5図
第6章 教員の役割A 教員の意識と能力(1)学生の将来設計への支援就職環境を巡る大きな構造変化に伴って、学生の就職支援における教員の役割は、ますます重要になっている。学生向けサービス活動の主な仕事が就職斡旋にとどまる場合には、就職部の専門家がもっぱら学生の就職指導に当たっていた。 しかし、社会で生きる能力育成の仕事にまで、就職支援活動の範囲が広がってくると、教師も積極的に関与していかなければならない。大学の体系的な教育活動を通じて初めて、長い社会活動に生きる実力が養成されるからである。 ここでいう人材の能力とは、単純に就職活動で企業人事に評価されるような実力だけだなく、学生が長い生涯を通じて人生を充実させ、幸せに生きるために必要な基礎的な実力である。こうした実力の育成は、まさに大学教育に課せられた基本的な課題であり、教員が大学の教育者である限り、決して無視できない義務的な仕事である。 教室の学生達一人一人に深い愛情を持って、将来の人生設計を共に考えようとすれば、教員は、自ずから広い意味での就職支援活動に関与していくことになる。 こうした就職支援の議論を始めようとすると、教員の側でしばしば次のような考えが見られる。 教員の通念によれば、就職問題は、大学教育の基本的な問題でなく、学生サービスの一環として就職関連の職員が担当する問題である。 学生の就職指導に教員が関与することが望ましい場合も認められるが、実際非常に多忙な教員は、そこまで学生の面倒をみる時間的余裕がない。 学部では、就職問題に特に強い関心を持つ教員が、この問題について考えればよいことである。 また、もともと就職活動は学生の個人的な問題であり、教員として学生のプライバシーに入り込むことを避けたい。 確かに学生の就職活動が大学の就職斡旋だけですむ場合には、このような議論が妥当するかもしれない。 しかし、何度も指摘するように、もはや学生の就職支援の内容はそれだけにはとどまらない。新しい就職支援活動として、体系的な大学教育の中で学生の能力育成を図り、それを通じて学生の長い人生の充実した活動の基礎を作ろうとすると、教員の視野は拡がり、積極的に就職支援活動に関与するようになる。 自己の教育活動が、教室の学生の能力形成にどのような効果を持っているのか、絶えず配慮しながら教育活動を強化して行かざるをえない。 結局、こうした人材育成を視野に入れた教員の教員活動が、ここでの就職支援活動になってくるのである。 その意味では、何も改まって就職支援という言葉を使う必要がないのかもしれない。 現実に育ててきた学生は就職市場で、大学教育の成果としてその習得した実力が試されている。教員としてはこの点に無関心でいるわけにはいかない。 自分の継続的な教育活動が、単に自己満足だけに終わるのでなく、絶えずその教育成果という形で外部からのチェックを受けることが必要である。その重要な一つが、大学から社会へ出る際に受ける、企業などによる実力判定である。 育てた学生が外部の専門家からどのように実力判定されているか、大学としても無関心でおれない問題である。学生の教育ニーズが、自校の優れた教育システムを通じて、社会で十分に通用する実力の基礎を習得することにあるからである。 もし望ましい成果があがっていないと、受験生はその大学、学部に対してあまり期待がもてずに、別の教育機関を選択するであろう。 現代の多くの若者の学習ニーズに応えるという側面から考えても、教員の熱心な教育活動を通じた就職支援活動はますます重要になっている。 もちろん、就職実績が良いことが、直ちに教育の成果が高いことと直結するのものではない。 要は、多くの学生が、長い人生を幸せに生きるための基礎を、大学教育の中で体系的にどこまで習得できたかということである。学生教育に無関心であれば、おそらくそこで学んだ学生の潜在的な実力は十分開花されていないと思われる。 人材育成に向けた教員の意識が高まることが、就職支援活動の活性化にとって、まず何よりも重要な課題である。 (2)研究活動と教育の手法人材育成を通じた就職支援という教員の活動は、第5図のようになる。第6図はさらに細かく教員の活動について重要なポイントをまとめている。まず5図で示されているように、大学の教員にとって研究活動と教育活動は、不離一体の基本的な活動である。 人材育成のためには、優れた講義を学生に提供しなければならない。活発な研究活動によって蓄積した研究成果は、大学における高度な専門的教育活動の重要な基礎になる。 意欲的に新しい研究活動を続けなければ、学生に魅力のある講義を展開することが難しくなる。教員が研究活動を停止すれば、しばしば言われるような10年前のノートの棒読みという、講義批判が生まれてくる。 就職支援活動という側面から教員の活動を見れば、さらに新たな問題が提起される。