インターネット発見伝・外伝



インターネット発見伝
松本侑子/鈴木康之著
ジャストシステム刊
1748円(本体価格)

            

本書について ……松本侑子


 私はパソコンを始めて9年、インターネットは去年から使い始めました。
 作家になるために「すばる文学賞」に応募する小説をワープロで書いたとき、コンピュータとの本格的な関わりが始まりました。

 本書では、作家になる前から現在にいたるまでの私のパソコン歴、インターネットをどのように仕事に使っているのか、作家として考えるインターネット時代の活字メディアについて、本の後半部分に書きました。

そして本書の前半は、各方面で活躍中のインターネットの達人、8人に取材した記録とその感想です。
取材のテーマは、インターネットによってテレビ、新聞、書籍、雑誌といったメディアがどう変わるのか、ネットワークを使った遠隔地コミュニケーションについて、地方と東京の関係、ネットのポルノと有害情報規制の賛否、ネットワーク時代の新しいビジネス、女性とコンピュータ、インターネットによる政治、市民社会、労働、生活の変化、情報通信革命が持つ民主的な意味まで、たいへん幅広い分野におよんでいます。

 脚注にはコンピュータ用語の解説をつけ、巻末ではインターネットの基礎知識を説明しました(専門家の鈴木康之氏に執筆してもらいました)。
 初心者の方でも、わかりやすく読んで頂けると思います。

 本書は、1年間かけて準備と取材を続けて、書きあげました。インターネットを始めたときはもちろん、8人の達人に取材したときも、知的な刺激と興奮に、ワクワクしました。
 パソコンを触ったことがない人からインターネットの利用者まで、本書によって、インターネットのダイナミックな可能性に、興味と理解をもって頂けると思います。


対談をお願いした方からのメッセージとプロフィール


藤幡正樹 (ふじはた・まさき)
コンピュータ・アーティスト、慶應義塾大学環境情報学部助教授。1956年、東京生まれ。東京芸術大学の学生時代より、数多くの作品を発表し続け、1983〜84 年には世界的なコンピュータ・グラフィックスの学会であるシーグラフに作品を出品するなど、CGの初期から世界を舞台に活躍する。
著書に『巻き戻された未来』、編書に『The Future of The Book of the Future』(共にジャストシステム)。
現在、CGの誕生から今日までの歩みを鳥瞰する大型企画『An Encyclopedia of Computer Graphics』(ジャストシステム刊行予定)のディレクションも行なっている。 「藤幡正樹ラボ」のホームページはここをクリック。

水越伸 (みずこし・しん)
「ニューヨークのコロンビア大学に来て、この本のインタビューで話をさせていただいたことは間違っていなかったなと、改めて身体で感じています。
 ただし、今後グローバルなアメリカ化の中で東アジアがどうなっていくのかと言うことや、しばしば感じるあまりにも楽天的なこちらの人々の技術信奉については、今後もう少し考えていきたいと思っています」

東京大学社会情報研究所助教授。ソシオ・メディア論。1963年、三重県生まれ、金沢育ち。筑波大学第二学群比較文化学類現代思想学コース卒業。東京大学大学院社会学研究科新聞学専修博士課程中途退学。
テレビゲームからラジオに至る多様なメディア領域のフィールドワークと、その歴史社会的な検討を基本に、メディアと社会の関わりをとらえるソシオ・メディア論に取り組んでいる。
著書に『メディアとしての電話』(共著、弘文堂)、『メディアの生成』(同文館出版)、編書に『20世紀のメディア第1巻 エレクトリック・メディアの近代』(ジャストシステム)などがある。
現在、コロンビア大学ジャーナリズム大学院センター・フォー・ニューメディア客員研究員

大原まり子 (おおはら・まりこ)
「座談会は今年(96年)の1月30日にあったのですが、11月に本が出るまでに、 わが家のホームページ はさらなる進化をつづけています。静的な状態がない、というのもネットワークという生き物のおもしろみ、宿命かもしれません。
 とはいえ、歴史をとどめるという意味でも、一度立ち止まって考察してみるという意味でも、松本侑子さんのていねいな文章は、とても意義のあるものではないかと思います」

作家。1959年、大阪府生まれ。1981年、『一人で歩いていった猫』(早川書房)でデビュー。1987年、岬氏と結婚。
主な著書に『吸血鬼エフェメラ』(早川書房)、『オタクと三人の魔女』(徳間書店)など。『ハイブリッド・チャイルド』(早川書房)で星雲賞、『戦争を演じた神々たち』(アスペクト)で日本SF大賞を受賞。他に、岬氏との共編書『SFバカ本』(ジャストシステム)、パソコンとの出会いからネットワークにはまった日々を描くエッセイ集『ネットワーカーへの道』(ソフトバンク)がある。

岬兄悟 (みさき・けいご)
「素敵な松本さん同様に素敵な本になり、うれしく思っています。インターネットの進歩というのはすさまじいものがありますね。ほんの2、3ヶ月で状況ががらりと変わってしまいます。
 大原まり子と私の章も、今読み返すととんでもなく古臭いことを言っているなぁ、というのが正直な感想です。ホームページという形ならば、リアルタイムで情報を発信できますから文句なしですね」

