今週のコラム                                 大西赤人/小説と評論

巨人の原監督が、“ニンニク注射”でドーピング違反の疑いが持ち上がった中日・吉見へのやじを禁止したのは、その存在を広く世間に知らしめた功労者・清原の事が頭を過《よ》ぎったからだろうか

大西 赤人       



 プロ野球のクライマックスシリーズは、セは巨人、パは日本ハムと、ともにレギュラー・シーズンの優勝チームが勝ち抜いて日本シリーズに駒を進めた。今年の場合も、両リーグとも最後の椅子となる三位争いがギリギリまでもつれた上、特に楽天・野村監督が自らの契約満了を“解雇”と言い換えて多分に意図的とも思われる球団批判を繰り返し、それによってむしろチームのムード――反発心を高めるというアクロバティックな展開を見せて大いに盛り上がった。しかし、それでも、日本ハムとの力の差を覆すには至らずじまい。昨2008年から優勝チームに1勝のアドバンテージが与えられての6試合制という枠組みが定着し、これで二年(のべ四ステージ)続けて、1位チームが勝ち抜く言わば無難な結果が続いたことになる。

 もちろん、公式戦優勝チームへのアドバンテージは一面妥当とはいえ、短期決戦における戦わずしての1勝あるいは1敗は、遥かに数字以上の重みを持つようだ。上位チームにとっては最初から“6試合で3つ勝てばいい”という余裕をもたらすけれども、下位チームにとっては逆に“6試合で4つ勝たなければならない”という重圧と化す。そもそも下位チームは公式戦で敗れている立場なのだから、一敗目が即ち二敗目という時点で、一気に追い込まれてしまう。要するに“6戦で4つ勝てるくらいなら、レギュラー・シーズンで優勝してますよ”みたいな話である(笑)。1位チームが日本シリーズへ出ることは当然といえば当然なのだが、せっかく仕切り直しの敗者復活戦的なステージなのに、逆転が全く生まれなければ何のための再チャレンジかということにもなってくる。結局、本欄でも再三述べてきたように、面白いことは面白いけれど、僅か六球団しかないリーグの中で三位チームにまで日本シリーズ出場権を改めて競わせるシステム自体、やはり根本的に邪道なのであろうと思う。

 ところで、セ・リーグの第二シリーズ――巨人・中日の戦いに水を差しかけた出来事は、中日・吉見の第三戦登板直前に持ち上がった騒動だった。同投手がいわゆる“ニンニク注射(疲労の原因となる乳酸を分解するビタミンB1をはじめ、ビタミン類を豊富に含む総合栄養注射)”の投与を受けていたことがアンチドーピング規定に違反するのではないかと報じられたものの、結果的には「正当な医療行為であるとして違反はなかった」「医師による診断名が記載されていた。日常的に行われていたわけではない」(日本プロ野球組織・増島篤医事委員長 25日付『日刊スポーツ』)という形で決着。もっとも、“ニンニク注射”が疲労回復のための「正当な医療行為」に該当するものかどうかは、いささか疑わしい。もちろん医師の診断・処方があっての投与ならば、ひとまず形式的には「正当な医療行為」になるであろうけれども、一般論としては、この種の注射は単純な疲労回復目的で(保険適用外の自由診療として)気軽に用いられているからだ(コラム360回)。

 しかし、ここでは吉見の是非についてあげつらうつもりはない。問題は、この出来事に対する巨人・伊原コーチの反応である。

「巨人伊原春樹ヘッドコーチ(60)が22日、ドーピング規定違反疑惑が浮上した中日吉見に強い不快感を示した。正当な医療行為ではないのであれば、看過できない問題と主張。この日の試合後に『(ニンニク注射は)打ったらダメ。やったらイカンと分かっていること。誰だって知っていますよ。ジャイアンツはトレーナーがしっかりしているし、選手もちゃんと認識している。中日の認識が甘い』と、まくしたてた」(23日付『日刊スポーツ』)。

「試合後、巨人・伊原ヘッドコーチは“吉見問題”について『12球団、プロ野球全体の問題。中日は認識が甘いよな』と切り捨てた。さらに、第3戦で吉見が先発する可能性があることに『普通の球団であれば(登板回避を)やるでしょ。わが巨人軍は絶対に注射はさせない』とまくし立てた」(同前『スポニチ・アネックス』)

 大変な剣幕だが、ひとまず正論のようにも見える。しかし、ちょっと待ってくれ。“ニンニク注射”といえば、その存在を広く世間に知らしめた大きな功労者(?)は、巨人時代の清原ではなかったろうか? 試みに「清原 ニンニク注射」として検索すると、“清原はニンニク注射によって復活した”という類の記事が幾らでも見つかるし、当時、彼を診ていたクリニック院長は、2004年11月25日付の日記の中で、以下のように明言している。
「来年の宮崎キャンプにもにんにく注射を持って、番長の肉体改造を続行します!」

 言うまでもなく、当時は現在のようにドーピング規定が浸透していなかったから清原の“ニンニク注射”は問題視されなかったわけだし、また、伊原の巨人コーチ就任は2007年のことではある。しかしながら、そういう過去を幾らかなり踏まえるならば、「わが巨人軍は絶対に注射はさせない」などという大言壮語は少々気恥ずかしいものだ。実際には、吉見は第三戦に予定通り登板したのだが(6回2失点、勝ち負けなし)、試合後には、こんなニュースも眼に留まった。

「中日の先発はドーピング違反の疑いが持ち上がっている吉見だったが、巨人の原監督は吉見へのやじを禁止した。
 前日に中日球団や吉見を非難していた伊原ヘッドコーチは『どうやってやじろうかと思っていたんだけど。監督が同じ野球人がCSという舞台で戦っているから、正々堂々と戦おう、やじるのはやめよう、と言ったのでね』と内幕を明かした」(23日付『日経ネット』)

 伊原は心理戦を展開しようと手ぐすね引いていたのだろうけれど、監督命令で不発に終ったわけである。僕は、原監督のもっともらしい割に内容の乏しいコメントについては日頃から極めて冷ややかに見ているのだが、この一件に関しては少なからず見直した。ただし、彼の頭を清原の事が過《よ》ぎり、“吉見への野次は天に唾するようなものであるから止《や》めておこう”との賢明な判断に至ったのかどうかまでは判らない。
(2009.10.26)