優れた魅力的な講義のためには問題意識溢れる研究成果の蓄積は当然のことである。 さらに、教員の活動が、知識伝達型の講義から学生の自主的な学習活動の支援に重点が移ってくると、教師の研究活動のプロセスそのものが非常に重要になってくる。 知識の創造課程では、一般に研究者としての強い問題意識のもとに新しい問題・課題を発見し、関連文献を含めて種々の情報を収集分析しながら、問題の解決方策を模索していく。この教員の創造的な研究過程そのものが、まさに学生の能力育成作業の教育活動の核心になってくる。 教員の活発の研究活動に触発されて、教室の学生は先生の研究の後を辿りながら、自分でも同じ様な問題意識、問題発見、情報分析、問題解決のプロセスを体験していことができる。 この体験の中で、大学における研究活動の神髄を体得するとともに、単なる先生の物まねから一歩でも前に進んで、自分独自の工夫や新しいアイデアを研究活動の中に積極的に取り入れようとする。 それは極めて難しい仕事であるが、高い壁の前で悩み苦しみ思考を深めながら、創造的研究の産みの苦しさを、先輩研究者としての教師と強く共感できるようになる。 ここでは研究成果としての知識の伝達という教育活動でななく、その成果を生み出す知識創造活動のやり方を学生に習得させ鍛えることが、教育活動の中心になってくる。 こうした学習体験を通じて学生は、講義で習得した様々な専門的な基礎知識を動員しながら、新しい問題を発見し、情報を収集分析し、解決策を模索するという実地応用能力を鍛練することができる。 社会では、教室で習得した専門知識や問題解決法そのもは、すぐに使えるものではなく、また、まったく新しい状況のもとで未知の新しい問題に直面することが一般的である。その時に本当に生きるのは、単なる知識ではなく、前述のような学習体験であり、そこで習得した思考能力、問題解決能力である。 その意味で、学生の就職支援という視点に立てば、教員の活発な研究活動の中に巻き込んで、学生に学習体験をさせるような教育ノウハウや教育環境を整備していくのが、もっとも重要な教員の役割になっている。 こうした創造的活動のノウハウを豊かに蓄積し、学習環境を整備できるのは、懸命に創造的な研究活動を続けながら、研究成果を蓄積している教員に限られる。 教員の旺盛な問題意識による研究活動が、人材育成の不可欠の前提条件である。研究能力の高い教員が教育能力も高くなる。 教員が、この問題は面白い問題と思って夢中で研究をして行かなければ、教室の学生も先生について自分も一生懸命に学習しようという、学習インセンティブを高く維持し続けることは難しい。 (3)教員の採用と研修(a)教員の採用 従来教員の採用に当たっては、求めてる専門分野における高度な研究能力に焦点が当てられていた。もちろん、研究能力の低い教員では、学部の教育そのものが発展していかない。 問題は、教員の教育能力に関する評価があまいにも軽視されていたことである。 人材育成が大学教育の重要な柱と考えると、そこで働く教員には、人材育成にどれだけ貢献できるか、という教育能力も問われなければならない。どれだけ研究能力が高くても、学生がまったくついていけないような難解な授業や、あるいは学生にとって無味乾燥の授業ばかりをしていたり、さらに、学生に対する教室の授業活動そのものをまったく軽視して自分の殻に閉じこもるような教員は、今後は排除されるべきと思われる。教員として最低限に担わなければならない教育責任を放棄するような教員がいるならば、大学からまったく同じ様な待遇を受けながらもより重い責任を背負う教員にそれだけしわ寄せが来て、不公平分担の問題が生じる。 現状では、教育能力や実績によって、教員間で待遇を差別することがまったくないが、教育責任を忌避する教員が大学内に残る限り、何らかの方法で、教員の教育責任遂行に対する成功報酬を与えるような給与システムの改善が求められる。 何もしなくても同じ待遇では、教員の教育手法の工夫改善に対する情熱やインセンティブが損なわれる危険性が高いからである。意欲的な教育活動が一部の教員の趣味の一部と見なされる学内の雰囲気では、近い将来に学校全体としての生き残りが問われてくるであろう。 (b)社会人教員の登用 教員は、学生の実践的な能力の開発鍛練を行うだけでなく、その能力を生涯どのように活用すれば、より幸せな人生を実現するようになるのか、学生の生涯キャリア開発支援に積極的に取り組まなけれぱならない。 最近では、現実間題に対する鋭敏な感性を喪失した教授陣を補充するためなのか、一般の社会人が、豊富な実地経験から得られた専門的知識を武器にして大学教授になり、特に社会科学における、諸学問の体系的な研究教育をするケースが増加している。 