今週のコラム                                 大西赤人/小説と評論

最近、不思議で仕方のない事──与謝野大臣の「自民党は実は社会民主主義の政党」発言と、北朝鮮による「人工衛星/ミサイル」の打ち上げ

大西 赤人       



 麻生内閣の支持率はどこまで下がるのか、どこまで下がっても麻生首相は辞めないのかと思っていたところへ、今度は小沢代表にまつわる西松建設の献金疑惑が発覚し、代表自身、当初の強気がいささか揺らいで見えた今日この頃。併せて二階総務相の疑惑も囁かれていたから、一部に言われるような国策捜査だったのかどうかはさておき、二大政党制を装ってはいるものの、元を辿れば自民党と民主党の相当部分は、同床異夢ならぬ“異床同夢”とでも呼びたくなる存在。政権交代、政権交代と叫んだところで、事実上、天ぷらに変えてスパゲティーとか、カレーを止めて寿司とかというよりは、塩ラーメンにするか醤油ラーメンにするかという程度の限られた――極めて乏しい――選択肢でしかないように見える。いずれにせよ、与野党ともに解散→総選挙を積極的に待ち望む気配は乏しく、この調子では、麻生内閣の寿命もまだまだ延びそうな雲行きになってきた。

 そんな中、最近、不思議で仕方のない事が二つある。

 一つは、酩酊朦朧会見によって辞職を余儀なくされた中川昭一のあとを受け、それまでの経済財政政策担当に加え、財務、金融担当の三大臣を兼務することとなった与謝野馨による次の発言。

「与謝野馨経済財政担当相は10日の参院財政金融委員会で『この10年間の自民党の政策は外国から輸入したものを無理やりに移植してきたのではないか』と述べ、新自由主義的な経済政策に疑念を呈した。峰崎直樹氏(民主)の質問に答えた。
 与謝野氏は『この10年間の経済界の動きは決して我々が目指している社会ではない』と指摘。『「強者が栄え、弱者が滅びる」という感じは自民党内にはあまりない。自民党は実は社会民主主義の政党だと思っている』と述べた。【田中成之】」(2月11日付『毎日新聞』)

 この場面を僕はインターネット参議院中継で見ていたのだけれど、まさに耳を疑った。社会民主主義といえば、社会主義、共産主義とは自《おの》ずから袂《たもと》を分かつにせよ、定義としては「社会主義思想、民主主義思想の一つ」「自由・民主主義社会における中道左派思想の一つ」(ウィキペディア)、「暴力革命を否定し、議会を通じて漸進的に改良を重ねて社会主義を実現しようとする立場」(大辞林)とされる政治思想だ。自民党の主要閣僚であり、先回の総裁選では五人の候補者中で(大差とはいえ)麻生に次ぐ第二位の得票を得た与謝野が「自民党は実は社会民主主義の政党だと思っている」だって!?

 ところが与謝野は、3月6日にも、社民党の福島瑞穂と次のようなやり取りを交わす。新自由主義から社会民主主義への転換を迫る福島に対し、麻生が「自由民主党からいたしますと、【社会民主主義は】なかなか親しみをもちにくい単語」といなした後に出てきた与謝野は、次のように述べたのだ。

「私は村山内閣で閣僚もしておりましたし、村山総理の下《もと》で閣僚を務めて、何の違和感もございませんでした。私は、自由民主党の政策は、政策の傾向としては、どちらかと言えばヨーロッパ型の社民主義であると思っております」