作家。1954年、東京都生まれ。1979年、短編「頭上の脅威」でデビュー。
主な著書に『ラブ・ペアシリーズ』(早川書房)、『半身一体』(早川書房)、『感情伝染』(早川書房)、『人面領域』(学研)、大原氏との共編著『SFバカ本』(ジャストシステム)など。
また、パソコンとオンラインソフト三昧の生活をつづったエッセイ集『パソコンはまぐり』(光栄)、パソコン入門本の『男のパソコン入門術』(ジャストシステム)がある。

美馬のゆり (みま・のゆり)
「今回松本さんとの対談で自分を語る機会を得たことで、もやもやとしていた私の歩んできた道にはっきりと筋をつけることができました。
 相手にわかるように自分の歩んだきた道を説明することは、自分も納得するように筋道をたてて話すことだったのです。これが私にとっての大きな収穫でした」

認知科学、情報教育論、川村学園女子大学教育学部講師。1960年、東京都生まれ。
電気通信大学計算機科学科在学中にMITで開発された教育用言語LOGOを日本の8ビットマシンに移植する作業に従事したことをきっかけに、コンピュータの教育的利用に興味を持つ。
外資系コンピュータメーカー勤務を経て、ハーバード大学教育学系大学院インタラクティブ・テクノロジー専攻修士号取得。帰国後、東京大学大学院教育学研究科入学。博士課程単位取得退学。
3年前より、若手科学者と小学生をネットワークで結んだ実践研究「湧源サイエンスネットワーク」を主宰し、これに関する本を現在執筆中(ジャストシステムより刊行予定)。
このほか著書に『科学する文化』(共著、東京大学出版会)、『変わるメディアと教育のありかた』(共著、ミネルヴァ書房)などがある。

岩谷宏 (いわたに・ひろし)
「3匹の子猫を保護しております。うちはすでに、猫満杯だす。だれか、子猫をもらってくれーっ。しかし現在のインターネットでは、必要な情報が必要なターゲットへ確実に届くことができまへん。情報も、道端に捨てられた子猫みたいだにゃん…」

ライター、翻訳家。1942年、日本侵略時代の韓国ソウル市生まれ。
著書に『ザ・ポップ宣言』、『にっぽん再鎖国論──ぼくらに英語はわからない』(以上、ロッキングオン)、『オトコの光景──その粗暴なる知の解剖』(JICC 出版局/現・宝島社)、『パソコンは思考の翼』、『ラジカルなプログラミング入門』、『基礎からわかるインターネット』(以上、筑摩書房)、『ラジカルなコンピュータ用語辞典』(ソフトバンク)、『ラジカルなコンピュータ』、『思想のためのインターネット』(以上、ジャストシステム)などがある。

佐々木かをり (ささき・かをり)
「『インターネット』なんてなかった頃に知り合った私たちが久しぶりに会ったら『インターネットと女性』と言う切り口で、なんとも楽しい時間を過ごすことになった。
 その会話が、素敵な本の中に収まった。彼女の丁寧な取材と鋭い洞察力によって『発見』されたインターネットの数々の魅力がちりばめられた『インターネット発見伝』。勉強にもなるし、きっかけにもなる。是非多くの方に読んでいただきたい」

株式会社ユニカルインターナショナル代表取締役。1959年、神奈川県生まれ。
1983 年上智大学外国語学部卒業後、フリーランス通訳として活躍。1987年コミュニケーションコンサルティング会社、株式会社ユニカルインターナショナルを設立。同年、テレビ朝日『ニュースステーション』専属リポーターとなり、南アフリカを始め海外取材を中心に活動。
1989年プロ意識のある女性のネットワークNAPW (Network for Aspiring Professional Women)を設立。1993年4月からフリーのニュースリポーターに。1996年7月よりTBSテレビ「CBS ドキュメント」のキャスターを務めている。
著書に自らの妊娠出産と仕事の両立について書いた『妊婦だって働くよ』(WAVE出版)がある。

柳沢安慶 (やなぎさわ・やすよし)
「ホームページを作ったら、アクセスした方から電子メールを頂いて、意気投合して、友人関係が広がっていく。そんな個人的な使い方がやっぱり一番楽しいような気がします。『インターネットの魅力はやっぱり情報発信にあり』ということでしょうか」

株式会社ラピドシステムズ取締役。1964年、長野県生まれ。成城大学卒業後、広告代理店のコピーライター、マーケティングプランナーとして、数々の広告やプロモーションを手がける。
企画担当としてインターネット接続サービス「RIMNET」の立ち上げに参加。現在、株式会社ラピドシステムズで、ネットワークを中心としたマーケティング企画、コンサルティングなどに取り組んでいる。
著書に『インターネットにお店を持つ方法 正・続』(翔泳社)がある。

撮影=高山透、蒲生晴夫(美馬氏のみ)


目次

(『インターネット発見伝』より)


まえがき

もう一度世界をパッケージングする……藤幡正樹(コンピュータ・アーティスト、慶應義塾大学環境情報学部助教授)

何の制約もなく自由につながる/テクノロジーと表現の関係/マイノリティに力を与えるインターネット/地球そのものを時計にする/物を残さないアート/世界をどうカテゴライズするか

