第6章 教員の役割ーつづき(2)







E 学習活動の支援システム


 教員の就職支援活動として、正規の授業を通じた人材育成がもっとも基本的な活動と考えれるが、 同時に、学生の学習活動を様々な方法で支援しながら人材育成を進めるという方法も、非常に重要な活動である。人材育成のための教育の手法が、知識伝授中心から学生の学習活動中心に移っているからである。
学生は、強い問題意識に支えられて自発的に学習していく過程で、社会で必要な問題発見、問題分析、問題解決の能力が鍛えられる。
その意味で、こうした学生の自主的な学習活動を支援するような教員の活動があり方がますます問われてくる。

 知識伝授型の教育では、自分の習得した専門知識を体系的に教えていけば、教員として一応の教育責任を果たすことができる。しかし、学生の学習活動を支援するとなると、まず教育対象となる学生の活動状況を十分把握しなければならないし、さらに、学生によって様々な指導手法を創意工夫していかなければならない。
学生の学習能力・意欲や個人的な特徴、問題意識・好奇心の強さや基礎知識の深さなどによって、同じ課題を学習するにしても指導方法が異なってくる。もちろん、十把一絡げの指導方法はここでは馴染まない。

 また、学習支援の活動についてその成果を測ることはかなり難しい。学生の学習能力・意欲によって教員の支援活動の成果は大きく異なってくるからである。どのような学生にどうした指導方法が望ましいかを明らかにするには、多くのケースに関するノウハウを蓄積しなかればならない。

以下、就職支援という視点から見て、学生の学習活動の支援に関する種々の方法について、一般的に考察する。


(1)学生との密なコミュニケーションーと就職支援


(a)学生の学習活動の観察とワンダリング

 学生の学習活動を支援するためには、なによりも個々の学生にもっともあった指導手法が望まれる。
したがって、個々の学生の学習活動を日頃からできるだけ側で観察し、その特徴を十分理解しておこなければならない。学生とのコミュニケーションを密にしながら、学生の学習活動の過程を観察し、的確なアドバイスを適時に送ることが、学生の活動をもっとも活性化するための手法である。

 学生の学習活動の観察には、ワンダリングが不可欠である。教師の方から学生の学習活動の現場に足を運ぶことをワンダリングと呼ぶ。学生にとって教員は近寄りがたい高い存在であり、日常的に気軽に話しかけて相談することは、どれだけしたくても、思いとどまるものである。
そのために学生の活動を観察するには、教師の方からのワンダリングが不可欠である。積極的に学生に近づかないと、今の学生との親密なコミュニケーションを取ることは困難である。
もちろん、いつでも学生が来れるようなオープンな姿勢は、学生を引きつける大きな魅力になる。

 教員のアドバイスが学生に十分浸透するためには、教師との人間的な信頼関係が不可欠である。
学生が教師を信頼していなければ、どんな素晴らしい助言でも馬の耳に念仏におわるかもしれない。
学生と教員との信頼関係は、緊密なコミュニケーションを重ねる中で生まれてくるものである。フェーストフェースで率直に議論しあえる関係が樹立されると、教員の一言一言が学生の学習活動を支える重要な指針とエネルギーとなる。

 このような教師との良好なコミュニケーションの成果は、学生の就職活動でも非常に有効な働きをする。
日常的な交流の中で、学生の活動を十分観察し、学生の能力や適性を良く知っていると、人生経験の深い教員は、それだけより親身になって学生の人生の選択についてより適切な助言をすることができる。学生も自分を理解してくれている教員からのアドバイスには、それだけ信頼をおいて尊重するようになる。就職指導について特に専門的な知識を持っていなくても、学生の将来の進路について教員なりの親身な参考意見を、日常的に良く知っている学生に伝えることが出来る。

 こうした過程で教員の就職活動に対する意識が大きく変わってくる。学生の将来について親身になって真剣に考えるようになると、大学教育に中で就職支援という視点をより重視するようになる。
 また企業人事部も、数回の人事面接だけで採用を決めるだけでなく、日常的な教員の観察結果と指導方法についてもっと知識を仕入れ、教員の参考意見も尊重することも、重要な採用方法の一つになる。