 これを聞いて福島は「妙に与謝野さんとは、やはり合うんでしょうかね」と無邪気に喜んでいた(?)わけだが、ちょっと待ってくれ。与謝野といえば、なるほど最近はユーモラスな物言いによって野党議員からもしばしばエールを送られるほどで、不人気・麻生に代わって自民党の“顔”としての存在感を増しているけれど、元々は、あの中曽根康弘の秘書として政治との関わりをスタート、通信傍受法(盗聴法)成立や小泉郵政民営化に尽力し、「自民党内屈指の増税論者」(ウィキペディア)とも位置づけられる人物だ。そんな保守“コテコテ”の与謝野が、「傾向」などと留保付きとはいえ、「自由民主党の政策」は「ヨーロッパ型の社民主義」であると明言するとは……。しかし、このような与謝野発言は、メディアによって大きく採り上げられる気配はなく、もちろん閣内、党内において特に物議を醸《かも》した様子もない。自民党の底知れない融通無碍《ゆうづうむげ》を物語る顛末《てんまつ》ということになるのかもしれないけれど、何とも珍妙な光景だった。


 そして、もう一つの不思議といえば、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)による「人工衛星」あるいは「ミサイル」の打ち上げである。

 1929年の世界恐慌が結果的に第二次世界大戦へつながった通り、経済不況はしばしば戦争という打開策を探ろうとする。そのためには、外側に設定した仮想敵に国民の眼を向け、一致団結による愛国の情を高めながら、敵愾心《てきがいしん》や競争心を煽り立てなければならない。前回を遥かに上回るWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の過熱ぶりなども、穿《うが》った見方をすれば、そういう目くらまし作業の一環に思われてくる。時代錯誤も甚だしい「野球道というのは、武士道に通じる」(2008年11月13日付『スポーツ報知』)、「武士道から始まる日本らしい野球で戦う」(同『サンスポ・コム』)など原監督の判るようで判らない決意表明には苦笑させられたが、かてて加えて“侍ジャパン”なる愛称の気恥ずかしさ。

 その上、米国(チーム)の本気度は相変わらず疑わしい中、勝っても負けても何度となく韓国にぶつかるという変てこな組み合わせ――これは、日韓戦が増えれば観客動員が期待されるとのWBC組織委員会による商業的思惑――が手伝い、“宿敵”“宿命の対決”とのますますの強調なども白けるばかりだ(以前の日本野球は、将来における日米ガチンコ対決実現を目指していたはずなのに、いつの間にか韓国が最大のライバルということになってしまったらしい)。そういえば、言葉尻を捉えるのもどうかとは思うものの、負傷で離脱・帰国を余儀なくされた村田(横浜)に対し、「しっかりと日本の空よりひとつになって応援していてくれ」と話した旨を語る原監督の記者会見は失笑ものだった。「日本」ではなく、わざわざ「日本の空」って、村田は戦死でもしたのかね? まあ、些細な言い損ないかもしれないが、これを伝えるメディアもせめて「日本の空(の下)」となりフォローしてやればいいものを、「原監督は選手宿舎で帰国前の村田に『素晴らしい活躍だった。日本の空からしっかり見守っていてくれ』と伝えたという」(21日付『共同通信』)、「『しっかりと日本の空よりひとつになって応援してくれ』と侍ジャパンの一員として見守るように伝えた」(同前『サンスポ・コム』)と追認以上に拡大再生産する有様……。

 ともあれ、事が野球ならば、所詮は感情的な代理戦争にとどまるけれど、「人工衛星」だか「ミサイル」だかのほうは、深刻さの度合いが違う。4月上旬に予定されている打ち上げを前に、北朝鮮側(朝鮮人民軍総参謀部スポークスマン)は、試験通信衛星を迎撃されるならば「日米韓の『本拠地に対する正義の報復打撃戦を開始する』と警告する声明」(9日付『産経ニュース』)を発表しており、形式的には戦争勃発《ぼっぱつ》の危険な匂いさえ漂ってくる。この時期にあえて衛星打ち上げを強行する北朝鮮の意図には首をひねる面はあるし、それでも、冷静に捉えれば「本気で戦争を起こそうという意図はない。『迎撃するな』という単なる警告だ。相手の反応を見て、さらに強く出るのが北朝鮮のやり方」(同前。金光進・韓国国家安保戦略研究所研究員)というような分析が出るだろう。しかし、“相手(北朝鮮)はヤケクソになったら何をしでかすか判らない”というような曖昧なニュアンスによって国民の危機感なり国防意識なりは煽られ、ネット上では、“北朝鮮を(先制)軍事攻撃すべし。今やらなければ手遅れになる”というような論調さえ見受けられる。