非物質化した情報がサイバー・スペースをかけめぐる……取材後記 松本侑子

カメラの遠隔操作で、東京から富士山を見る/テレビ局に編集されない生の映像を見せるインターネット/コンテンツよりリンク!?/芸術作品のオリジナルと複製の無意味化/ワールド・ワイドなマイノリティ・ネットワーク

インターネットをめぐる「ヘン」な人たち……水越伸(ソシオ・メディア論、東京大学社会情報研究所助教授)

マッキントッシュからインターネットへ/インターネットをめぐって「ヘン」な人たちが集まってくる/新しいメディアは周縁部から立ち上がる/インターネットよ、マスメディアになるな/みんなが結びあえるといい/デジタルアナーキズムを目指せ/編集空間としてのインターネット

発信するメディア表現者か? あるいは、マスメディアの視聴者となるか?……取材後記 松本侑子

デジタルファシズムよりデジタルアナーキズム/アメーバーのような自然発生的なインターネット/ネット市民による情報通信革命/表現者の精神とリテラシー/インターネット受信専用パソコンの危うさ/「有害情報」の規制と表現の自由/ホームページは玉石混淆か?/市民による市民のためのネットワークが生まれたカリフォルニア

インターネットはワールドワイドな同人誌だ!……大原まり子・岬兄悟(SF作家)

ホームページは簡単に作れる/インターネットで同人誌の楽しみを/毎日更新するのには日記が一番/「怪しい」ホームページを探し回る/小説の産地直送販売会がしたい

SF作家によるホームページ作り……取材後記 松本侑子

日本の女性作家による初のホームページ「アクアプラネット」/PR媒体としてのインターネット/ホームページ開設のHTML文法/ホームページ制作用ソフトとマルチメディア/SFで描かれるネットワークの姿

子どもと科学者を結ぶ学びのネットワーク……美馬のゆり(認知科学、情報教育論、川村学園女子大学教育学部講師)

コンピュータで楽をする/理解するとはどういうことなのか/はんだごてで髪の毛をこがした大学時代/教育にコンピュータを使う/認知科学との出会い/インターネット騒ぎへの疑問

ネットワークでのコミュニケーション……取材後記 松本侑子

子どもと科学者をつなぐネットワークの実験/オフラインで対面して会うことの意味/閉鎖的な学校にネットワークを/留学や生涯教育資源としてのインターネット/インターネットの問題点/自分でマシンを動かす実感

Javaで、インターネットだけでなくパソコンが変わる……岩谷宏(ライター、翻訳家)

インターネットはJava/6800から始まるコンピュータ体験/自分好みのプログラムを使いたい/パソコンを百パーセント自分のものにする/インターネットの目的は電子メール/インフラの充実が必要/Javaのブームってすごい/岩谷追記

インターネットがつくる未来……取材後記 松本侑子

岩谷宏さんと著書について/肉体的な属性を離れ、本質に迫ること/インターネットは時間と空間を越える/ヴァーチャル・カンパニーと在宅勤務/首都移転はインターネット精神に逆行する/メディア、学校、政治がどう変わるか/既成権力からの解放と自由の道具

異文化とのコミュニケーションをつなぐインターネット……佐々木かをり(株式会社ユニカルインターナショナル代表取締役)

得意な翻訳からホームページ制作へ/単に翻訳をするだけでは駄目/二十八歳でユニカルを設立/女性起業家をバックアップしたい/マッキントッシュとの偶然の出会い/ネットワークを活用したホームオフィス/オンラインメディアの使い方/ホームページのコンサルティングを

女性とコミュニケーションとビジネス……取材後記 松本侑子

女性起業家としての社会的な志/ネット・コミュニケーションでのマナー/オープンなネットとクローズドのネット/女性が最初につなぐインターネットへの窓口/インターネットにともなう翻訳需要の増加/異文化を訳して伝えること/女性労働者とインターネット/インターネットの足をひっぱる日本の企業風士/十年も前から気になっていた、女性と電磁波の問題

ネットワーク上でのビジネスの可能性を追求する……柳沢安慶(株式会社ラピドシステムズ取締役)

インターネットビジネスの可能性/最初はUNIX技術者のため/コンピュータ歴七年/会員数は四万人、ちょっとした田舎の都市/オンラインマガジン「リムジン」/会員によるセミナー/接続後のビジネスを考える/ネットワーク・リテラシー

ポルノサイトとプロバイダーの責任……取材後記 松本侑子

ポルノサイトをめぐる法整備/国家間の法解釈の違い/ポルノの未成年者保護について/活字メディアとオンライン・マガジン/オンライン・マガジンに編集者は必要か?/コンピュータ・ネットワーク関連産業の活況

インターネットはなぜわくわくするのか……鈴木康之

インターネットの衝撃/無料で海外の情報が手に入る/調べれば調べるほど奥が深い/インターネットの取材が増えていく/阪神淡路大地震とインターネット
/インターネットに関わる人たちは面白い

