「草野球の窓」
第11章
「スポーツ貧血」

 スポーツが原因となって起こる貧血を「スポーツ貧血」と呼びます。本来健康に寄与するためのスポーツで不健康になってしまうのは何とも悲しいことです。しかし、スポーツ貧血に対する知識を身に付けておけば、予防することも、症状を改善することも可能です。

貧血の種類
 貧血には原因別にいくつかの種類があります。大きく分類すれば以下のようになります。

(1)出血性貧血:体から血液そのものが失われることによる。
(2)溶血性貧血:体内で赤血球が破壊されることによる。
(3)鉄欠乏性貧血:酸素を運搬するヘモグロビンの働きに必要な鉄分の不足による。
(4)再生不良性貧血:赤血球を造る能力が低下することによる。

 このうち、スポーツで引き起こされる貧血は、(2)溶血性貧血と(3)鉄欠乏性貧血の二つです。

溶血性貧血とは
 赤血球は酸素を運搬するという重要な役割を担っています。その赤血球が壊れてしまうことは「溶血」と呼ばれ、このために引き起こされる貧血を「溶血性貧血」といいます。
 赤血球は薄い生体膜一枚でできていますので、比較的容易に壊れます。壊れる原因はいろいろありますが、スポーツ時に溶血が起こるのは、足底を地面に強く踏みつけることで毛細血管内の赤血球が破壊されるためと考えられています。かつて「行軍血色素尿症」と呼ばれたものはまさしくこの溶血によるものと言えます。もちろん短時間の運動で起こるものではありませんが、マラソンや長距離歩行などでは footstrike hemolysis として知られています(1)

鉄欠乏性貧血とは
 鉄分が貧血にいいということは一般知識として広く知られています。赤血球にはヘモグロビンという酸素運搬体が含まれていますが、このヘモグロビンはヘムという酵素が4分子集合してできています。鉄分子はその4分子の中央にどうしても必要な金属で、鉄欠乏をきたすとヘモグロビン集合体が形成できなくなります。ヘモグロビンは別名血色素ともいいますが、赤血球数は十分ありながら血色素量が少ないという、低血色素血症をきたすことになるのです。
 しかし、鉄分は赤血球の中だけに存在するわけではありません。赤血球中に存在する鉄分は体全体の約67%と言われ、その他肝臓や脾臓に約27%貯蔵されています。この貯蔵鉄を使い尽くすと貧血症状を呈するようになってしまいます。つまり、一時的な鉄欠乏ではなく、鉄欠乏状態が慢性的に続くと発症するもので、その意味で日常の食生活と非常に密接に関わっていると言えます。

スポーツ貧血の症状と判断
 スポーツ貧血が判明するのは多くの場合、頭痛、めまい、腹痛、疲れ易さ、などの自覚症状であると言われます。慢性的に進行していくので、自分自身では判断が曖昧になりがちですが、学校や会社などの健康診断で血液検査がある場合、その測定結果は客観的な判断材料となります。
 RBC(赤血球数;10^6/ul)、Hb(ヘモグロビン量;g/dl)、Ht(ヘマトクリット値;%)の3つのデータがあれば、以下のように自分で指数を計算することができます(2)

  MCV(平均赤血球ヘモグロビン量)=(Ht × 10)/ RBC

  MCHC(平均赤血球ヘモグロビン濃度)=(Hb × 100)/ Ht

 MCV値が80未満、かつMCHC値が30未満であれば、鉄欠乏性貧血の可能性が高いと判断されます。さらに詳細に鑑別診断するには血清鉄なども測定する必要があります。しかし、血清鉄は健康診断レベルでは測定項目でないことが多いので、上記のデータと最近の食生活や体調を総合して自己判断することになります。

スポーツ貧血への対応
 スポーツ貧血は決して避けられないものではありません。日常生活において「鉄欠乏」を、長時間運動時において「溶血」を意識することで予防・治療が可能です。
 思春期のスポーツ貧血患者については、鉄剤を服用することで1ヶ月後ぐらいから改善が見られ、持久力などが向上したとの報告があります(3)。鉄剤を含め、食品として摂ることができる鉄分には、ヘム鉄と非ヘム鉄の二種類に分けることができます。ヘム鉄は上述のヘムに結合した形の鉄で、非ヘム鉄はそれ以外の、例えばクエン酸第二鉄などの単なる鉄化合物を指します。両者の吸収性には大きな差があり、特に非ヘム鉄はいろんなものに影響されることがわかっています(4)肉、魚、ビタミンC、クエン酸などは非ヘム鉄の吸収を助けますが、逆にタンニン(例えばお茶)、小麦胚芽などは吸収を妨げてしまいます。アルコールはわずかに吸収を助ける作用があるようです。ワインは非ヘム鉄の吸収を著しく促進しますが、これはアルコールの作用ではなく、そもそもワインの鉄含量が多いということのようです。
 溶血への配慮は、なんといっても足への衝撃を和らげることが第一です。最近ではショックアブソーバー内蔵の靴が多く出ていますから、それらを利用することは対策の一つとなるでしょう。また、足底の毛細血管は起床からしばらくは拡張傾向にあるらしく、そのため早朝に足に負担がかかる運動を行なうことは避けた方がいいという指摘もあります(3)。早朝ジョギングや早起き野球を楽しんでらっしゃる方々は、足への負担の軽減を意識されてはいかがでしょうか。

(初版2002.3.14)


【参考資料】
(1)「スポーツと貧血」西里卓次ら, 日常診療と血液, Vol.6,No.4,1996
(2)「臨床病理学入門」, 医歯薬出版, 1990
(3)「鉄欠乏貧血とスポーツ活動」, 北島晴夫, 小児科診療, No.10,1999
(4)「最新栄養学」第5版, 健帛社


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