 そこまでの過激に到らずとも、少なくとも、ミサイル防衛迎撃体制の整備拡充というような方向性は、一定の説得力を強めてくる。そりゃあそうだろう、本当に攻撃ミサイルが我々の頭上に襲来するとしたら、ただ漫然と目標にされるよりは、事前に破壊することが出来たほうがマシということになる。しかし、仮に北朝鮮の打ち上げる代物が「ミサイル」であり、その「ミサイル」の着弾地点が日本本土のどこかに設定されているのならば、それは完全に戦争状態であり、前もって“(あんたの国に向けて)射つぞ”と予告するなどは滑稽極まりない。そこで僕の不思議とは、偵察衛星によって地上の人ひとりの動きまで手に取るように判るはずのアメリカを筆頭に、北朝鮮の打ち上げる物体が「人工衛星」なのか「ミサイル」なのか、本当に判っていないのだろうかという点なのだ。

 2006年に日本中が騒然となったノドン、スカッド、テポドン2号計7発の発射に際しては、北朝鮮もミサイル発射実験であったことは認めていたわけで、その着弾地点が「日本海」であった点が政府、防衛庁(当時)、メディアを通じて繰り返しセンセーショナルに報道されつづけたけれども、実際には、そのいずれも日本よりはむしろ中国やロシアに近い海域に落ちていた(colum321.htm)。今回の場合、「ミサイル」の弾頭はもちろん、たとえ「人工衛星」であろうとも、その一部――ブースター部分も含めて――が日本に落下する可能性が以前にも増して大きく問題視されている。

「北朝鮮が長距離弾道ミサイルとみられる『人工衛星』の打ち上げを国際機関に通告したことを受け、政府は19日、日本の領土や領海に落下する事態に備え、ミサイルなどの『破壊措置命令』を発令する方針を固めた。月内にも閣議決定し、浜田靖一防衛相が自衛隊に命令する。
 ミサイル防衛(MD)システムを利用して、上空での人工衛星破壊を目指すが、日本のはるか上空の大気圏外を通過する場合は、憲法解釈で禁じられている集団的自衛権行使に抵触する恐れがあるため、破壊しない方針だ」(19日付『時事ドットコム』)

 微妙なのは、ここで言われている「領土や領海」で、一般には「領海」とは海岸線から12海里(約22km)の範囲だが、飛来コースの下方に位置することになる日本海上や北太平洋上で操業中の漁船、飛行中の航空機に関しても危機感が強調される。北朝鮮は「人工衛星」であることを補強すべく、12日、発射時期(4月4日〜8日)及び落下危険区域――「【ロケットの一段目については】秋田県沖約130キロの海域(東西250キロ×南北20キロ)と【ロケットの二段目については】太平洋上の海域(いずれも日本の領海外)」(17日付『読売オンライン』)――をIMO(国際海事機関)に通報したけれども、そもそも技術力に信頼を寄せがたいともされる以上、計算通りに飛ぶかどうかも判らないという話にもなってくる。

「北朝鮮が4月4日から8日までの間に人工衛星の打ち上げを事前通報したことを受け、危険区域を通過する国際便を運航する日本航空と全日空は13日、飛行ルートを変更することを明らかにした。
 日本海上の危険区域である秋田沖空域は、ロンドンやパリ、フランクフルトなど欧州各地と日本を結ぶ飛行ルートと重なっているため、両社とも、北海道を経由する迂回(うかい)ルートを取る」(14日付『読売オンライン』)