(b)フェース・ツ・フェースの指導ー形式知と暗黙知ー

 知識には、形式知と暗黙知とがある。形式知は、一定の形式化されたフォームで本やインターネット上で伝えることができるが、感触としてつかまえられる暗黙知は、直接的な人間と人間との出会いの中でしか伝えられない。

学生の学習活動におぴては、形式知は本を通じて自習できますが、暗黙知は、直接教師の側で常時具体的な話を聞かなければ分からない部分が多くあります。
教師の役割として、形式知の学習の支援については、当該問題の学習に関するリーディングリストの提供やインターネット上の質問相談・学習指導という形で行うことが重要になります。

暗黙知の学習支援には、教師の役割が特に重要です。教師の問題意識や知的好奇心、さらに問題へのアプローチの仕方に関する独特の創意工夫や熱意などが、その輪の中で学習活動をしている学生達に自然と伝わって行くものです。教師の活発な研究意欲に共鳴して学生の学習活動が刺激され励まされるものです。
教師が社会問題に対して鋭い感性をと強い問題意識持っていると、こうしてすぐ側で肌で影響を受ける学生達も、教師との日常的な会話を通じて自然と、社会的な関心が高くなっていきます。
こうした教師の暗黙知を吸収する中で育った学生は、就職活動においても社会問題に関して十分時間をかけて発酵した独自の考えを展開することができます。

その意味で、就職支援という視点にたてば、教員の社会的な問題意識や社会問題への感性は、学生の暗黙知の学習支援を通じて就職支援に非常に重要な役割を果たすことになります。教師の社会的な関心は、単に専門分野で社会的な問題を扱うということではなく、社会人とし自分の住んでいる社会に生じている様々な問題に関心をもち、自分の専門的知識をベースにしながら、人生の先輩として問題を考えていくことが、学生の学習支援にとって非常に重要になります。
ここに、若い人々に対する人生の教師、としての教員の役割があります。


(2)授業の相談体制


(a)T字型教育の履修相談体制ー履修コースの設定か、自由選択か

 学習支援の一環として履修相談の支援活動が上げられる。
T字型人材の育成には、縦軸のより深い専門的知識と、横軸の幅広い範囲の総合的知識との習得が重要な課題になる。その際、専門分野の科目履修だけでなく、関連した科目群の履修について、教員が積極的に相談に乗るような体制の整備が求められる。
実社会で専門的な知識を活用するには、どのような関連した学際的な知識の習得がより望ましいのか、学生自身にとって非常に難しい問題である。しかし、T字型の能力育成には無視できない重要な課題である。

T字型教育の正規のカリキュラムとしては、関連した学際的な分野の科目群をコース設定で提供する方法と、学生の関心に任せて幅広い選択の余地を残す自由選択の方法と、二通りの可能性が考えられる。

 前者の場合には、優れたコース設定を行うと、それだけ教員の学習支援の仕事は少なくなる。もちろん、どれだけ魅力的なコース設定できるかが、教員の大きな課題であり、新しいコース開発の作業を継続的に進めていかなければならない。
履修科目の自由選択の範囲を広げると、科目履修の段階で教員の学習支援活動のウエートが非常に高くなる。学生は、本来社会問題に対する自分の関心や問題意識を明確に持って、それをベースにして科目群の履修選択をすべきである。
しかし、多くの学生は、しばしば社会的な関心も弱く、社会問題に対する自分の問題意識を自覚的に十分意識するまでに至っていない。その結果、科目履修の選択の余地が広がると、単位の取得の容易さ、自分の時間の都合などを優先して、かえって脈絡なく科目選択する傾向が見られる。それでは、学生の学習活動がトータルとして十分な成果を上げることは難しくなる。

 教員の学習支援活動は、まだ問題意識の浅い学生に対しては、科目履修の段階から学生との密なコミュニケーションを取りながら、学生の社会的な関心や問題意識を引き出し、将来専門知識の活用に役立つような幅広い総合的知識の習得を助言して行くべきである。
もちろん、学生の自主的な科目選択がもっとも基本的なものである。ただ、コース制による必修科目の設定という手法を避けようとすれば、どうしても教員が積極的に学生の選択活動に入って行かざるをえない。積極的に相談して助言を与えなければ、学生時代の貴重な時間が浪費される危険性がある。学習の関心も意欲もないのに科目履修すれば、学生の能力はほとんど鍛えられる事がないからである。

