晴れた青空の下






「おーっし、んじゃ今度は兄ちゃんの番な」
小さな子供の中からそんな声と共に変わった制服を着た少年が立ち上がる。
ちょうどそこを通りかかった少女は聞き慣れた声と見慣れた姿に一瞬目を疑った。
子供と一緒に遊んでいる少年は紛れもなく少女と同じ小隊の一員だったからだ。



「…何をやっておるのだ」
そう呟くと子供の輪の方へと歩き出す。少年を中心に盛り上がっている子供達は
少女が近づいても気づいてはいないようだ。彼らは皆一様にしゃがみ込み道路に
何かあるのかと思うほど下を向いている。何をしているのかと覗き込もうとした瞬間、
今度は子供達が歌を歌い始めた。思わず一歩後ずさると再び子供達に近づく。子供の
頭上から覗き込むと少年が何やら楽しそうに絵を描いている。
「…何だ、それは」
少女の呟きに子供と少年が顔をあげた。歌が止み、子供はきょとんとしている。
少年の方は大きな瞳を一層大きく見拡げ、口をあけていた。

「し、芝村!?」
「私は何をしているのか聞いているのだが、滝川」
「い、いや…あははは」
笑って誤魔化している滝川に舞がため息をつく。視線の先には道路に描かれた
絵があった。
「兄ちゃん、この姉ちゃん友達?」
「ああ、まぁ…友達っつーか、なんつーか。…あ、そうだ。こいつも俺と
同じパイロットだぜ。俺の乗ってる士魂号と違って2人乗りなんだ」
滝川の言葉に子供達の目が舞へと注がれた。普段注がれない憧憬の眼差しに
思わず2、3歩後ずさる。子供達の眼差しは純粋な憧憬の視線なのだが
慣れない視線なだけに舞にとっては居心地の悪いものだった。

「なーなー、姉ちゃんはどんなのに乗ってるんだ?」
「姉ちゃんの乗ってるロボットはどんな風に戦うの?」
「兄ちゃんのロボットとどう違うんだ?」
あっという間に子供達が舞を取り囲み、質問攻勢をかける。その様子に後ろで
見ている滝川は一生懸命笑いを堪えていた。普段は見せない戸惑った舞の様子が
おかしくて仕方ないらしい。

「何がおかしい!」
「い、いや、だってさー、お前面白すぎ。あはは!」
2人のやり取りとは別に子供はまだ舞に質問攻勢をかけている。
「最初に乗った時、ワクワクした?」
「カラーペイント出来るんだろ?何色?」
子供の勢いに押されながらも、少しずつ答えていく。矢継ぎ早な質問もそろそろ
なくなってきたその時、今までの質問とは全く方向性の違う質問が飛び出た。
「姉ちゃんは兄ちゃんの彼女?」
「はぁ!?」
「な!?」

今まで舞の様子を楽しんでいた滝川もこの質問には声を上げた。
「あー、2人とも赤くなった!!」
「ち、違う!絶対こんな奴彼女じゃない!」
「こんな奴とは何だ、こんな奴とは!」
言い争いになる二人を見ながら子供たちは楽しそうにはやしたてるが、当の
本人たちは本気である。
「論点そこか!?いいか?お前もよく考えろよ。勝手に俺の彼女になってんだぞ。
そこはお前も否定する所だろ?」
「当たり前過ぎてわざわざ否定する気にもならん。それよりもそなたの発言の方が
気になるぞ。そなたにこんな奴と言われる筋合いはない」
「だーかーらー!」
滝川と舞の口論も子供にとっては痴話げんかと変わらない。だが、流石に自分たちの
存在を忘れて口論する2人にそろそろ飽きてきたようだ。
「…だからなぁ、お前ら…ってあれ?」
気付くと周りを取り囲んでいた子供たちは目の前の公園で遊んでいた。
「…ま、いいか。忘れてるみたいだし」
「何がいいのだ。納得出来ぬぞ」
子供たちが飽きたと同時に滝川もまた口論がどうでも良くなってきていたのだ。
それにこんな風に言い合ってはいるが、本当は舞を意識している。意識して
いるからこそ、口論に応じたのだが、単純で能天気と言われる滝川でもこの口論が
不毛である自覚はあったのだ。これをチャンスとして打ち切ろうとすると
舞から不満の声が上がった。
「…あー、もう忘れろよ、それ」
「何を言うか。そもそもそなたが…」
舞の言葉を皮切りに再び口論が始まった。道路に描かれた滝川のバンバンジーを
挟んで2人の言い合いは更にヒートアップしていく。
「つーか、何で俺がお前にそんな事言われなきゃなんないんだよっ!」
「何を言うか、言い出したのはそなたの方であろう!」
売り言葉に買い言葉の見本のような口論に舞もまた苦々しく思っていた。
何故いつも滝川とは口論になるのかと思いつつも、つい応戦してしまう。

互いにどう思っているか自覚ないまま、口論は延々と続いている。
「あーあ…」
「兄ちゃんたちまだやってるよ」
「仲が良いのもいいけど、流石になー」
口論する2人に子供たちの呆れたようなその言葉は聞こえていないようだった…。




<あとがき>
本当はアンケートで何度か滝舞を貰っていたので、久しぶりにちゃんと
可愛い雰囲気の二人にしようと思ったのですが…結局色気ゼロですよ。
別にHな雰囲気を求めている訳ではないのですが、たまには甘い雰囲気ぐらい
振りまきたまえ(苦笑)す、すいません。いずれリベンジします…m(_ _)m
どうも最近は口げんかばかりでいけませんね…。