アメリカでは、大学教授が社会人として実地に活躍し、その後再び大学に復帰する例が多く見らる。企業で一定期間働いた経験のある有能な人材が、学生の職業指導活動に従事し、大きな成果を上げている。 実践的教育において現場の実践的な知識をより有効に生かすためには、社会と大学の自由な人材移動が不可欠になっています。 経験の少ない学生に対し、社会経験の豊かな教職員が、ピジネス・インターンシップなどの機会を利用して、長い人生において、どのような職業でどのように自分の人生を充実させていくのか、貝体的に指導することが、非常に重要な実践的教育になる。 学生の能力開発の活動だけでなく、職業指導の活動がそこに一体化されて、始めて学生の人生を世のために生かすことになる。 例えば、キャリアアップ指導やインターン指導に当たる専門的な知識を持つ教員について、専任或いは兼任採用なども今後の重要な課題になる。 就職活動において特に問題視されている、若い人の心の世界の相談には、深い知識と技術を持つ職業カウンセラー(教員か教育職担当の専門職員)が求められる。単に心理学の専門家でなく、企業で一定期間に人材の能力開発関連の仕事に従事してきた産業心理のカウンセラーが、より多く必要になる。 就職活動の厳しい雰囲気の中で挫折感を味わって意欲をなくす学生もあり、さらに、新入社員として職場で不適応の問題を抱えて心理的に深刻な状況に追い込まれる若者も多くなっている。 正しい職業観の習得を含めて、若い人に社会に出るための心理的なトレーニングのプログラムを専門的に担当する職業カウンセラーの重要性は、近年ますます認められている。 企業の中でどのように能力を発揮するのか、そのためにどのような能力を長期間にわたって体系的に訓練していくべきかなど、実際の企業経験の中で豊かな知識がある方は、多様な個性を持つ学生諸君に対して、より説得力のある指導が可能になる。 (c)教員の研修 大学の教員については教育実習の経験はまったく不要とされてきた。 しかし、今後すべての教員に高い教育能力が求められるようになると、教員の教育手法に関する研修制度の導入も重要な課題になる。やはり経験豊かな先輩教員から、教室での教育手法や授業の進め方などに関してノウハウを直接習得することは、教員の教育活動の向上のために非常に参考になる。 実際、現場の具体的な教育法に関する文献は非常に限られており、教育ノウハウには、実際に現場の教室で体験しないとなかなか理解や習得のできないような部分が多く含まれている。 長年自分の研究テーマだけを追求してきた若手の研究者にとって、他人に専門の基礎的な内容を多くの学生に分かりやすく伝え、しかも学生が自主的に関心を持って一層の学習活動を深めるように指導するという作業は、今までの研究中心の作業と全く別の異質なものになってくる。 本来、若手の研究者は、先輩から教育能力は鍛えられていないのである。 その意味で、先輩による、若手教員に対する教育手法のノウハウの伝達活動が組織的に行われるような大学のシステム改善が求められている。 就職指導に関しては、教員のノウハウは限られてくる。そのために就職部など就職問題専門の職員や企業現場の社会人(人事担当者)からの就職情報の吸収や指導ノウハウの習得が、これからの大きな課題になる。 体系的に就職情報や就職指導のノウハウを習得できるような機会が、大学で組織的に整備されると、教員も前向けに学生の就職問題を取りあげよう、という考えに変わると思われる。就職のことが良く知らないから就職問題に無関心、という教員が多くいるのも事実である。 トップに戻る B 教員の組織的な就職支援活動大学の就職支援の問題は、個々の教員の考えや行動に完全に任せられたものではない。特に教員の意識レバルが低い場合には、学部レベルでの組織的な支援活動が不可欠になる。 教育現場の組織として、学生の就職支援に対して、より具体的に的に取り組んで行かなければならない。 その際、各学部共通の課題として全学的な対応が必要な課題もあるし、より学生に密着した教育現場として学部単位で取り組む課題もある。 (1)全学的な取り組み就職支援問題に関する全学的な取り組みは、学長・学部長レベルの場における基本的な戦略の策定がもっと重要な仕事であるが、この問題については、すでに基本戦略の策定の問題で検討している。 実際の全学的な取り組みは、就職関連の職員組織を通じて進められている。 教員が、就職部やキャリアアップ支援組織などの職員組織を足場にして、学生の就職支援活動を展開している。 教員は、これらの組織とどのような関係を持つのが良いのか、慎重に考えなければならない。組織の責任者(部長)として組織の中に入り、部下の職員を支持しながら組織的な活動を行うケースがしばしば見られる。 また、個々の教員が、これらの就職関連の組織と継続的な協力関係を維持しながら、就職支援活動を転展開している。 (a)就職関連組織の教員責任者(教員就職部長) 始めに、就職関連組織の責任者に教員がなる場合について考察しよう。教員部長をおくことに対して、プラス面とマイナス面とが出てきている。 プラス面としては、教員部長を通じて、人材育成の教育活動とより密接な協力関係の維持が可能になる。教員部長の発言権が、各学部の教授会の中に強く反映されるならば、人材育成を通じた支援活動がより活性化される。もちろん、職員部長でも積極的に教授会の中に迎え入れていくならば、教員部長とまったく同じになるが、現状では教員以外の教授会の審議への実質的な参加は、難しい。 就職支援が、斡旋から人材育成に重点が移るに従ってますます、就職指導の現場組織と、教育活動の現場組織のより緊密な協力体制の構築が重要な課題になっている。教職間の活動融合化に向けた触媒として教員部長の役割が大きくなる。 しかし、しばしば教員部長のマイナス面が指摘されている。 もっとも基本的な問題は、教員の学生部長の能力に関する制約である。就職市場の構造変化の動きは激しく、それに的確に対応するには、教員部長に企業の人事政策に関して相当豊かな専門的知識が要求される。 もちろん、就職問題の専門の職員が補佐するとしても、全学的な意思決定に際しては、教員就職部長の責任は非常に大きい。組織的な就職情報の分析結果を的確に把握して新しい戦略策定に結びつけるには、教員部長にも相当豊かな専門的知識が不可欠である。 また、意思決定と政策実施の過程のスピードの問題も指摘される。 就職問題は、急激に変化している外部の社会と密接に関係して問題で、新しい事態への対応には一定のスピードが要求される。何年もかけて議論してようやく一定の方向が出るようなやり方では、まったく対応できないものである。 職員組織は、指令伝達のヒエラルキー型の組織で、情報の共有化が進んで部長から末端まで意思伝達の距離が短いために組織の効率性が高く維持されている。現場から情報が上がり、現場に指令が伝達されるスピードがそれだけ早くなる。 他方、教員組織は、メンバーが相互に独立して協力する横の組織であって、縦の指令型の組織に馴染まないものである。そのために、行政経験の浅い教員が、緊密に一体化された職員組織の中に入って、組織の効率性を高く維持することはかなり難しくなる。 教員部長が、指令型の組織の中にうまく融合して、組織効率をどれだけ高く維持できるかが最大の問題である。教員部長が、しばしば組織の飾りものに終わる恐れがあり、職員から見れば、いちいち部長に説明して了解や最終判断を得る手続きが面倒になり、かえって組織の効率性を阻害してしまう。 職員部長が効率的に組織を動かしながら、教員組織との協力<関係を維持する方が、こうした速い判断を要する外部との接点の組織では、より望ましいかもしれない。 要は、教員部長の専門的能力に依存するために、教員部長をおくとしても、その人選に非常に慎重な配慮が必要になる。 (b)個別教員と就職担当組織との協力関係 個別の教員と、就職部やキャリアアップ支援組織などの職員組織との関係は、今後一層に強化して行かなければならない。 >学生の就職活動は、今まで育ててきた学生の実力が問われる場であり、教員はそれだけ学生の就職活動により強い関心を持つようになる。他方、就職市場に関する具体的な情報や就職指導のノウハウは、これらの職員組織の中に蓄積されている。したがって、個別の教員が、学生指導の際に必要に応じて職員組織の情報を入手できるならば、非常に有効に学生指導に生かせることができる。 特にゼミの就職指導の場合には、就職関連の組織との緊密な協力関係を常に維持することが重要である。 ゼミの学生については、指導の過程で学生の能力や個性・特徴を詳しく把握しており、就職関連の情報が担当者に提供されるようなルートが確立されると、教員の支援活動が効率的に進められる。就職課の職員に来て貰って、一般の職業観や進路に関する話だけでなく、その年の就職市場の状況や個別の業界・企業の望んでいる人材能力などについて、詳しく説明して貰うと、学生の進路についての相談指導がより具体的に進められるようになる。 就職関連の組織でも、学生の来訪を待つのではなく、より早い時点から積極的にゼミ教育の現場に入り込んで学生の職業意識の向上や進路の可能性について、現実社会の情報を提供して良く方が組織活動の効率が高くなる。その場合、ゼミ指導教員の協力が不可欠である。 今後、より多くのゼミや研究室と就職組織との恒常的な情報交流のシステムを構築することが強く望まれている。 また、就職指導に慣れていない若手の教員は、先生役として経験豊富な職員から就職指導のノウハウを教わるケースが増えてくると思われる。