星夜の逢瀬〜孫権〜







庭に降りると天を見上げる。天には星が瞬き、月が優しく照らす。
何かに呼ばれるように庭を散策する。そして月明かりの下に人影を見つけた。
いつも遠くから見つめる影によく似た影。
そしてその人影がに気付き、こちらを向く。
月明かりに照らされその影がの想う者だとはっきり分かる。

「孫権様…。」
「このような時間にどうした?」
優しい月明かりに照らされた孫権の表情は優しく微笑んでいる。いつも
主人、尚香に向けるような静かな笑顔だ。
「眠れぬのか?」
「…あ、はい…。」
孫権と二人で話した事がなく緊張していると自分でも感じていた。いつもは
主人である尚香が一緒にいるから、二人の会話に耳を傾けているだけだが、
こうして孫権と二人だけで言葉を交わしたことはない。尚香の兄でも孫策は
気さくでこちらが言葉を紡がなくとも向こうから話しかけてくるので
場を繋ぐような言葉をかけなくとも良いのだ。だが孫権は違う。孫権は
物静かで言葉を多く必要とはしないのである。彼の側にいつも仕えている
周泰を見ればわかる。彼ほど最低限の言葉を使わない将はいない。その周泰を
もっとも理解しているのが孫権なのだ。言葉でなく彼は態度で相手を計るのだろう。
でも、だからといってにとって沈黙が重いものであるのには変わらない。
例えそれが悪い意味でなくとも、だ。そんなの様子に気付いたのか、孫権が
優しく微笑んだまま星夜を見上げ、言葉を紡ぐ。
「沈黙が怖いか?」
「…え…あ、あの…。」
「…怖がらなくとも良い。言葉がなくともそなたの事くらいわかっている。」
孫権の言葉にが驚いて目を見開いた。
「よく仕えていると思っている。あのお転婆娘もそなたを大事に思って
いるのだ。これからも宜しく頼む。」
「…孫権様…。」
夜空を見ていた孫権の瞳に流星が映る。二人はそのまま夜空を見上げたまま、互いに
優しく微笑んだ。
「流星か…願い事を言う…だったか?」
「はい、願い事を3度、星に向って言うと叶うそうです。」
「…ふむ…そなたは何を願う?」
「私の願い…ですか?」
突然の質問にが首を傾げる。数刻考えていたが、また星を見上げると静かに
微笑んだ。
「…乱が鎮まり、皆が幸せにありますように…でしょうか。」
「成程な…だが、その願いであれば星に願う必要もあるまい?」
「孫権様…?」
自分の胸を叩くとその手をに差し伸べた。孫権の浮かべる笑みの意味に
また嬉しそうに頷く。そして孫権の手に自らの手を重ねた。
「私に任せよ。そなたの…の願いは私が叶えよう。」
「はい、孫権様。」
手を取りあったまま互いを見つめ目を閉じた。互いに歩み寄り静かに身を寄せる。
…。」
「はい。」
身を寄せたまま、言葉を紡いだ。幸せそうに微笑んだまま互いの体温を感じる。
「私にも願いはあるのだ。星ではなくそなたに叶えてもらいたい。」
「私に出来ることでしたら何なりと…。」
「簡単な事だ。」
不意に孫権がの肩を掴む。そして右手での頬を愛しそうになぜた。
「…そなたが私と共にあること…私と歩むこと…だ。」
孫権の言葉にしばし目を見開いていたが、言葉を理解すると瞳を潤ませながら頷く。
「叶えてくれるか?」
「はい、孫権様。」
「そうか…。」
再び互いに身を寄せ合うと瞳を閉じた。二人の瞼には互いの笑顔と…満天の
星空が映っている……。





<あとがき>
勢いにのると早いですね。孫権と尚香ちゃんの女官ヒロインちゃんです。
今回のこのお話、一つ間違えると今書いている連載もののお話とリンク
してしまうのでとっても危険でした(苦笑)
もちろんこのお話と連載ものはまったく別ものです。
何となく権坊相手だとあんまりラブラブ過ぎなのも変な気がして
これくらいで止まってしまいますねぇ…。