マレーシア→タイ


12月29日(月)

 朝起きたら、8時前であった。シャワーを浴びて出発。バスターミナルまで行って、KL行きの列に並ぶ。昨日と違い、列は長くなかった。切符は車内で買って、RM3。高速道路を経由するので、約1時間でKLに着いた。本当ならば、Pudu Raya通りのバスターミナルが終点のはずだが、乗客の一人のオバタリアンが、自分の行くところまでバスをタクシー代わりに使おうとして、運転手にそう言ったらしく、バスはブキット・ビンタン通りの近くの小さな路地のど真ん中で停まった。こっちは、とにかく終点まで乗っていればバスターミナルに着く、と思っていたから、変なところで「降りろ」と言われ、訳も分からないままにバスを降りる事になった。

 その辺をうろついているうちに、ブキット・ビンタン通りに出た。少し歩くと、伊勢丹があったので、ついでなので、同僚の先生に聞いたとおりに、インビ通りまで出て行って、パソコンショップの集まるインビプラザまで行った。主に、1階と2階とにパソコンショップがある。地下にも、1軒だけパソコンショップがあった。

 インビプラザを見た後、歩いて鉄道駅まで行ったが、コタバル行きは、やはり今日、明日とも全て売り切れ。明後日も残席わずか。これではどうしようもないので、コタバル行きは本当に諦めて、続けて北上することにする。そこでバスターミナルまで戻り、13:30発のバタワース(Butterworth)行きを買う。RM18。とても安い。バスがなかなか来ず、大分待たされたが、14:15に出発した。来たのは大型のエアコンバスで、イポー(Ipoh)経由でバタワースまで行く。イポー16:45着。10分停車。バタワース18:45着。バスターミナルの食堂で夕食にする。フェリーは60セント。約10分でペナン(Penang)島のジョージタウン(Georgetown)に着いた。

 ジョージタウンはマレーシアの他の町と異なり、「いかにも中華風」の街並みをしている。持ってきたガイドブック(Lonely Planet)に、New China Hotelがいいと書いてあったので行ってみる。1泊RM20で安いことは安いが、フロントのおやじの愛想も悪く、建物はあばら家のようで、部屋も汚そうなのでやめて、ペナン通りにある白宮旅社に泊まることにした。エアコンなしRM25、エアコン付きRM35。とりあえずエアコン付き2泊にした。

ジョージタウンの市内。


12月30日(火)

 何はともあれ、まず最初にやらなくてはならないことは、タイのビザ申請である。空路でタイに入国するときはビザが不要だが、陸路で入国するときは、ビザが必要ということになっている。タイ領事館は、マカリステル(Macalister)通りのYMCAの更に先にあるとガイドブックには書いてあったので、朝8時にホテルを出て、マカリステル通りを歩く。途中、YMCAと領事館とを探しながら歩いたが、見つからない。途中のホテルで聞いても分からない。

 そこで、一度市内に戻って旅行代理店で聞いてみた。少し料金は高いかもしれないが、その方が手っ取り早い。ある旅行代理店で聞くと、明日から1月2日までの3日間タイの領事館は休み、1月3日、4日は土日に当たるので、今日申請しても、受け取りは5日になるという。それでは余りに遅い。それなら、ビザ無しで国境まで行ってみようかとも考えた。陸路入国の場合ビザが必要、と言うのはあくまで建て前で、実際には、ビザ無しでもマレーシアから入国できることが多い、という情報もあるからだ。実際、アロールスタール(Alor Setar)からタイのハッジャイ(Hat Yai)に抜けるルートなら、ここを通る旅行者も多いから、もしかするとビザ無しで通れるかもしれない。

 しかし、今考えている、クアラプルリス(Kuala Perlis)からモーターボートで河を渡ってタイに入るルートの場合、ビザを取っておいた方が絶対良い。こういう変わったルートでは、融通が効かないことが多いからだ。ビザ無しで行って入国できなくて、すごすごとまたペナンまで戻ってくるのは無駄である。

