今週のコラム                                 大西赤人/小説と評論

DJ OZMAを巡る『紅白歌合戦』の一騒動

大西 赤人       



 新しい年もアッいう間に半月以上が過ぎてしまった。年末年始は風邪気味でいささか不調だったものの、ひとまず平穏といえば平穏、怠惰といえば怠惰なひととき。今年(というか昨年)の『紅白歌合戦』は全く見ないままに終ったのだが、後になってから、DJ OZMA《オズマ》に関する一騒動を知った。DJ OZMAといっても御存じない方もあるだろうけれど、氣志團《きしだん》というロックバンドのリーダー・綾小路翔《あやのこうじしょう》による別人格(と、説明してみたところで、判らない方にはますます意味不明かもしれませんな……)。

 とにかく、別に『紅白歌合戦』に誰が出ようと今更どうでもいい僕ながら、出場メンバーが決まった際に『へえ、DJ OZMAなんかが出るのか。紅白も落ちたもんだな』と感じたぐらいで、まあ、ファンの方には申しわけないが、正直、一年を締めくくる国民的祭典と称する番組にしては、ハナから少々似つかわしくない下世話な人気者。案の定、リハーサルの段階から、“イリュージョン”演出を予告していたOZMAに関しては、こんな報道が並んでいた。

「大みそかの『第57回NHK紅白歌合戦」(後7・20〜11・45)のリハーサルが29日、東京・渋谷のNHKホールで始まった。衣装や演出で注目されているDJ OZMAは『脱ぐしかない』と“開チン”宣言。(略)
『NHKは後悔すべき!』。DJ OZMAが放送コードへの挑戦を宣言した。ライブではパンツ一丁になるのが恒例で『(紅白でも)脱ぐしかない。ガチンコでチ○コというか…。世界中に放送されているので、日本男児のますらおっぷりを見せたい』とニヤリ。(略)
 小林幸子とのド派手対決で高視聴率も期待されるが『僕は視聴率よりも膨張率が大事』と話し、取材陣の爆笑を誘った。『羽賀研二並み』と自称する“サイズ”には自信がある様子。『子供が見たら泣いちゃうかも』と不敵な笑みも。『両親には“もし出ちゃったらゴメンネ”と言っておいた。NHKに出入り禁止になるどころか、正月早々、くさい飯になるかも』と警察のお世話になることも覚悟?していた。(略)
 先月29日の会見で『パンツに火をつける』と“紅白史に残る”大暴れを宣言。イリュージョンに挑むことも発表しているが、具体的な演出については語らずじまい。紅白の吉田豊久チーフプロデューサーは『本人が言っていることよりもっとすごいことをします』とアピールしながらも『でも法律には触れません』と説明。『イリュージョン』『男性シンボル』『膨張』『合法』がキーワードになりそうだ」(12月30日付『スポニチ・アネックス』)。

「『イリュージョンっていうか、脱ぐしかねえ。ガチンコでチ○コ。幸子さんとの対決を今朝知って焦ってるので、日本男児のますらおぶりを見せて対抗します』と切り出した。
 公共放送における開チンなど前代未聞だが『NHKはおれを出して後悔するはず。出入り禁止ならマシ。臭い飯を食う覚悟もあるし(留置場の)下調べもしてある』。57年の歴史を持つ紅白が、無法地帯となる可能性が高まってきた。(略)
 OZMAの開チン構想を伝え聞いた同局の吉田豊久チーフプロデューサーは『もっとすごいことが起きる』と断言。視聴率の低迷傾向を打ち破る起爆剤として期待する。演出を紅白のトップシークレットにした。(略)」(12月30日付『日刊スポーツ』)

「大みそか放送の『第57回NHK紅白歌合戦』のリハーサルが30日、東京・渋谷のNHKホールで行われた。DJ OZMA(年齢未公表)はリハを終え『出ちゃうね。(下半身が)どうしても全部出ちゃうね。南海の黒ナマコが…』とあらためて本番に向け“出す気”満々。北島三郎(70)が『出したら張り倒す!』と激怒していることにも『これしか方法がないんですよ。張り倒されると思います』と鉄拳制裁を受ける覚悟。番組の吉田豊久チーフプロデューサーは『紅白はみんなが楽しめるお祭りで、OZMAにも感謝している。北島さんが張り倒してくれたら、それはそれで面白い』と期待?している」(12月31日付『スポニチ・アネックス)

