今週のコラム                                 大西赤人/小説と評論

ブッシュ米大統領の一方的なやり方はおかしいと感じる人々は、どうして“サヨク的”“反米主義的”“非現実的”と切り捨てられるのだろう?

                                

大西 赤人       


「ブッシュ米大統領は21日、『来年は戦争の年になる』と述べ、国際テロ組織アルカイダなどの活動に悩まされている国が要請すれば、米特殊部隊などを派遣する考えを表明した。
 所在不明のオサマ・ビンラディン氏らの掃討をアフガニスタン以外でも展開する決意を示した形だ。
 ロイター通信などとの会見で明らかにした。大統領はアフガンを舞台にした対テロ戦は順調に進んだと評価。そのうえで、『来年は他の場所でも捕そくを続けるので、戦争の1年になるだろう』と述べ、情報、警察活動などを含む総合的な対テロ戦を継続する姿勢を示した。
 大統領は、各国の要請があれば、特殊部隊や軍事顧問の派遣などに積極的に応じ、情報提供を行うことにやぶさかでないとした。(略)」(12月22日付『アサヒ・コム』)

 ブッシュさん、「戦争の1年になるだろう」とか、勝手に決めないでほしいよね。その上、「各国の要請があれば、特殊部隊や軍事顧問の派遣などに積極的に応じ」って、ピザの出前じゃないんだから……。

 先日、ブッシュ大統領は、ロシア政府に対し、旧ソ連と結んだ弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約からの脱退を通告した。1972年以来続いてきた核抑止による安全保障体制からの大きな転換だが、この脱退の理由について、大統領は「ABM条約による制限を受けたままでは、『ならず者国家』やテロリストからのミサイル攻撃に対応できないと指摘し、『ミサイル防衛構想のため、ABM条約を超えて進まなければならない』」(12月14日付『CNNジャパン』)と述べたそうな。

 ブッシュ・アメリカは、世界の国家を(1)同盟国、(2)戦略的競争国、(3)ならず者国家の三つに分けているという。「ならず者国家」(rogue states)とは、具体的には朝鮮民主主義人民共和国、イラク、リビア、イランなどだが、国際政治学者の武者小路公秀氏によれば、その定義はこんな具合になる(広範な国民連合・東京第8回総会記念講演要旨から)。

「経済のグローバル化が進む中で、アメリカとヨーロッパと日本の先進工業諸国が覇権構造をつくり、その親分がアメリカのブッシュ大統領です。グローバル経済は競争して勝ち抜き、金持ちはさらに豊かになる。貧しい人たちのことは考えない。貧しい国と金持ちの国の格差が拡大するだけでなく、アメリカ国内でも貧富の格差がどんどん拡大していく。つまり北の国の中でも、南の国の中でも貧富の差が拡大し南北問題が発生している。」
「アメリカは、朝鮮民主主義人民共和国を『ならず者国家』と認定しています。北朝鮮を『ならず者国家』にしないと、ミサイル防衛システムをつくる理屈がなくなるからです。アメリカは、イラク、リビア、イランも『ならず者国家』と認定しています。しかし、ミサイル防衛システムは、戦略的に必要だからではなく、企業に研究開発させて、バブルがはじけたアメリカ経済を救うためです。そのためには敵が必要となり、アメリカが勝手に『ならず者国家』と認定する。」

 この講演は、同時多発テロ事件よりも前(2001年7月)に行なわれたものだが、なかなか示唆(しさ)に富んでいる。しかし、このような見解は、アメリカではもちろんだろうが、日本においても今やますます“サヨク的”“反米主義的”“非現実的”なものとして一蹴されてしまいかねない。

「ならず者国家」についてインターネットで検索していたら、タイトルから「ならず者国家」とそのままのこんなコラム(『中国新聞』「天風録」)も見つかった。

「身勝手にも程がありはしないか、ブッシュさん。今度は生物兵器禁止条約の議定書作りも拒否した。百四十数カ国が七年かけてまとめた検証や罰則を設ける案は振り出しに▲『ならず者国家』などの危険を封じ込めようと自らも提唱しながら『バイオ産業などの情報が漏れる恐れ』と一変した米国。最近、数々の国際的な平和の枠組みづくりから一方的に離脱する言い訳はこうだ▲『排出ガス削減目標は科学的根拠がない』(京都議定書)。『核の安全管理を阻む欠陥がある』(包括的核実験禁止条約)。だが産軍複合体の国家体質が硬直化し、経済、軍備の開発をやめられないのが本音ではないか▲小型武器の不正取引規制は国際合意に達したが『市民の銃保有の規制』は除外。米国が自国の憲法に違反するとの言い分を通した。一方で日本には集団的自衛権行使のためにと改憲を暗に迫るのは、利己的過ぎないか▲国益路線の『一国主義』は強まるばかり。ミサイル防衛計画がその象徴だ。ならず者国家の攻撃から守る発想で生まれた。『ならず者』とは『悪い事ばかりして手が付けられない者』と辞書にある。その国家とは『国際社会の規範や慣習を拒否する国』と七年前、米政府が規定した▲昨年から『問題国家』と呼び変えて、数カ国を想定している。だが今の米国ほど国際ルール破りの例は珍しい。他国をとやかく言えるのか。おごる姿勢がこれ以上続けば、やがて国際社会の『問題国家』になりかねまい。」

 いやあ、よくぞ(よくも?)言ったと感じるアメリカ批判。やはりこれも、あの9月11日付に先立つ8月2日に掲載されたものではあるが、何とも後日の情勢に符合した趣旨ではある。

 とにかくアメリカは、タリバン(政権によって冶められていたアフガン)という一つの国を爆撃して潰してしまった。そして、事実上、自らの信ずる“正義”に反する国については、これからも実力を行使すると宣言している。そんな一方的なやり方はおかしいでしょうと感じる――むしろ極めて単純なほどの――人々が、どうして“サヨク的”“反米主義的”“非現実的”とレッテルを貼られて切り捨てられるのだろう?

 同時多発テロ発生以来、作家・池澤夏樹氏は『新世紀へようこそ』と題するメール・コラムを書きつづけている。
http://miiref00.asahi.com/national/ny/ikezawa/backnumber.html
 12月14日付「今の時点でのいくつかの疑問」には、控えめなタイトルとは裏腹に「何かおかしい。何かがすり替わっている」として、“いくつか”どころではない多くの問題点が列挙されている。“非サヨク的”“親米主義的”“現実的”な人たちにとっては、これらはみんな答の明らかな納得済みのものなのだろうか?
(2001.12.25)

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