今週のコラム                                 大西赤人/小説と評論

セ・リーグも導入するプレーオフ制の陥穽

大西 赤人       



 正確には記憶していないのだが、多分、2001年か2002年のことだったと思う。ケーブルテレビでダイエー(現・ソフトバンク)の試合を見ていたら、中継ぎか敗戦処理かで登場してきたピッチャーの体格が素晴らしく、フォームはしなやかでダイナミック、球が速く、面構えも締まっている、ヤケに恰好のいい選手だなあ、どうしてこんな場面で出てくるのだろうなあ、と不思議な気がした。手持ちの選手名鑑で調べてみたところ、それは、1995年にドラフト一位指名を受けた斎藤和巳という投手。僕が見た時は入団五年目か六年目だったわけだが、2000年には5勝を上げたものの、故障がちのせいか伸び悩んでいるらしかった。

 ところが、今更言うまでもなく、斎藤和は2003年に20勝(3敗)を上げて一気にブレイク。2004年こそ10勝(7敗)にとどまったものの、2005年には開幕15連勝を含む16勝(1敗)、そして今年も18勝(5敗)、防御率1.75という見事な成績を残し、最多奪三振、最高勝率を合わせて投手四冠に輝いた。現役投手の中からエースを一人上げるとしたら、一般的知名度では松坂(西武)に僅か譲るかもしれないが、その抜群の安定性を考え合わせると、勝るとも決して劣らない存在と言うことが出来るだろう(斎藤和の通算勝率は今季終了時点で73勝20敗・7割8分5厘、松坂のそれは108勝60敗・6割4分3厘)。

 パ・リーグのプレーオフ第一ステージ初戦(7日)は、上記の両雄――斎藤和、松坂による緊迫の投手戦。むしろ内容的には上回っていた斎藤和が七回に1点を失い、そのまま0対1と惜敗。しかし、続く二戦をソフトバンクが連勝して第二ステージに進出、公式戦を一位で通過していた日本ハムに対する挑戦権を得た。さて、本欄において僕は、パ・リーグの昨年までの――第一次ステージで三位対二位、第二次ステージで第一次ステージの勝者対一位が対戦し、年度「優勝」が決定する――プレーオフ制度に何度も反対してきた。たしかに大いに盛り上がりこそすものの、長丁場の公式戦を勝ち抜く最大の意義が薄れ、とにかく三位に滑り込んでおきさえすれば「優勝」の可能性が出てくるという形式に邪道を感じたからだ。それなら、いっそのこと、公式戦六位対五位による一戦勝負の第一ステージから始めて、その勝者対四位による三戦二勝の第二ステージ、その勝者対三位による同じく第三ステージと進め、五戦三勝の第四、第五次ステージくらいまでやったらいいのではないか?

 一昨年、昨年と公式戦を一位で突破しながら二位を5ゲーム以上離すことが出来なかったソフトバンクにはアドバンテージが生じず、二年続けて第二ステージで敗退した。これを踏まえて、今年からは、一位通過チームに対してゲーム差に関係なく一勝が与えられることになった(ただし、正式なリーグ優勝はあくまでも第二ステージを勝利したチームであり、今年の公式戦一位・日本ハムには「レギュラーシーズン優勝」と記された奇妙なフラッグが渡されていたが、テレビでは"何か形が欲しい"という選手の要望に応じて作られたものというような言い方をしていた)。これは幾分のシステム"改善"ではあったろうが、いざ実現してみると、三勝したほうが優勝という短期決戦において、一勝のアドバンテージはあまりにも大きかった。第一次ステージにおいては全く五分に二勝先勝で勝者が決定するのに較べ、第二ステージの場合、第一戦(11日)を日本ハムが制してみると、続く最大限三試合のうちに一回でも日本ハムが勝つか引き分ければそれで日本ハムの優勝が決まるというのだから……。そんなわけで、第一戦終了後に僕が見かけたどこかのテレビのスポーツ・ニュースでは、「日本ハム(2勝)-ソフトバンク(1敗)」という不自然な表記がされる有様。

 続く第二戦(12日)、シーズン中でも何年ぶりという中四日で登場した先発・斎藤和は前回同様の見事なピッチングを見せたものの、再び0対1のサヨナラ負け。マウンド上で崩れ落ちて涙に暮れ、ズレータやカブレラに支えられてベンチへ下がる結果となった。こうしてソフトバンクは、プレーオフ開始以来三年間、そのシステムに不運な形で翻弄されつづけているわけだが、「優勝」という中心目的を決める規範がこんなにチョコチョコ変わっていてはいかんのではないだろうか。しかも、来季からはパ・リーグの盛り上がりに刺戟されてか、ついにセ・リーグも(二年間の暫定措置ながら)プレーオフ制を導入する――(以前は反対していた巨人も、相次ぐ不振・人気低下を踏まえ、背に腹は代えられずに、この敗者復活システムを受け容れたとの見方もある――のだが、何とセ・リーグは、公式戦一位通過チームがそのままその年の「優勝」チームとなるのだそうな。

 昨年の今頃(colum299.htm)にも書いた通り、冷静に見れば誰の眼にも明らかな陥穽《かんせい》の危険性が存在していても、それが現実に発生しないうちは、なかなか対策を打とうとしない嫌いが特に日本では強いように思う。既に、両リーグにおけるプレーオフ制度実施については、最悪の場合、両リーグの公式戦三位通過チームがそれぞれ勝ち抜いて――セは非「優勝」球団、パは「優勝」球団として――日本シリーズを争うことにもなりかねないとの懸念がチラホラ出ている。しかも、その三位通過チームがソフトバンクのように微差の敗者であったならまだしも、昨年の西武、今年のヤクルトのように公式戦で五割にも達していないという事態さえ、常に起こり得るのだ。

 結果的にどうにか一位通過チームや二位通過チームが勝ち上がっているうちはいいかもしれないが、仮に上述のように公式戦負け越しチームが日本一になるような結果が生じた時には、このプレーオフ制度、一気に轟々たる非難を浴びて瓦解《がかい》してしまいそうな気がする。そもそも、大リーグのように14あるいは16という多数の球団が三地区に分かれ、各地区で優勝した三チームにワイルドカード(各地区二位の三チーム中で最高勝率)の一チームが加わってのプレーオフならば、地区優勝は記録として残るわけだし、地区間の格差を埋めるワイルドカードの意味合いにも納得が行く。しかし、日本の場合は一リーグ僅か六球団で既に総当りの公式戦を行なっているのだから、そこで年間最も優秀だったチームが「優勝」に直結しないという形は不自然過ぎる。

 今般のセ・リーグのプレーオフ導入に当たっては、両リーグにおける「優勝」の概念が異なってしまうため、"両リーグの優勝チーム同士で行なう"という趣旨の「日本選手権シリーズ試合規程」が改正されることになったそうだ。こと日本国憲法とは違って、折々にタイムリーな変更が図られることは構わないにせよ、まずはパ・リーグも公式戦一位通過チームをリーグ優勝と規定し、プレーオフはあくまでも日本シリーズ出場権を得るためのものとするほうが話がスッキリするのではないだろうか。そうすれば、せっかく公式戦で一位となった選手たちが、「レギュラーシーズン優勝」などという意味不明なフラッグを渡される必要もなくなるのだから。
(2006.10.17)


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