今週のコラム                                 大西赤人/小説と評論

転倒・松葉杖──民主党・三宅雪子衆議院議員の散々な『茶番』

大西 赤人



 僕は何十年来松葉杖を使って歩いている人間だが、この道具は、結構扱いが難しい。当然ながら、松葉杖を手にする時、その使用者は、足のどこかに大きな故障を負っているはずなので、そもそも身動きが不自由であるところにもってきて、特に左右二本を操るとなれば、二足歩行であるべき人間が四足歩行を強いられる。慣れていない人は、体重を杖に預ける時に重心を保つべく、正面から見ると杖がハの字に開きがちになるのも特徴的だ。何にせよ、世の中に必要もないのに好き好んで松葉杖を使う人は居まいと思っていたのだが、その稀有とも思われる実例が民主党・三宅雪子衆議院議員(笑)。

 散々物議を醸したので御存じの方も多いだろうけれど、同議員は、去る12日の衆議院内閣委員会において、民主党が国家公務員法改正案の強行採決に及んだ際に起きた混乱の中で派手に転倒。翌日には右足を傷めた(内出血)と包帯でグルグル巻きにしながら、車椅子に乗って国会へ姿を現わした。そして、本会議での採決にあたっては両方に松葉杖を突きながら投票に向かい、その途中で再び転倒、ついには同僚議員に背負われて壇を下りるという悪戦苦闘ぶり。僕は、当初は委員会での詳細を知らなかったのだが、国会での三宅の写真を見て、“足に内出血って、要するに青あざだろう。そんな程度の「ケガ」をアピールするためにわざわざ松葉杖を使ったりするから、また転ぶんだよ”と苦笑していた。出血性の体質である僕などは、膝や足首の関節に内出血を起こし、これは手当てが遅れるととんでもなく痛むから、場合によっては、歩くどころか立つことさえ出来なくなる。たとえば野球選手や相撲取りでも実戦中に著しいダメージを受けて関節内出血に見舞われることがあり、当然ながら欠場・休場へと追い込まれるわけだが、目に見える内出血くらいで松葉杖だ、車椅子だなんて、僕にとっては全く馬鹿馬鹿しいとしか思われなかったのだ。

 しかし、事は笑い話では済まなかった。民主党は、13日の代議士会において山岡賢次・国対委員長がTVカメラを前に「甘利さんが三宅さんを2メートル先まで突き飛ばした。ワタシのような者にやるのはいいが、かわいい美人の三宅さんを突き飛ばした。甘利さんの目の前には靴があった。明らかな暴力行為だ」(14日付『スポーツ報知』)と批判。自民党側が暴力行為を強く否定すると、ついには翌14日、甘利明衆議院議員に対する懲罰動議を提出したのである。

「12日の衆院内閣委員会での国家公務員法改正案の採決の際、甘利氏が民主党の初鹿(はつしか)明博衆院議員の背中を押したことで、隣にいた同党の三宅雪子衆院議員が転倒。三宅氏が右ひざに全治3週間の打撲を負ったとしている。
 これに対し、自民党の川崎二郎国対委員長は記者会見で、衆院内閣委員ではない初鹿、三宅両氏が委員会室にいたことを問題視し、『懲罰動議とは理解に苦しむ。甘利氏のどこに瑕疵《かし》があったのか、懲罰委員長に調べてもらう』と反発した」(14日付『産経ニュース』)

 当初、民主党は、甘利が(直接)三宅を突き飛ばしたと非難していたけれども、動議においては、甘利が初鹿を押し、その余波で三宅が倒れたと変化している。けれども、この三宅の転倒場面はテレビカメラに捉えられており、それが多くの人々によってユーチューブなどの動画サイトにアップされて細密なチェックが行なわれたため、一気に三宅の自作自演ないし――サッカーのシミュレーションにもたとえられる――悪辣なパフォーマンスだったのではないかと疑う見方がネットを中心に湧き起こった。また、そもそも内閣委員ではない三宅や初鹿が議場に居たこと自体が問題だとする指摘も多かった。

「本来は委員でもなく審議権も持たないはずの三宅雪子氏が、田中委員長が『質疑打ち切り・採決強行』という暴挙に出たとたん、抗議のために委員長席に殺到する自民党議員よりも前にいたのはどういうわけか…ということです。『つきとばした』(と言われている)自民党議員を問題にすれば、いやおうなく、なぜ内閣委員でもないものが、突き飛ばされるような場所にいたのかが問題にされることになるでしょう」(共産党・宮本岳志衆議院議員による13日付『たけしの日記帳』)

 僕も好奇心に駆られ、何度となく映像を見直してみた。いずれにしてもたまたま映っていた場面だし、委員席の机の後ろで起きた出来事なので十分明快ではないのだが、何とも不自然な転倒ぶりではある。三宅は甘利のほうを終始見ていて、甘利が横に立っている初鹿をどかそうとしてその身体を押し、初鹿が斜め前方(机の脇)に大きく一歩踏み出すと、三宅は初鹿の背後から明らかにワンタイミング遅れて――初鹿を追いかけるような恰好で――前方へ右膝から激しく倒れ込んで行く。そして、この時、右足の靴は既に脱げてしまっている。この場面だけを見れば、あたかも「警察官が被疑者に突き飛ばされたふりをし、自ら転倒して対象者に公務執行妨害罪を適用する」(『ウィキペディア』)“転び公妨”のようである。

 当然ながら三宅は自演を否定しており、実際これは、さすがに最初から転倒を“偽装”するつもりではなかったように思われる。様々な画像や映像から判断すると、多分、三宅は、初鹿(ら)とともに、甘利(ら)が委員長席に駆け寄ることを妨害する使命を帯びて立っていた。従って、当然にも甘利及び初鹿の動きを注視していた。そして、甘利に押された初鹿の身体が急に動いたため、自分もそれに合わせて追従しようとしたのだが、その際、初鹿の足に右の靴が引っかかって――あるいは踏まれて――脱げてしまい、結果、勢い余ってものの見事に倒れたのではなかろうか。

 しかし、民主党は、強行採決に対する非難をかわす意図も含めて、この顛末を政治的に利用しようとした。その後の車椅子や松葉杖は、間違いなく過剰な演出だったのだろう。その意味では、一年生議員の身でイヤとは言えなかったとも想像される三宅はむしろ気の毒だったのかもしれず、傷めたはずの右足を下にして議場で足を組んでいる写真を撮られたり、右側の杖一本で歩いている不自然さを指摘されたり(普通、片松葉の場合は、痛い足と反対側を突く)、国会インターネット中継の映像で閉会と同時にサッサと立ち上がり、それから思い直したように(?)やおら屈んで松葉杖を取り上げて使いはじめる様子を検証されたりと散々である。

 「懲罰動議」とは、議院運営委員会で協議の上、本会議で懲罰委員会に付託するか否かを決定する――付託されて仮に懲罰を科すとなった場合は、処分は戒告、陳謝、一定期間の登院停止、除名のいずれか――というから、三宅の青あざが消える頃にはいつの間にかうやむやに収束していそうな気もするのだが、何はともあれみっともない限り。一部の人々のように、この一件を採り上げて民主党政治を全否定しようなどとは思わないけれど、普天間飛行場問題、口蹄疫問題と重大な案件山積の中、お粗末至極。先に上げた宮本議員のブログにある「いま国会でおこなわれている『乱闘』政治というようなものは、まさに『茶番』としか言いようのないしろものです」という結句が実に真っ当に感じられたのだった。
(2010.5.27)