 念のために、もう一軒別の旅行会社に当たると、今日申請、明日受け取りは可能だという。タイ領事館は、明日も平常通り開いているというのである。先ほどの旅行社と違うことを言っている。どっちを信用していいのか困った。結局は、領事館に自分で申請に行って聞くのが良いと思い、住所を聞いて、タクシーに乗った。RM12。実際はRM10で良かったようで、交渉に失敗した。

 領事館は市街地からかなり遠く、郊外の高級別荘地の一角にあった。Jl. Macalisterをただふらついているだけで辿り着けるようなところではなかった。入ってすぐのところにビザセクションがある。聞くと、明日受け取り可能だと言う。OKである。"Tomorrow morning?"と聞くと、"Tomorrow afternoon!"と怒ったような口調で怒鳴り付けられた。申請書に記入し、写真2枚を渡し、ビザ申請料RM33を支払う。

 払ってから窓口に張ってある紙を見ると、1ヶ月有効のトランジットビザはRM22と書いてある。ツーリストビザは3ヶ月有効でRM33である。しまった。トランジットビザのことをてっきり忘れていた。何も考えず、申請書のビザのタイプの所に"Tourist"と書いてしまったのである。タイに3ヶ月もいるわけはないから、トランジットビザで充分であった。RM11の損。タクシーに続いて、ここでもポカをやって、いくばくかのお金を損してしまった。

 帰りは、道をてくてく歩いて帰ることにした。明日の受領の時は死んでもタクシーなど使わないから、道を憶えておかなければならない。少し歩くと、"Island Hospital"があった。外観からは、日本にもないような近代的な病院に見えた。更に少し歩くと、学校があった。ここを右折すると、Jl. Burmaに入るので、後はまっすぐ歩くだけで市内に戻れる。歩くと、全部で40分近くかかった。

 さて、ビザ申請が出来たので、昼からは観光である。蛇寺を見に行こうと思い、シャングリラホテルの近くのバスターミナルまで行き、66番バスを待つ。ところが、来るのは、ペナンヒル(Penang Hill)方面のアイルイタム(Air Itam)行きバスばかりで、蛇寺に行く66番バスは一向に来ない。30分以上待ったが、やはりバスは来ない。あと5分待って来なければ、ペナンヒルに行こうと思って待っていると、丁度5分目にバスが来た。

 蛇寺までRM1.15。まあまあ面白かった。入場に際し、寄付をしろと言われたので、賽銭箱にRM0.05だけを入れると怒られた。寺では、線香売りのにいちゃんとかなり長い時間駄弁っていたので、市内に帰ってきたのはかなり遅くなってしまった。その線香売りのにいちゃんが、

「今日は特別な日なので、ある催し物が今晩浜辺であるから、夜になったらビーチに行って見ろ。何があるかは、行ってみれば分かる」

と教えてくれたが、ビーチには行かなかった。夕方、散髪に行った。RM10。余りうまくない。

ヘビ寺にて。


12月31日(水)

 8時に出発。今日はペナンヒルに行きたい。昨日のバス乗り場まで行って、アイルイタム行きのバスを待つ。昨日66番バスを待っているときは、アイルイタム行きは腐るほど次から次へと来たのに、今日は1台も来ない。結局、乗ったのは9時前であった。料金RM0.80。

活気のあるアイルイタムの市場。

 終点のアイルイタムは、市場があって賑やかなところである。ここでは極楽寺を見る。これはかなり大きな寺であった。しかし、寺自体は100年ほど前に建立されたもので、大昔からの由緒ある寺というわけではない。しかも、最初は田舎の小寺に過ぎなかったものを、タイガーバーム財閥の資本を導入して、最近大規模に拡張したものらしいから、単なる金儲けの場所にしか過ぎない。ここでは、本堂と仏塔に上がるには、RM2を支払う必要がある。