インターネットの基礎知識……鈴木康之

インターネットの定義/インターネットの歴史は古い/インターネットはコンテンツとリンク/インターネットを便利にする検索サーバー/インターネットのその他の機能

作家として展望するインターネットと活字メディアの変化……松本侑子

コンピュータとの出会い/オフィス用大型コンピュータ時代の誤解/小説執筆のためにワープロを始める/ネットワークのためにパソコンを始める/グローバル・ネットワークへのアクセス体験/使ったパソコンはたった三台/インターネットを始めたきっかけ/インターネットで洋書を買う/オンライン辞書と雑誌、そして新聞は……/グーテンベルクの活版印刷から、ネットで流通する電子書籍へ/絶版本がなくなる/全世界の図書館をつないだ地球図書館へ/著作権の問題/自分で情報を探し出すこと/知らない人とつながること/好きなテーマについて英語で読むこと/インターネット・ブーム賛否

あとがき


はじめに  

(『インターネット発見伝』より)


 この本は、二部構成からなっている。

 前半は、八人の方へのインタビューをまとめたものだ。アーティスト、学者、SF作家、評論家、ビジネス関係と、さまざまな分野の方々だ。
 メインのテーマはインターネットだが、相手の仕事や専門によって、コンピュータやネットワークまで話は広がっている。コミュニケーションや文化、政治についても、刺激的な話ができた。
 インタビューの後には、松本がかなり長い取材後記を書いている。内容は、インタビューと重複しないので、それぞれの方の話と松本の意見を合わせて読んでほしい。対談形式では出し切れない、多角的なエピソードがあちこちにあるはずだ。
 文中の専門用語は、欄外に注をつけて、鈴木が解説した。なるべく正確に説明したいという思いで、けっこう難しい内容になっている。難しいと思う方は、読み流してくださってかまわない。インタビュー自体は十分理解できるはずだ。
 本の後半では、鈴木がインターネットとの関わり、インターネット全般を解説し、松本がパソコンとの関わり、作家として考えるインターネットと活字メディアについてをまとめた。

 本書は、どこから読んでもらってもいいと思う。
 インターネットは日々進化を続け、いろいろな問題を生みだし、そこから多くの発見がある。その発見を、楽しく読んでいただきたい。

松本侑子・鈴木康之


著者紹介

(『インターネット発見伝』より)


松本侑子 (まつもと・ゆうこ)
作家。1963年生まれ。筑波大学第一学群社会学類卒業、政治学専攻。テレビ朝日系列『ニュースステーション』出演を経て、87年『巨食症の明けない夜明け』で、第11回すばる文学賞受賞。ベストセラーとなり作家生活に入る。女性学、セクシュアリティ、環境問題、きものに関心をもつ。

著書は、性暴力をテーマにした『植物性恋愛』、CD-ROMを使って英米文学からの引用を解明した新完訳『赤毛のアン』、恋愛小説集『花の寝床』(以上4冊、集英社)、性愛論『性の美学』、グリム、アンデルセンをフェミニズム批評した大人の童話集『罪深い姫のおとぎ話』(以上2冊、角川書店)など多数。

初めてのコンピュータ体験は、学生時代のプログラミング実習。インターネットを始めとするグローバル・ネットワークを利用して資料を集め、パソコンで執筆する新世代の作家。パソコン歴は9年。

松本侑子ホームページへ
鈴木康之 (すずき・やすゆき)
ライター/編集者。1956年静岡生まれ。東京大学経済学部卒業。出版社、編集プロダクションを経て94年からフリーランスで単行本の編集と執筆、雑誌の取材・執筆を中心に活動。

『INTERNET surfer』『JUSTMOAI』『Magazine』『インターネット@アスキー』『DOORS』などパソコンやインターネットの専門誌のほか、『週刊ダイヤモンド』『ダイヤモンド・エグゼクティブ』などで記事を執筆。

著書に、『ニフティサーブ・データベース徹底活用マニュアル』『目で見てわかるニフティサーブ』(以上HBJ出版局)『図書館をしゃぶりつくせ!』(共著・宝島社)『電子メールで企業革新』(NECクリエイティブ)などがある。

コンピュータやネットワークのほか、図書館、博物館、古書店、児童文学、イギリス、湖水地方、アーサー・ランサムなどに関心を持ち、音楽、映画、スポーツ、本、食、環境問題、自動車、旅行、経済など手がける分野は広範囲にわたる。メールアドレスはsuzuki.yasuyuki@nifty.ne.jp

鈴木康之ホームページ「The Pigeon Post」へ

撮影=高山透(上)、鈴木千衣(下)


語り下ろし鼎談・著者2人と編集者による後日談

松本侑子/鈴木康之/深澤眞紀


2年間かけて

松本:始めたのは1995年の5月ですから、1年間以上かけて準備して作った本ですよね。秋に最初の原稿を入稿して、「ジャストモアイ」の連載は96年の正月から。
鈴木:95年11月に藤幡さんのところに最初に取材に行ったんでしたね。
松本:2年くらい前から企画して、準備とか取材とか執筆に1年かけた。インターネットの本なら、2、3か月で書き上げる本もあるでしょうけど、この本は時間をかけてます。
深澤:この2年でインターネットを巡る状況が変わりましたね。最初の企画意図には、インターネットというマニアの世界を、初心者の松本さんに探検してもらおうというのがありましたけど、あっと言う間に普通のものに変わっちゃいました。TVで長島さんが「カムトゥゲザー」と言う世界ですものね。

