『朝日新聞』社説の「巨人分割案」大西 赤人「危急存亡のとき」という言葉がある。「危急存亡の時」と書いても絶対間違いではないようだが、「危急存亡の秋」とする(秋を「とき」と読む)のが本来。中国・三国時代、蜀の国の名軍師・諸葛亮(孔明)が主君・劉禅に奏上した「出師《すいし》の表」にある言葉で、(国が)存続するか、はたまた滅亡するかというほどの危難が迫っている状況を表わし、「秋」は、五穀の実る最も重要な“時”を象徴しているらしい。 さて、ワールドカップ開催を一頂点としたサッカー人気の高まり、スター選手の相次ぐ大リーグへの流出などをどうにかこうにか乗り越えてきた日本のプロ野球も、近鉄とオリックスとの合併を機として、文字通り「危急存亡の秋」を迎えているように思われる。たとえパ・リーグが5チームとなっても二リーグ体制を堅持すべしとの声があり、5チームでのリーグ戦運営は無理だから一リーグ体制に移行すべしとの声があり、一リーグ11チームは多過ぎるので10チームあるいは8チームに統合すべしとの声がある。いずれにせよ、球団経営も押し詰めれば損得勘定を抜きには語れない商売なのだから、“ファンあってのプロ野球”であることは一面の真実にせよ、“ファンのためのプロ野球”なんて、所詮綺麗事に決まっている。 これだけ大きな転回点を迎えて、何をどうすべきか・どうしたらいいのか、問題は山積ながら、とにかく、十二球団の苔《こけ》むしたような代表やオーナーたちが集まって話し合うだけで、どれほどの抜本的な改革が実現するであろうか? そもそも、日本のプロ野球がこのような危機に至った原因の多くが巨人にまつわる諸々の要素に基づくことは、ごく当たり前のファンにとっては常識。それなのに、ここでも論議の主導権は、巨人・渡辺恒雄オーナーの手に握られることとなってしまうらしい。 19日付『日刊スポーツ』は「選手枠撤廃を主張 渡辺オーナー 救済も補強も」という見出しで、同オーナーの“現行70人選手枠を動かさなければ、二球団の合併によって単純計算でも64人が溢れることになるので、救済のために選手枠を無制限とすべし”との主張を伝えていた。たしかにここだけ取れば、アブれる者が出ないよう受け皿を増やそうというのだから、いかにも選手の先行きを思った温情にも見えるけれど、そこから先には、「救済を頼む以上、いいとこ取りは許さない」と続いている。つまりは、たとえ近鉄とオリックスとが合併しても、その新球団が優先的にそれまでの所属選手を確保することは制限すべしというわけである。ここには、新球団の鎖を外せば、少なからぬ有力選手は巨人に集まってくるだろうという下心がミエミエだ。 もっと呆れるのは、一リーグ制への言及。 「巨人は一番犠牲にならなければいかんのだよ。つまり今までは5球団のエースを相手にしていれば良かった。今度10球団になったら9球団のエースを相手にしなきゃいけない。巨人が一番不利になる。損するんだよ。『11球団で1リーグ作ればいい』。こんなことはできっこない。それは反対する」 本気で「犠牲」とか「損をする」とか「一番不利」とか信じているのだろうか、ほとんど「自虐史観」にも似た把握のような気がするけれど? 労組プロ野球選手会(古田敦也会長)は、拙速な合併話や一リーグ制移行話の進行に疑問を呈し、打開策を模索すべく、経営者と選手の代表で構成される特別委員会の開催を申し入れているそうだが、渡辺オーナーは「古田君はバカだと思うよ。球界全体の活性化を考えることに抵抗しているんだから。今、考えているのは選手の救済だ」(19日付『夕刊フジ』)と不快感を露《あらわ》にしたらしい。しかし、こんなおためごかしに屈することなく、古田会長(以下)には、この重大な「秋」にあたって、大いに頑張ってほしいと思う。 そんな中、僕が最も我が意を得たのは、15日付『朝日新聞』社説の「巨人分割案」である。「無理に1リーグにしなくても、巨人を二つに分けたら、1チーム減るパ・リーグの穴は埋められる」としたこのアイデア、今回の合併話が明るみに出ると、僕もすぐに思い浮かべていたのだが、なかなかの名(迷?)案。言うまでもなく、社説としてはギャグと皮肉が籠められていたのだろうけれど、巷《ちまた》でも多くの反響を呼び、『東京新聞』などは、「あえてマジメに検証した」特集記事までわざわざ組んだそうな。 馬鹿馬鹿しい話のようながら、たとえばアイスホッケー日本リーグでは、チーム減少で運営が先細りになりかけた1972年、強豪・西武鉄道がグループ企業の国土計画(現・コクド)に新チームを設立、しかも多くの所属選手を提供して活気を取り戻させたこともある(ちなみに、西武鉄道は2003年限りで廃部、所属選手は逆にコクドへ移籍という数奇な運命を辿る)。社会人スポーツとプロ野球とでは自ずから次元が異なるとはいえ、まんざら夢物語でもないようにも思われる。 現在の巨人を半分に割ってさえ、(恐るべきことに)それなりの陣容になるのだが、それに近鉄、オリックスの選手をある程度加えて配分すれば、戦力的には十二分。同一企業が保有するチームとはいえ、「東京巨人軍」と「大阪巨人軍」に分かれての二リーグ制ならば、勝負の上での利害関係は薄いし、交流戦を行なわずとも全チームに垂涎《すいぜん》の対「巨人」戦が可能というメリットも伴なう。仮にの話、セ・パともに「巨人」が優勝した暁には、日本シリーズは身内の対決となるわけだが、相撲だって、優勝決定戦に限っては同部屋対決が行なわれ、若貴兄弟対決が実現するのだから、それはそれで結構。もっとも、両リーグに巨人が出来て、しかもどちらも優勝を逸するとでもなったら、ナベツネさん、あまりのショックに倒れてしまうかもしれないが……。 (2004.6.22) 前に戻る/次を読む/目次/表紙 |