 長々引用していてもアホらしくなってくるのだが、本番で実行されたイリュージョンとは、歌の最後でOZMAと北島三郎とが入れ替わるマジック仕立てのこと。OZMA自身はパンツ一丁になったものの、(翌日の新聞写真によれば)股間に小さな作り物のシンボルをくっつけていただけで、もちろん“開チン”などは実現するはずもなかった。ところが、騒ぎは意外なところから持ち上がる。

「(略)NHK開局以来、初のおっぱいポロリか? ブラウン管の前の誰もが、1度は目を疑った。
 問題のシーンは、DJ OZMAが歌う『アゲ♂アゲ♂EVERY☆騎士』の2番に突入する午後10時22分過ぎだった。金色に輝くリオのカーニバル風衣装を身につけた20人の女性ダンサーが突然脱ぎだした。
 ブラジャーやパンティーまで脱ぐ凝った演出で、お茶の間も公共放送のNHKでまさか!?と一瞬、目を疑ったに違いない。ただ、目を凝らして見ると、バストトップまでリアルに描いてはいるものの、バストや腹筋のラインをわざわざ入れるなど、肌色のボディースーツの上からヌードの絵を描いたと分かるものだった。
 しかし、NHKにはやはり抗議や問い合わせの電話が殺到。『あの衣装は子供の見ている時間にはふさわしくない』『ふざけすぎ』といったものなど、午後11時45分までに計252件あった。なかには、本当の裸と勘違いした視聴者もいたという。
 そこで同局では30分後の同52分、徳永英明が歌い終わった後に三宅アナが登場し、『さきほどのDJ OZMAのバックダンサーが裸ではないかという問 い合わせがありましたが、ボディースーツを着用していました。誤解を与える結果となり、申し訳ありませんでした』と謝罪。結局この時間ロスが響き、審査結果発表が大幅に短縮されてしまった。(略)
◆NHK広報局コメント
『ボディースーツに絵を描いて、裸と見間違いかねない姿になるということは、演出側は知りませんでした。衣装の最終チェックであるカメラリハーサルでは、本番のような衣装ではありませんでした。今回の紅白のテーマにふさわしくないパフォーマンスだったと考えています。(略)」(1月1日付『サンスポ・コム』)

「(略)“開チン”は無かったものの、女性ダンサーのニセヌードに視聴者から苦情が相次ぎ、総合司会の三宅民夫アナ(54)が生中継中に謝罪する一幕もあった。(略)
 出演の30分後の午後10時52分に突然、三宅アナが番組中に『バックダンサーについて裸ではないかという多くの電話をいただいています。実はボディー スーツを着用していたので裸ではないです』と異例の釈明。NHKによると、歌唱後1時間で252件の問い合わせ電話が殺到。“開チン”していないのに、苦情だけは来るという皮肉な結果になった。同局は衣装の最終チェックであるカメラリハーサルに言及し『演出側は知りませんでした』としている。(略)」(同『スポニチ・アネックス』)

 新聞写真ばかりか、今は便利な時代で、「YouTube」という動画アップサイトに行くと、見逃した名(迷)場面が素早く誰かの手によって提供されるので、問題の場面を確かめてみたのだが(ただし、現時点では既に削除)、まあ、明らかに生身《なまみ》とは隔たったいわゆる着ぐるみのようなボディースーツ。三宅アナの謝罪に際して会場では一度ならず失笑が起こっていたほどで、「本当の裸と勘違い」して抗議をするとは少々恥ずかしくはないかと感じたりもするものの、偽物と判った上でなお「ふざけすぎ」と憤慨したとなれば、ひとまずお説ごもっとも。

 その後も同様の批判は増えつづけ、年明け4日には橋本元一NHK会長が職員向けの年頭挨拶で「一部に残念なパフォーマンスがあり“これがNHKの品格か”と厳しい意見をいただいた」「不快な思いをされた視聴者の方々には本当に申し訳なく思っています」(5日付『スポニチ・アネックス』)と謝罪、5日には伊吹文科相が「『品性を持っている人間が動かしていけば、そういうことは起こらない。NHKもよく考えればよい』と苦言」「『法規制をかけると表現の自由を侵してしまう』とした上で『国民の税金に類するもので運営されているわけだから、お互いに自制心をもってやるということだろう』と指摘」(6日付『サンスポ・コム』)するなど、波紋が広がった。

