───あの頃、私はとても幸せだった。
不意に机の引き出しから出てきた写真は笑った自分が映っていた。
写真を撮るのが好きだって言って、自分は専ら撮るばかり。
シャッターを切った後の貴方が笑ってくれるから、嬉しくて私は
いつも幸せで居られた。
…何となく、知ってたの。
こんな幸せが長続きなんてしない事。
いずれ辿り着く結果も…わかってた。
それでも、私は貴方と少しでも長く居たかったの。
幸せを……壊したくなかった。
だって、今以上の幸せをこれから先に見出せるかどうか自信がなかったの。
私には貴方だけだった。
貴方以上の人なんて見つけられる訳がない。
今だって貴方以上の人に巡り合えていないもの。
貴方以上の人なんて居るのかしら?
そんな人、存在していないのじゃないかしら。
わかってるわ。きっと私が見ていないだけ。
そう、わかってるのよ。でも、駄目なの。
頭で分かっていても私はこれからも貴方を求めてしまう。
ねぇ、きっと貴方は私に魔法をかけたのね?
だから、貴方という枷から私は抜けられないのね?
この魔法を解けるのは貴方だけなのに。
貴方は私から逃げていくの…?
ねぇ、魔法を解いて。…そうじゃなきゃ、私はいつまで経っても
貴方を追い求めてしまうから。
貴方の側に居させてくれないのなら…この魔法を解いて欲しいの。
負担になる愛なんて言われたくない。
だから、お願いよ。この魔法を解いて。
私、このままじゃ貴方以外の誰も愛せないわ。
あの頃の私みたいに無邪気に笑顔も作れないわ。
私の心を返して。笑顔を返して。…貴方への気持ちも…全部返して。
貴方が魔法を解いてくれたら、私は自分自身にかけた魔法を解く事が
出来るから。貴方への想いを貫く…魔法を解いてしまうから。
貴方の声を聞くことが、貴方の姿を見ることが…
こんなに辛いのは嫌なの。
手にした写真を見つめながら、頬に涙が伝う。唇を噛むと瞳を閉じた。
瞼に浮かんだあの後ろ姿に目頭が熱くなる。写真が手から離れると
ひらひらと舞い降りる様に床へ落ちていった。それにも気付かずに
ただ、前を向きながら必至に涙を堪えようとする。
…お願い、私を楽にさせて…。
優しい棘で…私は傷ついているのよ…?
<あとがき>
何となくタイトルで内容の雰囲気は表してしまっていますね。
久しぶりの善原は思いきり暗い内容になってしまいました(汗)
現在の自分の心境にも色々左右されているんでしょうねぇ。
(私の心境が原さんみたいという意味ではありませんよ)
やっぱり原視点だとどうしても暗い方向に行ってしまいますね。
幸せな雰囲気はなら司令の方じゃないと…(笑)