今週のコラム                                 大西赤人/小説と評論

何を買い、何を口にするか──中国の毒入り冷凍ギョーザ事件、アメリカの「へたり牛」、学校給食、「検食」

大西 赤人       



 兵庫県と千葉県の三家族10人が中国・天洋食品製造の冷凍ギョーザを食べ、有機リン系農薬・殺虫剤成分メタミドホスによって中毒症状に陥った事件は、未だに真相が明らかになっていない。日本側は輸入後の混入は考えがたいとしているし、中国側も製造過程における安全性を強調しはじめている。国内では、健康被害を訴える人々が“中国製食品は危険”との風評が一気に沸騰し、その合間には、徳島県で類似した農薬成分ジクロルボス成分が同じく天洋食品製造のギョーザの袋から検出されるという出来事もあった。ところがこちらは、当該商品を販売していた「とくしま生協」店内で使われた殺虫剤の残存と判明し、「厚生労働省が2004年に、飲食物が露出した場所では使用しないよう通知していたタイプ」(15日付『スポニチアネックス』)だったというお粗末な決着。もっとも、中国国内では、先の重大問題とは全く異なるこの一件を“毒入りギョーザは中国と無関係だった”とことさら大々的に報じているとも聞く。

 今のところ、どこかで何かしら人為的・意図的な悪意が介在した可能性が高いように見えはするものの、事情がハッキリしない中で、近年における両国国民間の屈折を再び強めるような傾向が出現していることは不幸だ。日本では、メディアを筆頭に“中国の食品は危険だから口にすべからず”というような風評頻《しき》りで、結果、「共同通信社が9、10日に行った全国電話世論調査では『今後、中国製食品は利用しない』という人が75・9%を占めた」(17日付『信濃毎日新聞』)という状況。その後、19日には、中国・山東仁木食品有限公司製造の冷凍ニラ肉焼まんなどから微量のメタミドホスが(今のところ残留農薬の疑い。同様事例は、厚生労働省の調査によれば、中国産品を主に2006年7月以降で20件以上)、20日には天洋食品製造のギョーザから新たに微量のパラチオン、パラチオンンメチル、高濃度のジクロルボスが検出されるとの出来事も加わり、このような中国離れの傾向はしばらく収まりそうもない。一方、中国では、“あらぬ因縁をつけられた”という雰囲気で反日感情が高まり、先日始まったサッカー・東アジア選手権での日本チームに向けられるブーイングも、前回大会同様に再び激しいものとなっている。

 今回に限らず、中国から伝わってくる食品に関するニュースがしばしばとんでもない内容であるとの印象は否めないけれど、短絡的な忌避は、センセーショナリズムでしかない。

「中国からの輸入食品が他国に比べ際立って危ないことを示す日本国内での“証拠”はない。検疫で見つかった輸入食品の食品衛生法違反を見ると、中国の違反件数は530件と絶対量こそ最大だが、これは輸入量が多いことと検査件数自体が多いため。違反が見つかる確率=違反率を見ると、エクアドルやベトナムなどのほうが高い。中国側が大消費地である日本を重要視していることもこうした背景にはある」

「今回のギョーザ問題は、『誰かがパンに針を仕込んだとか、自販機の飲料に農薬を入れたとか、日本でかつて起きたのと似たような事件の可能性が濃厚』(食品業界関係者)。それに、日本でも雪印による食中毒事件やミートホープによる食肉偽装など、食の安全・安心を脅かす事件はいくらでも起きている。今回の事件をもってして『中国産だから危険』との結論は導き出せないはずだ」(2月16日号『週刊東洋経済』長谷川高宏)

 とりわけ敏感に風評を気づかう立場であろう大手外食産業における象徴的な例を挙げれば、ファミリーレストラン最大手の『すかいらーく』チェーンは、「グループの全店舗で、中国で調理した加工食品の使用を中止することを決めた」(1月31日付『アサヒ・コム』)ものの、僅か二週間後には、「残留農薬などの検査で約50品目で安全性が確認されたため」「13日、週内にも使用を再開する方針を明らかにした」(14日付『毎日jp』)と伝えられる。他方、『白木屋』や『魚民』などの居酒屋を展開する『モンテローザ』は、「4〜5月のメニュー変更時から順次、中国産食品を国産に切り替える。『事件以降、目立って売り上げが落ちているわけではないが、イメージが悪い』との理由からだ」(同前)という。

 「食の安全」の追求という大目標は妥当としても、企業としての対応の迷いが窺われるところだ。そもそも先の記事にもある通り、「食品偽装」の嵐が吹き荒れる日本において、中国産を国産に変更することが安全性の担保につながるかどうかは、むしろ怪しいとさえ感じられる。また、話は移るが、最近いささか“喉元過ぎれば……”状態のBSE(牛海綿状脳症)に関しては、次のような恐いニュースが伝わってきている。

