君がくれたもの






神様、ありがとう!


へ?いきなり何だって?へへ〜ん、聞いて驚くなよ。俺、今日誕生日
なんだよね。……あ、あれ?何か沈んでない?お前もっと盛り
上がれよ。俺の誕生日なんだぜ?誕生日は盛り上がって楽しく過ごしたい
だろ?な?ちぇ、ノリの悪い奴。ま、いいや。今日は学校行ったら
速水たちからプレゼント貰えるし、朝からウキウキなんだ。
あ、もうこんな時間だ。さっさと学校にでも行くか!


「たーきがわっ!」
「よ!速水!」
校門前で速水に呼び止められる。にこにこ笑いながら走りよる速水に
こっちも負けないくらいの笑顔で振り向いた。
「ふふ、誕生日おめでとう!今日から少しの間、滝川の方が
お兄さんだね。」
「おう、サンキュ。じゃあ『お兄様』って呼んでくれてもいいぜ?」
「もう、滝川ったら。あ、プレゼントは放課後でいい?中村くんと
ケーキを作ろうと思ってるんだけど、その時の方がいいでしょ?」
「別にいつでもいいぜ。あー、ケーキかぁ…。」
速水のケーキという単語に思わず思いを馳せてしまう。すると後ろ
から急に手が伸びてきて、滝川を羽交い締めにした。
「わ、若宮さんっ!?」
「よく分かったな。」
せき込みながらも若宮の腕を振りほどくと少しだけ涙目で振り返る。
若宮の方は妙に上機嫌で鼻歌なんか歌っているが、何だろうか。
「えらく朝から機嫌いいっすね。」
「お、分かるか?さっきヨーコさんに会ったんだが、何やら放課後に
ケーキが食えるらしいと聞いてな。」
「あれ?ヨーコさんたちもケーキ作るんだ?じゃあ、ケーキの種類が
被らないように相談しなくちゃ。ごめん、滝川。また後でね。」
速水はそう言うと校舎へと走っていってしまう。残された若宮は何を
言っているのかよく分かっていないらしく首を傾げていた。
「何だ?今日は何かあるのか?速水までケーキを作る予定だったとは…。」
「あ、ヨーコさんたちのはわかんないっすけど、速水と中村は俺の
誕生日祝いに作ってくれるんですよ。」
この言葉に驚くとにかっと笑った若宮が滝川の髪の毛をくしゃ
くしゃと混ぜ返す。
「そーか、お前、今日が誕生日か!ははは、これはいい!」
「痛い、痛いってば!」
「よぉーし、俺も何かしてやるか!」
急に何か思いついたような若宮が滝川を小脇に抱えると豪快に笑いながら
鼻歌を交えて校門の中へ入っていく。
「若宮さん、下ろしてくれよ!若宮さーんっ!」


教室に着いた滝川は膨れっ面のまま、席に着く。滝川を抱えていた若宮は
そんな様子を気にする分けでもなく上機嫌のままで席に着いている。
「ようちゃん、おはようございますなのよ。」
「あ、東原か。うん、おはよ。」
「…?ようちゃん、あんまりうれしくなさそうなのよ。」
「ああ、まぁ、ちょっと…。」
膨れっ面のままの滝川にののみは笑いかけると人さし指をたてた。
「めーなの。そんなおかおのままだと、しあわせやたのしいことが
にげちゃうのよ。」
「あはは、サンキュ。まぁ、ちょっとだけだから。」
そう言いながらちらりと後ろの席を見やった。滝川の視界に映るのは
瀬戸口と若宮、そして来須のみである。機嫌良さそうに鼻歌を
口ずさむ若宮をちょっとだけ睨みながら前を向き直った。
「ようちゃん、きょうのほうかごたのしみね。えへへ、ののみも
よーこちゃんのけーきづくりをおてつだいするの。たのしい
たんじょうびにしようね。」
にこにこと笑うののみにこちらも笑ってみせると教室の入口へと
視線を移した…。

