今週のコラム                                 大西赤人/小説と評論

“韓流ブーム”韓国との融和とはあまりにも対照的な北朝鮮への白眼視

大西 赤人       



 6日、女子テニス・トーナメントで四大大会(全豪、全仏、全英、全米)に次ぐレベルとされる「東レ・パンパシフィック・オープン」決勝において、世界ランキング4位のマリア・シャラポワ(ロシア)が同1位のリンゼイ・ダベンポートを破って優勝した。今回、“シャラポワ・フィーバー”は大変なもの。「今年の大会の入場者数は5万人を上回り、過去最高を記録」(7日付『サンスポ・コム』)、テレビでは、彼女の登場する予選のゲーム(平日午後)が予定を急遽変更して中継されたほどだった。

 “妖精”と呼ばれるシャラポワ、まだ17歳ながら、昨年の全英(ウィンブルドン)でも優勝しており、その実力は既にトップ・クラス。ダベンポートとの――フルセット、最後はタイ・ブレークという――大接戦の中でも、フィジカルに留まらず、メンタルな強さも遺憾なく発揮していた(今回の優勝で、世界ランキングも3位に上昇)。しかし、プレーぶり以上に、何と言っても人気の大きな理由は、「身長183センチ。ブロンドのロングヘアとスリムなスタイルで、モデルとしてもグラビアに登場」(同前)という抜群の容姿。実は彼女、去年のこの大会にも来日、やはりファンの多いダニエラ・ハンチュコバ(ロシア)と二回戦で当たっていた。当時も「美女対決」などとそれなりに話題を呼びはしたものの、まだ力及ばずアッサリ敗退。それを思えば、この一年でのシャラポワの急上昇ぶりには、まさに“ブレイク”という形容がふさわしい。

 日本では、シャラポワ同様、いささか異様なほど――本業(?)の域を超えて突発的に――人々を惹きつける外国人女性スポーツ選手のアイドル的存在が時おり出現してきた。古くは、東京オリンピックの体操で優勝したベラ・チャスラフスカ(チェコ)。札幌オリンピックのフィギュア・スケートで転倒しながら銀メダルに輝いたジャネット・リン(アメリカ)。「白い妖精」と異名を取った体操のナディア・コマネチ(ルーマニア)。ゴルフのローラ・ボー(アメリカ)、バレーボールの“中国の百恵ちゃん”こと楊希《ヤン・シー》なんていう人気者も居たなあ……。

 それに較べると、大雑把ながら、外国人男性スポーツ選手にはそういうイメージで思い浮かぶ存在は少ない。熱狂的ブームを呼んだといえば、プレスリーやビートルズは別格としても、モンキーズとかベイ・シティ・ローラーズとかレイフ・ギャレットとかフリオ・イグレシアスとか、当たり前の芸能畑からが多かったように思う。このあたりに男と女の感覚――ファン気質の違いがあるという気もするのだけれど、それはともかく、そんな現在のトレンドは、2002年ワールドカップ・サッカー二国共催を基調に進行し、テレビ・ドラマ『冬のソナタ』の主役“ヨン様”ことペ・ヨンジュンによって爆発した「韓流」ブーム。いわゆる「韓国四天王」――ペ・ヨンジュン、チャン・ドンゴン、イ・ビョンホン、ウォンビン――の他にも、パク・ヨンハ、リュ・シウォン、ソン・スンホンなど多士済々(付随的に、韓国女優への注目も高まりつつある)。

 最も近い隣国でありながら、歴史的経緯によって形作られた不幸な関係の影響も含めて、年来、日本から見た韓国あるいは映画や音楽などの韓国文化といえば、いまひとつ親近に欠ける上に垢抜けないものという印象が拭いがたかったが、今では猫も杓子もメイド・イン・コリア。『シュリ』あたりに端を発して多くの秀作が生まれた現実もあり、以前なら公開さえされなかったかもしれない韓国映画が次々に封切られ、テレビでもそこら中のチャンネルで玉石混淆《こんこう》という雰囲気に韓国製ドラマを放送している。日本から韓国を訪れる観光客も激増中とのこと。

 僕自身は、ひとまず“冬ソナ”には特に関心ないけれど、お隣の国同士が仲良く交流すること自体は結構この上なく、後は、この“韓流ブーム”が一時《いっとき》の熱狂に終らず、韓国での必要以上の反日感情、日本での(韓国に対する)不当な差別感情まで含めての緩和・解消へと向かって行くダイナミズムとなればいいと思っている。ただ、そこで一つ気がかりなのは、韓国との融和とはあまりにも対照的な北朝鮮への白眼視だ。