 特に、就職活動に直接繋がるような社会的な問題を扱う科目履修については、学生の将来への夢や期待を引き出しながら、学生時代に習得しておくべき総合的な知識と専門科目群の選択履修を学生に助言することが望まれる。
学生のことを良く知っている教員の助言をもとに、選択履修した科目群の学習を進めていくと、将来の進路がますます明確になっていく場合がしばしば見られる。それだけ教員の助言が、学生の将来設計にとって重要な役割を果たしている。

(b)講義の自習プログラムの提供

 学生の自主的な学習がより効率的に進むようにするためには、教員の方で自習プログラムを整備して提供することが必要になる。
 教員が絶えず側で学生の学習状況を観察して適切な助言を与えることは、すでに見たように学習支援活動の中心になるが、時間的な制約からしばしば多くの学生に接することが難しくなる。

そこで学生の自習プログラムを整備すれば、学生は、問題解決のプロセスで必要な助言が与えられることになる。学生の自習活動では、ある問題を解いていくと、疑問点や難解な点が出てくるが、それに直ちに応えられるような自習プログラムがあると、学生の学習がより前に進むようになる。
 自習プログラムは、初めから一定の決められた知識体系を与えるようなものではなく、学生が自分で問題を考え解こうとするプロセスで、どうしても聞きたくなるような点について、学生の質問に答えながら次のステップの学習を誘導するようなものが期待される。
この自習プログラムは、公共財として多くの大学で利用可能になるために、大学共同開発プロジェクトでいろいろな専門分野でソフト開発をするのが望まれる。

もちろん、こうした自習プログラムで取り上げられる知識体系は、主に形式知である。暗黙知の中でも、様々なノウハウのファイル化を通じて、形式知に変容できる部分もあるが、先生との個人的な接触によって初めて得られる知識など、フェースツフェースの知識伝達に頼るものも多く残される。

したがって、教員の役割についは、学生と密なコミュニケーションを出来るだけ維持しながらも、時間的な制約などから考えて、形式知でネット上で伝えられる部分については、学生の自習プログラムの活用に任せるようになる。どのような自習プログラムを選択するかも含めて、学生の自習活動に関する計画について教師も一緒になって事前に十分検討しておかなければならない。

(C)情報技術の自習活動の支援

 学生の学習支援活動の中で、情報技術の自習プログラムの整備は特に有意義なものである。

 情報技術に関する知識は、しばしば形式知であり、一定の入門講座を習得した後は、学生の自主的な演習による繰り返しが必要である。何度も繰り返して問題を解かないと、情報技術の能力は訓練されない。

その際、学生は、分からないところや疑問点に直面すると、教員からの助言が必要になるが、しばしば教員の助手として、情報処理のインストラクターが、十分学生への指導助言の役割を果たすことが出来る。
しかし、情報技術に関するインストラクターを数多く配置する事が望ましいが、どうしても財政的な制約が出てくる。
優れた情報技術の自習プログラムが開発されると、その助言にしたがって学生の自習活動が活性化されることになる。

(3)実社会との交流の支援体制ービジネスインターン制度


(a)インターン活動と教員の支援

 ビジネスインターンは現在、多くの企業に活発に採用されている。その際、正規の履修単位を付与するようなインターンと、学生の自発的なインターンとの二通りが行われている。ここでは授業の一環として行われるインターンについて検討しよう。

インターンが授業の一環である場合には、教員も積極的にインターン活動の支援に参加しなければならない。特に、インターンに出る前の事前指導で、一応の基本的な問題意識と課題を与えて学生に考えさせることが不可欠である。企業の現場で単にアルバイトの労働提供におわっては、インターンの成果があまり上がらない。事前指導の内容を相手の企業の指導者にも分かって貰うために、教員はしばしば学生を引率してインターンの現場を訪問することが必要になる。
また、インターンから帰ってきた後には、企業の現場で得た体験や知識をどのように活用するのか、その実践的な問題に関する学習の機会を提供して、インターンの成果をより確かなものにするような工夫が望まれる。現場で見聞した様々な疑問点を、再び大学で文献の探索や教員との議論を通じてより深く考えることは、実践的教育のもっとも重要な過程である。こうした学生の思考が深まるような自習環境の提供が、教員の重要な役割である。

