今週のコラム                                 大西赤人/小説と評論

年を追うごとにパワーダウンを感じる『M−1グランプリ』と、小ぢんまりとまとまった印象でインパクトに乏しい『R-1ぐらんぷり』──さて、このところの僕は、3月1日上演『憲法寄席2009年春席』で「笑い」を提供する立場として、四苦八苦の毎日

大西 赤人       



 依然として、世の中は“お笑い”ブームである。優勝賞金1000万円を賭けて争われる吉本興業主催の漫才選手権『M−1グランプリ』(テレビ朝日系列)は、スッカリ年末の一大イベントとして定着してきた。2002年末の本欄において、僕がその年の『M-1』に触れた内容などは、僅か6年ほど前のものなのに、いささか隔世の感があるほどだ(colum169.htm)。そして、今年からは、同じく500万円を賭けてピン芸人によって競われる『R-1ぐらんぷり』(フジテレビ系列)もまた、ゴールデンタイムでの生放送となった。それまでは地味な存在だった芸人であろうとも、優勝した途端、マネージャーの電話に出演依頼が殺到するというのだから、出場者たちの眼の色が変わるのも当然だろう。バラエティー番組やトーク番組はもちろん、クイズもドラマも映画も、“お笑い”タレント抜きには成立しないと言っても過言ではないけれども、その分、一時的・爆発的な人気を得てはみても、たちまち才能をしゃぶり尽くされ、消耗品のごとく早々に華やかな表舞台から消えてしまう者も少なくない。

 もちろん、他のあれこれと同様、“お笑い”の評価・好き嫌いも観る者各人の感性によるところが大きい。それでもあえて私見を述べれば、僕個人としては、近年の漫才コンビの中では2004年に優勝したアンタッチャブルがズバ抜けた存在――特に、相方の柴田をも本気でキレさせるほどボケまくる山崎は絶妙――と見做《みな》しており、その後の『M-1』については、年を追うごとにパワーダウンを感じつつある(毎年決勝まで上がってくる笑い飯も、当初の新鮮な輝きはない)。とりわけ昨年優勝のNON STYLEに関しては、多くの審査員が専門的な観点から絶賛していた“しゃべくり”のテンポこそ見事とはいえ、とにかくツッコミ(石田)が話の節目節目で不必要にボケ(井上)を叩く仕草がひどく目障りに感じられ、ほとんど笑えなかった。それよりは、オーバーな栃木弁に徹底し、栃木と茨城による対立の構図という全国的には不利とも思われるローカルなネタで押しまくるU字工事のほうが面白い。

 これまでのところ、むしろ各回の優勝者よりも友近、陣内智則、世界のナベアツら敗退者のほうが売れている嫌いもある『R-1ぐらんぷり』のほうは、今年初めて決勝戦の全体を見たのだけれど、優勝した中山功太を筆頭に、小ぢんまりとまとまった印象でインパクトには乏しかった。マンハッタンの芸術(芸能)学校に通う学生たちを描いた『フェーム』(1980年度作品、監督=アラン・パーカー)というアメリカ映画の中で、仲間を前にしてのスタンダップ・トーク(一人漫談)では大爆笑を呼んでいた少年が、自信満々に初めて出演したバイト先のクラブでは、酔客たちに全くウケないまま立ち往生する場面については、以前、本欄でも採り上げたことがある(colum192.htm)。賞金と名声がかかった戦いであり、もちろん審査員は別個に坐っているとはいえ、笑うべく待ち構えた多くの観客は、出てくる芸人の一挙一動をここぞとばかりに笑ってくれる。もしも『R-1』の――あるいは『M-1』の――出場者を『フェーム』の少年と同じ立場で競わせたらどうだろうかと、少し意地悪な気持ちに駆られたりもする。

 ちなみに、『R-1』についても私見をつけ加えれば、5回目出場というあべこうじが話芸としては一段上だったように感じたが、多分、『M-1』における笑い飯のような(?)万年ノミネート状態なのだろうか。あとは、相変わらず無茶苦茶な鳥居みゆき。この人は特に好き嫌いが分かれるだろうし、『R-1』で優勝するようなことはなさそう――ある意味、してほしくもない――けれども、今回なども、演技の後、“キャラ、作ってるでしょう?”と言わずもがなのコメントをした審査員の江川達也に“お互いさまでしょう”と瞬時に切り返したあたりは、実に見事だった。


 さて、観る側でいる分には気楽なものだが、このところの僕は、以前にも何度か触れた『憲法寄席』創作集団(colum363.htm)(colum372.htm)による3月1日上演「2009年春席」で「笑い」を提供する立場として、四苦八苦の毎日である(http://homepage2.nifty.com/horaicho/kenpoyose/)。今回は、実施間近な裁判員制度をテーマに劇作家の杉浦久幸さんが書き下ろした朗読劇『やまねこ裁判』、オリジナル曲を中心にライブ活動を続ける李政美《い・ぢょんみ》さんのミニコンサートに加え、寄席という名称に一層ふさわしくあるべく、『具沢山 (笑)の寄席鍋《ぐだくさん わらいのよせなべ》』と題して、替え歌あり、漫才あり、コントありというコーナーを設けてみた。基本は、政治状況、社会状況を題材とする風刺的な「笑い」――昔、一世を風靡したと伝え聞く『日曜娯楽版 冗談音楽』の今日《こんにち》版――を目指そうという趣旨なのだが、何せ中川昭一元大臣による例の記者会見のごとく、構成作者も演出家も裸足で逃げ出してしまいそうな爆笑劇を現実のほうが演じて(?)くれるので、なかなか頭の痛いところである。ついでに言えば、麻生政権の支持率が予想を上回る勢いで急落したため、もしかしたら一気の政変が起きて準備中のネタが全くの時期外れになりはしないかとの危惧を抱き、ここしばらくの間は、心ならずも『麻生サン、もう少しだけでいいから踏ん張ってくれ!』と応援する気分になってしまった(笑)。

 もう目前に迫った公演だが、興味のある方は足を運んでいただきますように。
(2009.2.27)