ブルキナファソ→フランス


3月25日(土)

 昨晩から発熱してきた。37.6℃ぐらい。早朝になって熱は一旦下がったが、起床してしばらくするとまた熱が上がって来た。38℃ある。パキスタン以来続いている風邪のせいかもしれないし、単なる疲れかもしれないが、「マラリア」の4文字が頭をよぎる。悪性マラリアの初期の体温ぐらいだ。もしそうだとすると、一刻も早く手を打たないと生命に関わる。その場合、発熱開始から48時間以内に治療を始めないと、助からないことが多いらしい。

 マラリアには、3日熱、4日熱、卵型と呼ばれる良性マラリアと、熱帯熱と呼ばれる悪性のマラリアとがある。良性のマラリアの場合、40℃近い熱が突然出て、激しい悪寒があり、数時間後に大量に発汗して体温が下がる、という症状を一定の周期で繰り返すので、素人にもすぐにマラリアと分かるし、この種のマラリアで生命に関わることは稀であるので、少々治療開始が遅れても大事無い。問題は、熱帯熱マラリアである。これは、初期には37℃台の発熱しか引き起こさず、しかも悪寒戦慄を伴わないらしい。さらに悪いことに、時に、吐き気、咳、下痢、腹痛などの症状を伴うのだそうだ。こうなると、一見インフルエンザと区別がつかない。インフルエンザのような症状はおおむね48時間続くが、その48時間の間に適切な治療を施さないと急激に悪化して、早ければ悪化してから24時間、すなわち発熱開始から72時間で死に至るという恐ろしい病気である。

 単なる風邪かもしれないので、もう一日様子を見るかどうか考えたが、発熱は昨晩からなのですでに12時間は経過している。もし熱帯熱マラリアならば、様子を見ているような余裕はない。それに、明日は日曜日である。万一、医療機関が休みだったら、大変なことになる。月曜朝では、発熱開始から48時間を過ぎている。

 フロントに事情を話すと、やはり病院に行くことを勧められた。土曜日だがやっていると言う。病院に行った方がいいことは分かるが、マラリアかどうかの診断には、血液検査が不可欠である。アフリカで血液検査を受けて、そのためにもしエイズになったりしたら、泣くに泣けない。フロントで聞くと、絶対に信頼できる病院があるという。ホテルの従業員が一人付き添ってくれ、タクシーで病院に向かった。

 病院の名前は、Clinique Notre Dame de la Paixといい、郊外のかなり遠いところにあったが、中に入って安心した。きれいな病院だったからだ。まず、問診代10000フランを払う。体温、血圧などを測り、カルテを作る。続いて、医師の問診。いかにも聡明そうな若い医師であったので、もう一度安心。ただ、英語は話さないので、フランス語で病状を説明するのにやや苦労した。10日前から風邪をひいていること、喉の痛み、鼻水、咳、痰はあるが、吐き気や下痢はないということ、発熱もずっとなくて、昨晩になって突然発熱したことなどを説明し、
「単なる風邪ならかまいませんが、偶然にも風邪とマラリアとに同時に感染したとすると大変なので来ました」
と言うと、
「それは、君の症状を聞いていて私が最も心配したことだ」
と医師は言った。
「実は、サバリン(マラリア予防薬の一種)は持って来てはいたのですが、飲んでなかったんです」
と言うと、
「どうして飲まないんだ。外国人はマラリア予防薬を絶対に飲まないといかん」
と怒られた。そして、淡々とした口調で、
血液検査が必要です
と言われた。

ギニアのコナクリで25000ギニアフランで買ったサバリン(マラリア予防薬)。マラリアを媒介するハマダラ蚊はこの絵の様に、頭を45度下げてとまるのが特徴。この蚊は主に夜間に活動し、ほとんど羽音をさせずに飛ぶ。

 マラリアの検査費は1000フラン。それに、白血球数など普通の血液検査もするので、それが3500フラン。合計4500フラン。採血室に行く。採血する注射器は、使い捨てのものを目の前で袋から取り出して使っていたので安心。院内にはあちこちに「エイズ感染を防ごう」というポスターも貼ってあるし、医師の中にはヨーロッパ人の医師も2人おり、患者もヨーロッパ人が数人いた。こういう病院ならば信頼できる。

 廊下で待っていると、約10分で検査結果が出た。マラリアはシロ。診断は単なる風邪であった。医薬分業なので、処方箋を書いてもらう。抗生剤、去痰剤、抗炎症剤を処方された。医師にお礼を言って帰ろうとすると、
「今回マラリアは出なかったけれども、サバリンは必ず飲みなさい」
と念を押された。

 帰りに薬局に立ち寄って薬を買う。思ったよりも高く、20435フラン。タクシー運転手にはチップ込みで10000フラン、付き添ってくれたホテルマンには、チップ5000フランを渡した。

 昼、体はまだ重いが食事に出て行く。近くのビストロでサンドイッチ二つと紅茶600フラン。コーラ大(500ml)275フラン。午後からずっとホテルで休養。

ワガドグ市内。

同上。


3月26日(日)

 熱は下がった。午前中、市内を見て歩く。日曜なので、人通りもまばら。いろいろ歩いて、昼前に帰って来た。昼食は近くの屋台でスパゲッティー300フラン。

魚の薫製を売る人々。

スパゲッティーを食べた屋台のおばさん。

 午後、部屋で休んでいると、また気分が悪くなって来た。再び発熱。夜まで熱は下がらず。


3月27日(月)

 今日は帰る日だが、風邪は結局治らなかった。パキスタンでえらいものをもらって来たものだ。こんなにこじれる風邪だとは予想だにしなかった。

 咳と鼻水はまだ出るが、熱は下がっているので、歩いて15分ぐらいのところにある郵便局に行ってはがきを出す。博物館にも行きたいが、大事を取ってやめ。それに、そもそも月曜は休みかもしれない。

羊肉の串焼き。

 昼食はホテルで鶏の料理を頼んで6200フラン。午後からまた発熱。夕方まで部屋で寝る。

 午後6時、ホテルをチェックアウト。従業員は皆、「もう体の具合は良いのですか」と聞いてくれる。みな親切である。

 ホテルから歩いて空港まで行った。近道をしたので、歩いて10分で空港に着いた。熱があってもこれくらいなら歩ける。空港18時10分着。エールフランスのAF739/DL8579便でニアメーを経由してパリまで。やはり、デルタ航空との共同運航便である。

 20時15分、定刻にワガドグを出発。ニアメーまでわずか45分のフライト。乗っていると、汗が出て来て、熱が引いていくのが分かった。気分がすっきりして来た。風邪が良くなってくれるとありがたい。周囲を見渡すと、乗客は30人もいない。機内はガラガラ。

 ニアメーに22時15分到着。時差が1時間ある。着陸は非常に下手くそ。乗客が座席から飛び上がるくらいの衝撃があった。ワガドグから来るときは乗客が少なかったので、これはラッキーと思っていたら、ここニアメーでわんさか乗って来て、満席になった。でも、隣に来たのはニジェール人の若いマドモワゼルだったので、まあいいことにしよう。

 1時間30分停まって、23時50分出発。我々の飛行機が滑走路の手前で待機していると、リビアアラブ航空機が着陸して来た。トリポリから来たのだろう。それと入れ替わりに我々のエールフランス機は離陸、一路パリを目指す。パリまで5時間。夕食が出る。食事が終わると、すぐに寝てしまった。


  


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