第2章 社会環境の変化 と大学システム


(1)外部環境の変化(GIRLES)



大学教育の基本的な目的は、学生の長い人生を幸せに生きるための基礎能力を鍛えることである。

人間は、人生の長い時間を企業社会の中で送る。若者が、自分の人生の幸せを考えようとすると、社会環境がどのように動いているかが、人生設計において極めて重要な問題になる。
大学では、学生の人生設計に配慮しようとすれば、将来の社会の動きを十分取り込んだ形で、学生達の潜在的な能力を開花鍛練させていくことが不可欠になる。

 大学のシステムは、それを包む社会システムと密接に結びついて動いている。大学をとりまく社会環境の変化が、大学のシステムの働きに重要な影響を持っている。

今日の日本社会を取りまく世界的な変化の潮流については、次の6つの新しい時代に向けたメガトレンドが着目される。

G:グローバル化の時代(global)
I:情報技術革命の時代(IT )
R:高度ハイテク技術開発の時代(R&D)
L:地域の時代、地域住民重視(local)
E:環境保全の時代(ecology)
S:ソフト化、サービス化の時代(モノ造りから知的価値創造の時代へ)

 こうした時代のメガトレンドにそって、日本社会の長期的構造的な動きが影響され規定されてくる。その中で、企業は21世紀の生き残りをかけて、新しい企業改革の方向を模索しており、その動きが就職市場における人材ニーズにも直接的に反映されるようになる。
企業は、活発に新しい組織構造の革新を行い、組織の中に企業の生存を支えるような優れた実力を備えた人材を、より多く積極的に取り入れようとしている。したがって、就職市場における新しい人材ニーズは、メガトレンドに沿って企業活動をさせえられる高度な専門的能力の人材に向けられる。

学生達が生きる将来の社会が、地球規模のメガトレンドに大きく影響されていることを考えると、大学の人材育成においても、メガトレンドにそった諸問題に着目し、問題発見、問題分析、問題解決、問題発信の総合的な実力を育成していかなければならない。

その際、大学教育の問題は、すでに確立された大きな組織(教員人材も含めて)の中で、新しいメガトレンドとそこに生じる新しい諸問題にどれだけ柔軟に的確に対応できるかである。
もちろん、国際化や情報化への対応を大学革新の柱の一つにおいている大学も見られるようになったが、さらに、ソフト化・サービス化、環境保全などの新しい問題への大学教育システムの対応は大幅に遅れている。
知的資産が価値を生む時代に備えて、学生の知的創造的な能力を育成鍛練するような大学教育のシステムは、まだ従来の大学システムのなかには十分ビルトインされていない。

その結果、就職市場におけるミスマッチ、すなわち、企業の新しい人材ニーズと大学が養成して繰り出す多くの学生の能力内容との間にミスマッチが生じている。
これからの大学教育に要求されることは、大学システムの中に積極的にメガトレンドを取り込んで全面的に革新していくことである。

21世紀に、このメガトレンドに日本社会が取り込まれていくことは確実である。時代的な課題を解決する有為な人材を供給する役割として、大学教育にかけられた期待と責任は非常に重く大きいなものである。


(2)少子化と若者の意識変化

若者がこれから進もうという社会システムが、大幅に構造変化を繰り返しているが、同時に若者の側でも時代の流れの中で激しく変化している。少子化による18才人口の大幅な減少と、最近の若者意識の変化が顕著に見られる。大学システムの革新には、こうした構造変化も極めてますます緊急性がましている。

・受験生の減少と大学の淘汰

今日、日本社会の少子化がますます進んでおり、18才人口の減少に伴って、受験生数が大幅な減少傾向にある。10年前のピーク時期の200万人余から、今後10年後の120万人への大幅な減少が予想されている。

その結果、授業料収入に依存する私大経営に深刻な問題が投げかけられており、 受験生から見放された大学は、経営の基盤を失うことになる。
こうした危機感から、受験生市場における大学間の学生顧客へのサービス競争が激しくなるであろう。

激しい競争の中で勝ち残る大学のコアコンピタンスは、学生のニーズに迅速にかつ的確に対応した教育サービスソフトの良さである。
社会環境の急激な変化に伴って、学生ニーズは、将来の社会活動で生きるような専門的能力の習得に向けられてくる。多くの学生にそれを確実に保証するような魅力のある新しい教育システムを開発創造した大学が、この激しい大学間競争に勝ち残っていくと思われる。
何の努力をしない大学や学部は、時代の流れに敏感な学生顧客の満足度が低下して、やがて教育市場から淘汰されるであろう。