「北朝鮮による弾道ミサイル発射に備え、宮城県内でも緊張感が高まっている。県は、日本列島上空を通過して落下する可能性があるとして、北太平洋上で操業する漁船に警戒するように通報。関係機関と綿密な情報交換を進めている。(略)
県危機対策課は「漁船に被害が及ぶ可能性がある。万が一の事態に備え、職員にも意識の徹底を図りたい」としている。
 ミサイル発射が確認された場合は、県庁内に危機管理監をトップとする「危機管理チーム」を設置する。総務省消防庁や関係機関から情報を収集し、県民や漁業関係者に警戒を促す」(17日付『河北新報』)

 ついには、危機管理と言えば聞こえはいいけれど、実効は全く期待しがたいこんな動きも出てきた。

「北朝鮮の弾道ミサイルの発射準備を受けて神奈川県が、職員や県立高校教員らに、県内にミサイルが着弾した場合、夜間や休日でも全員職場に参集するよう要請していたことが分かった。
 県安全防災局危機管理対策課が二十六日付で、『北朝鮮のミサイル発射への対応体制について』と題する通知を県の各部局に出した。各部局は職員らに職場などで伝えた。(略)
 通知について、危機管理対策課は『地震などの自然災害時にも全員参集はお願いしている。北朝鮮のミサイルについては最近、報道が多く、切迫性が出てきたと判断した』と話している」(2月28日付『東京新聞』)

 当該通知「北朝鮮のミサイル発射への対応体制について」はネット等でも流布しているけれども、その内容は記事以上に大がかりだ。

「1.県全体の対応
○原則としてミサイルが発射された場合は、国内に着弾しない場合も含めて、安全防災局から本部連絡員あてに連絡する。(夜間、休日はポケベル)
○対応については、
・県内に着弾した場合には、職員全員参集とする。
・他の都道府県に着弾した場合は、状況に応じて安全防災局が配備体制を判断し、結果を本部連絡員あてに連絡する。(夜間、休日はポケベル)
2.教育委員会の対応
(1)平日昼間の場合
○安全防災局からの連絡を企画調整局から全所属に周知する。
○県内に着弾した場合、被害のあった県立学校は、企画調整課に報告する。
○他の都道府県に着弾した場合、安全防災局からの配備体制の指示を企画調整課から連絡する。
(2)休日・夜間の場合
○安全防災局から本部連絡員のポケベルに連絡が入る。
○本部連絡員は、教育委員会の連絡系統図に従い、校長会会長に連絡内容を電話で伝達する。各校長には校長会会長から連絡網で伝達する。
○県内に着弾した場合は、家族の安否等を確認した後、速やかに全職員(県立学校等の教育機関も含める)が参集する。参集後は被害状況を確認し、被害があった場合は企画調整課に報告する。
○他の都道府県に着弾した場合は、緊急参集の要否を含めて、安全防災局の指示を校長会連絡網で伝達する」

 “今どきポケベルでいいのか?”というようなツッコミはさておき、これは完全に有事体制、臨戦態勢だ。「ミサイルが発射された場合は、国内に着弾しない場合も含めて」ということなのだから、仮に「人工衛星」が平穏に打ち上げられたとしても、「連絡」は実行され、しかも、先述の「切迫性が出てきた」という事態の把握に基づけば、人工衛星の部品が多少なり日本に関わる海域に落ちたとなれば、「指示」が伝達される構造が既に稼動しているのである。

 現在、このような体制は神奈川県に突出したものかもしれない。また、今回の「人工衛星」だか「ミサイル」だかに関しては空振りに終るとしても、これを“危機管理体制の充実”として評価する向きもあるだろうから、今後、同様のシステムが他の自治体へも波及しないとは限らない。実態ある危険に即して真に必要な対応ならばまだしも、枯れ尾花に踊らされて国全体が勢いに流されていはしないのか? それを確認するためにも、危機感の裏付けとなる「ミサイル」のハッキリとした証《あかし》を出してもらいたいのである。なにしろ我々は、つい数年前にも、「大量破壊兵器」という壮大な枯れ尾花によって目をくらまされたばかりなのだから……。
(2009.3.22)