 本欄でも何度も書いてきたように、北朝鮮の現体制が多くの問題点を孕《はら》んでいることは確実にせよ、そもそも北朝鮮と韓国とは祖国統一を夢見る同じ民族の国であり、朝鮮半島が分断国家となってしまった経緯には、その軽重をさておいても間違いなく日本の責任が介在したわけだ。それなのに、今では一方は“韓流ブーム”としてもてはやされ、他方は拉致事件をはじめ“悪の枢軸”として地に堕ちている。今や日本には、北朝鮮のレジューム・チェンジ(体制変革)――即ち金正日政権打倒という――思いきりの内政干渉を公然と打ち出す政治家さえ見受けられる。

 6日付『朝日新聞』の「時流自論」欄では、姜尚中《カン・サンジュン》氏が「『ヨン様』と『ジョンイル』」と題して、同じような想いを綴っていた。「ヨン様」と「ジョンイル」はあまりにも対照的であり、二人が顔を合わせて談笑する光景を想像することは人々の失望と怒りにつながるだろうかと述べてから、姜氏はこう続ける。

「それでも、『ヨン様』と『ジョンイル』は、ともに民族と言語の一体性を持った朝鮮半島に属しているのだから、ふたりの出会いなどありえないと決めてかかるほうがむしろ不自然だ。
 実際には、『ヨン様』の国と『ジョンイル』の国は、両者を分かつ分断線を怨嗟《えんさ》の象徴とみなし、100年の近代史をずたずたに引き裂いてきた関係に終止符を打ちたいともがき苦しんでいるのである」

 そして姜氏は、六者協議によって北朝鮮の「なだらか」かつ「確実」な変化が促されることを期待し、その場での「日本の積極的な関与」を願う。

 先日来、拉致被害者の一人・横田めぐみさんの「遺骨」が返却され、これがDNA鑑定によって別人の物(異なる二人が混在)と“判明”、改めて北朝鮮の不誠実極まりない振舞いとして大々的に報じられる一方、北朝鮮側は、鑑定結果は「捏造」と強く反論している。この「遺骨」についても同国による説明の不透明さはたしかだが、同時に、日本政府が「遺骨」のDNA鑑定を「警察庁科学警察研究所(科警研)と『国内では最高技術を持つ』(警察当局)帝京大学法医学研究室」(2004年12月9日付『毎日新聞』)に依頼、前者が不可能だったのに後者が鑑定を実行し得たという点には、いささかのわだかまりを感じてしまう。

 そもそもDNA鑑定技術とは未だ完璧の信頼性には達しておらず、従って裁判などでも、場合によっては、その証拠能力に疑問を呈する見解が示される。横田さんの「遺骨」についても、火葬されているため、当初、鑑定は困難と伝えられていた。しかし、「最近10年間、警視庁が外部に依頼する鑑定のほとんどを引き受けたほか、第二次世界大戦で戦死した旧日本兵の遺骨の鑑定も一手に行ってきた実績」を持つ帝京大学法医学研究室は、「ミトコンドリア鑑定法」を用いて成功、この方法は「微量の試料を鑑定しやすい」(同前)ものと説明されている。

 しかし、当方、全く素人だから迂闊な事は言えないながら、インターネットで検索すると、「ミトコンドリア鑑定法」とは際立って困難な手法には見えない。実際、精度差の有無・程度は不明にしても、親子鑑定などで商業化までされているのに、どうして「科警研」はそれを行ない得なかったのか実に不思議だ。もちろん、技術レベルの差と考えることは出来るわけで、事実、石山c夫《いくお》帝京大名誉教授(法医学)は、「鑑定できなかった科警研と帝京大学で、方法や使用した機器に差はない」が、「DNAを抽出できそうな骨を選別する技量の差を強調」(同前)したという。ところが、その石山名誉教授からさえ、同時に次のようなコメントも出ているのである。

「DNA鑑定に詳しい石山c夫帝京大名誉教授(法医学)は『北朝鮮から2人分の人骨が来たのとみるのが一般的だが、鑑定中に誰かのDNAが混じった可能性も否定できない』と話す。
 関係者の証言からDNAは遺骨内部のあまり焼けていない部分から取り出したとみられるが、帝京大は詳細を公表していない」(同前)

 国と国との関係を揺さぶりかねない重大な鑑定内容が「鑑定中に誰かのDNAが混じった可能性も否定できない」という次元なのに動かぬ真実のごとく発表され、それによって人々の判断が左右される。結果的にこの鑑定は正しいものかもしれないけれど、あまりにも危なっかし過ぎはしないだろうか。
(2005.2.8)


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