」の武井昭夫《てるお》さんに見せることはかなわなかったが、『季刊 メタポゾン』創刊号、今月末発売

大西 赤人



 鳴り物入りで迎えた二十一世紀も、たちまちのうちに十年が過ぎ去った。この十年を振り返ると、劈頭《へきとう》2001年に発生した「9.11アメリカ同時多発テロ事件」が象徴するように、世界も日本も明るい新世紀とはかけ離れた閉塞した空気に包まれていたように思う。今年を二十一世紀における新しい十年が始まる区切りと考えるならば、月並みではあるけれど、多くの人々にとって少しでも生きやすい世の中となることを願い、自らもそのために僅かなりとも寄与することが出来たらと思う。ちなみに、この2011年は、僕の最初の作品集『善人は若死にをする』が世に出た1971年から丸四十年目に当たる。とりあえず言葉だけでも「作家生活四十年」と称してみれば風格ある高齢の大ベテランめくけれど、そもそも僕が文章を(言わば商業的に)書きはじめた1969年には満14歳になったばかりの若輩だったから、それを踏まえて現状は割り引いて(?)考えていただきたいのだが……。

 さて、真面目な話、これまでにも折々書いたことがあるように、僕の最初の作品――ショートショート『計画』が世に出た経緯は全く偶然の産物だった。夏休みの国語の宿題として作文が課され、ありふれた身辺雑記は気が進まなかった僕は、ちょうど星新一、ブラッドベリ、ブラウンなどショートショートの名手が手がけた作品を愛読していたことも手伝い、まさに世間を騒がせていた古米《こまい》問題を採り上げて原稿用紙五枚ほどの一編を仕上げた。自分ではそれなりにうまく出来たとは思ったものの、その頃の僕は、父親の巨人を見ながら子供心に“作家という職業は苦労ばかり多いものだな”と痛感していたから、何かしらの野心などは毛頭持っていなかった。ただ、“こんなものを書いたよ”と両親に見せた記憶はあり、二人とも“面白い”と言ってはいた。しかしながら、当然にもそれは、単なる宿題として何の変哲もない結末を迎えるはずだった(実際、夏休み後に学校に提出したこの“作文”は、教師から何かしらの批評さえ受けることはなかった)。

 ところが、当時、『神聖喜劇』を営々として執筆中だった父のもとに足繁くやって来ていた光文社『カッパノベルス』の担当編集者・窪田清さんに母が面白半分、気軽にこれを見せたことから、『計画』の――ひいては僕の運命が大きく変わることになる。窪田さんは一読後、“社に持ち帰らせてほしい”と提案、その結果、『計画』は同社の月刊誌『小説宝石』への掲載、併せて連載も決定、それ以降、あれよあれよと他の雑誌や新聞などからも執筆依頼が舞い込み、二年余りを経て、単行本『善人は若死にをする』の刊行へとつながったのだ。即ち、その時に窪田さんが――精々“中学生にしては良く出来ているじゃないですか”というくらいの――社交辞令で済ませていたならば、僕はそもそも文筆の世界に進まないか、少なくともそのスタートが随分遅れていたに違いない。

 その窪田さんが、つい先月に亡くなられた。編集者としては森村誠一さんや夏樹静子さんをはじめとする多くの人気作家を担当し、光文社退社後には「ミステリー文学資料館」(東京・池袋)の二代目館長でもあった窪田さんは、大学時代から登山が好きで海外の名峰にも挑む壮健な方だったが、晩年は心臓を患い、ペースメーカーを埋め込んでいらっしゃった。以前は将棋を指したりセブンブリッジで遊んだり花見をしたり、公私に渡ってのお付き合いがあったけれど、近年は専ら年始の挨拶程度になってしまい、それでも昨年いただいた賀状に「薬の量が22錠に増えましたが」とありながらもお元気そうだったので、突然の訃報に驚かされた。

 昨年9月には、文芸評論家として、「活動家集団 思想運動」の責任者として活躍を続けていた武井昭夫《てるお》さんも亡くなられた。武井さんは巨人の古くからの盟友であり、加えて、僕が武井さんのお母さんの産院で生まれた――取り上げられた――という縁もあった。僕にとって物心ついた頃から変わることなく極めて身近な存在だった武井さんは、ここ数年来は体調が思わしくなかったのだが、折々の集まりなどで顔を合わせると、常に柔和な表情を浮かべつつも、時には、まさに初代全学連委員長という経歴を想起させる厳しい口調で、その場に緊張を走らせつつ発言しておられた。ちょうど夏の盛りにも別件で電話をいただき、“良くなることはないのだけど、まあ、付き合いながらやって行くんです”というようにおっしゃっていたから、なんとなくまだまだ元気でいてくれるものと感じていた。

