今週のコラム                                 大西赤人/小説と評論

相当胡散臭い「ハンカチ王子」と、何とも恥ずかしい「ハニカミ王子」

大西 赤人       



 昨夏の甲子園に早実のエースとして出場した斎藤佑樹。決勝戦では、大会三連覇を目指した駒大苫小牧の田中将大(現・楽天)と投げ合い、引き分け再試合の末に粘り勝ち。プロ野球界ではなく早稲田大学進学を選択し、初めて迎えた先頃の東京六大学春季リーグ戦でも大活躍して優勝、一年生ながらベストナイン。勢いのまま、続く全日本大学野球選手権でも優勝、ここでも最高殊勲選手に選ばれた。何せ早大は、斎藤の投げた試合は負けないという不敗神話が継続中である。

 僕が彼の存在を最初に知ったのは、去年7月、西東京予選のテレビ中継だった。以前のような高校野球に対する熱意は全く失っている僕ながら、珍しくチャンネルを合わせた準決勝(対日大鶴ケ丘)、決勝(対日大三)とも、早実が5対4のサヨナラ勝ち。今更ではあるが、斎藤の何とも爽やかな風貌と、それとは裏腹とさえ感じられる勝負強さを見て、妻に“ヤケにかっこいい高校生が居るんだ。間違いなく人気者になるぞ”と一度ならず話していた。

 誰が名づけたのか(発祥は「2ちゃんねる」という説も聞くが)、試合中にポケットから青いタオルハンカチを取り出して汗を拭く仕草から「ハンカチ王子」なる呼び名を奉られた斎藤の現在に至る過熱人気は、皆さんも御存じであろう通り。未だアマチュアの大学野球とはいえ、人気面では、既にプロで4勝、先日は初完封も演じたライバル・田中を大きく上回っている。本人は「『佑ちゃん』の方がいいですね。『ハンカチ王子』は、もう終わりです(笑い)」「【田中ら「ハンカチ世代」と呼ばれることに】自分はいいですけど、プロで頑張っているみんなには失礼だと思う」(13日付『スポーツ報知』)などと述べ、実際、「ハンカチ王子」を使わないスポーツ紙なども登場している。しかし、一方では、昨秋の兵庫国体で登板した兵庫県高砂市野球場に「ハンカチ・メモリアル・スタジアム」との愛称が付けられるなどというアホらしい話もあり、世間一般には当分廃《すた》れそうにない。

 「ハンカチ王子」という呼び名自体、相当胡散臭いけれども、野球選手がわざわざハンカチで汗を拭くという違和への着目――いささか大仰に言えば批評眼――が幾分か窺われる。ところが、5月17日〜20日のゴルフ「マンシングウェアオープンKSBカップ」で、プロを相手に国内ツアー史上最年少優勝を達成したアマチュアの高校一年生・石川遼に与えられた「ハニカミ王子」に至っては――石川自身がどう受け止めているのか、その本心は判らないながら――何とも恥ずかしい限り。命名者は、優勝インタビューを実況していたアナウンサーと伝えられているけれども、これはその場の思いつきでもあったろう。たしかに「ハンカチ」「ハニカミ」と頭韻も踏んで(?)いるからうまく出来てはいるにせよ、この二番煎じに挙げて追随している世間、特にマスメディアの無批判ぶりには呆れてしまう。大体、石川の優勝は評価に値するとしても、スポーツ本来から見れば、15歳のアマチュアにコロリとやられてしまったプロたちの弱体こそが問題とされるべき。ところが、恰好のワイドショー“ネタ”へと矮小《わいしょう》化される中、傍若無人な取材が始まる。

「TBS系の情報番組『ピンポン!』のディレクターが、千葉県野田市で関東アマチュアゴルフ選手権に出場している石川遼選手(15)の同伴競技者に『小型マイクをつけてプレー中の石川選手の声を録音してほしい』と“盗聴”を依頼していたことが6日、分かった。TBSは選手と主催の関東ゴルフ連盟に謝罪し、同日の番組冒頭でもおわびした。
 TBSによると、 ディレクターは、“ハニカミ王子”として注目される石川選手の声を録音しようと3日、一緒にラウンドする選手に電話でマイク装着を依頼して拒絶された。さらに大会初日の4日に『石川選手のキャディーバッグにマイクをつけたい』と大会事務局に打診し、拒否された。
 同局の報道番組『イブニング5』が4日と5日の2回、主催者に無断でコース上空に取材ヘリを飛ばしたことにも、関係者から強い不満の声が上がっている」(6日付『サンケイ・ウェブ』)。