なお、ビジネスインターンの機会については、企業との事前折衝が必要であるが、教員たちが自分の足で探して学生に機会を提供する場合と、専門の職員組織が、インターン企業に関する情報を一括して扱っている場合とがある。

アメリカでは、もっぱら後者の場合で、大学として本格的に多くの企業と交渉して、非常に多くのインターンの場所を学生に提供している。日本の大学も、今後はインターン専門の組織が整備されてくると思われるが、当面は、特定の教員の授業の一環として、教員が自分の足でインターンの機会を開拓していくことになるかもしれない。

しかし、(教育実習の引率の場合と同じく)、教員の負担があまりに過重になるという不満が強く出てきており、専門的な知識を持った職員が、インターン担当の教員と日常的に協力して、インターン場所の確保と学生引率をするようになってくると思われる。

(b)教員と現場の専門家との協力体制

 現実社会に生起するいろいろな問題を学ぷには、実社会の現場において仕事に従事しながら、貝体的にその間題の本質を考えることが、より効果的になる場合がある。直接自分の目で複雑な社会現象を観察すると、より貝体的に鋭い問題意識が生まれてくる。

 市役所における実地研修に派遣された学生は、現場に出掛けて、ごみ処理の実態を観察すると、家庭や産業の廃棄物処理間題の重要性を柔軟な心で深く受け止めて帰ってくることがある。地域行政における重要な政策課題の一つであるこの間題について、体系的に学習し、独自の政策提言を行いたいと思って、研修学生の学習意欲が強く表に出てくる。
 その後は、地域行政や住民パワーの実態、各地の廃棄物を巡る紛争などについて、自主的にいろいろな情報を収集し、研究者の文献を参考に体系的に政策分析を進め、さらに、その研究成果を専門家や関係者に発信して議論を深めていくと、学生の実践的な思考能力は、飛躍的に強化される。

 現実のカオスの中で個々の間題を掴まえ考察するには、やはり現場で長年専門的に仕事をしている社会人の方が、はるかに高い技術を発揮することがある。現場で間題意識を持っていろいろ悩み苦しみ、創意工夫している方々から、これらの問題についてその実態や問題点、さらに解決法などを直接伺うと、学生の問題意識がさらに深まる。
  しかし、学生が、これら個々の間題を単純化抽象化して体系的に分析し、論文に仕上げて行く段階になると、多くの文献を通じて広く学間体系を創造的に研究している大学教授は、より優れた知識と能力を発揮する。こうして現実社会の専門家と大学教授が役割を分担しながら、実践的教育の成果をあげることが可能になる。

(c)インターンを通じた職業観の習得

 学生は、ビジネス・インターンシップの現場体験を通じて、始めて社会で働くことの意義を真剣に考えるようになる。

 ほんの短い間の経験でも、職場に入っていろいろな人と一緒に働いたという実感は、学生の職業観の形成に役に立つことが多い。職場の人々の生活を自分の日で身近に観察し、現場の間題についていろいろな話を何っていると、職場で働くことがどんなものであるのか、職業に対する関心が深まってくる。
 学生は、就職活動を始めるに当たって、正しい職業観を持つように指導されるが、一般に自分の人生設計において、職場で働くことの意義について深く考えることは、非常に難しい。ビジネス・インターンシップの経験があれば、より早い段階から自分の将来の職業について、真剣に考えるようになると思われる。

 ただし、職場の実地経験を通じて中途半端な知識を持ち、その職業に憧れて真面目に働こうという意欲がなくなると、採用担当者からかえって敬遠される危険性がある。職場の実地体験は、あくまでも一つのきっかけであり、関心のある職業について、いろいろな方に何って自分なりに深く調べ、正しい職業観を身に付けるように努力すべきである。


(4)海外における学習活動の支援


(a)海外調査活動の成果

学生の自習活動の支援には、インターン制度に並んで海外における学習活動の支援制度が重要である。
学生の留学制度はすでに多くの大学で良く整備されている。したがって、ここでは、学生が研究調査の一環として海外の期間を訪問する場合を取り上げる。