 時の流れを止める術《すべ》はなく、このような報せも避けがたい必然であるとはいえ、日常の反復に鈍磨している間に本当は長い時間が過ぎ去っているのだという現実を改めて突きつけられる。ともあれ、僕のこれまでの人生に深く関わった窪田さんや武井さんを“赤人君もいつまで経っても困ったもんだ”と嘆かしめないためにも気合を入れなければいけないのだが、そんなお二人に見せることはかなわなかったものの、この度、「大西赤人責任編集」と銘打ち、雑誌『季刊 メタポゾン』を創刊する運びとなった。そのキッカケは、近年、二十数年来の友人であり、本サイトの管理人でもあるフリー編集者の鈴木康之君と『憲法寄席』(http://homepage2.nifty.com/horaicho/kenpoyose/)などで顔を合わせる機会が増えるうち、“デジタル時代の今だけど、あえてアナログな紙媒体で雑誌を作ろう”と話し合ったことにある。

 たしかに僕自身インターネットが大好きで、こうして実際にその末端に連なっているし、もちろんブログやツイッターの魅力も判る。既成出版社も含めて加速しつつある電子書籍への動きについても、大勢としては逆らうべくもないだろう。一枚一枚ページをめくる紙媒体にこだわる気持ちなど、単なるアナクロニズムかノスタルジーと言われるかもしれない。でも、果たしてそれだけだろうか。簡単に言わば世界に対して発信が可能なインターネットの力は確実ながら、そこには同時に、あたかも言葉が無形のまま虚空に向かって拡散して行くような頼りなさも感じられる。鈴木君ともども、やはり幾許《いくばく》かの“持ち重り”を伴なう雑誌を――今更に――作ってみようと決意したのだった。

 こうして、『季刊 メタポゾン』創刊号は今月末の発売、残念ながらどこの書店にも並ぶというわけには行きませんが、もちろん注文していただければ入手可能ですし、確実な方法として年間購読を受け付けています。活字メディアにとっては厳しい状況の今、荒れる海に向かって進みはじめるこの雑誌を支えるために、少しでも多くの皆さんに定期購読を申し込んでいただきたいと思います。
http://www.metaposon.com/works.html
http://www.asahi-net.or.jp/~HH5Y-SZK/onishi/metaposon.htm
http://www.asahi-net.or.jp/~HH5Y-SZK/onishi/metaposon2.htm
 本誌の趣旨に共感して協力して下さった多くの方のおかげで、とてもユニークな本が生まれようとしています。また、既に今後の協力を新たに約して下さった作家の方もいらっしゃいます。第二号以降も、「他では読むことの出来ない作品」を読者に届けるという僕たちの主眼を続けて行くことが出来ると確信しています。では、ここで、本誌刊行に合わせて12月に開始した僕のツイッター「大西赤人@MetaPoson」から創刊号の内容を引き、御紹介します。

