「だーかーらー、さっきから何回も言ってるだろ?」 「そのような言い訳は聞く耳持たん!」 ある日曜日、プレハブ校舎屋上にて二名による言い合いが繰り広げられていた。 互いに距離を詰めて、かなりヒートアップした様子。これが平日であったら、 小隊員が何事かと屋上に集まってきただろう。だが、今日は休日なのだ。 その休日に何故この二人はプレハブ校舎の屋上という場所で舌戦を 繰り広げているのだろうか? ──芝村舞と滝川陽平 別に彼らは仲が悪い訳ではない。では何故このような口論をする羽目になったのか。 それはほんの数分前の出来事であった…。 日曜日だというのに暇を持て余していた滝川は何となく自分の教室へ足を運んだ。 休日であるから、当然誰もいない。それでも自分の席まで行くと机の中に 何かが入っているのが見えた。…白い封筒だ。 そしてその封筒の中にあった文章の通り屋上に行ったら、そこには芝村舞が 居たのである。 「…まあ、なんだ。お前がどうしてもと言うならば、私と一緒に居てもいい。 …お前がどうしてもと言うなら、だが。」 それはあまりにも突然の言葉だった。もちろんこれは告白というものだろう。 あの舞が顔を赤らめながらこんな冗談を言うはずがない。 「へ?」 常々彼女が欲しいと言っている滝川の頭にまず浮かんだのは疑問であった。 残念な事に自分が女子からモテるタイプではない事くらいは自覚している。 しかも相手は舞だ。何故自分なのか疑問に思っても仕方ない事だろう。 「…その気の抜けた返事はなんだ。」 当の本人である舞は舞でいささか気分を害したようだった。それは当然だろう。 自分が勇気を出して気持ちを伝えた──舞としては精一杯伝えたつもり にもかかわらず、肝心の相手はとぼけたような言葉を発しただけだ。 「あ、いや、だって…お前が、…俺?」 「何を訳の分からぬ事を言っている。」 舞の言葉が理解出来ない滝川とそんな相手の様子に段々苛立って来た舞。 もともと言葉のきつい舞に気の短い滝川が売り言葉に買い言葉で応対し…。 ついに二人は口論に達してしまったのである。 「訳わかんねーのはお前の方だろ?」 「そのままの意味を捉えれば良かろう。何を考える必要がある!」 「んなこと言ってもわかるかよ!」 「そなたの耳は何のためについているのだ!」 延々と10分も口論を続けていればいい加減咽も枯れてくる。流石に二人とも 怒鳴り疲れたのか、肩で息をしたまま相手をじっと見ていた。 「…もういい。」 不意に舞がため息をつくと背を向ける。 「し、芝村?」 「要するに答えが『否』なのだろう?」 振り向いた舞はいつもの自信溢れた表情ではなかった。どこか悔しそうな 悲しそうなそんな表情に思わず走り寄って腕を掴む。 「そ、そうとは言ってないだろ!」 「…だったら何だというのだ!」 掴まれた手を振りほどく舞の瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。 「いや、そうじゃなくって!俺、ただびっくりして…その…。」 「答えられぬのならば無理をするな。下手な慰めなど要らぬ。」 「違うって!いいから、俺の話を聞けよ!」 振りほどかれた手で再び舞の腕を掴むと屋上に放置してある椅子に座らせる。 本人も気付かない涙目に滝川は深呼吸をした。肩を掴みながらまっすぐと 見ると舞は涙目のまま睨み返してくる。 「いきなりイエスかノーかって言われてもびっくりしてて、俺だって訳 わかんないんだよ。」 「だから無理に答えなくとも良いと言って…」 「いいから黙ってろって!俺の話聞けって言っただろ?」 いつもよりも語気の強い滝川に再び舞は睨み返す。そしてそんな舞の様子に 滝川は何度か頭を振った。 「あーもー、こんな事が言いたいんじゃなくてさ。何って言うか…あー 面倒くせー…良いか、ちゃんと聞けよ?」 急に見せた真剣な眼差に舞も口を噤んだまま頷く。 「俺、お前が好きなんだ。」 「……今、何と言った?」 あっけにとられたような舞が辛うじて発したのはそれだけだった。 舞の言葉にがくっと肩を落とすと真っ赤な顔のまま顔をあげる。 「〜〜〜っ!あーわかったよ、何回でも言ってやるよ!俺はお前が好きだよ! すっげー好きだ!どうだ!これでわかったか!」 肩で息をしたまま見ている滝川に舞が眉を顰めた。 「何だ、それは!」 「何だも何もねーだろ!」 「私が先に言った返事は貰っておらぬのにそれは何だと言っている!」 「だからー、これが答えだって!」 答えが出たはずが、再び二人の口論が始まる。そして二人がようやく 互いの気持ちを理解し、晴れて彼氏彼女になったのは… 実に陽が落ちた頃だったらしい。 <あとがき> 本当は途中に舞が何故滝川を好きになったのかという部分が あったのですが、それを入れるととても短編では終わりそうに なかったので別のお話にすることにしました(それはリサイクル(苦笑)) 何となくこの二人の組みあわせっていつも喧嘩してそうです。 ほら、喧嘩するほど仲が良いっていうじゃないですか(笑) まさにこの二人の為の言葉ですよ。 |