松本さんのイメージ

松本:私は初心者で、鈴木さんはだいぶ前からやってらして、もともとパソコンにお詳しいというコンビが良かったんじゃないでしょうか。取材する人の選択には深澤さんがかなり関わってくださいました。取材した方からのメールで「本を読んだら、最初イメージしていたのと違って良かった」というのがありましたけど、それなら最初は、どんなふうにイメージしていたんでしょう?(笑)。
深澤:松本さんが、表現の自由とか規制とかデモクラシーとか、ここまで硬派に書かれるとは思わなかったんじゃないですか。
松本:私が書いているものを知らない人は、たいていそう思うんです(笑)。
 これはあとがきには書いてないんだけど、インタビューする前にその人が書いた本とかやっている仕事について調べて、勉強してから行きましたよね。何も知らないところから適当に話を聞いてまとめるというのではなくて、その人の考えていることややってきた仕事に即して、インターネットについて聞いています。

こんな本になると思わなかった

深澤:面白いのは、連載を続けていく中で、松本さんの問題意識がいろんな方向に向いて行ったことですね。
松本:私も、こんな本ができるとは思いませんでした(笑)。
鈴木:どういう本ができると思っていたんですか?
松本:私、インターネットってすっごい難しい世界だと思っていたんです。大学の先生たちにへーっと教えを請って、そうでございますかと、私には考える余地のない世界かと思っていたんです。
鈴木:新井素子さんなんかの出しているような本ですね。
松本:それが、そうじゃなくて、私の思考のフィールドで十分に考えて、批判なり、もっと思索を深めるとかできる分野だと分かったんです。技術のことだったら、それは何ですかって言うしかないんだけど、『インターネット発見伝』は技術系の本ではない。インターネットには、高度な技術というイメージがあるけど、そこでやっていることは、社会学とか文学とか、コミュニケーションとかネットワーク論とか、ビジネスとかマスメディアとか、そういう話なんですよね。それなら、私も関わっている領域だと。
鈴木:インターネットだと同じ場に立てるということはありますね。難しい科学の話だったら、その人のやっていることをお聞きするという感じだけど、インターネットには自分もやろうと思ったらできるという点で、違うのかな。松本さんは最初はすごく心配していたみたいですね。
松本:そう。聞いたことが分かるかなとか……。確かに最初は分からないこともあったんですけど、1回目が藤幡さんでしたから、アートという入りやすい分野で良かったかもしれませんね。
 「インターネット発見伝」は扱っている領域は広いし、思索の深まりも深いんですけど、普通の人が暮らしている領域から外れてはいません。インターネットというのは、普通に人が見てる新聞とかTVとか本とか通販とかが、媒体の違うオンラインのネットワークに乗っているだけのことです。そういう意味で、決して小難しい本ではなくて、すごく面白く読んでもらえると思います。
深澤:そういうところが「発見伝」なんですね。

今までにない本

鈴木:予想よりずっとボリュームが出ましたね。
松本:今までこういう本は書いたことはないです。。
深澤:書店さんが、あの松本さんですかって何度も聞くらしいですね。インターネットということで、ぴんと来ないらしくて。
鈴木:松本さんの、今までの作品の流れと全然違いますからね。エッセイでパソコンのことは書いてますけど、みんなそこまで知らないですし。
松本:私、他の本ではやったことないんですけど、この本は書店に買いに行こうと思っています。普通は恥ずかしいから買いに行かないんです。共著だとすごくいいことがあって、自分の本は、これは素晴らしいから紹介してくださいと言ったことはないんですけど、共著だとできるんです。鈴木さんと共著だし、取材した方もたくさん出ているし。

難しくも怖くもないメディア

深澤:松本さん自身がインターネットが難しくも怖くもないメディアだと分かったということは、収穫の一つですね。
松本:あとは、奥行きのあるメディアだということが分かりました。インターネットというと、テレビを見るとかパソコンゲームをするという土壌の話だと思っていたので、民主主義とかパソコンの持つ自由とか、政治の話とか政治の枠組みを変えるんじゃないかとか、そういうところに話が行くとは思いませんでした。インターネットがそういう性質を元々持っていたからということもあるし、私が社会学・政治学系の出身なので、そういう興味の持ち方をしたというのと、両方あると思うんです。
鈴木:そういう意味で、松本さんがインタビューすれば面白くなるに違いないとは思っていたんです。僕にとって意外だったのは、松本さんがものすごく長い取材後記を書かれたので、より深くなったこと。
 この本の形ではなくて、水越:……、松本:……、という対談の形というのももちろんあると思うんですけど、そうしないくて良かったと思います。作りがすごく複雑になって、どこから読んでいいのか分からないという話も聞きましたが。
深澤:ジャンルも不思議だとか、いろいろ言われるんです。ビジネス書でもないですし。

写真に対する反応

鈴木:編集部の反応はどうでしたか?
深澤:一番多かったのは、「松本さんって本当に今でもこんなにきれいなの」っていう、失礼なやつです。
松本:ええ?!、き・れ・い、ですか。だって目尻とかしわがあるし。
深澤:TVによくでていた頃を知っている編集部の人たちが、全然変わらないね、とかって。でも、全然修正は加えてません(笑)。
松本:この話はカットしないで載せてくださいね。でも、編集部の方は、写真だけで、中身読んでないんじゃないですか(笑)。
深澤:でも、写真に対する反応が妙に多くて驚きましたね。おいくつになるんだろうとか。
松本:(これから買ってくださる方に、声を大にして)私の写真が合計6枚入ってます。帯の写真も入れると7枚。取材相手の佐々木さんも、美馬さんも、大原さんもきれいです。