「米農務省は17日、歩行困難で食用が禁止されている『へたり牛』を処理していた疑いが持たれているカリフォルニア州の食肉処理会社『ウエストランド食肉・ ホールマーク食肉加工』が、2006年2月以降に出荷した牛肉約6万5000トンを回収すると発表した。AP通信によると、米国で過去最大の牛肉回収という。(中略)
 農務省は昨年7月、牛海綿状脳症(BSE)感染が疑われる『へたり牛』を全面的に食用禁止とすることを決めた。

 日本は、米国でBSE感染牛が確認された03年に米国産牛の輸入を禁止。現在は、感染の可能性が極めて低い生後20カ月以下の牛肉に限り輸入を認めているが、米側は全面解禁を求めている」(18日付『共同』)。

 この記事にある「感染の可能性が極めて低い生後20カ月以下の牛肉」という部分は不正確である。BSEは、病原体の異常プリオン(タンパク質の一種)が脳内で次第に蓄積し、発病につながる。即ち、若いうちには微量だから、検査しても見つけることが出来ないだけなのだ。その意味では、今も続けられている日本の「全頭検査」は、無意味ではないにせよ、絶対の安全を意味するものではない。

「欧米では検査は、主に流行の動向を知るための手立てだ。対象は生後30ヵ月以上の牛に限り、米国ではその一部しか検査していない」
「【プリオンが】検査で確認できる量になるのは発病約6カ月前という。
 英国で見つかった感染牛計17万余頭の平均発症月齢は60カ月。うち30カ月未満で発症したのは81頭だった。生後30カ月の段階で見つかるのはBSE感染牛の2千頭に1頭の計算だ」(4日付『朝日新聞』田辺巧)

 平均月齢60ヵ月でBSEを発症する牛は、幼いうちに飼料の肉骨粉などから感染し、プリオンの蓄積が緩慢に進行したと考えられるのだから、月齢20ヵ月以下であれば「発症の可能性が極めて低い」ことは相当程度確実としても、「感染の可能性が極めて低い」ということにはならない。そして、たとえ感染していても、長い時間の経過後に発症が近づきプリオンの量が増えてこなければ、検査結果は陰性となる。つまりは、日本で行われている「全頭検査」をパスした若い牛がBSEに感染していない――プリオンを保有していない――とは限らず、仮に感染していても、まだプリオンが増えてはいないというだけなのである(ただし、プリオンが少量ならば、人間に対する万一の感染力も、それに比例して小さいという想定は可能であろうけれども)。従って、国際獣疫事務局(OIE)のBSE対策基準による三段階のランクづけでは、脳や脊髄など危険部位の除去が「検査の補助」に留まり、牛を殺す時の「ピッシング(頭にワイヤを通して脊髄を潰すこと)」も禁止していない日本は、相対的に危険度の高い第3ランク「不明」に分類されているそうで、『朝日』の記事の結びは、「知らぬは日本国民ばかりなのだ」と皮肉っていた。

 閑話休題。

 現実問題、2006年度の食料自給率がカロリー・ベースで40%を切っている日本において、中国を筆頭とする海外からの食品輸入を一気に、あるいは長期にストップすることは、極めて困難と思われる。また、ここには、別の要素も大きく係わる。低コストの中国産品を避け、他国産とりわけ国産品に切り替えるとしたら、それによる価格上昇は避けがたく、影響は食品産業にとどまらず、日本経済全般に波及しかねない。結局、企業は当面、確実なコストと不明確な危険性と曖昧だが巨大なイメージとの兼ね合いを睨みつつ、対応に頭を悩ますことになるのだろう。言うまでもなく、各家庭・各個人も、財布の中身とリスクとを秤《はかり》にかけながら、何を買い、口にするかを判断しなければならない。

 そして、もう一つ、ここで触れておきたい問題は、学校給食である。僕の妻は東京都の公立学校栄養士なので、僕も年来、給食には一定の関心を持っている。もともと1954年制定の「学校給食法」では「児童及び生徒の心身の健全な発達に資し、かつ、国民の食生活の改善に寄与するものであること」(第一条)とされていた給食だが、時代の移り変わりの中でその意味合いも変化。目下、文部科学省は、給食の「主要目的をこれまでの『栄養改善』から食の大切さや文化、栄養のバランスなどを学ぶ『食育』に転換する方針を固め」(2007年11月25日『MSN産経ニュース』)、同法の改正を目指しつつある。“飽食の時代”という言葉もあったが、(間食を考えずとも)一日三食を基本とするならば、学校に行く日の昼の一食だけで「栄養改善」に寄与し得るかはいささか心もとない。しかし、朝食を抜いて登校する子供、家庭においても外食、ジャンク・フード、ファスト・フード、あるいはレンジでチンの類《たぐい》で食事を済ます子供が少なくなく、小学生の時点から過度の肥満や痩身が現われ、栄養の偏り、味覚の固定化が懸念される中で、給食に独自の意義をもたらそうと努めている関係者が数多く存在する。