 寺を30分ほど見て、市場まで戻って来ると、ペナンヒル行きのバスが来ていた。ケーブルカー乗り場までRM0.30。歩いても大した距離ではなさそうだった。ケーブルカーは往復でRM4。行くと、丁度ケーブルカーが出たところだった。ホームで待っていたが、次のケーブルカーは一向に来ない。そのうち、日本人の家族連れが来たが、母親と子供とがずっと口げんかをしていて、横で聞いていて感じが悪い。かなり経ってからケーブルカーが来るには来たが、今度はいつまで経っても発車しない。結局、山頂に着いたのは11時5分であった。ケーブルカー乗り場に来たのが大体10時ごろであったから、1時間も待たされた事になる。

ペナンヒルではケーブルカーに乗った。

 山頂では、ヒンズー寺院やイスラム寺院を見た。展望台からは、ジョージタウン市内は勿論のこと、対岸のバタワース市内も見渡すことも出来る。山の上を半時間ほどぶらついて、また、ケーブルカーで下に降りる。アイルイタム方面への分岐点(記念碑のあるところ)まで歩いて戻り、そこからバスで市内に戻ることにした。途中、「妙香林寺」という寺があったが、見ていると、タイ領事館に行くのが遅くなりそうだったので、諦めた。パスポート預り証には、受け取りは午後2時から3時までと書いてある。

ペナンヒルのモスク。

 バス停でバスを待っていると、中国系と思われるオッサンが、

「お前は日本人か?」

と英語で聞いてくるので、中国語で答えようと思ったが、そのオッサンの顔を見ると何か文句ありげだったので、中国語はやめて英語で

「そうだ」

と言うと、

「ワシはアメリカが大嫌いだ。アメリカは、自分らさえ良ければいいと思っとる。他の国のことは、どうなっても良いのだ。それだけならまだしも、我が国を始め、東南アジアの諸国が経済成長をしようとすると、あらゆる手を駆使してそれを潰しにかかる。全くタチの悪い国だ。そのアメリカと手を組んで、ASEAN諸国潰しをしているのがお前ら日本だ。わかっとるか。お前らのせいで、ワシらがどんなに迷惑を被っとるか。今の日本経済を見て見ろ。大手証券会社や銀行がどんどん倒産しとる。他の国を潰そうとしとるから、バチが当たって、自国が潰れる羽目になったのだ」

と吐き捨てるように言って、バスに乗っていった。こっちも頭に来たので、後ろから、

「マレーシアリンギットはどんどん下がっとるやろが。えらそうなこと言うな」

と言ってやった。

 市内に戻ってから、タイ領事館に直行しようかと思ったが、一度ホテルに戻った。昨晩までの分しか宿代を払ってなかったので、もう1泊分払っておこうと思ったからである。昨日も一昨日も、クーラーを入れると寒すぎたので、今日はクーラー無しにしようと思って、フロントでそう言うと、
「RM30です」
と言うので、
「それはおかしい。RM25のはずでしょう」
と抗議すると、
「あれ、そうでしたっけ」
ととぼける。そのくせ、RM25にはしないと言う。一昨日チェックインしたときとは違う人だったので、人が交替するまで待つことにして、タイ領事館に先にいくことにした。

 やはり40分くらい歩いて領事館まで行った。行ってみると、ビザの受け取りに来た人で列が出来ていた。帰りも、やはり40分歩いて市内に戻ってきた。そのあと、観音寺や要塞蹟を見た。

 夜、フロントの人が交替していたので、RM25払って、延泊手続きをする。


平成10年1月1日(木)

 朝食後、荷物を担いで出発する。ペナン島は居心地が良かったので、立ち去るのは残念だが、かと言って、主要ヶ所はすでに見終わったし、ぐずぐずしていても仕方ないので、今日出発することにした。

 その前に、ホテル近くの私設両替商の所に行った。タイバーツを手に入れるためである。今から越えようとしている国境は、割合小さい国境のようなので、両替所があるかどうかわからない。念のために、ここでタイバーツを用意していった方が無難だ。観光地ペナンには両替所はたくさんあるが、他の所に行くと、銀行しかないかもしれない。元旦で銀行は閉まっているだろうから、ここで替えておくことにする。ペナンでは、元旦にもかかわらず、両替商は開いていた。ほとんどがインド人の経営で、リンギットからバーツへの両替は勿論のこと、日本円と米ドルのまぜこぜを、5割はマレーシアリンギット、3割はタイバーツ、残り2割はインドネシアルピアに両替する、と言ったような複雑な多重両替も難なくこなしてしまう。