放課後、プレハブ校舎の一階、食堂兼調理室で滝川の誕生祝いが始まる。
本来ならば仕事時間の筈だが、今は自然休戦期間という事もあって善行の
取り計らいで今日だけは特別に仕事を午後の授業時間に繰り上げたのだ。
速水、中村らのケーキ作り班とヨーコら女子のケーキ作り班は
仕事が終わるとすぐに準備に取り掛かった。それ以外の小隊員は部屋の
飾り付けなどをし、当の本人はずっと教室に閉じこめられた状態
だったのだ。流石に一人にさせておくのは可哀相だと思ったのか、芳野と
本田が滝川の話し相手をしていたのだが、ようやく階下の準備が整い、
誕生祝いが始まった所だ。

速水を始めとしてののみや茜が誕生日プレゼントを手渡し、ケーキや料理を
食べながら楽しい時間を過ごす。
だが、ここまでしてもらって嬉しい筈の滝川には一つ、不安な事があった。


今日一日、彼女の姿を見ていないのである。


誕生祝いが終わった後、片づけをしている小隊員に礼を言うと屋上へと
足を運んだ。夜空の星を見上げながら、大きくため息をつくとごろんと
寝転がる。
「…風邪でもひいたかな…。」
一階から小隊員の声がわずかに聞こえるだけの静かな屋上でもう一度
大きいため息を吐き出す。かたんと小さな音が耳に届き、滝川が上体を
起こすと屋上に小さな人影が見えた。
「…滝川…くん…。」

微かに届いた声は彼女の声。

「石津!?」
いつもよりも更にか細い声を怪訝に思いながらも萌の側に走り寄る。
夜目でも分かる程に紅くなった彼女に思わず手をおでこへと伸ばした。
案の定彼女の体温は相当高い。平熱の高い自分が熱いと感じるのだ、
自分よりも更に平熱の低い萌にとっては微熱ではすまない筈だ。
「おい、大丈夫か?風邪ひいたのか?」
心配そうな滝川に少しだけ微笑んで見せると手に持っていたものを
差し出す。
「…石津?」
「今日…貴方の…誕生日…でしょ…?」
体調が悪く立っているのも大変である筈なのに、自分へこのプレゼントを
渡すために学校まで来てくれた事に胸が熱くなる。差し出されたものを
しっかりと受け取った後嬉しそうに笑った。
「ん、サンキュ。」
「…よかった…。」
プレゼントを受け取って貰えた事で気が緩んだのだろうか。倒れそうに
なる萌を滝川が間一髪で抱き留めた。
「大丈夫か?!」
「…滝川…くん…。」
「ほら、家まで連れてってやるから。」
椅子に座らせた萌に背を向ける。躊躇していた萌だったが、何度も急かす
滝川に恐る恐るおぶさった。
「しっかり掴まってろよ。」
立ち上がった滝川が顔だけ後ろを見ると萌は控えめに頷き返す。屋上から
降り、一階へと着くと食堂兼調理室には既に誰もいない。
「みんな帰ったのか?ま、いいか。」
暗くなったプレハブ校舎を背に萌の家へと足を向ける。夜道の中、
ぽつりぽつりと萌と二人会話をしながら。

「…好き…。」
この彼女のたった一言に赤面すると嬉しそうに後ろを振り返る。
眠ってしまった彼女に少しだけ落胆したものの、また嬉しそうに破顔した。
滅多に言わない彼女の心の内に満足したように。


翌日、見事に風邪を引いた滝川は詰め所で一日中萌に看病を
してもらったらしい。誕生日プレゼントと一緒に風邪まで貰って
しまった滝川だった。



<あとがき>
滝萌なんですよ、ええ。一応。でも、最後のオチがギャグなのは
珍しい。この二人でこういうギャグは珍しいんじゃないでしょうか。
ちなみに滝川が萌ちゃんからもらったプレゼントは空の写真集です。
何故か、ですか?うーん、この辺りはまた別のお話にしようかな(苦笑)