はやく!




「だからー、それだったら敵陣単機突破出来るって。主人公の
回避率なら大分上げたし、命中率も心配いらないじゃん。火力だって
あるんだから行けるだろ」
「いや、それよりもこの地形効果を利用して味方の陣にまで
引き込んだ方がいい。後方で補給をしながら各個撃破だ」

速水の両側に座った滝川と茜が口やかましく指示をする。速水の
目の前にあるのはゲーム機とテレビ。日曜日に少年3人でゲームをして
いるのである。

「大体お前の言う通りにやってたら味方はどうするんだ。待機か?」
「味方は遠距離支援でいいじゃん?ほら、ここの高台から支援出来るし」
「敵から丸見えだ。集中砲火を浴びればすぐに終わりだぞ。もっと
地形効果を考えろ。確かにそこは命中率が上がるが、敵の命中率も
上がるんだぞ」

コントローラーを握る速水を無視して話し続ける2人にため息をつく。
さっきからこの調子で全然ゲームが進まないのである。
後先を考えない滝川と慎重な茜、2人の取る選択はまったくの
正反対であることが多い。故に意見がいつも食い違う。

「それじゃあ、こっちの陣に引き込んだ時だって地形効果で命中率
落ちるだろ。元々の命中率低い奴なんてどうなるんだよ。
攻撃が当てられないじゃん?」
「そのために補正アイテムを使ったんだろう」
「こいつには使ってねぇって」
「いやそうでなくこっちだ。回避の高いこれを囮にして敵を消耗させる
事がまず第一だな。弱った相手を叩くのは基本中の基本だろう」

延々とマップ音楽が流れる中、速水は1人お茶を飲む。こうなって
しまうと2人の言い合いは中々終わらない。部隊編成を終え、
初期位置が判明した所でメニューを開いたままテレビ画面は止まっている。

「でもさ、今回の戦闘目的は敵の殲滅じゃなくて早期撤退だろ?
だったら一点突破して相手の鼻っ柱叩いた方が早くないか?」
「だが、その場合1ユニットの損害が大きい。それに味方の士気や
能力を揃って上げた方が後々効率よく戦闘出来るだろう」

会話だけ聞いていたら、滝川でも参謀になれるかもしれないと思えるから
不思議である。ことゲームに関してならば、滝川も多少は作戦を考えて
いるようだ。実際の戦闘中とは大違いである。いい加減、ゲームを
進めたいなぁとぼんやりしていると2人が押し黙り、沈黙が訪れる。

「…おい」
「速水、聞いてるのか」
「え?」

ふと両側からただならぬ空気が流れてくる。気がつくと2人の視線が自分に
集中していた。

「どっちの戦法取るんだよ」
「もちろん僕の戦法だな」
「勝手な事言うなよな、俺のだろ?な?」
「ちょっと待ってよ…」
「早く決めろ」
「そうだよ、早くしろってば!」

視線が痛い。つい数秒前まではのんびりお茶をすすっていたのに、突如
部屋の空気が重いものへと変わった。

「俺のだよな?」
「僕の戦法に決まってる」

自分の両側からの声に焦りながらコントローラーを手に取る。
主人公機を中央へと動かす。

「やっぱ親友!わかってんじゃん!」

滝川がじゃれつくように抱きつくと速水の髪の毛をぐしゃぐしゃとかき回した。
対する茜は不満そうに画面を見ている。

主人公機を囮にし敵を引きつけると、徐々に後退させ後方にいる味方機と
合流させる。敵が移動しにくい浅瀬に入った所で味方の一斉砲火。
後方へと退却しようとする敵機へは主人公機で再び引きつけ、味方の前へと
誘導。味方はそれぞれ命中率の高い、装甲値の低いユニットを森林で待機しつつ
狙撃を、装甲値が高く接近戦向きのユニットは浅瀬に足をとられた敵機を
撃破している。茜の示したポイントに移動させつつ敵機が撤退したところで
戦闘終了の文字がテレビ画面に映った…。

結局、速水は二人の意見を反映させつつこのシナリオをクリアしたが、
また次の戦闘で同じ事が繰り返され日曜一日かかってゲームはあまり
進まなかったらしい。


<あとがき>
特定のゲームを仮定していませんが、多分某ロボットもののゲーム辺りが
しっくりくるかと。あと少しだけガンオケ入ってます(苦笑)
お題の「はやく!」より争奪戦(嫉妬大爆発)の「どっち!?」っぽい気も
しますが…(汗)ゲーム内の戦闘描写、どう書いたらいいのかよく分からなくて
妙に説明口調になってしまいました。…何となくでも分かっていただければ
いいのですが。