今週のコラム                                 大西赤人/小説と評論

DVDが判らない

大西 赤人       



 以前にも書いたこと(colum154.htm)があるように、僕は未だにベータ方式、VHS方式双方のビデオ・デッキを持っている。これまでに録画したテープは相当数に上るけれども、折々に放送される映画を録ったものがほとんどで、特別に貴重な内容というほどではない。しかも、幾ら録画しても改めて見る――消費する――量は限られており、言わば供給過多。ドンドン本数が増えるばかりで妻からも年来“場所ふさぎだから処分すれば”と言われながら温存していたのだが、去年の秋に引越しをしたことを契機に、相当量を思い切って捨てた。ビデオテープという奴は、保存状態が悪いとケースにしまっていてもカビが生え、使いものにならなくなる。そんなわけで、捨てた中には一度も見ないままにカビてしまった物も少なからずあったりで、一体何のために手間と時間を費やしてきたのかと我ながらアホらしくなった。

 それでも、既に見て面白かった作品やいつかは見てみたいと思う作品が入ったテープがこれまた相当量残っていたのだが、その後、遅ればせにHDD&DVDレコーダーを買ったところ、ビデオ・デッキは一気に過去の遺物となってしまった。もちろん、HDD&DVDレコーダーの便利さについては以前から伝え聞いていたものの、実際に使ってみるとたしかにその通り。早送り、巻き戻し、頭出し、消去などの操作は至極《しごく》簡単だし、タイマー予約も至ってスムーズ、裏番組の録画も容易《たやす》い。ビデオテープのような画像のノイズもほとんどない。当然、本体(ハードディスク)の容量には限りがある――僕が買った製品は300ギガバイトなので、標準的な録画モードで130時間余り――とはいえ、保存しておきたい内容は、基本的に一枚約2時間の録画が可能なDVDにダビング(コピー)し、本体のほうはサクサクと消して行けばよろしい。DVDならば、ビデオテープに較べて置き場所も少なくて済む。とまあ、かような具合で、最初のうちはいい事ずくめ、次々に映画を録画し、ビデオテープで残っていた作品も時には改めて録り直し、DVDのコレクションが増えつづける状況となった。

 ところで、僕は、このようないわゆる“メカ”の類《たぐい》をイジることは好きなほうである。様々な機器は自分で配線を組んでいるし、たまに人の家に遊びに行って何かしらの機器のタイマー表示が「0:00」のまま点滅していたりすると、気になってすぐにセットして、喜ばれたり、かえってイヤな顔をされたり(?)する。要するに、世間でしばしば見かける“録画予約って苦手なんです”というようなタイプの人間ではない。それでも、このHDD&DVDレコーダーという道具、使いこなすに従って、だんだん判らない事が出てきた。こんな話を書き並べても、そもそも興味のない方にとっては無意味だろうし、逆に詳しい方にしてみれば初歩的な疑問と馬鹿らしく感じられるかもしれないが、幾つか挙げてみると……。

 録画方式にVRモードとVideoモードとが存在していて、それぞれに長所短所があるように見え、どちらにしたほうがいいのかハッキリしない。HDDにはVRモードで録画されるのだが、DVDにダビング(コピー)する場合は、メディアがDVD-RAM、DVD-R、DVD-RWと三種類ある。説明書には「たいせつな映像を保存するにはカートリッジ付きDVD-RAMをお使いください」と勧められているが、併せて「DVD-RAMは、DVDプレイヤーなど他のDVD機器では再生できないことがありますので、ご注意ください」とも書かれている。DVD-Rだと、ファイナライズという処理を行なえば他の機器での視聴が可能になるようだが、ダメな場合もあるらしい。加えて、DVD-Rは値段が安い代わりに、一度録画(書き込み)したら書き変えは出来ない(書き込みに失敗することも結構あってムダになるが、それはレコーダーとの相性やレコーダーの調子によるので見当がつかない)。DVD-RAMやDVD-RWは、ビデオテープ同様に繰り返し録画が可能だけれど割高だ。加えて、音質の設定も何通りもある。

