並んだ足跡





いつだって傍に貴方が居た。
いつの間にか貴方が居るのが当たり前で貴方が居ないことなんて考えられなく
なってしまう程。

ふふ、おかしいね。

ね、今だから言うけれど、貴方に会ったばかりの頃、貴方が少しだけ苦手だったの。
まだ貴方の事をちゃんと知らなかったからそんな風に思っていたのね。いつも明るく
笑って、誰かと楽しそうに話す貴方がどんな想いを抱えていたのか知らなかったから。

少しずつ貴方の事を知っていって、貴方を苦手だと思っていたのは誤解だったって
気づいたの。そして誤解が解けた後は貴方の知ってる通り。

「…あのね…?」
「ん?」
「……大好き…」
「えっ!?…あ、ああ…」
突然の私の言葉に貴方は頬を真っ赤に染めると照れくさそうに頷いてくれる。
そして大好きな優しい笑顔で私の手をとった。
「あー…う、うん。俺も…大好きだよ」
とっておきの笑顔で頷き返すと同じ歩幅で歩き出す。



いつだって傍にお前が居た。
いつの間にかお前が居るのが当たり前でお前が居ないことに違和感を覚えて
しまうぐらいに。

なんか、おかしいよな。

だってさ、考えてもみろよ。お前に会ったばっかりの頃って、俺らあんまり喋らなかった
よな。何て言うかお互い警戒してたっていうか、うーん、ちょっとだけ苦手だったって
いうか。あ、いや、それはもちろん昔のことだからな。今は全然違うから。今は…
ちゃんとお前のこと、分かってる。少なくとも俺はお前がどんな想いを抱えてきたのか
知ってるから。

少しずつ話すようになって、緊張感も同時に薄れていった。緊張感がなくなった後は
お前も知ってる通りだ。

「…あのね…?」
「ん?」
「……大好き…」
「えっ!?…あ、ああ…」
突然の言葉に驚いたけど、照れながら頷く。そしていつものように笑うと手をとった。
そう思ってるのはお前だけじゃない、俺もなんだってお前に示すように。
「あー…う、うん。俺も…大好きだよ」
俺が知っている中で一番可愛い笑顔で頷くお前を見ていると心が温かくなるのがわかる。
同じ歩幅になるように気をつけながら一歩一歩をゆっくり歩き出す。



軍港の近くにある砂浜で2人はぼーっと海を見ていた。
「んじゃ、小笠原に行くか」
「…うん」
手を繋ぎながらそう言葉を交わすと滝川が大きく深呼吸をした。
「それにしても上も酷いよな。熊本の次は広島っていうから、広島に来たら、じゃあ
今度は父島って」
「…でも…放って…おけ…ないで…しょ…?」
「まぁな。どっちみち俺たち軍人だし、仕方ねーけどな」
「…うふふ」
転属命令書をヒラヒラと手で振ると無造作に鞄へ突っ込む。滝川のがさつな行動を萌は
静かに、そして優しく笑うだけだ。

「委員長も俺らと一緒に行けばいいのに、そそくさと行っちゃってさ」
「舞ちゃん…も…先に…行っちゃった…ね」
同じく熊本から広島へと転属した仲間たちも父島への転属が決まっていたが、彼らは
一足先に次の任地父島へと向かっていた。
「まぁ、大将が嬉しそうに迎えに来てたしな。そりゃあ行くだろ」
「2人…とも…仲良い…もの…ね」
「仲がいいっていうか、大将のあのラブラブっぷりは今に始まったことじゃないけどな」
滝川は迎えに来た時の様子を思い出しながら笑うと同意を求めるように萌を見た。
「…少…し…羨ま…しい…」
「え?何で?」
滝川のあまりにも間抜けな質問に萌は少しだけ頬を膨らませる。そして彼女が拗ねた
という事に気づくと慌てたように言い訳を始めた。
「あ、いや。羨ましくない訳じゃないし、そりゃあ俺だっていいなーとか思うんだけど
…えーっと、何て言うか…」
あまりにもの慌てぶりに萌は少しだけ機嫌を直すと滝川の次の言葉を待った。

「…えーっと…俺も大将みたいにした方がいい?」
真っ赤になった滝川の意外な台詞に一瞬言葉を失う。そして、堪えようとしていた
笑いも堪えきれずに笑い出した。
「な、何だよ。俺、真剣に言ったんだぞ」
「…うふふ…ごめん…ね。…あんま…り…にも…滝川…くんが…おもしろ…かった…から」
「大将がやると羨ましくて、俺だと面白いになっちゃうのかよ」
「…ごめん…ね?」
拗ねた滝川の顔を覗き込むと心配そうに様子を窺う。
「ま、いーけどさ。どうせ俺らしくないし」
以前として拗ねたままの滝川に笑ってみせると別に気にしてないから、と付け足される。
「さーて、そろそろ船に乗らないとな」
「…うん」
手を繋いだまま軍港へと来た道を引き返し始めた…。




<あとがき>
同じ場面での心の描写と第三者視点の描写が混ざっているので一人称などが
入り混ざっています。6周年企画連続更新の2日目はサイトのメインカップリングの
お話です。今回のお題は「共に歩む道」からこのお話になりました。
オケの2人では珍しく滝川がヘタレ気味。若干マーチの色が濃いめの状態かも
しれませんね。(オケでもマーチでもヘタレには間違いないと思いますが)