実際、就職市場の構造は年々大きく変化しており、また就職活動を行う学生の行動パターンや個人的な志望・特徴も個人差が相当大きく、的確に捕まえて指導するのは難しい。 その意味で全学的な就職関連組織と教員との密接な関係の維持は、いろいろな面で学生指導の成果を高めるものである。 (2)学部レベルでの取り組みー教授会、教務委員会、学部事務室による取り組み次に学部レベルでも、就職問題について真剣に対応策を検討していくべきである。特に就職支援活動が企業斡旋業務から、人材能力の育成に重点が移っているために、学部の教育システムの中に就職支援活動をどのように組み入れるかが非常に重要な問題になっている。同時に、カリキュラムなど学部の人材育成のシステムが、学部所属学生の就職活動でどのような成果を上げてきているか、絶えず評価して、その反省を学部の教育システムの改革にフィードバックさせるような工夫が求められている。もちろん、教員によっては、こうした就職予備校のようなやり方に対する反発が非常に強く上がると思われるが、学部教育の成果が、学生の人生設計にとって決定的なポイントであることを考えると、学部教育と就職関連組織との間のこうしたフィードバック協力システムは、これからの大学では重要な役割を果たす。 ・学部の就職戦略の策定 ・学部教員の就職情報システムの整備 ・就職委員会の取り組みと就職専門の事務室職員 ・カリキュラム改善を通じた就職支援活動 ・教授法の改善を通じた就職支援活動 ・学部のインターンや外部の調査活動 ・学部の進路相談体制と就職ガイダンス ・就職期における授業と就職活動との両立問題 トップに戻る アンケート調査教員の意識大学における就職と教育との関係について、大学教員としての基本的な考えの特徴を伺います。ここでは個人的な意見開陳、あるいは、貴大学の教員の基本的スタンスとして一般的な考え方に関する知見状況について記入して下さい。例示項目の中で、教員に一般に見られる考え方について(個人記入の場合はそのような意見に賛成)には◯、特に顕著に見られる考えの場合には◎を付けて下さい。現状 と 近い将来における考え方の変化の可能性とに分けて回答してください ◎特に顕著に見られる考え方、 ◯一般に見られる考え方@大学は、本来の研究教育活動により重点を置くべき。 A就職活動は、大学の教育にとって弊害になるので支援活動は不必要 B大学の人材育成の重要な一環として、正規の授業の中で学生の進路問題に大きな関心と努力を投入すべき。 C授業以外でも将来の進路を視野に入れた指導を行うべき D将来に備えた目的意識をより強化するような教育手法を重視すべき E支援活動の重要性は認めるが、時間的制約から教員の関与は困難 F支援活動の重要性は認めるが、就職指導ノウハウ・情報の不足で教員の関与は困難 G支援活動の重要性は認めるが、就職問題に関心の深い教員群が中心になって取り組むべき H就職問題は大学の就職部の管轄であり、就職部に任せた方がよい。 I就職指導はあくまで学生の個人的な問題であり、大学の組織としての大々的な取り組みの必要性は小さい J学生の就職問題には、もともとほとんど関心がもてない K将来の進路を視野に入れた人材育成は大学の社会的責任 L受験生が、入学後の就職支援活動に強い関心を持っているので、受験生確保の一環として積極的に取り組むべき M就職活動の実績が大学の教育活動に対する外部評価の重要な基準の一つになるので、大学として積極的な取り組むべき Nその他 教員の採用就職支援活動に関連する人的資源の状況について、採用と研修の両面から伺います。 まず人事の採用面の姿勢に関しては、以下に掲げた個々の項目について、採用している場合に◯、特に重点的に採用しようとしている場合には◎、を記入して下さい。現状だけでなく、近い将来の見通しについても教えて下さい。 ◎特に重点的に採用、 ◯採用している(実績がある)@教員採用で学生の就職支援を視野に入れた専門家の専任採用 A その内;就職関連講座以外で学生指導のための専任採用 B 学生カウンセラーの専任採用 Cインターン指導の専任採用 D教員採用で学生の就職支援を視野に入れた専門家の非常勤講師採用 E その内;就職関連講座以外で学生指導のための非常勤講師採用 F インターン指導の非常勤講師の採用 教員の研修就職支援を視野に入れた人事研修の体制について伺います。例示された研修制度の中で、就職支援の人事研修の一環として一般的行われている場合には ◯、特に重要な研修制度として重視している場合には ◎を記入して下さい。現状だけでなく、近い将来の可能性についてもおおよその展望をおきかせ下さい。 ◎非常に重要な研修、 ◯実際に行っている研修@採用時における学生進路支援能力の指導研修 A一般教員の学生進路支援に関する随時研修体制 B就職専門家との交流による研修(就職情報の収集分析などに関して) C教員の企業派遣制度(人事分野での研修) Dその他 トップに戻る C 教育システムの改革(1)正規授業システムの改善教員の活動における役割については、教師が中心になって行う、正規のカリキュラムを通じた教育活動と、学生の自主的な(課外の)学習活動への支援を通じた教育活動との二つに分けられる。もちろん前者の教員を中心にする教育活動においても、学生の学習活動の支援強化は、非常に重要な課題である。 教員が中心になって行う教育活動には、大別して教育システムの改善と教育活動に分けられる。 前者は、教授会を中心にした教員の行政的な活動によって進められ、後者は、教室の現場における教育活動である。 まず就職支援という視点から、教育システムの改善に向けた、教員の行政的な活動について検討しよう。もっとも重要な問題は、就職支援に関連したカリキュラム内容の改善、社会的な問題に関連した新しい授業科目の設定である。 (2)カリキュラム改善本来、カリキュラムは、各学部の学問分野について体系的な教育指導を展開するように設定され、学生はその中で自分の関心興味に従って、設定された科目群の中から自分の科目履修を選択している。したがって、それぞれの学問分野によって、学部のカリキュラムに特徴があり、ここでカリキュラム内容を特に検討するようなものではない。 しかしながら、就職支援という視点が重視されるようになると、カリキュラム体系の内容は、単なる学問的な視点だけでなく、学生の将来の社会活動に対する配慮が重要になる。学生が、学部教授会によって提示されたカリキュラム体系で学習活動を進めると、能力育成の面でどのような成果が保証されるのか、また、その成果が社会に出る際にどのような意味をもっているかが、新たに問わなければならない問題である。 就職支援という側面からカリキュラム体系には、次の内容を含めることが重要である。 カリキュラムの中に、学生がより早い時点で社会活動に対する関心を持ち、将来の勤労意識を育てるような工夫や教科群が設定されていれば、学部学生に自分の人生設計に対する具体的な取り組みの姿勢が、それだけ早く生まれてくる。就職期になって初めて、企業の中で働くことを意識し、社会問題を考えるようでは、就職活動で職業意識が希薄のために、企業などの熟練した人事専門家にまったく相手にされなくなる。その結果、将来の進路選択に置いてしばしばいい加減なやり方になってしまうかもしれない。 こうした学生の長い人生が、本当に充実した幸せなものになると期待するのは、企業社会の現実をまったく知らない教員だけである。 また、授業の中で実際の社会問題に直にふれることができれば、学生に社会活動に対する積極的な姿勢が生まれてくる。 社会とまったく隔絶された世界で、どんなに熱心に研究活動を行っても、社会的な問題の発見、情報分析、問題解決などの実践的な能力はあまり身に付かない。カリキュラムの中に、社会問題に関する科目群が多く含まれていると、学生はその履修を通じて自然と社会的な問題意識が強くなり、積極的に実践的な学習活動に取り組もうとするようになる。長期間の学習活動の一環として、社会問題を扱う科目群が、バランス良く配置されていることが望ましい。 もう一つの内容として、将来の企業社会に活動を支えるような教科群の導入である。 社会の急速な構造変化にしたがって社会の人材ニーズが変化している。その結果、就職市場における人材のミスマッチが、今や大きな社会的な問題になっている。こうした社会ニーズの変化を積極的に配慮したカリキュラム内容に改善していくことが、学生の就職支援という視点からみて非常に重要な課題である。 たとえば、環境問題、情報問題、高齢化問題、国際問題など、現代社会が抱える深刻な問題を、大学の正規授業のなかで学べる機会が増えると、学生の社会問題に対する関心がより一層高まってくる。学生の職業選択においても、大学で学習した新しい専門知識や専門能力がより有効に活用され、これらの分野における新しい専門能力を求める企業にも、より有利な評価を受けることになる。その意味で就職支援活動の重要な一つになると思われる。 こうした視点からのカリキュラム改正の試みが、教員による就職支援活動の第一歩になる。 (3)新しい社会問題に関する教育の場の創造従来の学問体系のカリキュラムの中で、新しい社会問題に関する科目群を体系的に配置することが困難な場合がある。 例えば、地球環境の問題は、それがどれだけ文系学生の関心が強く、重要な課題であっても、従来の学部カリキュラムの改革では、新たに環境問題に関する科目を3、4科目追加するだけで精一杯である。 既存学部の学問体系を基礎にして構成されている、基本的なカリキュラム体系を大幅に変更しようとすれば、学生の学習時間数の制約のために、他の学問領域に関する科目数を相当数削減せざるをえなくなる。 