最初の印象なんて結構当てにならないなーって思うんだ。
怒ってばっかりな奴って思ってたら次はなんか可愛くてさ。
最初の印象と全然違うんだ。そういう奴ってさ、何か気になるんだよな。
だって最初と次の印象が違うって事は、もしかしたら次も違うかもしれないじゃん?
次はどんなだろう…って考えたらさ、なーんかわくわくしちゃって。
…そんなのって俺だけ…じゃないよな?
だからさ、俺が今あいつが気になるのってそれだと思うんだ。
最初声かけた時はなんかツンツンしててさ、喋りにくい奴とか思ったんだけど
話しかけていったら何か雰囲気が違ってさ。
だから、あいつを見かけると用事なんかなくても話しかけちゃうんだよな。
「ねぇ、滝川ってさ、もしかして森さんが好きなの?」
昼休みに速水と校庭で昼飯を食べてたら突然こんな事を言って来た。
ちょうど牛乳を飲みかけてた俺は思わず吹き出すと速水が驚いてハンカチを出す。
「もう、汚いなぁ。」
「お前がいきなり変な事言うからだろっ!」
速水の差しだすハンカチで吹き出した牛乳を拭く。拭き終わったハンカチを
ポケットにつっこうもうとしたら、速水に止められた。
「あーもう、駄目だよ。ポケットの中牛乳臭くなっちゃうよ?いいよ。
食べ終わったら洗うから。」
「さんきゅ。」
「はいはい。どういたしまして…って。さっきの答えは?」
「…お前、まだ聞くのかよ。」
「まぁ、さっきの反応で大体分かるけど。」
単純な君のことだからね、なんて言う速水の言葉に顔を顰める。
「別に好きとかそんなんじゃねーよ。」
「じゃ、何?」
焼きそばパンをかじりながらふてくされる。だってさ、別に俺、そういう
つもりじゃねぇもん。ただ、何となく気になるって言うか、わくわくするって
言うかさ…。…って言っても速水にはわかんねぇんだろうな。
「あ、もう。僕には分からないなんて思ってるでしょ。」
「表情勝手に読むなよ。」
こいつどうしてそうやって俺の考えてること読んじまうかな?…あ、もしかして
超能力者だったりして。
「無理だよ。君はわかりやすいから。…で?別にまだ好きってわけじゃないんだ?」
あ、友達の俺をそういう扱いかよ。ふん…。
「どうしてもそこに話を持っていきたいのか。」
「だって、彼女欲しいんでしょ?」
「…う。」
「森さんって確かに可愛いし、滝川にお似合いかもよ。」
サンドイッチを片手に笑う速水はたまに変な事を言う。俺の事何でも
知ってるようなそんな感じ。何を根拠に俺とお似合いなんて言ってるのか
さっぱりわからねーんだけど。あいつ、妙に自信持って言うんだもんな。
そう言われるとさ、こっちもそうかなーなんて思っちゃうじゃん?
「滝川の世話もなんだかんだ言って焼いてくれそうだよね。」
「俺は子供かよ!」
「…否定して欲しい?」
うわっ!こいつ、ヤな奴〜〜〜〜!!俺が子供だって言うのかよ!
友達の言い草とは思えないぜ。自分はどうだっていうんだよ。自分は!
「同い年の癖に!」
「あはは、ごめんごめんってば。でもね、似た者同士で僕は良いと思うよ。」
似た者同士?
俺と森が?
だって、あいつって言ったら…真面目だろ。仕事に関して手抜きなしって感じの。
んで、責任感が強いだろ。ま、だから仕事熱心なんだろうけど。
そんな森と俺が似た者同士って言われても、全然ピンと来ない。
夜道を歩きながら昼間の会話を思い出す。寮までの帰り道、独りで
ブツブツいう俺って端から見たらきっと変だろうなぁ…。
あれ?あれって、森じゃん。速水との会話なんか忘れて、小走りに近寄る。
「あ、森?」
「滝川くん。」
振り返った森はなんとなくいつもと雰囲気が違って…ちょっと首を傾げる。
それでも、俺って沈黙がイヤだからさ、話はしちまうんだけどさ。
「今、帰りか?仕事?」
「そうです。」
「ふ〜ん。」
「何ですか?」
「いや?お前って真面目だなーって思っただけ。」
「別にそんなことないです。」
「そう?ま、いいや、森がそう言うならそうなんだろ。」
なんて言うかさ、森って会話するの苦手らしいんだよな。
俺なんかはきっと黙ってろって言われるまで話せるんだけどさ、
森はきっとそんな風にはいかねぇんだろうな。
俺は会話か沈黙かって言われたら間違いなく会話を選ぶような奴だから、
森の返事がどんなものであれ、そのまま話し続けちゃうけど。
でもさ、今の俺ってなんか意識してなかったか?