出会いの難しさ

松本:この本を作ってすごく良かったのは、あとがきにも書きましたけど、普通にインターネットを使っているだけでは分からないことが、8人の方に取材したことで、分かったことです。ただ使うだけだったら文学のサイトを見るくらいで、ここまで考えたり、いろんなインターネットの本を読んだりしなかったと思います。全くの素人で去年の9月に初めて1年間、私が話を聞いたり本を読んだり考えたりしたことが、全部この本の中に入っていると思います。
鈴木:松本さんはインターネットとすごくいい出会いをしましたよね。次の単行本(『仮題:赤毛のアンの電脳翻訳』、現在「翻訳の世界」で連載中)に詳しく出てきますけど、最初にインターネットにつないだときに「赤毛のアン」のホームページを探したら、梶原由佳さんのページに出会ってというふうに、すごくうまく行った。僕は他の人がインターネットを初めて体験するのに立ち会ったことが他にもありますが、何を見たいかというのがはっきりしていないと、松本さんのようにはなかなかうまくいかない。こういう面白いページがあると言って見せたって、その人に興味がなければしようがない。興味があることに関するページがうまく出てくると、インターネットってすごいねということになるから、最初の出会いって難しいですね。もちろん、2度目、3度目にいい出会いができる可能性もありますけど。
松本:自分が探したいものがあったりとか、探すものがなくても、自分が表現したいものを持っている人には、インターネットが向いてますね。
鈴木:登場していただいた方はみんなそういう方ですよね。
松本:だから、インターネットって手段だなと思いました。民主化を進めたい人にとってもインターネットは手段だし、その逆でどんどん規制をしていきたい、ある政党に有利な情報ばかり出したいという人にとっても強力な手段だし、ひとつのメディアだったなと、思います。

「あちゃら」の創刊

深澤:本当にそうですね。最近象徴的だなと思ったのは、リクルートから出た「あちゃら」を買ったんですけど、
松本:今コマーシャルいっぱいやっているやつですね。あれはホームページを見るだけじゃないんですか?
深澤:インターネットがあらゆるジャンルを網羅していますから、それだけで総合誌になっているんです。インターネットの使い方の記事はなくて、ホームページの紹介がわーっと網羅的に出ている。今までのインターネット雑誌はプラグインとか、ブラウザがどうしたというという記事が出るんですけど、「あちゃら」はそうじゃないんです。巻頭の10ページぐらいは、この漫画を売りたい、だったらこんなサイトがありますよとか、NBAのことを知りたい、だったらこんなサイトありますよとか、膨大なサイトが紹介されていて、もうホームページは特殊なメディアではないんだと思いました。
鈴木:だから、インターネットしてない人も読めるということなんですね。
深澤:それからもうひとつ面白いなと思ったのはブラウザを画面に出さない。中のキャプチャーしているのはブラウザの中の画面だけなんです。考えてみると、今までブラウザを出さないホームページの紹介ってあまりなかったんですね。ホームページだと分かるためにはブラウザの枠が必要だった。だから、『発見伝』でも、一生懸命ブラウザの縦横の比率を考えたりしてキャプチャーしていたんです。
鈴木:今までの雑誌は、TVが珍しいから、TVの枠を付けて載せているのと同じことですよね。

発信する道具

深澤:リクルートは 「MixJuice」 というホームページがあって、よくできているホームページですけど。あと、 「あちゃら」のいいところは、ホームページ に検索の窓があって、雑誌で紹介しているホームページに4 桁の数字をふっていて、URLを入れなくても、その数字を入れるだけでそのページに行ける。
松本:URLって長いですから。
深澤:これだけでも楽だなと思いました。あとは、ブックマークしちゃえばいいわけですものね。さすがリクルートは目の付け所が違う、ホームページも消費するものになったんだという感じがしました。
 松本さんが本の中で危惧しているみたいに、500ドルPCとかインターネットTV とか
受信するだけというのが増えてくるのは困るでしょうけど。
松本:いやそれはべつに悪くないんです。悪くないんだけど、発信する道具と連携しなくなるのは困る。でも、これだけパソコンが売れてるから、きっとなくならないですね。
鈴木:でも、この本を作っている間にインターネットの状況は本当に変わりましたね。
深澤:岬さんが仰っているように。<岬さんのコメントにリンクする>

文化系のフィールドから

松本:この本の特徴は、文化系のフィールドでちゃんと書いた最初の本だと思いませんか。
鈴木:立花隆さんの「インターネット探検」はそれに近いと思いますけど。
松本:でも、全然違った切り口ですよね。文化系というのは同じですけど。
深澤:「インターネット探検」と「インターネット発見伝」の2冊を読むと、インターネットのことがだいぶ分かるでしょうね。
鈴木:他は接続のための基本的な解説書と、ビジネス書がほとんどですから。
深澤:ビジネスマンはインターネット自体を文化だとは思ってないですからね。一方的に使うだけで、おやじっぽい。最近改めてインターネットは便利だと思うのは、何かを調べるときに、机にいても、いろんなことが分かるじゃないですか。インターネットの中にある情報がどんどん増えているから。