 学生が、研究調査の一環として、海外に訪問する機会が増加しているが、その成果はいろいろなところで見られる。
海外調査には、いろいろな機会で英語による会話や交信が必要になり、それだけ学生の生きた語学の習得意欲を高めることになる。自分の語学力のレベルを知るのは、海外に出ることがもっとも有効であり、その反省から実践的な語学の学習に取り組む姿勢が強くなる。
 学生が海外の現場を実際に見学すれば、学生の心の中にそれだけ新たな社会的関心や国際問題への好奇心が生まれてくる。文化ショックを受けて新たな学習のインセンティブが高まるケースもしばしば見られる。
アジアアフリカの国際問題などでは、自分の目による現場の観察を通じて、学生の心の中に新しい問題意識と学習意欲がますます強くなってくる。

また、学生の問題意識が明確であれば、調査活動における学生の質問内容が先方にも十分理解されて、インタビューの成果が非常に大きくなる。現場で直接に伺うことによって、本で得られる知識以上のはるかに大きな学習成果を上げる場合もある。それを帰国後さらに深く考えて、一定の報告書にまとめるならば、学生の考える力が強くなるばかりでなく、大学時代の学習について大きな自信にもなる。実践的教育の成果がここに凝縮されている。

こうした意味で、海外における学習活動は、国際化時代の人材育成にとって、極めて重要な手法になる。
就職試験においても、海外調査活動の経験は、企業から高く評価されている。 一般に学生レベルでは少ない海外調査活動を経験できたことは、学生にとって大きな自信になっている。
海外の未知の人々(しばしば日本では会えないような高い地位の企業人を含む)にインタビューするという、学生にとって非常に難しい仕事に挑戦する強い好奇心や調査意欲は、グローバル化する企業の中でも十分生きるものである。(青美でなく)大切な仕事で、国境の壁を簡単に乗り越えられるフットワークの良さは、企業人事の担当者が着目する優れた素質である。
また、実際に海外の現地で体験し見聞することによって、社会的な問題への関心はより具体的になり、就職試験でも、企業の人々とほぼ同じレベルで、現代の国際問題や社会問題を論理的に議論できるようになる。特に、学生独自のテーマを持って、現地で企業の責任ある方々と時間をかけて議論を深めれば、自分の論理展開を外部に主張する度胸と自信が湧いてくるからである。こうした経験は、教室の中ではなかなか習得できないものである。

(b)海外調査の方法

ところで、海外調査の方法には、教員が引率して現地を訪問する場合と、教員は後方支援に留めて学生チームだけが現地を訪問する場合とがある。

前者の教員引率の場合には、経験の深い教員が、海外における学生の学習機会を直接提供することになり、それだけ効率的に大きな成果が期待される。学生だけではなかなか行けないような地域や機関に、先生の引率で訪問できることは学生にとって非常に得難い貴重な経験になる。
しかし、実際の現場では、やり方によって難しい問題が残される。
未熟な学生にとって海外での調査活動はほとんど経験がなく、引率される先生の助言に全面的に頼りがちになる。極端な場合には、先生の後をついて行くので精一杯になり、物見遊山の気分におわって終う危険性がある。自分の問題意識や好奇心で現地調査に回っているというよりも、先生の問題意識に引っ張られる傾向が出てくる。
学生にそのような問題意識がない場合には、先生の調査活動の姿を見ることだけで強い刺激が得られるが、ある程度学生独自の自主的な学習の意向が強くなってくると、海外であろうと、先生による引率よりも、むしろ自分たちの意見で計画した調査活動をより望むようになる。要は、学生が海外調査に当たってどこまで問題意識が成熟してきているかであるが、しばしば大人になった学生には、自分たちで何から何まですべてやりたいという気概が強いし、またその方が、思いがけない苦労や失敗の経験を通じて、より大きな成果を上げる場合がある。

教員の引率では、教員の負担が問題になる。同じ場所の調査活動であっても、毎年のように学生チーム引率するには色々な面で相当の覚悟が必要である。しかも、大学は、こうした熱心な教員の引率作業について、必ずしも経済的な支援などをしない傾向が見られる。教員の個人的な熱意に頼るシステムは、やはり長期に継続させることは難しくなる。

