絶対あやしい…








テレビを見ながら、たわいの無い話をしてたら、突然部屋の電話が大きく
鳴り響いた。素子さんの部屋の電話の着信音は昔の黒電話の音。だから、
突然大きな音が鳴り響くと電話だって解っててもびっくりするんだ。
俺としゃべってた素子さんがごめんねって言うと俺に背を向けて、
受話器を取る。あ、そうだ。電話に出てる時はテレビの音を小さくしてね、
って言われてたっけ。リモコン、リモコン…っと。よし、音は消した。
テレビから視線を素子さんに映すと…その表情がいつも俺と話してる表情と
違ってて…。

…何か面白くない。

解ってるよ。相手が委員長か瀬戸口師匠だって事。だって、森相手だったら
素子さんはそんな顔しない。相手は絶対男の筈なんだ。それに
話してる内容はきっと久しぶりにする 明日の戦闘訓練の事だって事も
解ってる。解ってるけどさ。解ってるけど…。俺は面白くない訳で。

こんなのヤキモチだって解ってる。
ヤキモチなんか妬くから、素子さんにいっつも『可愛いわね』なんて
言われる事だって…それだって解ってるよ。

だけど、嫌じゃん。嫌なモンは嫌なんだよ。

何だよ、俺って何?とか思っちゃうわけ。
だってそうじゃん?俺、これでも素子さんの彼氏だし。
(そりゃ、身長だって年齢だって素子さんより下だけど)

例え電話でだって、嫌なんだ。
俺の知らない素子さんを知ってるみたいで。
仕事だって、解ってる。俺のこのヤキモチなんて子供じみた
感情だっていうのも解ってるんだ。解ってても駄目なんだよな。
あやしいって…絶対あやしいって思ってしまう。

あ、電話終わった。情けない話、素子さんが電話してる間ずっとテレビなんて
ほったらかしで…。しかも、俺、顔に出てるんだよな。素子さんが
いっつも言うんだ。『陽平くんは嘘つけないわね。だって、顔に出てるもの。』
これでも俺、押さえてるつもりなんだけど、周りには
わかっちゃうみたいでさぁ…。特に素子さんには見破られちまう訳。

「なぁに、御機嫌斜めね?」

ほら、やっぱり素子さんにはバレてる。俺が何考えてるのか、
全部お見通しって感じだ。俺が素子さんより大人だったら、
きっとこんな風にはならないのにな。
「別に?」

強がって、そっぽ向くことしか俺には出来ない。これが限界って所。
だけど、素子さんがそれで終わらせてくれないのも知ってる。

「あら、そう?陽平くんは何か私に言いたいんでしょ?」
「何もないよ。」
「そんな事言っても、説得力ないけどな。」

ほらな。素子さんはどうしても俺に言わせたいんだ。俺がヤキモチ
妬いてるって言わせたいに違いない。それでまた『可愛いわね』なんて
言われてしまう訳で…。

「だったら、素子さんは俺に何て言って欲しいんだよ。」
「もう、そんなに怒らないの。」

あーあ、絶対敵わない。素子さんに俺が勝てるはずがないじゃん。
この勝負どうしたって俺の負けは見えてる。

「正直に言ってみて?」
「…言ったら、また馬鹿にする癖に。」
「あら、私一度も陽平くんの事馬鹿にした事ないわよ?」

そりゃ、素子さんはそんなつもりないかもしれないけど、俺にしてみれば
『可愛い』なんて嬉しくない。

「ほら、ね?」
「…だからぁ……。」
「だから?」

素子さんの顔が段々近くなる。すぐ目の前で微笑んでる素子さんに
俺が口を割るのは時間の問題だった。

「だから……『絶対あやしい…』って思っただけ!」

あーあ、言っちまったよ。俺って格好悪いなぁ…。素子さんには
恰好良い所見せたいのに、いっつも格好悪い所ばっかり見せてる。


「そうだよ、ヤキモチだよ!…ふん!」

自分でバラしたのに逆ギレしてどうするんだよ。はぁ…本当に格好悪いぜ。
これじゃ、素子さんとつり合えるようになるのは何時のことやら…。
くすくすと笑ってる素子さんを睨むことしか出来なくて、顔を背けてしまう。

「陽平くんは何であやしいって思ったの?」

素子さんって結構意地悪だ。俺の考えてること、全部お見通しの癖に
わざわざ俺の口から言わせたがる。

「知ってる癖に。」
「…ちゃんと言ってくれないとわからないわよ?」

背けてる俺の顔を両手で包むと、視線がまっすぐぶつかるように
向きを直される。

「…電話の相手が男だったからヤキモチ妬いただけ!」
「はい、正直でよろしい。」

そう言うと素子さんの綺麗な顔が近づいて、おでこに優しい感触が触れた。
いっつもそうだ。これで俺は誤魔化されてしまう。
さっきまでの尋問なんてふっとんじまう。

あーあ、素子さんって狡いよな…。
でも、いつか俺、素子さんに狡いって言わせてやるから。

それまでは、貸しって事で。


…そんな日が来るかどうか、まだわからないんだけどさ。
とりあえずな、とりあえず!






<あとがき>
毎日コツコツ書いていますよ〜。何だかノリノリなんですが(苦笑)
素子さんいいなぁ…なんて思いながら書いてます。
所で自分で書いていてなんですが…この滝川。素子さんの所に
転がり込んでますかね?

えーっと、君はペット的設定って事で滝川は素子さんと同棲中という事に
しておいて下さい(汗)

1日1作で1週間、達成できたら自分で自分を褒めてあげたい7題・J
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