 バーツが手に入ったので、フェリー乗り場に向かった。バタワース行きのフェリーは無料。半島→島の時だけ料金を取るようである。バタワースのバスターミナルで、アロールスタール行きに乗り、約1時間でアロールスタールに着く。RM3。

 チャンルン(Changrun)からタイのハッジャイに抜けるルートは普通で面白くないから、クアラプルリスからモーターボートでプルリス河を渡ってタイに入ることにして、クアラプルリス行きのバスを探す。聞いてみると、ランカウィ(Lankawi)島行きのバスはあるが、クアラプルリス行きは無いとのことであった。ランカウィ島に行くには、クアラプルリス港からフェリーに乗るはずで、ランカウィ島行きのバスに乗ればクアラプルリスにも行けると思うのだが、どういうわけか、クアラプルリスに行く直行バスは無いと言われた。クアラプルリスに行くには、まず市バスでバル(Baru)まで行き、郊外バスに乗り換えてそれでカンガル(Kangar)まで行って、更にそこからクアラプルリス行きに乗り換えるのだそうだ。つまり、2度乗り換えなければならない。

 まず、209番のバスでバルまで。バルのバスターミナルに着くと、隣にカンガル行きの急行バスが停まっていたので飛び乗った。RM2.60。カンガルまで1時間かかった。思っていたよりも遠い。

 着いたカンガルは、割合大きい町であった。すぐに乗り換えてクアラプルリスまで行っても良かったが、カンガルも面白そうな町なので、予定を変えて、ここに1泊することにした。町中を一通りぐるっと廻り、一番安そうな旅社に行く。RM25。部屋はまあまあ。タイ人青年が1人で経営していて、タイ語と片言のマレー語しか話さないので、コミュニケーションに苦労する。

カンガルのヒンズー教寺院。

 午後から、プルリス州立博物館に行った。訪問者名簿を見ると、今日来たのは自分だけであった。そのあと、ヒンズー寺院とイスラム寺院とを見に行った。今日は元旦なので、これで初詣の代わりにでもしておこう。

どこに行っても果物は豊富。


1月2日(金)

 昨晩は、蚊でほとんど寝られなかった。ここの旅館はえらく蚊が多い。

 午前中、家にお土産として、マレーシアの民族衣装を買いに行った。普通はまず布を買い、さらにそれで仕立ててもらうらしく、合計でRM100くらいはするそうである。こっちは、今日にでもタイに入りたいのに、今から仕立ててもらったのでは間に合わない。そう言うと、出来合いがあるから、それから選んだらと店の人が教えてくれた。しかも、出来合いのものなら、RM30〜40で良いとのことであった。これは、本来オーダーメードなのだが、オーダーしたまま取りに来ない人がいるので、3ヶ月を過ぎると、出来合い品として格安で売りに出すからだそうである。そこで、一着をRM40で買った。

マレー料理のレストラン。

 そのあと、一般バスターミナル(カンガルには、急行バスターミナルと一般バスターミナルとがある。昨日着いたのは急行バスターミナル)に行って、カキブキット(Kaki Bukit)行きを探す。昨日州立博物館に行ったとき、「わが州の観光名所」の展示を見て、カキブキットにはグアクラム(Gua Kelam)という鍾乳洞があることを知ったからである。バスターミナルで聞くと、タイとの国境の町パダンブサール(Padang Besar)行きが、カキブキットを経由しているので、それに乗ればよいと教えてくれた。カキブキットからグアクラムまではタクシーかな、と考えていると、実は、このバスはグアクラムの真ん前で停まることが分かった。RM2。カキブキットまで行かなくともよいのである。鍾乳洞はRM1。鍾乳洞自体は、大したこと無かった。

