キッチンで朝食の準備をしながら、壁に掛かる時計を見る。
時計の針はあと少しで8時。目玉焼きをお皿に乗せるとテーブルを
セッティングし、満足そうに頷く。リビングのソファーベットで
寝ている陽平くんに声をかけた。
「そろそろ起きないと遅刻よ?」
「んー…うん…。」
返事は返ってくるけれど、まったく動く気配はない。
「トーストも冷めちゃうんだけど?」
「…ん、今行く…。」
やっぱり返って来るのは返事だけ。小さくため息をつくとソファーへと
近づく。顔を近づけるとひょいと鼻をつまんでみた。
「こら、起きなきゃ、めーでしょ?」
鼻をつままれて息苦しいのか、何度も首を縦に振ってる。手を放して
あげると息苦しかった所為か眠気はすっかり飛んだらしい。大きな目が
涙で少しだけ潤んでる。
「はい、おはよう。」
「…うん、おはよ。」
少しだけこっちを恨めしそうに見ながらもソファーから起き上がる。
制服を着ようと手を伸ばした陽平くんを見ていて、ふと頭にイメージが
沸いた。…たまにはいいかもしれないわね。
「ねぇ、陽平くん。」
「んー、何?」
制服に袖を通しかけていた陽平くんが不思議そうに私を見てる。首元には
いつものように白いスカーフ。
「今日はイメージを変えてみない?」
「へ?」
ぽかんと私を見つめる陽平くんを他所にネクタイを取り出した。いつも陽平くんが
使わないネクタイ。だからネクタイはずっと新品のまま。新品のままじゃネクタイも
可哀相じゃない?それより何より身に付けてるところ見てみたいし。
それはほんの思いつきだけれど、想像付かないのなら、実際に身に付けて
もらえばいい。だって本人がここにいるのだから。
「ね?ネクタイにしてみない?」
「俺が?」
「あら?私がネクタイなの?構わないけれど、それなら陽平くんはリボンタイね。」
「いや、それはちょっと…」
焦ったようにじりじりと後ろずさりをする陽平くんを部屋の端に追いつめると
にっこりと笑う。…こうなってしまえば、もうこっちのものでしょ?
「リボンタイとネクタイどっちがいいかしら?」
「……2択なの?」
「そう、2択。」
壁に追いつめられた陽平くんが私を見上げると渋々ネクタイを指した。
「ふふ、じゃあネクタイしてあげるわね。」
鼻歌を歌いながらネクタイを結ぶ。そんなに紅くなって緊張しなくたって
いいのにね。そういうところが可愛くっていいのだけれど。
「はい、出来た。」
「…。」
私が離れると自分の襟元を見て唇を尖らせてる。うん、本当に新鮮ね。
眼鏡かけてるどこかの誰かさんと違って可愛いわ。
「なぁ、素子さん。」
「何?」
眉をしかめながらテーブルに付くとトーストを手にして不満そうに私を見る。
「これ、学校にもこのままで行かなきゃ駄目?」
「当然でしょ。」
「…やだ。」
「慣れないから?」
黙ってトーストにかぶりつくと無言のまま、完食してしまう。…何かしら?
紅茶を飲みながら、トーストを一口。するとマグカップを手に陽平くんが
口を開いた。
「だって、これ委員長みたいじゃん。」
笑っちゃ駄目。ここで笑ったら絶対拗ねてしまうもの。ここはぐっと押さえて…。
「でも、今の季節はこれが正式な制服でしょ?」
「そーかもしれないけどさぁ…。」
「ほら、食べ終わったなら鞄持ってこないとね。私も後少しで食べ終わるから
遅刻しないようにしなきゃ。」
「いつもみたいにしちゃ駄目?」
そんなに嫌なのかしら?本人が思うほど違和感ないんだけどな。…七五三みたい
だって思ってるのかしら?それとも…やっぱり誰かさんの所為?
「だーめ。たまにはいいじゃない。新鮮で私、好きよ。」
「ちぇ…素子さんは狡いよ…。」
渋々立ち上がるとマグカップに残ってる牛乳を一気に飲み干した…。
<あとがき>
ちょっと想像したら、可愛いなーと(笑)だ、駄目ですか?
リボンタイはリボンタイで見てみたいですけど…。ネクタイなら
男物だし、何より正式な制服ですし。
ネクタイな滝川見てみたいな〜(笑)
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