インターネットと読書

松本:この鼎談を読むのは、インターネットをやっている人だから、面白さの分かっている人ですよね。でも、この間雑誌でインターネットについて話して、インターネットをやっていない人はインターネットが大嫌いだということが分かったんです。敵意、反感むき出しで、編集部の人ほとんどがパソコンをやっていないし、パソコン通信をやっている人がひとりしかいないんです。私は、インターネットの中では、古典が電子化されていて、これからは絶版になっているものも蓄積されて、世界的なライブラリができるかとか、ほしい本が探せるかとか、洋書が簡単に買えるとかいう感じかと思ったら、インターネットでいかに活字文化が衰退してみんなが本を読まなくなるかということを話してほしかったみたいなんです。
鈴木:それはまた、化石のような人たちですね。
松本:私が何を言っても、ワープロで日本語が駄目になった、日本語が読めないから、昔の日本文学を若者が読まなくなった、パソコンゲームをやっているような連中がインターネットをしこしこやっているから、本を読む時間がない、本がインターネットと一緒で情報ものしか出ない、という路線に持っていこうとするんです。

インターネット嫌いの人のために

深澤:最近は「パソコンなんかいらない」という風潮も増えてきましたね。
松本:「パソコンを使っている人は漢字忘れるでしょう」とか。そういう人たちはどんどん誘導して、「ワープロソフトにない漢字は死語になるかもしれない」と言うとそういうところだけ記事になる。
鈴木:インターネットはビジネスのもので、文化のものではないと思いたいんでしょうね。
松本:分かりました。この本の薦め方は、「周りでインターネット嫌いの人がいたら、これを1回読ませてやってください」。
鈴木:でも、インターネット嫌いとか言っていられない状況になりましたね。
松本:メーカーのパソコン事業部でも、偉い人は自分でつなげなくて、部下にやってもらうという人がまだ居ますよ。
鈴木:コンピュータ関係の企業でも、けっこう最近までそうでしたよ。上のほうの人は自分でやらないで秘書にやらせる。最近は、人事考課とか部下に見せられないメールが来たりするので、自分でやらないと困るようになったようですけど。
松本:自分が見たいホームページがあると、部下に頼んで出してもらって、印刷してもらって、読む。若い人で会社でインターネットを使っているけど、パソコンはワープロソフトくらいしか使ったことがなくてあんまりよく分からないという人に、この本を読んでもらうといいんじゃないでしょうか。
深澤:そういう人に薦めるのはいいですね。
松本:でも、インターネットやパソコンにアレルギーがある人がまだいるということが分かったのは発見でした。周りの編集者はみんなパソコンを使っているので、そういう人種が出版やマスコミ業界にいるとは知らなかった。3、4年前ならまだ分かりますけど……。そういう人にとっては、この本も訳の分からないことやっているという感じなんでしょうか。
深澤:文化と日本語を壊す悪魔の手先とか思っているんでしょうね。ただ、画面上で読むために日本語が変わるとかいう部分は出てくるとは思いますけど。画面にあった日本語で、改行を増やすとか、そういう部分が出てくるのを、そっちに全部変わってしまうから困るというのはおかしいですよね。

作りたいホームページ

深澤:これからお二人はどんなホームページを作ろうと思っていらっしゃるんですか。
松本:鈴木さんはどんな内容のホームページを作られるんですか。
鈴木:仕事とは関係なく、近いうちに趣味のページを作ろうと思っています。アーサー・ランサム関係、図書館の関係、鉄道関係。それから、『日本の駅舎』という本を友達のカメラマンと作ったんですけど、それも写真がいっぱいあって、全部デジタルデータになっているので、できればそれも。マイナーなことでも趣味のことでもできるから、ホームページって面白いなと思っているので、その辺から、始めてみようかなと思います。
松本:私はオーソドックスに自分の紹介ということで、他の作家の人がやっているような、著作リストとか内容の紹介をやるつもりです。その他に考えているのは、ハーバード大学でコピーしてきた150年くらい前の古書を、OCRでテキストデータにするので、公開して世界中の英米文学者に使ってもらおうと思っています。18 世紀と19世紀の英文学ライブラリというほどではないんですけど、セレクションズという感じで、使ってもらえると思うんです。せっかく電子データにしても、うちのハードディスクに入れておくだけではもったいないですから。あとは、鈴木さんの話を聞いて思ったんですけど、世界中のいろんな文学の場所を訪ねて旅をして、撮ってきた写真が何千枚もあるので、写真をアップして紹介したい。あと、自分が使っている面白いサイト、文学や環境問題や着物やゲイやレズビアンの面白いサイトにリンクして飛べるようにしたいですね。