 アマチュアとはいえ、そりゃあ、同伴競技者にも選手としてのプライドがあって当然。依頼に当たって「謝礼」も示されたとの証言に関しては、ディレクターは否定したそうだが、“幾らか出せば、ホイホイOKするだろう”というような発想が、いかにも安易に浮かんで不思議なさそうに思われる。そのほとぼりも冷めない先日、今度は世界的な大会――年間四大トーナメントの一つ「全米オープン」開幕に際して、またまた赤面もののニュースが伝えられた。

「男子ゴルフの全米オープン選手権を前にした記者会見が12日、米ペンシルベニア州オークモントCCで開かれたが、日本のテレビ局がタイガー・ウッズ、フィル・ミケルソン(ともに米国)に対し、『ハニカミ王子』こと石川遼(東京・杉並学院高)について質問。メジャー大会には全く場違いな問いに、世界中から集まった報道陣のひんしゅくを買った。
 ウッズには『彼について知っているか』と聞き、ミケルソンに対しては『石川君にメッセージを』などと発言。大勢の記者であふれ返った会見場のあちこちで失笑が漏れ、質問者には冷たい視線が集まった」(13日付『共同通信』)

 この「共同」電は『サンスポ』『スポニチ』『毎日』『産経』など多くのメディアで報じられ、“懲りずにTBSテレビがやらかしたのか”というような臆測を呼んでいたのだが、これと全く異なる色合いの「ウッズがハニカミ王子を絶賛 『すごい才能だ』」なる記事もあった。

「男子ゴルフの今季メジャー第2戦、全米オープン(14〜17日)を前にタイガー・ウッズ(米)が12日、オークモント(米ペンシルベニア州)で記者会見し、日本男子ツアーで史上最年少優勝を果たした『ハニカミ王子』こと石川遼選手(東京・杉並学院高)について日本のテレビ局から質問を受け、『すごい才能だ』と評した。
 ビデオで石川のスイングを見たと言い、『パワーには驚くばかり。15歳の少年がツアーで優勝したのだから、持っている才能のすごさがわかるだろう』と話した。
 石川と同様、ジュニア時代から周囲の注目を一身に浴びてきたウッズは『もう少し時間がたてば特別な選手になれる。今はプレーすること、そして上達することを楽しんでほしい』。メジャー大会と関係のない質問だったが、丁寧にアドバイスもした」(13日付『アサヒ・コム』)。

 勘の良い方は、既にお判りであろう。この質問をしたテレビ局は、『朝日新聞』系列の――「全米オープン」を独占中継した――『テレビ朝日』だったのだ。その経緯を明記していた記事は「ハニカミでテレ朝にブーイング…ウッズに場違い質問」(13日付『ZAKZAK』)

「【オークモント=宮下幸恵】(前略)ハニカミ王子の話題は、海を越えた。世界のトッププロが集うメジャー『全米オープン』2日前。公式会見でウッズが、日本の15歳を大絶賛したのだ。
 『ものすごいパワーだ。まだ15歳で、プロのトーナメントに勝ったということだけで彼の才能がわかる。並外れた選手になるかもしれない』
 前日の11日、日本のテレビ関係者から、5月の日本男子ツアー『マンシングウエア』を制した石川遼のスイング映像を見せられ、初めて存在を知った。決して大きくはない体で、300ヤード級の飛距離を生み出すパワフルスイングに目をパチクリさせている。
 (略)日米とツアーの舞台は違っても、15歳という年齢でプロトーナメントを制した事実に驚きを隠せなかった。
 ところが、これには舞台裏が。石川の質問はメジャー大会には全くの場違い。世界中から集まった報道陣は、何のことかわからない。それだけに、質問者はあきれ顔で失笑されるとともに、とうとう冷たい視線まで浴びせられていた。
 04、06年マスターズ覇者のフィル・ミケルソンにも『石川クンにメッセージを』などと発言。ミケルソンは、大人の態度で、『信じられない。僕がプロの試合に初めて出たのは17歳のときで、予選通過もできなかったのに』と話したが、これまたウッズ同様にリップサービスであることは間違いない。
 関東アマではTBSが盗聴騒動を起こし、今度はテレビ朝日が、世界のゴルフマスコミから大ブーイング。ハニカミ王子、最大の敵はワイドショーのノリで過激取材を敢行するモラルのないテレビ局となりそうだ」

 まさにウッズもミケルソンも「大人の態度」「リップサービス」としか言いようがないけれど、桑田(パイレーツ)が実質的には敗戦処理の1イニングを押さえただけで1ページを潰して大騒ぎし、その印象を監督や選手に尋ねまくるような日本のプレスに対しては、さぞ彼らも内心で閉口していることだろうと思う。ところで、ウッズたちに対しては、やはり“Ryo Ishikawa, his nickname is the Prince of Shyness”とでも紹介したのかなあ……?
(2007.6.18)