・若者意識の変化と就職活動

近年大学生の意識や素質も変化している。学問に求められる抽象的な思考の素養が乏しくなり、学力の低下が危惧されている。
大学の授業も、言われたことの暗記だけでおわり、自分で工夫しながらより深くものを考えようとはしない学生が目立っている。知的好奇心が弱いと、学習への取り組みのレベルがそれだけ低下し、卒業時における学力不足がますます深刻な問題になっている。

また、社会的な関心や問題意識がきわめて弱いために、しばしば人生の目的意識や勤労観が希薄化 しており、就職活動においても、安易な行動様式が見られる。
大学から社会にスムーズに出ていけない学生が増加している。正規就職の拒否・フリーター志向や、就職後2、3年での高い離職率(第二就職活動)という、新しい現象が現れている。まともな就職活動を展開することが困難になっている。


こうした若者サイドの変化を受けて、大学システムも積極的に変わって行かなければならない。

まず一つは、受験生のニーズにより迅速に的確に対応するような、顧客志向型の教育システムへの革新が不可欠である。その際、教育革新の時間的な問題が重要になる。
メガトレンドの潮流が激しく日本社会を揺すっている時代に、若者の学習ニーズにできるだけ早急に対応することが求められている。
時代の激しい潮流に敏感に反応して、新しい分野で意欲的に学習活動をしようとする若者たちが、今後急速に増加して行くが、彼らの多くを大学に受け入れ、学習インセンティブを高めていくには、タイムリーな教育改革が不可欠である。

もう一つの問題は、メガトレンドの中で次々に生じてくる様々な問題に関する、若者の新しい関心や学習意欲を支えるためには、従来のような知識伝達型の一方的な講義から、双方向交流による学習活動の支援という、教育システムの手法の革新が重要になっている。
社会問題に対して常に鋭敏な感性を磨きながら社会性を身に付け、総合的な判断力を習得することが、これからの高度専門教育の課題であるが、そのためには、もはや一方的な知識の伝授だけではなく、学生も参加して共に問題を発見し解決するというやり方が必要になる。

就職支援の基本は、こうした教育革新により学生の本当の実力を養成することであり、幅広い側面で大学システムの革新の必要性 が指摘される。



(3) 父母との契約



大学の教職員の中には、就職支援の問題は本来の大学の機能と関係のないものという認識が拡がっている。父母との契約という考え方は、必ずしも大学教育には馴染まない考えであるかもしれない。
しかし、学生の長い将来の幸せを考えると、大学教育の内容と将来の社会的活動とは一体的に考察して行かなければならない。

 さらに実利的に考えると、父母は子供の将来の幸せを期待して、そのための投資として大学教育に高額の資金を投入している。しかも、私立大学の経営は、父母が払う授業料にまったくと言ってもよいほどに依存しているのである。

大学は、入試の合格者に対してその父母と契約して、授業料を受け取るとともに約束した教育ササービスを誠心誠意提供しなければならない。

従来の契約内容の基本は、一定の履修条件を満たした学生に対して、大学の卒業証書でを授与するということである。学生は、将来これで就職と昇進の可能性が高くなる。
ところが、もはや大学の卒業証書の授与だけが父母と大学との契約内容でなくなっている。

経済状況の変化とともに、実力主義の採用になり、もはや卒業証書だけでは、志望企業への就職も、企業での昇進も難しくなっている。大学で習得した実力の中身が、社会での就職・昇進を通じて、学生の幸せに直接的に関係するようになっている。

こうした環境変化で、父母の期待する契約内容は、4年間に支払う授業料と交換に、子弟の能力を十分高めるような教育サービスの提供に比重に移ってきた。契約に当たって父母に対して、大学側は、こうした教育システムによって、こういう組織的な教育活動の投入によって、こうした内容の高度専門的な能力を育成するという、大学としての教育目標を明確にしなければならない。

