今週のコラム                                 大西赤人/小説と評論

草g剛、原田伸郎、浜崎あゆみ──相次ぐ家宅捜索とちらつく「書類送検」という言葉

大西 赤人       



 つい1ヵ月半ばかり前、社会を揺るがす大罪を犯した人間であるかのごとき「容疑者」呼ばわりでマス・メディアから総攻撃を浴びていた草g剛が、たちまち芸能活動を再開している。人気者ゆえのバッシングであり、それと表裏一体の早期復帰ということになるだろうが、本欄でも触れた通り、そもそも「深夜の東京だからたしかに近所迷惑とはいえ、つまるところ飲み過ぎて独りで騒いでいたというだけ」なのだから、あまりにも馬鹿げた空騒ぎとの印象だった。公然わいせつ容疑の現行犯逮捕だったとはいえ、身柄を送られた東京区検は勾留請求延長を行なわずに草gを釈放、次いで起訴猶予処分となった。

「捜査関係者は、『事実を認めて反省しており、前科前歴もないため』と処分理由を指摘している」(5月1日付『サンスポ・コム』)。

 ところで、草gの逮捕当時、過剰な報道の大波の中でさえ、彼の自宅に家宅捜索が行なわれたというニュースは、違和感を伴なうものとして伝えられた。

「『なぜ家宅捜索するのか』−。SMAPメンバー草なぎ剛容疑者(34)の公然わいせつ事件で、警視庁赤坂署が23日午後、自宅の家宅捜索に踏み切ると、同署には問い合わせが殺到、署員が対応に追われた。
 草なぎ容疑者の逮捕と捜索のニュースが広がると、赤坂署にはファンからとみられる電話がひっきりなしにかかった。署員は『なぜ捜索するのかは、捜査に関することなので答えられない』『公平に扱っている』などと回答。受話器を置くたびに、次の電話が鳴り出していた」(4月23日付『産経ニュース』)。

 一般には“酔っ払って裸になったくらいで家宅捜索されては、たまったもんじゃない”という素朴な反応も多かったと思われるけれども、ここには、昨今の薬物が蔓延する世相――特に芸能界の状況――を踏まえ、草gの行動に薬物の介在が疑われた面があったとされる。家宅捜索は30分程度で終り、不審は見出されなかったと伝えられたが、実際には、容疑者側――正確には彼の所属するジャニーズ事務所側――が事後の風評を予《あらかじ》め抑えるべく、異例ともいうべき家宅捜索を自ら望んだとの穿《うが》った見方も出ていた。

 いずれにしても、草gに対する家宅捜索はさすがに少なからぬ人々から行き過ぎと受け止められたようだが、それ以降、あたかも筋書きが決まっていたかのごとく、同じような出来事が相次いで報じられている。

「元『あのねのね』のメンバー、原田伸郎さん(57)がテレビ番組で許可を得ずに猟銃を手にしたとして、滋賀県警が先月13日、銃刀法違反容疑で番組を制作・放送したびわ湖放送(大津市)を家宅捜索していたことが分かった。県警は原田さんを同社や制作スタッフと一緒に書類送検する方針。
 県警によると、番組は1月17日に同県余呉町から生放送された情報番組「ときめき滋賀’S」。原田さんは地元猟友会員(49)から猟銃を手渡され、感想を話した。銃刀法では銃を持つには県公安委員会の許可が必要だが、原田さんは許可を得ていなかった」(2日付『毎日新聞』)

「県警などによると、原田さんは1月17日、滋賀県余呉町から生放送された番組『ときめき滋賀’S』の中で、県公安委員会からの猟銃所持の許可なく、地元猟友会の男性(49)から渡された猟銃を手にした。銃刀法は都道府県公安委員会の許可を受けていない者が銃を手にすることを禁じているという」(同前『アサヒ・コム』)

 生放送という衆人環視の中、タレントが猟銃を手にしたことでテレビ局に家宅捜索!? この件に関して、10日付『朝日新聞』は、「銃持ち6秒 捜査は過剰?」と題し、放送の当該シーンの写真とともに検証記事を掲載していた。これによれば、原田が銃を手にした経緯は以下の通り。

「原田さんら出演者は、地元の猟師が仕留めたイノシシで猪(しし)鍋を囲んだ。猟師はその場で猟銃を取り出し、『持ってみますか』と原田さんに手渡した。『重たいもんですね』『これって、誰でも持てるもんじゃないですよね』。約6秒手にしてから返した。銃に弾は入っていなかった」

