夜明けの地平線




ハンガーの外に出ると空はまだ暗かった。

大規模な作戦明けの所為で士魂号は3機とも故障していた。整備班だけでは
補えない程で、今回ばかりはパイロット達も整備にとかり出されていたのである。
普段であればパイロットは戦闘後英気を養う為にすぐに休息をとる筈だった。
もちろん多少の休息をとったが、いつ招集がかかるかわからない戦況の今、
自分たちだけが休んでいていいのかと司令に直談判した為に小隊員総員で整備に
励んでいた。整備技能の持つものは優先的に、持っていないものは雑用を
片づけるだけでも大分違う。

その甲斐もあり、先程やまを越えた。こうなってくると実戦組は体力回復の為だと
整備班に追い出され、整備主任から帰宅が命じられたのである。先の大規模作戦で
少しの間は市内戦もないだろうが、すぐに他の小隊から援軍を求められるであろう。
その時に戦えない状態では困るからだと、笑ってハンガーから追い出された。

夜通しの整備だったにもかかわらず、眠気はない。もちろん慣れない事や周りの
熱気に疲れていないとは言えなかったが、不思議とすぐに寝る気にはなれなかった。
屋上で少し冷たい空気を吸い込むと伸びをする。かたんと音がして振り返ると人影が
見えた。シルエットを見る限り、それは同性ものでなく、女子のものだろうとわかる。

「お疲れ…って…ああ、石津か」
「…まだ…帰らない…の?」
彼女は整備の知識もないが、やはり雑用を任されていた者のうちの一人だった。
「ああ、…何となくまだ眠くなくってさ。どうせ寮に帰っても、そんなに寝れないし
寄り道って所」
そう言って笑うと隣に並んだ萌が納得したように頷く。
「…そう…なの…」
「もうすぐ夜明けじゃん?だから景色でも見ようかなって」

二人の視線が自然と太陽の昇る東を見た。
闇の中に小さな光が生まれようとしている。

「俺さー…」
その場に座り込みながら口を開く滝川に倣い、萌もまた腰掛ける。東の空に徐々に
光が満ち始めていた。柔らかい光が辺りを包み、滝川の横顔がとても優しそうに
笑っているのが解る。

「俺の名前、『陽平』だろ?俺が生まれたのってこれくらいの時間だったんだって。
夜明けに…太陽が地平から生まれる時に生まれたから『陽平』って名前にしたんだって
母ちゃんが言ってた」

いつもよりも静かに笑った滝川が萌を見る。
まっすぐ顔を見られるのは好きではないのだが、彼だけは特別だった。
いつの間にか絡めていた手に少しだけ力を込めるとそれを合図に二人の距離が近づく。

寄り添ったまま視線はずっと、また新しく生まれる太陽を見ていた…。


<あとがき>
本当はオチもあったんですが、敢えて削りました。このままの方が
まとまりが良かったので(苦笑)
まぁ、毎度のことですが、設定等は適当に都合よく使ってます。実はかなり
前に書き上げていたのですが、すっかりアップするのを忘れてました…(汗)