(c)学生チームの海外調査活動の支援

 学生独自の調査チームの海外派遣は、やり方によっては非常に有効である。しかし、調査を成功させるためには、教員も積極的に参加した、事前の慎重な準備が不可欠である。
私がもう20年近くも学生チームを派遣している経験から判断して、事前の準備として次のような点に注意を払うべきである。

・チームの調査計画の全体像(調査目標と実施プロセス)を明確にして、調査対象の先方の理解をうること。

学生だけで海外の企業に訪問するには、やはり調査活動の信頼性を高めておかなければならない。
海外で多忙な人々にインタビューのお願いするには、学生の調査であっても、しっかりした調査目標と計画にしたがって着実に進められているという、指導者のお墨付きが必要である。
そのために学生チームは、調査計画書を何度も練り上げて、指導者の最終的な了解を得ていまければならない。学生だけのいい加減な調査と思われると企業の方は、真剣に相手にしてくれなくなるかもしれない。

・事前に質問事項について明確にして、先方に伝えておくこと。

限られた時間のインタビューであるために、質問事項を明確にして事前に送っていることが重要である。その質問事項を見ると、先方も調査チームの訪問の目的が明確になり、しばしば必要な資料の準備など積極的に協力体制を組んでくれることがある。もちろん、質問事項は、全体の調査計画の中で、実際に現地に行って伺って見たいというものに限定すべきである。企業の方は、日本における文献調査でも分かるような問題については、訪問の意味を認めないと思われる。
また、質問事項の内容については、事前に指導教員の了解をうることが不可欠である。学生の限られた知識では、調査活動にとって不要な質問や的外れな質問が含まれていることがあるからである。

・日本出発前にインタビューの日時について事前のアポイントメントを取って、余裕を持って行動すること。

学生独自の調査活動では、このアポ取りが一番難しい。調査したい企業のリストが整理されると、果たしてあってくれるかどうかが問題で、時間をかけて個別に手紙や電話で(子会社は日本の本社などを通じて)先方と交渉する。
学生だけの力ではなかなかアポが取れず、この段階で、教員が学生の調査活動の支援を積極的に進めなければならない。
 日常的に教員が広い人脈を張っている場合には、いろいろなルートを生かして企業の担当者にアクセスすることができる。しかし、学生の調査課題は、例年多様な分野に広がっており、教員にとってもアポ取りがなかなか思う通りに行かないこともしばしばある。学生の学習支援活動の中で教員にとってもっとも難しい課題の一つである。かえって自分が現地に引率した方が容易と考えることもしばしばある。

 また、初めての海外では地理感覚がないために移動に思わぬ時間をとることがある。そのためにアポ取りの段階で訪問先の選定には、十分の時間的な余裕が必要になる。先方の予定もあり、調査旅行の具体的な計画策定において、時間調整をを何度も繰り返さなければならない。

・同じ研究室の卒業生の支援活動を積極的に活用すること。

調査希望の海外機関や企業にアクセスしてインタビューに成功するためには、同じ研究室の卒業生の支援は非常に重要である。
彼らは、自分たちも苦労して海外調査を行った経験があり、その楽しみ・意義と同時に困難さも肌身で感じている。後輩たちの支援のために、自分の企業人脈をフルに活用して、熱心に支援活動をしてくれる。
もちろん、先輩達のアポ取りの経験やノウハウは、後輩の活動にとって非常に役立つものである。先輩のノウハウをそのまま活用して、海外の調査に回る場合もしばしば見られる。

・帰国後に、報告書の中で調査結果・情報を論理的に再整理して、公表すること

海外調査が本当に成果を上げるには、現地の調査結果を有効に活用することである。ただ聞いて来ただけでおわると、いつかその内容が忘れてしまうことになる。
全体的な調査計画の中で、海外で収集してきた貴重な情報を有効に活用して報告書に仕上げていく。その際、文章にまとめる過程で、現地で行った議論の内容が論理的に再整理され、情報の取捨選択が進められる。報告書の中で、聞いてきたことは何でも書き込むのではなく、それらを整理して論理的に体系化することが、学生の論理的な思考能力の鍛練にとって非常に役立つ訓練である。
こうした帰国後の学習活動が、学生独自の海外調査の成果を確実なものにする。







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