 いずれにせよ、実に低次元な話ではあるのだけれど、ただ、プロデューサー自らが「もっとすごいことが起きる」とか「でも法律には触れません」とかと公言していたにもかかわらず、本当に局側――演出側として内容を知らなかったのかという点は大いに疑わしい。当初からDJ OZMAのNHKブラック・リスト入り、出入り禁止は確実とも言われていた中で、10日に至り、OZMA側が謝罪文書を提出。

「NHKによると、謝罪は、OZMAの所属事務所とレコード会社の連名の文書で、『NHKに無断で、裸に見える衣装を着て迷惑をかけた。視聴者に不快な思いをさせ、おわびする』などの内容。視聴者からNHKへの抗議は、10日までに1000件を超えたという」(10日付『アサヒ・コム』)

「昨年大みそかのNHK紅白歌合戦で、DJ OZMAと共演した女性ダンサーが裸に見えるボディースーツ姿で踊った問題で、OZMA側がNHKに知らせないまま本番直前、演出の変更をしていたことが11日分かった。視聴者からの抗議などは10日までに約1800件に上った。
 NHKによると、演出などの最終確認をする本番前日のリハーサルでは、女性ダンサーは水着姿だった。直前になってOZMA側が『インパクトが足りない』と変更したという。
 NHKは放送終了後に、OZMAの所属事務所とレコード会社に抗議。両社の関係者が9、10の両日、NHKに経過を説明し『事前に知らせずパフォーマンスをし、多大な迷惑を掛けたことにおわびします』とする謝罪文を提出した」(11日付『スポーツ報知』)

 こうして、NHKのメンツは救われた形となったのだが、この幕切れは、力関係による詰め腹決着的な印象を拭いがたい。実際、OZMA側が全面的に頭を下げた恰好《かっこう》であるにもかかわらず、橋本会長は11日の定例会見で「『出演禁止』という明言を避け、『謝罪以上のものを求めることはない』としたが、『現場では使いにくい状況とは思う』と、OZMAに対して怒り心頭の制作現場の胸中を代弁。事実上、当面は出演の機会がないこと」(12日付『サンスポ・コム』)を示すに至る。

「【OZMA】本人の心境はいまだうかがいしれないが、30日の最終リハーサル後、『インパクトが足りない』『サプライズが足りない』と漏らしていたという。
 そして大みそかの本番で飛び出した驚愕のパフォーマンス…。「何だ、これは」。演出担当は当日、OZMAの後で踊る女性ダンサーの衣装を見て真っ青になった。12月30日の最終リハーサルで見た水着はどこへ。飛び出して来たのは限りなく裸に見える、WAHAHA本舗から借りた精巧なボディースーツだった」(同前)。

 OZMAとNHKとの間で事前に暗黙の了解ないし阿吽《あうん》の呼吸があったのかどうか、実情は窺い知れないとはいえ、要するに本当に全裸になったわけでもないのに、何とも前時代的で空疎な大騒ぎ。こんな下らない事で脛に傷を作り、NHKが我から放送へ対する“お上《かみ》”の介入を買って出るようなことになっては馬鹿馬鹿しいでは済まないが、これも『紅白歌合戦』という“遺物”に縋《すが》るがゆえに起きた弊害であることは間違いない。

「この一件では、音楽関係者の間にNHKへの不信がつのっているという。中堅プロダクションの幹部がぶちまける。
『DJ OZMAは、もともと下ネタが売り物。紅白で歌った「アゲ♂アゲ♂EVERY☆騎士」は、常にラストにパンツ1枚になる趣向で、ライブではバックダンサーの女性がトップレスだったこともある。NHKは「事前に知らなかった」と釈明したが、詫びるくらいならキャスティングしなければいい』
 別のレコード会社スタッフも『DJ OZMAは、やりすぎとは思うが、盛り上げようと苦心の末の確信犯。なのにNHKからは、彼らをかばうコメントが1つもなかった』とアーティストに同情的だ」(4日付『ZAKZAK』)。

 OZMAのパフォーマンス自体を「評価」する気持ちにはなれないけれど、上記のような指摘にはさもありなんと同意したくなる。

 さて、『紅白歌合戦』の後、1日未明に放送された『朝まで生テレビ!恒例元旦スペシャル』のほうは例によってついつい最初から最後まで付き合ってしまったのだけれど、DJ OZMAを巡る騒ぎに較べれば極めてマイナーながら、ここでも終了間際にハプニング的な一幕《ひとまく》が演じ(?)られた。(この稿、続く)
(2007.1.16)


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