「…外を見ましたか?雪です。」
そう言って彼が珍しく微笑んだ。わざわざ自分のいるハンガーに来てする
報告でもないだろうに、それはあまりにも楽しそうでくすりと笑みをこぼす。
「…私でも雪が降れば機嫌が良くなることはありますよ。」
自分の考えを読んだかのように苦笑する彼に肩をすくめて見せた。
「貴女も雪と聞くと楽しくなりませんか?」
その質問に対して肯定の意味で頷くと不意に彼が手を差し出した。その行為の意味を
探るように視線を交差させる。
「雪見と洒落込みませんか?」
珍しい彼の誘いに乗るように手を重ねる。まるでそれは騎士が姫君をダンスへと
誘う様な雰囲気を帯びており、芝居がかったその仕草にまた笑みが
こぼれた。
「たまには良いと思うのですが…。」
芝居がかったその仕草の言い訳のように呟いた彼の横顔を見てまた笑みをこぼす。
ハンガーを出るとそこは雪の精たちの舞踏会だった。
天を仰ぎながら白い息を吐きだす。白い息はゆるゆると天へと登り
徐々にその存在を隠していく。
白い息がすっかり溶け込んでしまったところに雪の精がステップを踏んだ。
「思ったよりも風が強いようです。」
芝居がかった先程の雰囲気とは一転ロマンの欠片もない言葉が妙に彼らしくて
くすりと笑った。
「…今日は…いい日ですね。」
繋がらない言葉に意味がくみ取れず、彼の表情を読もうとする。
相変わらずその表情から彼の意図するところは読めなくて…眉をしかめた。
「…わかりませんか?」
余裕を持つその態度が気に入らない。ますます形の良い眉をしかめると
彼がふと微笑んだ。
「貴女が笑っているからです。」
彼のその言葉が自分の頭の中に到達するまで数秒間ただ瞳を瞬かせる。
ようやく言葉が脳に到達するとその気障な台詞に吹き出す。
「…本心なのですけれどね…。」
ため息をつく彼を見てくすくすと笑う。
「まったく…私はそんなに信用ありませんか?」
一呼吸もおかずに首を縦に振ると困ったと言った顔で首をひねる彼がなんとも
可愛く思えてしまって仕方がない。
「では、これなら少しは信じて貰えますかね。」
急に距離を詰められたかと思った瞬間、彼の腕の中に閉じこめられてしまう。
前髪や頬を優しく撫でる手は暖かく優しい。
「…今日くらいはこうしていてもいいと思いませんか?」
自分としては別に今日だけが特別じゃなくてもいいと思う。
だけれども、彼はこういう時でなければこんな風に自分に
接してくれない。
渋々頷くと瞼に唇が降りてきた。黙ってその接吻を受け止めていると徐々に
暖かい感触が降りてくる。
唇に触れた時にはすでに体中の力が抜けてしまっていた。
それでも瞳だけはじっと彼を見つめる。
何も今日だけでなくてもいいと訴えるように…。
「…言い訳出来るからですね…。」
無言の訴えに答えるようにそっと耳元で呟く。
力の抜けた体を支えながら寒空のした彼が笑う。
「メリークリスマス…貴女と共にいられる私は…幸せ者だと思いますよ…。」
その言葉に頬を染めると今日初めて心から彼の言葉に同意するように頷いた…。
<あとがき>
大人の男性…なのですが…こんな風で良かったのだろうか…(汗)
想定される相手としてはやはり原さん。
わざわざ雪が降ったと言いにきてくれるのはちょっと可愛い過ぎましたか(反省)
そう言えば通常の創作の中で彼は一度もキスシーンをこなしていないことに
気付きました…やっぱり大人だから?(謎)