学部教員の利害関係の厳しい対立の中で、このような科目群の大幅なリストラを伴う改革は、しばしば実現性の乏しい案に終わってしまう懸念がある。既存の科目群には、しばしば専任の人材が配置されているからである。 そこで新しい社会問題を集中的に取りあげて、その分野の高度専門的な人材を育成する場と、新しい学部、学科の新設や、教育プラットフォームの創設が必要になる。 すでに見たように、新しい問題は、前述の21世紀地球のメガトレンド(GIRLES)に沿った分野で生じている。こうした新しい分野で企業の人材ニーズが高まっているのである。 21世紀の新しい教育課題として、以下のようなものが考えられる。 「環境」;環境問題課題内容の例示;社会的な環境問題と環境保全政策、企業の環境のビジネス、地球生態系と工学的な環境防除技術) 「IT」;高度情報通信社会への移行に関する情報技術の諸問題課題内容の例示;e社会のあり方や法律政策問題、マルチメディア社会の情報通信問題、電子商取引と電子マネー) 「人間」;長寿高齢社会や余暇サービス社会への移行に伴う社会的な諸問題課題内容の例示;健康や社会福祉に関する諸問題、年金医療問題や病院経営の問題、遺伝子ビジネス問題、 スポーツ心理やスポーツビジネスの問題、NGO/NPOの役割など 「国際開発」;アジアを中心にした新しい国際社会への移行に関する諸問題課題内容の例示;経済社会の開発問題、国際資本・金融為替問題、国際的な交通通信などインフラ整備の問題、 地域開発や都市経営の問題、技術や資本に関する国際協力問題、異文化交流融合・異文化理解の問題 「サービス」;高度な情報サービス化社会への移行に伴う諸々のサービス活動の問題課題内容の例示;公的サービス、サービス産業、旅行・観光関連の諸問題、教育産業の問題、金融保険サービス、マスコミ・放送サービス、輸送交通サービス、多様なイベント・芸術関連のマネージメント、ベンチャー、娯楽・ゲームソフト開発 これらは、地球社会の新しい発展、すなわち、前述のGIRLESのメガトレンドに沿って生じてきた問題であり、21世紀社会の根本的な新しい課題になっている。 こうした新しい書問題を専門的に取り上げ、問題解決を進めるような高度な専門能力をもつ人材を育成することは、非常に重要な地球的課題であり、また、企業社会の新しいニーズに対応してミスマッチを小さくすることになる。 これらの新しい問題は、きわめて学際的な課題を多く含んでおり、問題解決能力の育成には、もはや単純に一つの専門分野の学問知識だけでなく、複数の領域に渡る高度な専門知識を習得しておくことが不可欠になっている。 特に、新しい問題の解決には、文系の幅広い学問体系に関する学際的総合的な知識や専門能力だけでなく、高度に技術的工学的な知識が求められている場合がある。文理融合の学際的総合的な知識や専門能力があって、初めて新しい時代の困難な問題を解決できるのである。 T字型能力とは、もっとも得意とする専門分野を習得しながらも、同時に関連した学際的な分野についても十分の専門的知識と能力を持ち、それらを総合して問題解決に当たる事が出来る能力を指している。 T字型能力の専門的育成のシステムは、もはや一つの学問体系に依拠する既存学部の教育活動の枠を大幅に越えている。 新しい時代の複雑な問題について、多数の学問領域に渡る学際的総合的な知識や専門能力を体系的に習得できるような教育の場を求めようとすれば、大学の既存学部の教育体系の外に作らざるをえなくなる。 ただし、ここでの議論は、就職支援という視点からもっぱら論じている。もちろん、就職支援活動と関係なく、新しい学問的発展に伴った、新しい学部や学科の創設などが考えられる。 (4)アカデミック・プラットフォームの創造新しいものを生むためのブレークスルー(突破)、革新的な創造過程には、諸々の異なったものを組み合わせ、相互に対立衝突させ融合させながら、それを媒介にして、まったく新しいものを生み出すというプロセスがみられる。その革新的創造の場として近年プラットフォームが創設されている。 駅のプラットフォームには、レールが敷かれ、方々から人々が自由に乗り入れてくる。 いろいろな異なった分野から集まった人々がプラットフォームに降り立って、それぞれの立場や発想から、ある問題について自由に議論を戦わせ、共同作業の融合活動を繰り返していると、そこに全く新しい解決の道が開けれてくる。 個々人の従来の発想ではとても思いつかないような、まったく新しい着眼やアイデアがそこに生まれ育ってくる。 その意味でプラットフォームは、異分子を融合させ発酵させる触媒の機能を持っている。 