入学門戸の広がった受験生は、大学が提供するこういう教育メニューとその成果を比較検討して、入学契約先を決定していく。
その際、大学の教育活動の成果を見る指標として、そこで育った人材の就職実績やその後の社会的活動の内容が重要なものになる。
就職実績の劣悪な大学には、父母はたとえ授業料が低くても、入学契約を結びたいとは思わないであろう。

父母は、自分で子弟の教育を行うことができないために、子弟の教育を大学の教育機能に委託する。その委託費用が授業料になる。
 実際には、学生はまず親から金を借り、それを大学に授業料として払って4年間の教育サービスの提供を大学から受け、学生の責任でその成果(卒業証書と能力の向上という実り)を受け取る。入学決定によって、学生はこうした契約を大学と行っている。

大学理事者は、この教育契約を実行するために、教職員を集めて組織的に教育活動を展開する。
理事者によって雇用された教職員は、学生に対する教育契約の最終実行の現場責任者でる。その意味では、父母と理事者との二重契約を結び、契約相手である学生の社会における活躍を保証する実力を4年間で育成するという責務を負うことになる。

一般に、契約した教育活動の成果は、学生の学習意欲、学習努力や潜在能力によって、個人的に大きく左右される。しかし、少なくとも大学は、人材の育成システムをよく整備し、育成活動に努力することが求められている。
実際は、多くの学生が4年間の教育活動の後に企業などに就職し、社会的活動を展開している事実から見て、大学は父母との契約を十分履行しているのである。

 今までは、父母と大学との契約時には、情報の非対称性が見られた。 大学の人材育成の内容が、外部の父母に十分明らかにされず、したがって、父母の側で、大学が育てた実力の内容に関して、契約の履行義務をほとんど問うこともなかった。
近年の情報化の進展で、大学でも外部への情報開示が急速に進んでいる。その結果、契約者の父母も、大学システムの内容を十分理解して契約できるようになっている。
さらに、父母が、子弟の実力養成という、契約の実施状況をより正しく把握するためには、大学教育の内容について大学側の十分な説明が求められる。子弟が志望分野に就職できなければ、父母は、大学の契約違反という疑念をもつようになるかもしれない。

大学としても、今後は実力の養成目標とその達成度の評価システムを整備して、個別に父母に情報開示をしていかなければならない。
従来の画一的な成績表に変わる、新しい能力評価システムができれば、就職活動でも、企業人事部は、大学教育の内容と成果について信用するようになる。

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アンケート調査




 外部環境の変化


 学生の就職支援問題を考えるときには、大学教育をとりまく社会の構造変化について十分情報を収集分析していかなれらば、スピーディで的確な対応策をとることは難しくなります。どの大学で共通しても、18歳人口の減少による受験者数の減少や、国際化、情報化、環境保全などの社会構造の変化などは、大学運営を考える際にもっとも考慮すべき重要な外部環境の変化になっています。

 その他に、以下のような、大学教育をとりまく社会環境の変化を例示しましたが、貴大学における就職支援問題への積極的な取り組みという視点から、例示項目の中で重視されている外部環境の変化には、◯、特に重要なものとして重視されている環境の変化には、◎を付けて下さい。現状だけでなく、近い将来に特に考慮すべき環境変化があれば、同じように記入して下さい。

◯ 重視されている環境変化、 ◎ 特に重視されている環境変化



{企業社会サイドの環境変化}

@長引く不況による新卒市場の低迷(就職困難)
A採用時期の早期化、長期化
B経済社会の構造変化による人事採用時のミスマッチ拡大
C能力重視型採用への企業社会の変化
D問題解決能力など新しい能力育成へ企業社会ニーズの変化

E国際化による実務的な英会話コミュニケーション機会の拡大
F情報化による情報通信機器の操作機会の拡大
G環境保全型社会に入り環境意識の高い人材ニーズの拡大
H長期のキャリアアップ型教育へ社会ニーズの変化
Iその他

{若者サイドの環境変化}

@若者の幼稚化(親身のケアの必要性)
A若者の専門的学習の能力低下
B学生の基礎的な学力低下
C集団的活動の経験の場の減少
D企業社会の問題への関心の低下

Eフリーター志向など就労意識の低下
F実務的な知識習得へのニーズの拡大
G社会構造の変化に対応した若者の関心学問領域の変化
H生涯キャリアアップ学習へ若者ニーズの拡大
I受験生の確保を巡る大学間の競争激化

J大学評価における進路実績の重視傾向
Kその他( )


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