――大西赤人です。来る2011年1月、雑誌『季刊 メタポゾン』を創刊します。デジタルメディアとりわけ電子書籍の普及が進む時代ですが、あえて紙のメディアの存在意義を探って行きたいと考えています。
――予約直接購読を主体に、地道に、でも、他では読むことの出来ない作品を読者に提供することが出来たら幸いです。もちろん、同時にインターネットの存在は重要なので、サイトとともにtwitterも使いながら、少しずつ雑誌に関する情報をお伝えしたいと思います。
――『季刊 メタポゾン』の編集は、鈴木康之君と大西の二人体制です。彼とは二十数年来の公私に渡る付き合いで、“編集者として、やはり紙媒体の雑誌を作りたい”という考えに大西も共感し、今回の企画を手がけることになりました。
「二人なのでマンパワー的に制約もあるものの、寿郎社・土肥寿郎さんやデザイナー・岩繁昌寛さんの力を得つつ追い込み作業中です。ただ、当初の予定よりページが増える、年末・年始にかかるなどのため、予告した1月11日創刊が少し遅れそうです。申しわけありません。確定次第、お知らせします。
――本誌は、「大西赤人 責任編集」と銘打ちました。決して広範囲ではありませんが、これまでに何かしらの御縁があった方にお願いして、色々な形で作品を寄せていただいています。創刊号の中身を少しずつ御紹介してみましょう。
――表紙と題字は、『真ッ赤な東京』(集英社)や『寸前爆発』(小学館)など極めてユニークな漫画を描いてきた常盤雅幸さん。本誌の不安定な立ち位置を的確に表わす危なっかしさ(笑)が漂う仕上がりです。題字は「ポ」の渦巻きがワンポイント。常盤さんには、本文イラストも一部お願いしています。
――巻頭エッセイは、三浦しをんさんによる『Mのこと』。言うまでもなく超多忙な三浦さんですが、“書きたいけれども他誌では書きにくいというようなテーマ”があったらむしろそれで書いていただきたいというこちらの勝手な注文に沿って下さった内容です。
――先に「これまでに何かしらの御縁があった方」と書きましたけれども、本誌には、卑近ながら父・大西巨人にまつわる要素も積極的に採り入れました。『特集:「神聖喜劇」のいま』では、昨秋、日本大学芸術学部演劇学科舞台総合実習で上演された川光俊哉君による戯曲『神聖喜劇』を一挙掲載しています。
――併せて、山口直孝さん(二松学舎大学教授)による丹念な劇化レポート『三次元の中の「神聖喜劇」』、及び、上演に関わったキャスト、スタッフの皆さんによる座談会を掲載します。舞台の裏話も含めた学生諸氏の活き活きとしたやりとりが楽しいと思います。
――大西巨人の聞き書きとして、サイト『巨人館』で公開中の『映画よもやま話』第一回『赤西蠣太』、及び、語り下ろし『秋冬の実 その1』(短歌自註)を掲載します。特に後者は、巨人が戦前から戦後にかけて詠み継いだ短歌をテーマに、これまで触れることのなかったエピソードをも語っています。
――『尾崎翠の世界』は、漫画版『神聖喜劇』(全六巻・幻冬舎)を手がけたのぞゑのぶひささんが尾崎さんの残した短編作品を新たに作画したもので、第一回は『初恋』です。近藤裕子さん(東京女子大学准教授)による解説が付されます。
――『悟り』と『ガラス玉の願い事』は、タイの作家、クワンユーン・ルークジャンさんの短編小説です(金子真己さん訳)。ルークジャンさんは一昨年の「世界P.E.N.フォーラム」(日本ペンクラブ主催)に来日し、2004年に起きたスマトラ大地震によるプーケット島での大津波の体験を語りました。
――『悟り』は、一体の美しい仏像を偶然手にした徳高い老僧の心情を描き、『ガラス玉の願い事』は、五人の親しい仲間が島遊び中に拾ったガラス玉を神秘の宝玉に見立てたことから始まる運命の変遷を描いています。どちらも不思議な雰囲気を漂わせる物語です。
――『トルジカの金魚鉢』『僕を捕まえたのは誰?』『暗闇なんて怖くない』『夢で会えたら』の四編は、大西ファミリーの一人・大西一穂の短編です。これらもまた、本誌の空気に似合った奇妙な味の物語ではないかと思います。
――『「薬害」HIV感染を問い直す』(1)「おろそかにされた『過去の検証』」は、出河雅彦さんによる連載医療ルポです。出河さんは朝日新聞記者として、多くの医療問題を扱ってきました。本稿は、“「産官医」の癒着”が定説となっているいわゆる“薬害エイズ”を改めて考えようとするものです。
――ところで、「メタポゾン【MetaPoson】」とは造語です。“Meta”は、「変化した、越えた、共に」などを意味する英語。“Poson”は、アリストテレスの「それがどれだけあるか」という「量」を指す言葉。「MetaPoson」は、今あるものの協同と、新しい何物かの出現を示します。
――『均《なら》された世界』は北大路公子さんの連作掌編第一回です。土肥寿郎さんが紹介して下さった北大路さんは、爆笑のエッセイ集『枕もとに靴』(寿郎 社)、『生きていてもいいかしら日記』(毎日新聞社)などの作者ですが、今回はちょっと変わった小説になっています。イラストは、にご蔵さん。
――『晶子《しょうこ》』は大西の中編小説です。マンションの隣室に越してきた若夫婦。「私」は、夫・片山の粗暴な物腰に怯える妻・晶子の存在に注意を惹かれて行きます……。なお、本文各所のイラスト、挿絵は木村晴美さん、佐々木淑子さんにもお願いしています。それではいましばらくお待ち下さい。
――今年も終りが近づいていますが、編集作業のほうも大詰め、校正とともに細かいチェックが一杯出てきます。イラストもほぼ揃ってきました。常盤雅幸さん、にご蔵さん、木村晴美さん、佐々木淑子さん、各人各様、こちらも色々な味を楽しんでいただけるのではないかと思います。
――購読方法については、何万、何十万の大部数を送り出すことは不可能なので、残念ながら、どこの書店の店頭でもというわけにはいきません。でも、注文していただければ入手可能ですし、もちろんネット書店も利用できます。最も確実な手段は予約直接購読です。これらについては近日中にお伝えします。
――あけましておめでとうございます。『季刊 メタポゾン』の購読方法をお伝えいたします。http://bit.ly/hP2oPGまたはhttp://bit.ly/fHauXW(短縮URL)を御覧下さい。年間購読の御案内ですが、申すまでもなく一号単位の注文も可能です。
――『季刊 メタポゾン』創刊号は今日一杯で校了です。当たり前ながら、雑誌作りとは原稿が揃えば終りというものではなく、台割に始まり、レイアウト、フォントの指定、そして校正と細かい作業が山積みです。それでも、印刷所に渡せば一山越えられます。
――これからよちよち歩きを始める『季刊 メタポゾン』、読者の皆さんの支えがなければ展望は拓けません。出来ることなら、定期購読の申し込みをお願いしたいと思います。http://bit.ly/hP2oPGまたはhttp://bit.ly/fHauXW(短縮URL)を御覧下さい。
――『季刊 メタポゾン』創刊号、印刷所に入りました。当初は256ページを予定していたのですが、編集の過程で盛沢山の内容になり、思い切って320ページの特別増大号としました。戯曲『神聖喜劇』日大上演時の写真もカラーで収録。その他、異なる味わいのイラストも楽しいと思います。あと少しです。

 あと半月です。お楽しみに。
(2011.1.14)