今週のコラム                                 大西赤人/小説と評論

『パックインミュージック』の林美雄アナウンサーが亡くなった

                                

大西 赤人       



 現在、一般的な日本人は、どの程度AM(中波)ラジオの放送を聴いているのだろう? 僕自身について言えば、野球中継と競馬中継以外、聴く機会はほとんどない。車を運転している時でも、CDやMDやカセットをかけることが多く、ラジオをつけるとしても――前記の例以外は――FMになってしまう。もちろん、それ以外にも地上波テレビ、ケーブルテレビ、インターネット……山のようにメディアが存在する中で、少なくとも日本においてはAMラジオの影は薄くなっていると思われるのだが、それでも、大抵はテレビ局と一体化しているせいなのか、AMラジオ局が潰れたというニュースは耳にしたことがないように思う。そして、どの局も二十四時間放送だが、今の中高生たちも、やはり深夜放送を聴くものなのかしらん?

 僕がAMラジオ――とりわけ深夜放送――を一番熱心に聴いていたのは、十四、五歳から二十歳過ぎくらいまでの間だったろうか。関東圏なので、TBSラジオ系列の『パックインミュージック』、文化放送系列の『セイ!ヤング』、ニッポン放送系列の『オールナイトニッポン』が三つ巴だった。様々なパーソナリティーが入れ代わり立ち代わり登場したが、僕が贔屓《ひいき》に聴いていたのは、それぞれ、野沢那智・白石冬美、愛川欽也、落合恵子、谷村新司、斉藤安弘、今仁哲夫、etc、etc……。谷村新司の「天才・秀才・バカ」コーナーなどは、毎週カセットに録音して、聴き直しては笑っていたなあ。今でも一部は残っているほどだ。

 そんな中、『パックインミュージック』でちょっと毛色が変わっていて好きだったのが、「月夜のぶたは恥ずかしい、ぼんやり影が映ってる……」とワケの判らぬ決まり文句で始まる林美雄アナウンサーの通称「みどりぶたパック」。陽気で騒々しい小島一慶アナウンサーとは対照的に、いかにも落ち着いた美声で読み上げる「下落合本舗提供『苦労多かるローカルニュース』」なんぞという架空のニュース・コーナーが傑作だった。また、特に日本映画への薀蓄《うんちく》・愛情が深く、ごくごく真面目な映画の話もよくしていたものだ。おすぎとピーコを最初に知ったのもたしかこの番組だったし、まだ無名だったタモリが奇妙な人物として登場、抱腹絶倒の「四ヵ国麻雀」を演じたのもここだったと思う。

 その林美雄が、7月13日に亡くなってしまった。

「深夜ラジオ放送『パックインミュージック』で人気を博した、TBSアナウンサーの林美雄(はやし・よしお)氏が13日午前5時10分ごろ、胃がん再発による肝不全のため入院先で亡くなった。58歳だった。葬儀・告別式は密葬。喪主は妻文子(ふみこ)さん。8月25日に『お別れの会』が予定されている。場所は未定。
 林氏は、ラジオの深夜放送が全盛期を迎えた1970年代に、人気番組『パックイン』のパーソナリティーとして多くの視聴者の心をとらえた。邦画を通じて無名の俳優の紹介にも努めた。
 最近では、TBSテレビの『CBSドキュメント』(ナレーション)などを担当していた。
 4年半前に胃がんを発見、切除手術をして一時は元気になったが、今年に入り、再び体調を崩していた」(7月14日付『アサヒ・コム』)

 58歳……もうそんなに時間が経ったんだなあ。林が『パックインミュージック』を担当していたのは、1970年から1980年まで(曜日・時間移動あり)だったようだ。これは、明確な記憶ではなく、インターネットなどで幾らか調べても判らなかったのだが、彼は、何らかの理由で会社(TBS)との関係がよろしくなく、ある時期から言わば“干された”のではなかったろうか? 実際、『パックインミュージック』を離れてからは、取り立ててレギュラー番組にも付かず、たまにスポットCMなどで『あ、林美雄(の声)だ!』と気づく程度だった。ただ、近年では、上出の記事中にもある『CBSドキュメント』のナレーションで、変わらぬ声を耳にしていたのだけれども……。
(2002.7.16)


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