 何と面倒なのだろう? とにかく、最初のうちは深く考えず、ダビング(コピー)にはDVD-Rを使っていた。まとめ買いなら一枚当たり100円以下と安上がりで、書き込みに失敗しても痛手が少ないからである。ところが、それから間もなく、加入しているケーブルテレビのキャンペーン(工事費大幅割引)についつい惹かれてアナログからデジタルに移行したもので、ますます話が混迷の度を深めた。

 デジタル化によって、いわゆる地上波デジタルを筆頭に視聴可能チャンネルがますます増え、画像も綺麗になった。ただし、デジタル放送は著作権保護のため、原則的に「コピーワンス(コピー制御信号が入っている)」形式が多い。そして、この「コピーワンス」の放送は、本体HDDには――デフォルトで――VRモードで録画されるが、DVDにVideoモードで録画することは不可能である。つまり、これまでのように安価なDVD-Rを使うことは出来ない。ただし、HDDには残さない形でCPRM(Content Protection for Recordable Media)対応のDVD-RAM、DVD-RW、DVD-RにVRモードで「移動」することだけは許される。ところが、VRモードで録画したディスクは、未対応の機器で見ようとすると「機器およびディスクが故障・破損するおそれ」があり、CPRMに至っては、未対応の機器に「ディスクを挿入するだけで、機器およびディスクが故障・破損するおそれ」があるというのだ……。

 何なんですか、これ? たしかに著作権の保護は重要な問題に違いない。しかし、同時に、これほどの多チャンネル放送が行なわれている以上、レコーダーの存在意義として録画及び保存は必須要件。当然、記録媒体である以上は、人との貸し借りも大きな用途となるはずだ。それなのに、同じ――実は違うわけだが――DVDという名前でありながら、見ようとしただけで壊れてしまうかもしれないなんて? 説明書を読んでも“君子危うきに近寄らず”という気分に駆られる上、実際問題として割高なCPRM対応のディスクへの「移動」も億劫、結果、HDDに録り貯めるばかりでいたものの、必須の成り行きでHDDの空きが少なくなってくる。ソロソロ対策を考えなければいけないと思いはじめていたところへ、「次世代DVDどう違う?」と題された新聞記事(3月18日付『朝日新聞』)が眼に留まった。東芝、三洋、NECなどが推進する「HD-DVD」とソニー、松下、三洋、シャープなどが推進する「BD(ブルーレイ・ディスク)」とが年内にも本格的な販売競争に突入するというのである。

 記憶容量は、HDが現在のDVDの三倍以上、BDなら五倍以上。HD陣営は「記録層を重ねてDVD並みの容量にできる。構造が現行DVDに近いので安く作れる」と主張し、BD陣営は「量産効果や生産技術の向上でコストは下げられる」と反論する。これほどの大容量であれば長時間録画が可能になりそうだが、将来のデジタルハイビジョン放送を見据えると、やはり一枚に二時間内外前後ということになるらしい。そして、言うまでもなく(?)、両者に互換性はなく、ソフトを供給する重要な立場となる米大手映画会社六社の支持も、今のところ優劣をつけがたい状況で両陣営に分かれているという。ウゥム、現行のDVDでさえ使いこなしきっていないのに、もう次世代DVDか……。

 その上、もう一つ気になる大きな問題は、このDVDというメディア、特に自分で作成した――俗に言う“焼いた”――場合、実は耐久性に乏しいのではないかという点である。インターネットなどを眺めていると、“DVDはDV(デジタルビデオ)テープより長期保存性が落ちる”という意外な指摘や、“現在のDVDはもうすぐ命脈が尽きる”“今のDVDを読めなくなる時代もそのうち来るのではないか”というような見方に出くわす。アナログのカセットが何年経ってもどうにかこうにか音が出るのに較べると、デジタルのメディアは、一瞬にして全くアクセスできなくなったり、総ての内容が飛んでしまったりすることも特に珍しくはない。

 要するに、こんなふうにブツブツ言っていること自体が踊らされている証拠。本当は、見たいものを見られる時だけリアルタイムで見ればいいのだが、そこまで割り切れないのも人間の哀しさ、これからも続々と登場するのであろう“技術の進歩”という甘い蜜に翻弄されつづけてしまうのだろうか……。
(2006.3.26)


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