 けれども、学校給食を取り巻く状況は決して明るくない。古くは、“給食のオバサン”が多額の退職金を手にするとの卑俗な非難が公務員攻撃の一環として現われ、行革の流れとともに人員削減が推し進められ、合理化・経費削減を大義として、全国的に単独調理場(自校)方式から共同調理場(給食センター)方式への移行を経て、民間委託が着実に広がりつつある。東京都においても、正規都職員としての栄養士の定数は二校に一人の割合で、残りは自治体独自の嘱託、または民間委託などで埋められているものの、全校に配置されてはいないという現状だ。また、O157(腸管出血性大腸菌)に起因する食中毒の発生も重大な事件だったし、近年では、多発する給食費未納が、給食の意味合いにも関連した論議の的となっている。もちろんこれについても、ちょうど中国産食品を無条件一律に危険視することが正当でないことと同様、センター方式や民間委託が給食の質的低下に必ず直結すると見做《みな》すことは誤りだろう。とはいえ、大量の一括調理において細かい配慮を維持することの困難、また、請負契約に基づく予算枠の中で利潤をも追求することによる皺寄せは容易に想像される。

 今回、冷凍ギョーザの健康被害が発生すると、文部科学省は、全国の教育委員会学校給食主管課、私立学校主管課などに対し、「学校給食用食品の安全性の確保に万全の注意を払い、学校給食における衛生管理の一層の徹底に努めるようお願い」(1月30日付「学校給食における食品の安全確保について」第1報)するとともに、「安全性が確認されるまでの間、児童生徒の安全確保のため、学校給食において、当該製品【天洋食品製造品】の使用を控えるよう」(同第2報)求めた。引きつづき、2月6日には、学校給食を実施している全国の国公私立学校41,532校における昨年11月から今年1月まで3ヵ月間の天洋食品製造冷凍食品の使用状況が最終的に取りまとめられた(「学校給食における中国天洋食品製造冷凍食品の使用状況等について」)。それによれば、健康被害は一例も発生していなかったものの、578校で当該製品の使用が確認されている。

 この578校を詳細に見ると、全体の約87%に当たる504校を公立小・中学校が占めており、その調理法式別内訳は、単独調理場方式75校(14.9%)、共同調理場方式429校(85.1%)となる。一方、文部科学省による「学校給食実施状況調査(2004年5月1日現在)」の公立小・中学校における調理方式別完全給食実施状況は、単独調理場方式13,840校(45.5%)、共同調理場方式16,576校(54.5%)であり、二つの数字における大きな偏りは明らかだ。日時に多少のズレはあるものの、試みに前者を後者で割って“天洋食品製品使用率”を求めると、単独調理方式0.54%、共同調理場方式2.58%となる。

 言うまでもなく、共同調理場の性格から、一場での使用は、データ上、複数校に反映する。今回の調査でも、20校もの給食を作っている共同調理場があったと聞く。それは即ち、何らかのトラブルが発生した際には、必然的に一気に広範囲に影響を及ぼすという危険な構造を物語る。また、原因と目される食材の製造元が外国であれば、原因究明が国産品に較べて困難なものとなることは至極当然の成り行きだ。中国産食品使用の是非をひとまずおくとしても、奇しくもこの調査により、単独調理場(自校)方式に較べて、共同調理場(給食センター)方式における外国産冷凍食品への依存度が遥かに大きいという実態が端的に浮かび上がったと言えるだろう。

 現時点では、文部科学省は、天洋食品製以外の中国産食材使用について言及していないのだが、現場には、大きな影響が現われつつある。

「中国製冷凍ギョーザによる中毒事件で、農薬成分の混入原因が特定に至らないなか、学校給食の現場では、食材を中国産から割高の国産品に切り替える動きが加速している。昨夏には、給食の中国産食材からの残留農薬の検出に衝撃を受けたばかり。小麦などの原材料の値上げも重なり、各地の担当者はコスト増と『食の安全』のはざまで、悩みを深めている」