鍾乳洞グアクラム。

 さて、ここからどうするかであるが、パダンブサールから国境を越えるのは、鉄道で国境を越えるのと同一地点であるから、全く面白くない。始めはクアラプルリスまで行って、モーターボートで国境を越えようと思っていたが、カンガル市内からならともかく、ここグアクラムからカンガルまで戻ってからクアラプルリスまで行くのは遠いし、かと言って、パダンブサール経由は面白くないし、ここは一つ、昨日から考えていた案、ワンクリアン(Wang Kelian)からタイのサトゥン(Satun)へ抜けるルートを取ることにした。これも、昨日州立博物館にあった、「わが州の地理」の展示を見て、道があることを知ったものである。このルートを通る外国人は、きっと少ないに違いない。

 みやげ物屋のおやじに聞くと、確かにワンクリアンからタイのサトゥンに通じる道はあるにはあるが、バスは通っていないので、タクシーに乗るかヒッチハイクするしか行く方法はないと言う。ここから国境までは12km。歩いてやろうかとも思ったが、国境からサトゥンまで更に30kmと聞いてやめた。

 しばらく待っていると、タクシーが1台通りかかった。聞くと、国境までならRM15で行くと言う。RM10に値切ってみたが、国境から帰りの客が捕まる可能性が無いので、RM15は譲れないという。サトゥンまではいくらか聞くと、パスポートが無いので、タクシーは国境を越えられない、との答えであった。国境まではこのタクシーで行けるとしても、国境からサトゥンまで、タイ側にタクシーがあればよいが、もし無ければピンチだ。国境からサトゥンまでは30kmもある。とても歩けない。そこで、国境まで「往復」でRM15、但し、タイ側にタクシーがあれば、帰路は放棄する、と言う条件を提示した。運転手は、「国境から帰りは空で帰ることになるから、RM15以下には負けられない」と言ったから、それなら、この条件でダメというはずが無い。結果は、OKであった。マレーシアはビザがいらないから、国境で一旦マレーシアを出国した後、タイ側に車がいなければ、マレーシアに再入国すればいいだけのことである。

 交渉がまとまり、無人地帯を国境まですっ飛ばした。一度山を越えて、しばらく行ったところに国境はあった。まずマレーシアを出国。タクシーは国境を越えられないので、RM15を運チャンに渡し、10分だけ待ってくれるように頼んだ。10分経って戻らなければ、タイ側に入国したということなので、帰って良いと告げて、タイの方に歩いて行った。タイ側のイミグレで聞くと、何と、市バスがここまで来ていると言う。但し、午後5時まで待たなければならないらしい。そんなこと問題ない。今、マレーシア時間午後2時だから、タイ時間午後1時である。少々長いが、ここで4時間待っておればよい。うまくすると、待っている間に、タクシーが来るかもしれない。タイの入国手続きを取る。タイ側の入国地点は、クワンドン(Khuang Don)となっていた。

 入国手続きが済んだとき、運よく、1台の車がマレーシア側からやって来た。夫婦と子供2人の家族連れである。聞くと、サトゥンまで行くと言う。ラッキー。乗せてもらえないかとお願いしたところ、快くOKしてくれた。お金は要らないと言われたので、代わりに2人の子供さんにRM10ずつをお小遣いにあげることにした。奥さんは白い布で顔を覆っているし、旦那さんも奥さんも、こちらがインドネシア語で話しかけるとマレー語で答えてくれるのでマレーシアの人かと思ったが、タイ人であった。

 途中、検問があり、パスポートをもう一度チェックさせられた。タイに入ったとたん、(当たり前のことだが)標識も看板も全てタイ文字で書いてあるので、全く読めない。

 名前も聞かなかったが、この人は親切にもホテルまで送ってあげると言ってくれた。
「どんなホテルがいいですか」
と聞くので、
「一番安いところ!」
と言うと、では
「RM20で泊まれるところに連れて行ってあげましょう」
と言う。昨日の蚊だらけのホテルがRM25なので、それより安いとは、どんなところだろうかと思いつつ乗っていたが、行き着いたところを見てびっくり。5階建ての大きなホテルだった。入り口に、"Satultanee Hotel"および「沙敦旅社」と書いてある。ロビーは広く、レストランやバーもある。フロントの人に中国語で話しかけたが、全く通じない。どこでも中国語でOKのマレーシアとは違う。英語に切り替えたら、今度は通じた。1泊210B。マレーシアリンギットでも支払い可で、RM21だと言う。国境には、案の定、両替をする所は無かったが、それを見越してペナンでタイバーツを用意してあったから、バーツでも支払いは出来た。しかし、リンギットはここでは既に用無しだから、早く処分するために、リンギットで支払うことにした。