こんなホームページがほしい

鈴木:松本さんの小説も電子化できるといいですね。単行本で出ているから、難しいと思いますけど。
松本:まだちょっと難しいですね。
深澤:権利問題をどうするかが、日本ではなかなか……。しばらくは難しいでしょうね。
鈴木:本の著作権のシステムとバッティングしないで、もっとうまくできるようになるといいですね。電子化して読んでもらえるといい部分もあるわけですから。
松本:自分のホームページでは、最初の何ページかは出すとか。内容の紹介だけだと、分かりませんから。出だしが載っていると、感じが分かるじゃないですか。
深澤:出だしを載せるのはNIFTY-ServeのFBOOKCなんかで始めてますね。
鈴木:『やきものを買いに行く・東日本編』(平凡社)とか『旅先で寄る奇想博物館』(小学館)とか、今面白いガイドブックがいろいろ出てます。僕はそういう本が好きで見つけると必ず買うんだけど、そういうのってホームページになっているといいですね。JustNetの 「マスヒロのダイブル」 のような図鑑的なものがどんどんホームページになってくるといい。

松本:「Yahoo! JAPAN」 で見ても、日本の博物館や図書館はほんのちょっとしかないですね。
鈴木:僕の出した『図書館をしゃぶりつくせ!』(宝島社)という本も、続編を出そうという話があるんだけど、インターネットのほうが忙しくなっちゃって、なかなかできなません。それも、ホームページの形で始めたいですね。博物館や図書館や美術館がみんなホームページを作って、それとガイドブック的なページがリンクされるようになるといいでしょうね。
松本:アメリカってすごいですものね。 「Yahoo!」 で「library」で探したら、ひとつの州に何十、ずらっと市の図書館とかいっぱい出てきて、地図とか見取り図とか利用時間の案内とか、そこの持っている特別のコレクションの紹介がいっぱい載っていました。
鈴木:この間 「Yahoo! JAPAN」 で文学関係のサイトを探していたら、 日本中の文学碑を集めたページ がありました。それはそのページを作った人のお父さんが自費出版した文学碑のガイドを元にホームページにしたものなんです。作家の名前で引けるし、県別にもなっている。そういう一般の人が趣味でやっていることもホームページにできますよね。これからそういうページがどんどんできるといいなあと思います。僕も暇を見つけてやりたいですね。
松本:そういうページを作る人はこれからもっともっと増えるでしょうね。インターネットはもっともっと便利になりますね。
鈴木:研究している人だけじゃなくて、普通の人にもできることだから、ホームページを作っていくといいですね。

引用出典をホームページで

松本:「赤毛のアン」の中で探した引用出典は、英文でも出したいですね。それと、あまり売れないと思いますけど、「赤毛のアン」の原書と私の訳をまとめて、CD-ROM で出したいんです。「赤毛のアン」の原文そのものの版権は切れているので、CD-ROM にする前に、ホームページで出しちゃってもいいですね。私の翻訳は、集英社から出している単行本との問題がありますけど、英語なら問題ないですから。
鈴木:ホームページでやっちゃえば、CD-ROMにするのは比較的簡単ですよ。日本語を足すだけでいいですから。
松本:『赤毛のアン』で行ったところもいっぱい写真が撮ってあるので、やっぱりスキャナで入れたいですね。インターネットは情報を独占して密閉するんじゃなくて、公開してみんなで共有するものですし、私もそういう情報を使って「翻訳の世界」の連載を書いていますし。
深澤:インターネットで何かを手に入れている人は、それを戻していくっていう運動がないといけないですね。
松本:本当にそう思いますよね。私がインターネットで読んでいるような情報は、ビジネスで有料で出しているのではなくて、大学の人たちが研究のためとか、みんなに読んでもらういるためにやっているんです。研究なら自分のためということもあるけれど、やっぱりボランティアですよね。私も自分で調べたことを、みんなに使ってもらいたいなと思います。作品そのものを載せると本が売れなくなると思うかもしれないけど、載せ方だと思うんです。全部載せると駄目でも、エッセンスを紹介するとか載せ方を考えれば、活字と連動するんじゃないでしょうか。
鈴木:全文載せたって、それで本を買わないことはないと思います。図書館で借りて読むという人もいるんだし、買う人は買うんじゃないかな。雑誌連載と同じで、インターネットで順に掲載されていって、面白かったら本で買うみたいな。

サイン会や講演会の情報も

深澤:これからそうなりますよ。300ページもあるようなものを画面で読みませんもの。
大原さんのように、今まで読者じゃなかった人がホームページを見て、本を買ったということもあります。この間出した『SFバカ本』(ジャストシステム)でも、読者からそういうはがきが来ました。松本さんの読者は女性がメインですから、インターネットをやっている男性で、松本侑子という名前やイメージは知っていても、読んだことがないという人に読んでもらえるということはありますよね。
鈴木:松本さんが雑誌と並行してインターネットで連載をしたら、きっと新しい読者が見つかるでしょうね。
松本:ホームページには著作リストだけじゃなくて、現在連載中の雑誌も入れたほうがいいですね。
鈴木:サイン会や講演会も載せましょう。
松本:いや、サイン会や講演会は恥ずかしくて……。
深澤:載せたほうがいいですよ、ホームページ見て来ましたって人がいたら面白いじゃないですか。
鈴木:ホームページは新しい情報が載ってどんどん更新されないと、2回目に来た人が全然変わっていないって、それきり来なくなりますから。
松本:それなら、連載で次の号に何を書いたかというのも入れて。幸い私はこれからいろいろと本が出ますので、そういうのも入れることにしましょう。
(1996年10月31日・松本宅にて)


The Pigeon Postの表紙に戻る