アカデミック・プラットフォームも、全く同様にある特定の問題(例えば環境問題)について、文理の様々な専門領域の専門家が集まって、相互に自由に議論しながら、新しいタイプの専門家(環境専門家)を育てていく場である。 大学内の所属の異なる先生から様々な視点や着眼点を学ぶと、様々な学部から集まった学生は、従来と違った新しい発想で問題を考えるようになる。 その際、プラットフォームの学生チームの学生達は、所属する学部が異なるために、それぞれ違った専門知識やものの考え方・視点があり、共同研究の議論の中で相互に意見を戦わせていくと、議論の修練融合の過程で創造的な問題解決の道が開かれてくる可能性がある。 先生も学生も様々な学部に所属しながら、一同に集まって一つの共通問題を考えることに、プラットフォームの魅力がある。 前述のように、環境問題では、文系的なアプローチ、環境問題の社会的な影響評価や企業の環境問題への取り組みなどに加えて、地球生態系に関する工学的な専門知識の習得という理系的なアプローチで、各学部から来た学生が一緒になって議論し、研究していく。 その際、正規の教育課程として、卒業に必要な単位のうち3分の1程度の単位数を付与し、残りは各学生が所属する学部での単位習得を課す。その結果、経済学部(法学部)の学生なら、経済学(法律)という自分の強い分野の専門能力を縦軸にして、横軸に環境問題へ学際的な取り組みという専門能力を身に付けることになる。 ここでの問題としては、前述の諸課題が上げられる。 それぞれの課題に従って、「環境プラットフォーム」、「ITプラットフォーム」、「人間プラットフォーム」、「国際開発プラットフォーム」、「サービスプラットフォーム」など、いくつかのプラットフォームが設立されるが、それらを総称してアカデミック・ステーションと呼びことができる。全体のプラットフォームを管理運営する機関として、アカデミック・ステーションの組織が設立される 時代の社会的ニーズが、このように新しい分野に広がってきている時に、プラットフォームの場でそれにあった人材を育てていくならば、学生の就職の場がより広がっていくことになる。就職市場の構造変化に迅速に的確に対応する、新しいタイプの教育システムこそ、アカデミック・ステーションにおけるプラットフォームである。 また、高校教育でも、新しい総合教育などで、環境問題や情報問題、福祉問題、国際開発問題など、時代の先端的な問題を取り上げるようになっている。 大学教育で、さらに専門的にこうした先端的な問題をより高度に体系的に学習したいという、受験生のニーズが強くなる。単に就職市場の社会的なニーズに対応するというだけでなく、若者の学習ニーズにも対応する道が、プラットフォームの創設で大きく開けれてくる。 経済学部に入っても、法学部に入っても、同時に高校時代から興味のある環境問題を体系的に深く学べるようになるからである。 新しい学部や学科の創設には、文部省の厳しい監督のもとに、長い時間の作業と支出(費用)が必要になる。どれだけ望ましくても、これらの厳しい制約のもとでは、簡単に新たな場の創設に取り組むのが難しいことがある。 また、いったん文部省から教育システムの新設を認められると、それを支える教員と教育施設が張り付くことになる。具体的に資源が配置されてはじめて、教育活動が始まる。 しかし、長期的に見て、時代のニーズの変化に対応して新たな内容に代えようとすれば、投入資源の遊休化、サンクコストの発生を恐れて学内で大きな抵抗を受けてしまう。出来上がった組織はそれ自身組織慣性がが強く働いて、改善の余地が限られてくる。 21世紀に入って、前述のように時代の社会構造が急激に大きく変化しており、他方で受験生の数が急速に減少している。そのために調整能力に乏しい学部組織の創設には、それだけリスクが大きくなる。 プラットフォームは、既存学部をベースにした学部横断的学際的な組織である。経済学部の学生にとって、プラットフォームの科目履修は、形式的に他学部履修という形になる。 プラットフォーム教員の多くは、専任は基本的には既存の学部所属教員であり、兼任は外部の専門家であって、その問題に関連があるためにプラットフォームに降り立った専門家群と考えられる。 時代の変化の中である問題の専門能力に対する社会的ニーズが小さくなれば、該当するプラットフォームを縮小廃止することが簡単にできる。プラットフォーム担当教員は、所属する学部でそのまま教育活動を続けることができる。 その意味で、時代の変化に対応した組織改編の弾力性が高く維持される。 アカデミック・プラットフォームは、就職支援の教育システムにとって今後極めて重要な位置を占めると思われる。 トップに戻る はじめにへ 社会環境の変化へ 能力向上へ 戦略と組織へ 教員の役割ーつづき(1)へ 教員の役割ーつづき(2)へ 教員の役割ーつづき(3)へ 職員の役割へ |