夢で逢えたら…
もやがかかったような視界。真っ白な視界にぼんやりと人影が浮かぶ。 そうだ、今、自分は夢を見ている──そう納得すると夢の中の自分が 頷き、一歩一歩人影の方へと歩いていく……。 近づいていくとその人影がはっきりする。 「殿…」 彼女が控えめに、でも嬉しそうに笑い返す。目の前まで歩み寄ると 手を差し出した。戸惑うようにこちらを見つめる瞳に笑いかけると恐る恐る 彼女が手を重ねる。 「ありがとう、殿」 優しく微笑みかけると手の甲に接吻をする。顔を上げて、彼女を見れば頬を染めて 恥ずかしそうに目を伏せていた。こういう所が彼女の可愛い所だと思う。早鐘をうつ 鼓動に苦笑しながら、もう一歩近づいた。 「私はね、殿。貴女に逢えただけで嬉しいのです。ほら、こんなに胸が早鐘を 打っている…」 そう言うと少しだけ力を入れ、彼女を抱き寄せた。腕の中に飛び込む形になった 彼女は驚きのあまり何の反応も返せないようだ。それを愛しそうに見つめた後 急に自分の大胆な行動に自らの頬を染めると、そっと彼女を解放する。 「すみません。どうしても…貴女に逢うとその…浮かれてしまって…」 お互いに頬を染めながら、足下ばかりに視線が向かう。思いきって顔を 上げたものの彼女は未だ、目を伏せていた。 言葉を紡ごうと口を開こうとしているが、紡がれる事なく彼女の中へと消えている。 「…どうか、貴女の声を聞かせて頂けませんか?」 「陸遜様…」 ようやく聞けた彼女の声に再び微笑み返すと片膝をおり、見上げる。 「殿、手を…」 「陸遜様…あの…私…」 戸惑ったような彼女に優しく微笑み返すと手を差し出す。 「さあ…」 戸惑った表情のまま、彼女が手を重ねる。その手を優しく握り返すと 嬉しそうに目を細めた。 「殿、貴女に一番伝えたい言葉…今、伝えてもいいでしょうか?」 頬を染めたまま、彼女が頷くと再び、手の甲に接吻を落とした。そして 見上げると心に宿る想いを紡ぐため、口を開いた……。 「…夢…か」 ため息をつくと夢を思い出しながら苦笑する。 「まったく…私とした事が…」 胸の奥が温かい事に気づくと一瞬眉を顰めた。立ち上がり、窓際に立つと 少しだけ嬉しそうに微笑む。 「夢で逢えたらどんなにいいだろうと…思いました。今までは、願っても貴女が 私の夢に現れて下さいませんでしたから。…でも…」 窓を開け、朝の冷たい空気を取り込むと瞳を閉じた。 「貴女への想いは…夢で逢った貴女でなく…現実、今居る貴女に伝えたいのです」 ゆっくりと瞼を開くとまるでそこに彼女が居るかのように言葉を紡ぐ。 「恐らく…今日、貴女に逢えば、この気持ちを口にするでしょう。 ねぇ、 殿。私の想い受け止めてくれますか?」 ──貴女を愛しいと…そう想う気持ちを…。 <あとがき> 企画(クリスマス&サイト4周年)SSのトップバッターは陸遜でした。 それまで甘い雰囲気が書けないなぁと思っていた反動か、書き上げると 随分甘ったるいお話に(汗)何方かと言うとフレーム下にある拍手後 メッセージ内にいる陸遜に近いですね。 …読み直していたら、恥ずかしくなってきました。 こ、こんな陸遜でもいいですか? |