 鍵をもらい、部屋を見て2度びっくり。シャワー、トイレ付きの広い部屋で、とてもきれいである。ベッドは広く、ふかふかである。マレーシアなら、RM50以上はするだろう。タイに来て、宿泊費が半分から3分の1になった。町も近代的であるし、コンビニなども多い。タイの方が、マレーシアよりはずっと進んでいるという印象を受けた。こっちの方が、生活はずっと快適そうである。

 両国で大きく違うのは、言葉である。公用語がマレー語からタイ語に変わるのは仕方がないが、その他の言葉の通用度も全く違う。マレーシアでは、マレー語以外にも中国語、英語が広く通用する。町中にも、漢字の看板がありあふれている。しかし、国境を越えてタイに入った途端、通用する言語が一変した。漢字の看板もあるにはあるが、マレーシアよりはずっと少なく、また、中国系タイ人は、あまり中国語を話せなくなっている。中国系マレーシア人なら、皆、北京語が話せるマレーシアとは大違いである。ホテルでは英語が通じたが、市内に出るとタイ語しか通じない。町の看板は全てタイ文字で書かれていて、読み方も意味もさっぱり分からない。タイ文字も少しは勉強してきたが、この程度の勉強では全然歯が立たない。タイ語は文法は簡単なのだが、文字と発音は大変である。

 タイは仏教国のはずだが、この辺りはまだイスラム文化圏らしく、ホテルの隣にはモスクがあるし、街には、イスラム服を着た人がたくさん歩いている。

 それに、街を歩いていると、人々の目付きが鋭い。日本で言うと、やくざ風ともとれる人があちこちにいる。もちろん、実際にはやくざではないと思うし、治安も悪いわけでは無いと思うが、人々がにこやかなマレーシアから来ると、少しギョッとする。それと同時に、客引きも多い。マレーシアでは、道を歩いていて声を掛けられることはほとんどないが、タイに入ったとたん、タクシー運転手や、食堂のおやじや、道端の果物売りや、長距離バスの車掌や、色々な人が声を掛けてくる。彼らは、生活がかかっているだけに、真剣でしつこい。全く、タイのことを「微笑みの国」などと言ったのはだれだ。

 もう一つの違いは、物資の豊かさである。例えば、フルーツである。タイでは、あちこちで、色々なフルーツを売っている。スイカ、オレンジ、リンゴ、ブドウ、バナナ、パイナップル、ココヤシ、マンゴー、パパイヤ等が道端で山のように売られている。マレーシアでは、オレンジとリンゴくらいしか見かけなかったのに、国境を越えたとたんに、色々な果物が出回っているのである。

 さて、今日の夕食が、初めてのタイ料理である。前にラオスやカンボジアに行った時にバンコクを通過したことがあるが、その時は食事付きであったから、自分で食べに行くことはなかった。今回、初めて自分で選んだタイ料理に挑戦である。ごはんと鶏肉と魚と野菜と、タイ風スープとを注文した。鶏と魚はとても辛い。最初はさほどでもなかったが、途中から、涙と鼻水が出て来て止まらなくなった。韓国料理より、まだ一段と辛い。しかし、スープは甘くて酸味があり、そのくせ甘酸っぱくはない不思議な味で美味しい。全部で70B。マレーシアリンギットとタイバーツとは、1:10なので、RM7相当。食費はマレーシアにいるときとほぼ同じくらいである。

 帰りがけに、マンゴーを買う。20B。単語帳を持ち歩いて、誰彼構わず見せて読んでもらっているので、皆が面白がっている。昨日、蚊のせいで熟睡できなかったので、今日は早く寝ることにする。明日はハッジャイに行きたい。


  


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