月刊『裏モノJAPAN』連載中
〜他人の会話は密の味〜耳をすませば

Vol.4 キャバクラ嬢vs客  
 1月下旬の某日。珍しいブツを採取した。キャバクラ嬢と客の同伴現場の会話だ。場所は歌舞伎町からほど近い、靖国通り沿いのギョーザ居酒屋である。その日、オレは午後3時頃から新宿で取材仕事があり、ちょうど6時頃にフィニッシュ。担当編集者が「ひと口ギョーザがけっこういける店が近くにあるんですよ」と、のたまうので、軽く打ち上げるべく出向いたのである。こぎれいな店内には開店直後だからか、数組の客しかおらず、閑散とした感じだったが、我々が通されたテーブル席のナナメ前に座っていたカップルが、異様な空気を発していることにすぐ気付いた。

 男のほうは茶系のチェックのジャケットに紺色のスラックス。油っぽい頭を7:3に分け、バックは刈り上げている。もちもちした体つきのうえにメガネをかけていて、見るからにオタクッぽい。岸部シローによく似ている。年は30代後半ってところだろだ。女のほうはグッと若く(会話の内容からハタチと判明。もちろん自称だが)、全身真っ白で決めていて、頭はアップにしていた。ちょっとしゃくれ気味ではあるが、よく見ればオセロの白いほうに似てなくもない。……ま、十人並みのギャル顔だ。ちなみに自分の一人称をアユミと言っていた。

 この謎カップルを見て、オレは一目でピンと来た。時間帯からみても、これは明らかに同伴だ。このまま食事をして、7時か8時の開店時間に一緒に入店するのだろう。面白そうなので連れには悪いがミミスマ根性を発揮し、ICレコーダーを取り出して採録開始。耳をそばだてると案の定それ風の会話が聞こえてきた。

 とにかく男の様子がおかしい。ちょっとでも、女に機嫌を損ねられるとビビッて「ごめんごめん」を連発。マンガのキャラクターのように、まさにハッキリと「オタオタ」しちゃうのだ。女のほうは恐らく干支が一回り以上するくらい年の離れた男に向かって、当然のようにタメ口をきいていた。んでもまあ、こういうのは敬語だとかえって変なのかもしれないな。
 一通りギョーザをたいらげると、二人はいそいそと退店した。このあと、また高い金を払って同じ女を横につけて安酒を飲むんだから、ハタから見たら「なーにやってんだか」ってなもんだ。それでも本人には「このキャバスケを絶対口説き落とすぞ!」ってな意気込みで燃えているもんだから、外野が何を言ってもムダなのでしょうな。

 それにしても、乳もみ、ディープキスは当り前の過激おさわり系の大躍進で、すっかり普通のキャバクラが片隅に追いやられた感のある歌舞伎町で、いまだにバブル期のような、ごく普通の同伴出勤をやってるキャバクラがあることを再確認した次第だ。

 男がレジで支払いをしている最中に、オセロの白似のキャバスケが携帯に向かって「今日は強制同伴日でさぁ、大変なんだよ、なかなか同伴してくれる客がいなくてさぁ」とグチッているのが聞こえてきた。同伴につきあい、2000円ばかしの指名料払って、夜な夜な通い詰めて……、それでもあの中年男は指一本あの女に触れることはできないのだろう。くぅ〜、なんだか悔しいじゃないか。

 男たちよ、もうキャバクラには夢のかけらなんか落ちてやしない。ちまちま薄い水割飲んで小銭を落とすよりも、指入れOKのプスパブで即物的な夢を果たそうじゃないか!



シロー きょうはお昼は何やってたの?
アユミ え、べつに……寝てたよ。
シロー ははは。最近お店は忙しい?
アユミ うーん、ひまだよ。月末くらいしか全然忙しくない。◯◯さん(←岸部シロー似男の名前)もあんまり来てくれないしぃ〜(イタズラっぽく)。
シロー あー、ごめんごめん、ちょっとここんとこ忙しくてさ。
アユミ まあ、いいけどね。
シロー 来週も極力顔出すよ。
アユミ あ、アユミ来週いないよ。
シロー え、なんで?
アユミ 旅行行くんだ、グアム。
シロー あ、そうなんだ……。
アユミ もちろん女のコとだよ。
シロー いや、べつに誰と行こうがいいんだけど(全然よさそうじゃない)。あ、これおいしそうだよ、食べる?
アユミ 食べる食べる〜。
(この後、メニューに見入るシロー。急に目薬をさしだすアユミ。妙な沈黙が場を支配し始める)
シロー ……お酒はもういい?
アユミ 仕事前だからやめとく。
シロー そうだね。じゃあ、僕もやめとこうかな。
アユミ 気にしなくてもいいよ、飲みなよ。
シロー お店行ってから飲むよ。
アユミ あ、この間入れたスダチ酎がまだ残ってるよ。あれ結構おいしいよね!
シロー ああ、うん、いけるよね。
アユミ 私けっこう焼酎ってダメな人だけど、あれだと飲めるんだよね。
シロー じゃあ、またボトル入れるよ。
アユミ うん、入れて入れて。
シロー そういうのもポイントになるの?
アユミ またそういうこという〜。
シロー ごめんごめん、そんな意味じゃないんだけど(マジで焦ってる)。
アユミ あのお酒はさ、うちのナンバーワンの娘が好きなやつなのよ。それで、強引にマネージャーにボトルにスダチ酎を加えさせちゃったの。ふふふ。すごいでしょ。
シロー ナンバーワンの娘って、どの娘?
アユミ ほら、あの長い黒髪でやせててさ、わかんない?
シロー なんとなくはわかるけど。
アユミ あの娘、田中美佐子に似てなくない?
シロー そういえばなんとなく……高樹沙耶にも似てる。
アユミ 誰それ?
シロー えっ、ほら『チンピラ』って映画に出てた……。
アユミ そんなこと言われてもわかんないよ。
シロー 顔見れば知ってると思うけどなあ。
アユミ でね、あの娘ああ見えても28歳なんだよ。すごくない?
シロー へー28かあ。
アユミ アユミの8コ上だよ。それでナンバーワンなんだからすごいよ。色白くて可愛いし、細いし、お酒ガンガン飲んでも平気だしさぁ。尊敬しちゃうよまったく。でね、新潟出身なんだって。新潟って美人が多いって言うよね。
シロー 新潟かあ。オレの出身地の近くだ。
アユミ あ、そうなんだ。どこなの?
シロー 当ててみな。
アユミ えー、アユミ全然地理とか苦手なんだよ。新潟って日本海とかあっちのほうでしょ?
シロー そうだよ。
アユミ わかんないよー行ったことないし。何が有名なの?
シロー ホタルイカとか(笑)。
アユミ なにそれ。ますますわかんない。
シロー じゃあ、最大のヒントあげようか。でもこれ言ったらすぐわかっちゃうからなぁ。まあ、いいか。クスリで有名です。
アユミ はあ? クスリで有名な県なんてあるの? あ、マツキヨ発祥の地とか?
シロー ……本当にわかんないの?
アユミ さっきからわかんないって言ってるじゃん。
シロー 富山だよ富山。
アユミ 富山?
シロー 答えを聞いてみたら、なーんだって感じでしょ。
アユミ 富山なんて県あるの?
シロー え、富山知らないの?
アユミ 初めて聞いた気がする。どこ?そこ?って感じなんだけど。
シロー ……ああ、そう。
 
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