きのうみた夢




「俺さ、昨日変な夢見たんだ」
昼ご飯を食べていた狩谷と加藤の元にやって来た滝川はその場に座ると
購買で買ってきた焼きそばパンをかじりながらそう言った。
「なんやの、ウチらが折角二人っきりを楽しんどるとこに割り込んできよって」
加藤の抗議の声に狩谷が軽く睨むが、彼女は気にしてないようだ。滝川もまた
抗議の言葉など聞こえてないかのように話を続ける。
「どうも、お前らの子孫の家族の夢でさー。俺がその子孫なんだよ、夢の中で」
「…どういう意味だ」
「どういう意味も何もそのまんまだよ。俺も何でそんなモン見たのか全然
わかんないしさ」

焼きそばパンを食べ終わると今度は速水から貰ったらしいサンドイッチを
取り出して食べ始める。牛乳のパックにストローをさして飲み始めるまでに
加藤は先程の態度を一転させ、いそいそとお茶を淹れていた。
「なー、滝川。アンタ今『お前ら』ってゆーたよね?ということは、ウチと
なっちゃんが結婚したって事なんやね。アンタもたまにはええこと言うわ。
ほら、サービスや。お茶淹れたから飲んどき」
「ん、サンキュ」
「…」
加藤の言葉に狩谷が再び睨みをきかせるが、案の定そんなものは軽く流されている。
それにどうせ何を言っても都合よく解釈されるのは目に見えていた。

「それで?どんな夢だったん?」
「うん、それがさー。変なんだよ。母ちゃんに髪の毛染めろって言われてんの。
『ウチの一族の代表でもあるんやから』って」
「意味わからへんわ、それ」
「だろ?俺もよくわかんないんだよね。んで、父ちゃんは笑ってるだけで
全然止めてくれないから、母ちゃんと言い合いしてるんだけど、そのうち
『だったら、髪の毛をピンクに染めるか、車椅子かどっちか選べ』って」
滝川の言葉に狩谷は不機嫌そうにため息をついているが、2人はそれを無視
している。いや、案外本気で気付いていないだけなのかもしれない。空気を
読むことを知らない滝川と狩谷の事に関してはかなり前向きに解釈してしまう
加藤ならばそれも有り得た。

「母ちゃん曰く『一族のご開祖さんが髪の毛をピンクに染めてたから、ウチも
ピンクなんよって』だからさ、母ちゃんは少なくともお前の子孫だろ?」
「まぁ、ピンクに髪の毛を染めるってあんまりない事やろうしね」
「ついでに母ちゃんの一族って『加藤屋』っていうグループらしいから俺は絶対
お前だと思うんだよな。お前に似てた気がするし」
「…それだけ加藤と断定するには早過ぎるだろう」
プラス思考と単純思考が過ぎる2人に狩谷は盛大にため息をつく。既にこの短時間で
何度もため息をついていた。

「いや、だからさーその開祖の旦那っていうのが車椅子に乗ってたんだってよ。
加藤に似てて、その条件なら合ってると思うんだけど」
「あーもー、何度聞いてもええわ〜。せや、滝川。入手困難、幻のメロンパンいる?
今なら特別に分けてあげてもええで」
「マジで!?いるいる!」
目の前にいる楽しげな2人を見て眉間のしわを寄せると冷静さを装うために加藤の
淹れたお茶を飲む。この戦時下に少しでも明るく前向きに考える2人を羨むと同時に
軽い嫉妬を覚えての行動だった。

「これ、手に入れるの大変だったんやで?そこんところよーく理解して食べてや」
「わかってるって!サンキューな!んじゃ、俺行くわ」
加藤から手に入れたメロンパンを大事そうに抱えて出て行く滝川を見送ると飲み
干した湯飲みを音を立てて机に置く。
「なっちゃん?」
「…フン」
不機嫌な狩谷に首を傾げた加藤だったが、すぐに表情を変えるとにんまりと笑う。
「…何だ、不気味な奴だな」
「心配せんでもウチにとってなっちゃんは特別やで」
「心配なんかするわけないだろう」
心の中を見透かされたような加藤の言葉に頬を少しだけ染めると視線を逸らす。
彼女の視線が自分に向けられているのはもうずっと前から十分過ぎる程
知っていた…。


<あとがき>
久しぶりのミニミニSSは若干絢爛舞踏祭の要素も含まれています。
ゲームをされていない方は単純に滝川と祭ちゃん・狩谷の子孫が存在していると
だけ思って頂ければいいかと。
祭ちゃんの関西弁は久しぶりだったのでちょっと怪しいです。…元々関西圏の
人間でないのでモドキであるのは変わりないのですが(汗)
夏祭もちゃんと書いてみたいなと思う反面、狩谷が私の中で動かしづらいので
中々叶いそうにありません。