 なるほど、厳密に言えばたしかに銃刀法違反(所持)に該当するのではあろう。しかし、諸状況に鑑《かんが》みると、精々、いささか調子に乗った感のある猟師が大目玉を頂戴し、テレビ局は“今後、重々注意せよ”と釘を差されるくらいで事足りるようにも思われる。記事は、「その【大西注:家宅捜索の】前に任意で話があってしかるべきだ。常識的に考えると警察の意図が理解できない」「例えば刃物店を取り上げた番組で大きな包丁を手にしたら、摘発されるのか」と各テレビ局員の批判的な声を伝える一方、「有名タレントのことばかりが話題になり、問題の本質【大西注:猟銃の適正な保管・管理】がぼやけているのではないか」「銃を渡した男性や放送局は銃の怖さへの認識が甘いのではないか」と許可条件などを厳格にした改正銃刀法に基づく警察幹部たちによる指摘も加えている。その後、任意で事情聴取を受けた原田については「銃の受け渡しはその場の流れで行われ、不法に所持しようとする意思はなかった」(12日付『共同通信』)として立件に至らず、びわ湖放送のゼネラル・プロデューサー、ディレクター、猟銃の所有者、計三名が書類送検となっている(ただし、「書類送検」とは語感こそ重いものの、実際はマス・メディアが好んで使う慣用句に過ぎず、被疑者の有罪を意味しないばかりか、起訴にさえ必ずしも結び付かない点については、以前の本欄でも述べた)。(コラム373回

 そして、もう一件。

「人気女性歌手の浜崎あゆみさん(30)が今年4月、東京・渋谷で、道路使用許可を取らずにイベントを行っていた疑いがあるとして、警視庁は10日、浜崎さんが所属する『エイベックス・マネジメント』(港区南青山)などを道路交通法違反(道路不正使用)の疑いで捜索した。
 捜索先は、同社のほか『エイベックス・エンタテインメント』(同)など数か所で、同庁は、イベントを主催した経緯などについて捜査する。
 同庁幹部によると、両社などは今年4月7日午後3時頃から数分間にわたり、渋谷区道玄坂2のファッションビル『109』前で、渋谷署長の許可を取らずに浜崎さんのイベントを開催し、車両や歩行者の通行を妨害した疑い」(10日付『読売オンライン』)。

「東京・渋谷で4月に開かれた歌手浜崎あゆみさん(30)の屋外イベントで、警視庁交通捜査課は10日、観衆が道路にあふれ交通を妨げたとして、道交法違反(不正使用)の疑いで、浜崎さんが所属する事務所『エイベックス・エンタテインメント』(東京都港区)など数カ所を家宅捜索した。
 交通捜査課によると、同社などは4月7日午後3時ごろ、渋谷区道玄坂の『渋谷109』前広場で浜崎さんの著書発売記念イベントを開き、8000人の観衆を集めた。観衆は道路上にもあふれて交通を妨げたが、同社などは事前に道路使用許可を得ないでイベントを開催していた。同課はイベント関係者らから任意で事情を聴き、同法違反容疑での書類送検を検討している」(同前『中日新聞』)

 こちらもまた、「浜崎さんの登場を事前に告知しない『サプライズイベント』で、通行人や買い物客ら約8000人が殺到。一部が車道に出るなどして周辺の交通が混乱した」(同前『毎日新聞』)というから、周辺は迷惑を蒙ったろうし、違法性を伴ったことは事実だろう。しかし、所詮は数分間の出来事であり、ケガ人などが出たというわけでもないとなれば、家宅捜索までが必要な事案なのだろうか? そして、ここでも「書類送検」という言葉がちらついている。

 近年、薬事法違反、税理士法違反というような容疑に基づき朝鮮総連並びに関連各所に対する大規模な家宅捜索が行なわれ、必然性の有無が物議を醸《かも》した。いわゆる別件逮捕にも似た捜査手法という印象は否めなかったが、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)に対する感情的な反発から、世の中には“それぐらいされても当たり前”的な反応も多かった。今般の草g、原田、浜崎に関わる家宅捜索についても、芸能人、テレビ局、プロダクションというような特殊なファクターが絡んでおり、当事者は人気商売ゆえに表立って文句をつけにくいし、世論の大勢も“悪事は悪事なのだから”として警察の厳重な対応を支持・容認するのかもしれない。しかし、かくのごとき状況での家宅捜索が妥当ひいては当然と位置づけられて行くとしたら、それは異常だし危険な流れであると思う。

 たとえばここに、“お上《かみ》”から見て疎ましく目障りな人物なり、人物の属する組織なりが存在したとしよう。その人物が男性で、しかも満員電車に乗り合わせる機会でもがありさえすれば、話は実に簡単だ。因果を含められた女性がそばに近づき、おもむろに“キャー、この人、痴漢です!”と叫べばよろしい。もちろん、冤罪だから、何日かすれば疑いは晴れる“かも”しれない。しかし、それまでにマス・メディアがその人物を十二分に面白おかしくさらし者扱いしてくれるだろうし、そんな風潮を踏まえた警察は、彼の自宅や組織に対して迷惑防止条例違反容疑による家宅捜索をも正々堂々と実行し得るであろう。さすれば、痴漢容疑とは全く無関係であっても彼や組織にとって何らか不利な事物が見つかるかもしれないし、仮に見つからなかったところで、嫌がらせとしてのダメージは極めて大きいことだろう。もちろん、警察の意図をそのように邪推することは誤りかもしれない。しかし、この間《かん》に連続した出来事を見ていると、後年、“想い起こせば、総てはあの頃から始まっていたのだなあ”などということにならぬよう、注視の姿勢を保持しなければなるまいと思う。
(2009.6.15)