ちくしょー。絶対速水の所為だ。
速水の奴が変な事言うからだぜ。
こういう時に限って周りは静かだしさ。…って当たり前か、こんな夜に
住宅街で騒いでる奴も居ないよな。
…ちょっと待てよ。夜?夜にこいつと二人だけ?
あ、ヤバ…。俺、ちょっとドキドキしてきた。
…ん?森も何か変だ。
「森?何?何かあった?」
覗き込んだ森の表情は何だか脅えていたんだ。
「な、何でもないですっ!」
慌てた森が俺からじりじりと離れようとする。車道に出そうになったその時、
俺達二人を急に明るい光が照らした。くそっ!車かよ!
「あ、危ないっ!」
大きな光が俺達を呑み込もうとする瞬間、手を伸ばし森を引き寄せる。
塀にぶつかったけど、それくらいどうってことないさ。車に引かれるよりは
マシだし。
急ブレーキになった車の運転手が大声で怒鳴ってる。ふん、もっと歩行者の方に
目を配れってんだよ。
あーそれにしても頭痛ぇ…。
「…ってぇ…。」
「…だ、大丈夫ですかっ!?」
目を開けると必死な顔の森が居る。ああ、そっか。そうだよな。
柔らかくて温かいのは森を抱き寄せてたからか。なんか知らねーけど、
おろおろしてないか、こいつ。もしかして、どっか怪我でもしたのか?
「森、…大丈夫?」
「わ、私は平気です。それより滝川くんこそ…。」
平気なら良かった。あーそれにしても頭痛いぜ…。俺が石頭じゃなかったら
きっと怪我してた。あ、森がなんかすっげー心配そうにしてる。
大丈夫だって言ってやらないと…。
「…ん、多分平気。俺、石頭だから。」
俺がそう言って笑ったら、安心したようにほっとしてた。へへ、なんか
心配されるのっていい気分だな。…あれ?なんか、今度は紅くなって
居心地悪そうなんだけど…。そっか、俺がずっと抱き寄せてるからか。
「あ、悪ぃ。ずっとこのまんまじゃイヤだよな。」
手を離すと森がぱっと離れる。何だか今更、俺がすごい事してたことに気付く。
俺が紅くなると同時に森もまた紅くなる。う、うわ、だ、だからさ、そんな風に
紅くなるなよ。俺だって今気付いたんだし。だってさ、別にその、女子と
こんな風になったことねぇし。ど、どうしよう…俺。
「あ、ありがとう。それじゃ、また明日…ね。」
「え、森?ちょ、ちょっと、…うわ…。」
その場に座り込むと森が走っていった方を見る。今頃心臓がドキドキいってる。
顔が紅いのだって鏡見なくたってわかるさ。座り込んだまま、口をとがらせると
夜空に向かって呟く。
「…意識しちゃうじゃんかよぉ…。」
あんな風に逃げられたら、俺だって意識するよ。
そりゃあ、俺が無意識にやったことは思ったよりもすごい事だったけど。
別に、それが目的って訳じゃなくて。助けたいって思っただけだし。
でも、何だか柔らかくて、温かくて、良い匂いで…。
うわーうわー、なし!今のなしっ!!
ぶんぶん頭を左右に振りながら頭の中で思った事を一生懸命
打ち消そうとする。
打ち消そうとしても浮かぶのは全部あいつな訳で…。
意識するなって言われたって、そんなの無理だ。
これが恋かって言われたら…俺にはわからない。
だって自信ねぇもん。
でも、でも、きっとあいつの事は意識したまんまだ。
あの感触を、あの表情を忘れろっていう方が無理だから。
俺、どうしたらいいんだよ。
速水、お前の所為だからな。お前が余計な事言うからじゃん。
明日森に会ったらどんな風にすればいいんだよ。
絶対前みたいに普通になって話せないじゃん。
師匠、師匠ならわかるかな?
これって…やっぱり恋ってやつなのか?
茜、お前だったらどう思う?
…ってお前の姉さんだもんなぁ…。怒られるかなぁ?
明日になったら俺、普通に戻れる?
…やっぱり無理?
なぁ、誰でもいいから教えてくれよ。
これってさ、やっぱ『恋』って奴なのか…?
<あとがき>
以前滝川視点を書くと言ってから大分経ってしまいました。
ようやく滝川視点のお届けです。本人視点からの話は進めやすくて
早くまとまるのですよね。多分心の台詞が色々代弁してくれるからだと
思いますが。
鈍くて不器用な二人は可愛くて私も是非奥様戦隊に入隊したいですね(苦笑)
滝川×森はこれだから辞められないのです。