「山梨県早川町は、文部科学省が学校給食での使用を差し控えるように求めた中国・天洋食品製の商品だけでなく、中国産の食材全般を使わないことを先月31日に決めた」

「静岡県富士市教委も1日、中国で加工された冷凍食品と冷凍野菜の使用中止を文書で指示した。従来から地元産品の使用に力を入れていたが、事件後に栄養士たちが献立を点検したところ、中国産グリーンピースやインゲンなどが入っていた」

「『小学校・幼稚園で1食217円という限られた給食費で、代替食材を探しても結局、外国産に行き当たる。近い将来、給食費が上がる可能性は否定できない。ただ、引き上げると給食費の未払い者も増え、難しい面がある』と【三重県鈴鹿市】学校教育課。ここもコスト増に苦しむ。
 富山県魚津市教委は、原材料に中国産が含まれる冷凍食品については、原材料配合表、成分分析表、製造工程表の提出の徹底を業者に指示した。ただ、例えばソースに入っている香辛料の多くは中国産だ。『加工品の原材料の産地をどこまでさかのぼれるかという問題もあるし、細かくみると中国由来のものを完全に絶つことはできない』」(18日付『アサヒ・コム』)

 先に記したように、文部科学省は「食育の推進」を目標とする学校給食法改正を検討し、給食への地場産品や郷土料理導入を図ろうとしている。しかし、地場産品――国産品は、外国産品に較べ、三倍、四倍の価格である。昨年、食品偽装・産地偽装が騒がれた時期には、“学校給食の予算内で本当の国産品を使えるはずがない(使おうと考えるほうが無理)”というような書き込みが、しばしばネット上で眼に止まった。大雑把に言えば、医療費削減を打ち出しながら救急診療の充実を求めることにも似て、両立しがたい“ないものねだり”とも感じられる。

 もう一点、学校給食における何とも奇妙な「検食」という仕組みに触れよう。これは、O157集団感染を契機に文部科学省が1997に年制定した「学校給食衛生管理の基準」において、次のごとく定められている。

「X 検食・保存食等」より抜粋――
「学校給食調理場にあっては、以下の点に留意して、検食、保存食の保存等を実施すること。
1 検食の方法
ア 当日の給食については、学校給食調理場及び共同調理場の受配校において、あらかじめ責任者を定めて検食を行うこと。
イ 検食の際には、特に次の点に留意すること。
・食品の中に人体に有害と思われる異物の混入がないか。
・調理過程において加熱・冷却処理が適切に行われているか。
・食品の異味、異臭その他の異常がないか。
・一食分として、それぞれの食品の量が適当か。
・味付けや、香り、色彩、形態などが適切になされているか。また、児童生徒の嗜好との関連はどのように配慮されているか。
ウ 検食を行った時間、検食者の意見など、検食の結果を検食簿等に必ず記録すること」

「XII 定期、臨時及び日常の衛生検査」より抜粋――
「3 学校給食従事者の衛生管理状況及び検食、保存食の状況
(2) 検食及び保存食の状況
イ 当日の給食は、児童生徒等に提供される前に責任者を定め、検食が行われていること。その際、異味、異臭その他の異常が感じられたときには、食品の提供を中止するなど直ちに適切な処置が取られていること。また、検食を行った時間とその結果については、適切に記録されていること」

 各校においては、基本的に校長が「検食」を担当し、校長が不在ならば教頭(副校長)、教頭が不在ならば教務主任という具合に、時には事務室にまで回ってくるケースもあるらしい。留意すべき項目として上がっている「異物の混入」、「食品の量」、「味付けや、香り、色彩、形態」、「嗜好との関連」あたりはまだしも、「異味、異臭その他の異常」を素人(?)の校長さんがどこまで判断し得るのであろうか? O157にしても眼に見えない対象だったわけだが、まして今や相手は、まかり間違えば即座に中毒死しかねないメタミドホス、ジクロルボス、パラチオンという状況なのだ。この「検食」、そこかしこで――いささか不謹慎な表現ながら――「毒見」になぞらえられている。昔ならば、毒見役に万一の事が起きたら、ひどい話とはいえ、“殿の命を救った、天晴れ”と武士の面目が立つということにもなったろう。しかし、この現代、校長に身を殉じさせてどうなるのか? また、逆に、「検食」した限り問題なしと判断された給食で子供に健康被害が発生したら、その責任を「検食」担当者が引き受け得る・引き受けなければならないのか?

 当然、システム上、誰かが名目的責任を負うことが必要ではあろう。しかし、原材料に毒物が混入しているというような非日常的な事態をも学校給食が視野に入れるべきとするならば、この「検食」という制度、あまりにも脆弱《ぜいじゃく》な手段なのではないだろうか?
(2008.2.21)